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58 魂を天へ リング(HP


PDFバージョン  フォルクローレに採用されると見開きの片側に絵がつきます。


 この世界にはさまざまな文化があり、またその文化に応じて冠婚葬祭の決め事は様々あります。お祝い事や、成人式、人生の節目や季節の節目に行われる行事には、その地域の風習や環境、宗教などが密接にかかわっています。
 葬式ともなれば、死生観の多用さゆえに、死体への処理の方法も様々。死を穢れとみなすところもあれば、逆に死は神のもとに旅立ったのだと神聖視する土地もあり、そして神の住む場所が海か空か、それとも大地か、それらさまざまな要因が合わさって葬儀が執り行われるものです。
 中国の奥地にある高原で行われる一般的な葬儀では、鳥に死体を食べてもらう、鳥葬という方法がとられており、その時に活躍するのは骨鷲ポケモンのバルジーナです。
 この葬儀は、一見残酷に見えますが、彼らにとってはもちろんそんなことはありません。
 人間は生きているうちに多くの動物を殺して生きてゆくので、せめて死ぬときくらいはその体を他の動物に与えようという意図であったり、また魂を天に返してもらうための方法であったりと、彼らの死生観から見て、極めて合理的な葬儀の方法であるのです。
 また、鳥葬はこの土地の気候風土から見ても非常に合理的で、降雨量の少なさゆえに薪がないため火葬も出来ず、水が少ないために川に死体を流すことも出来ず、寒さゆえに地面が固く土葬も出来ないというこの土地では、誰かに食べてもらうのが最も簡単な死体の処理方法なのです。

 死体はバルジーナが食べやすいよう、専門の職人によって葬儀を行う現地で切り分けられ、その間に無数のバルジーナ匂いを嗅ぎつけて集まります。
 職人が死体から離れると、バルジーナたちは一斉に群がって死体を取り合い、瞬く間に骨だけにしてしまいます。こうした職人を雇うにはお金が必要なため、ある程度豊かでなければ職人は雇えず、ただ岩の上に死体を安置するだけになりますが、彼女らの強靭なくちばしの前では、切り分けずともちゃんと骨だけにしてくれます。
 そうして残った骨はバルジーナに拾われ、彼女らの身を守る鎧となって、空を舞うのです。もちろん、骨は風雨に晒されることで劣化するので、バルジーナは適宜骨を交換して生活を続けるのですが、その期間は四十九日であるといわれています。
 バルジーナについばまれることで肉体から解放された故人の魂は一定の期間まだ遺族の周りにいて、その間遺族は魂が現世にとどまらないように、魂を呼び戻してしまわないように、故人の名前を絶対に口にしないそうです。
 その一定の期間というのは、バルジーナが骨を交換するのと同じ四十九日とされています。バルジーナが先か、魂が先か、どちらが先にささやかれたのかは分かりませんが、バルジーナが彼らの生活と密接にかかわっている一つの証拠と言えるエピソードですね。