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32 パイプをもらったホエルオー 砂糖水(HP


PDFバージョン  フォルクローレに採用されると見開きの片側に絵がつきます。



 昔々、インディアンにタバコが好きで歌の上手な、クロスカップという男の人がいました。クロスカップがある日、用があって海を渡ることになりました。でも、クロスカップは泳ぐのが上手ではありません。そこで
♪ほうい ほうい
♪ちょいと頼みたいことがある
♪お礼はするから だれか来てくれないか
♪ほうい ほうい
 と海岸に立って歌うと、ホエルオーがやって来ました。
「ちょいと海の向こうまで運んでくれないかい」
「お安いご用です」
 ホエルオーはクロスカップを背中に乗せてくれました。
「落ちないよう、しっかりつかまってくださいね」
 そう言ってホエルオーは全速力で泳ぎだします。
「お前さんの背中は広いんだ、大丈夫、大丈夫」
 からからとクロスカップは笑って答えました。クロスカップはきざみタバコをパイプにつめると、ぷかりぷかりとふかします。
 しばらくして、一羽のペリッパーがやって来ました。ペリッパーは親しげにホエルオーとあいさつを交わすとこう言いました。
「煙が見えたからなにごとかと思ったら、人を乗せていたんですね」
「煙?」
 ホエルオーには背中の様子が見えていなかったので、不思議そうに聞きました。
「ええ、あなたの背中で、パイプをふかしていますよ」
 ホエルオーがそれを見たいと言うと、クロスカップはもちろんいいともと、ペリッパーにパイプをくわえてもらって、ホエルオーの目の近くまで運んでもらいました。
「これがパイプですか……」
 ペリッパーはクロスカップにパイプを返すと、別れのあいさつをしてどこかへ飛んで行ってしまいました。

 やがて向こうに、目的の島が見えてきました。ところが急にホエルオーのスピードが落ちてきて、とうとう止まってしまいました。
「どうしたんだい、ホエルオー」
「このまま進むと、お腹が海の底につかえてしまいます」
 心配そうにホエルオーは言いました。
「なあに、大丈夫さ」
 とクロスカップが笑っているので、ホエルオーはまた進み始めました。でも、やっと島に着いた時、やっぱりホエルオーのお腹は浅瀬に乗り上げてしまいました。
「ほら、あなたのせいですよ。もう、海に戻れない、どうしましょう……」
 ホエルオーはしくしくと泣き出してしまいました。あんまりにもホエルオーが泣くものですから、クロスカップは大慌てで謝りました。
「悪かった、悪かった。今すぐ海に返してやるから泣かないでおくれ」
 クロスカップは、背中から器用に滑り降りると、ホエルオーの頭をえい、えいっと力いっぱい押しました。すると、ずず、ずずず、とホエルオーは砂の上を滑り出しました。さらにクロスカップが押し続けると、ホエルオーはまた元のように海にぷかりと浮かび上がりました。
「ああよかった。これで帰れます」
「ごめんよお、ホエルオー」
 そうクロスカップが謝ると、いいんですとホエルオーは答えました。
「さて、ここまで乗せてくれたし、迷惑もかけてしまった。なんでもお礼をしよう、何がいい?」
 クロスカップが聞くと、ホエルオーはちょっと悩んで言いました。
「では、あなたのそのパイプとタバコをくれませんか」
「いいともいいとも」
 クロスカップはパイプとありったけのきざみタバコをホエルオーに渡してあげました。ホエルオーは、さっそくパイプをくわえて、喜んで帰っていきました。
 皆さんは、ホエルオーが潮をふくと思っているでしょう。けれど、本当はクロスカップにもらったパイプをふかしているのですよ。