14 ニドランの結納
No.017(HP)
結納とは、婚姻によって両家の親族が結びつく事を祝い、贈りものを納め合う儀式の事を言う。昔は着物地や帯に縁起物を添えて贈るのが一般的だったが、現在では結納金として納める事が多い。今回はポケモンが結納となる例を紹介しよう。
もうだいぶ珍しくなってしまったが、カントー地方のトキワシティでは結納にニドラン♂とニドラン♀を贈り合う事がある。
ニドランはトキワシティ付近の草原に生息数が多く、オスとメスは雌雄の区別が付きやすい。また仲睦まじい夫婦の象徴でもあったので、結納に贈り合うのにぴったりのポケモンであった。
5月上旬、ニドランの結納が行われるというので取材させていただいた。
今回、結納を交わすのはトキワシティに住むサイトウさんとノノハラさんのご両家。食事会の会場でニドランの交換――結納が行われた。座敷に正座したご両家は三宝に乗せたモンスターボールを差し出し合った。
「本日は私達のために、このような席を設けて頂きありがとうございました。今日の婚約に到りましたのは、ご両親のお陰と心より感謝申し上げます」
お婿さんであるサイトウカズキさんはそう言うと、ニドランの入ったモンスターボールを乗せた三宝を差し出した。嫁親であるノノハラジロウさんはそれを受け取ると上に乗ったモンスターボールを放つ。中から出てきたのは丸耳で水色の身体のニドランの♀だった。カズキさんが連日草原を走り回って捕まえてきたポケモンだ。トレーナー修行はせず、勉学一筋だったというカズキさん、捕まえるのには相当苦労したようで、甥や姪にも手伝って貰ったという。
「ご結納のポケモン、目録の通り相違ございません。誠に丁寧なお言葉をありがとうございました。厚く御礼申し上げお受け致します」
お嫁さんであるミホコさんが見守る中、ジロウさんはそう言うと、同じように三宝に乗っせたボールを差し出した。カズキさんがボールを放つ。中にはニドランの♂がいた。♀に比べると体色に赤みがかかっていて耳も鋭い。捕獲にはミホコさんに、ジロウさんと奥さん、全員であたったという。「最後の思い出作りですかね」
結納の前、ジロウさんはそう言うと少し寂しそうに笑っていた。
「こちらも間違いございません。幸せな家庭を築いていきますので、今後ともどうぞお願い致します」
カズキさんはニドランの♂をボールに戻し、頭を下げる。
その後はご両家でお食事会があった。終始和やかな雰囲気で、出てくる料理に舌鼓を打っていた。♂♀のニドラン達にも特別の食事が用意される。二匹は美味しそうに食べていた。
さて、結納で贈り合ったニドランだが、そのまま新婚の家で飼われる事もあるし、しばらくして元の場所に逃がす事もある。どうするかは家庭の事情により異なるが、飼い続けたニドランはもちろんの事、一緒に逃がしたニドランはその後、つがいになる事が多いと聞く。ニドランの結納が彼らの世界の縁結びにも一役かっている、という事であろうか。
また、トキワシティのいくつかの神社ではニドラン♂♀の土鈴をそれぞれ取り扱っており、略式のニドラン結納に使用する事があるという。両家で♂♀を別々に購入する習わしだそうだ。
「各神社で大きさは揃えてますが、表情やポーズが異ります。どの神社とどの神社の組合せになるかが楽しみの一つですね」
そう語るのは常磐森神社の神主さんだ。
「かわいいので、各神社のを集めてる方もいらっしゃいます。ご夫婦で買いにこられるんですよ」
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