戻る
------------

85 白の物語 〜繭の樹〜  No.017(HP


PDFバージョン  フォルクローレに採用されると見開きの片側に絵がつきます。


 虫ポケモンの吐く糸は木綿や羊毛などと並んで天然繊維の軸を為してきた。虫から糸をとる事を養蚕と呼び、化学繊維が開発されるまでは近代の主要な産業の一つで、農家の貴重な現金収入であった。糸を吐くポケモンにはキャタピー、ビードル、イトマル、ケムッソなどがいるが、特にケムッソがカラサリスもしくはマユルドになる際に作る繭はとれる糸の中でも最上のものとされていた。カラサリスの繭からとれる糸は染色に向き、マユルドの繭はしなやかで丈夫という。餌となる好物の葉を大量に生産し、飼育・管理する技術が確立される前の時代では猟師は森に入り、カラサリスやマユルドが成虫となって抜けた繭を探したという。それはある意味、通常の獲物よりも貴重な収穫であった。特にトウカの森の中にはケムッソが好んで繭を作る樹というのが存在し、熟練の猟師はその場所を知っていた。多い所ではまるでたわわに木の実が成るように枝に繭がくっついており、それらは繭の樹と呼ばれた。その場所は猟師の間でも特に秘密とされていて行くには危険な場所も多かった。より強いお供のポケモンを連れ、より危険な道を行けた猟師だけがその場所に行けたという。その途中には全身が白いドクケイルが待ち構えており、猟師を試したという言い伝えも残っている。白いドクケイルはお蚕様などと呼ばれ、畏れられた。また、病気の子を持つ女が薬代の為に繭を手に入れようと森へ入り、このお蚕様に出会ったという話もある。女はお蚕様の試練を退けるだけの力を持ち合わせていなかったが、可哀想に思ったお蚕様は「桑の葉を育て我が子らに与えよ。さすれば糸をもたらさん」と、養蚕の方法を教えてくれた。これがホウエン地方における養蚕の始まりであると伝えられている。