戻る
------------

134 東西羽飾り事情 クーウィ


PDFバージョン  フォルクローレに採用されると見開きの片側に絵がつきます。


 イッシュ先住民の装束として有名なウォーボンネット(羽根冠)。我々にとっては非常にステレオタイプな印象が強いアイテムですが、元来は一部の部族のみの風習であり、意味合いも単なるファッションや着用者の地位を表す為のものではなく、我が国で言う『皆朱の槍』のように、個人の武勲を象徴するものでした。羽根は着用者の勲功によって増えていく為、映像等で良く見る背中まで垂れ下がる程の立派な羽根冠は、それこそ幾度も困難や修羅場を潜り抜けた、部族を代表する勇者の所有物であったと言えるでしょう。
 大本のデザインは同地方の鳥ポケモン・ウォーグルであると言われており、そこには仲間の為に危険を顧みぬその誇りと、勇猛さにあやかりたいと言う願いが込められているのだとか。時代が下り、外部から移住してきた人々を介して部族同士の交流も盛んになると、この勇壮な習俗は瞬く間に他の先住民達の間にも広まっていって、現在のように一つの民族の中でも普遍的なものとなったと言われています。
 ところでこのウォーボンネット、使われている羽根は当然ウォーグルのものなのですが、実は他にもう一種類、我々にはあまり馴染みの無い、見習い戦士用の羽根冠と言うものがあるのを御存知でしょうか。それは本来のウォーボンネットより一回り小さく、使われている羽根も子供のものならコアルヒー、成人用であればスワンナのものが使用されると言われています。
 本来のウォーボンネットが色彩豊かで人目を引くものであるのとは逆に、この見習い用の冠は使い古され、色の抜け落ちた状態こそが尊ばれるものでした。スワンナやコアルヒーの風切り羽根には元々白地に赤や青と言った色取り取りの筋が入っているものが多く、新調されたばかりのボンネットはそれらの豊かな色彩に彩られ、簡素ながらも美しい装飾品として仕上がっているらしいのですが、使用者が使うに連れて徐々に鮮やかな原色の模様は消えていき、最終的には白一色の擦り切れた根元だけが残る事になるのです。
 また一方で近年の研究により、この羽根飾りに使われているスワンナやコアルヒーの風切り羽根には、ポケモンの成長を促す特殊な作用がある事が分かって来ました。詳しい原理はまだ解明されていませんが、これらの羽根に入った筋状の模様とその色によって、対応する能力にプラスの効果が齎されると言う事です。実はこの作用についてはスワンナの生息域を中心とした広い範囲で昔から知られており、遠くカロス地方やその近隣諸国でも、様々な寓話や習慣が今の時代にまで伝わって来ています。それらの中にはこのイッシュの見習い用ボンネットの様に戦いに関するものも多く、特に東欧で勇名を轟かせた『有翼重騎兵(フサリア)』などは、スワンナの風切り羽根で飾った華麗な鎧を身に纏って戦場を馳駆し、その卓越した実力と不敗を誇った戦歴により、近隣諸国から『無敵の兵団』として大いに恐れられていました。彼らの最大の武器は周辺諸国よりも格段に優れた乗馬の育成技術にあったと言われていますが、案外その秘密の一端が、この風切り羽根に隠されていたのかも知れません。
 見習い用の羽根冠が真っ白になると、その使用者は一人前の戦士として認められるようになります。部族を負って立つ様になった彼らは、次はその重みに相応しい名誉を得るべく、厳しい試練や激しい戦いの場を一歩また一歩と踏破して、真新しいウォーボンネットに自分の生き様を示していくのです。