87 あかいいと
アイテム「あかいいと」。
ポケモントレーナーは勿論、お守りのような認識で若い女の子たちを中心にポケモンバトルにあまり興味の無い人の間でも注目を集めています。
あかいいと、即ち赤い糸をポケモンに持たせるとバトルで有利というのは有名な話。状態異常の一種である「メロメロ」状態にもしも陥ってしまった場合、赤い糸を持っていれば相手も道連れにできるというわけです。
道連れ、というのはいささか響きが悪いかもしれませんね。何しろ当のポケモンたちはその時だけとは言え、赤い糸の力で熱烈な恋に落ちてしまっているのですから。
赤い糸は昔から、神社に仕える人々とそのポケモンたちによって一つ一つ丁寧に作られてきました。紅に染められた細い糸をじっくりと時間をかけて編み、神主や巫女、エスパータイプのポケモンによる祈祷を受けてやっと完成するのです。現在でも完全手作業というポリシーは守られており、それ故流通する量はとても少なく手に入りにくい状況と言えましょう。
他の道具には見られない面白い性質を持っているからか、赤い糸にはいくつかの伝承が伝えられています。
中でも有名なのがとある姫君の話。大名の一人娘である姫君は、一度だけ外に出た時に言葉を交わした男性に恋に落ち、忘れることができなくなってしまいました。
しかし自分はいずれどこか知らない人の元へ嫁ぐ身。叶わぬ恋を嘆く姫君を見かねた祈祷師は、紅色の糸を一本渡してこう言いました。
「この糸と、相手への想いを大切にして過ごしなさい。込められた願いと祈りを、この糸はきっと伝えてくれるでしょう」
姫君は言われた通り、糸を持って男性を想い続けました。するとある晩、姫君が物音に目を覚ますと糸は美しく輝き、そしてなんと一人手に外へと伸びていました。驚く姫君が糸を追って空を見上げると、輝く糸を辿って想い人である男性が大きな鳥ポケモンに乗って、微笑みながら姫君へと手を差し伸べているではありませんか――。
こんな伝承が残されていることもあり、赤い糸は恋する乙女たちに根強い人気を誇っています。もっとも先述の理由から大量生産はほぼ不可能であるため、多くの人に出回るのは赤い糸を分解して得た繊維のさらにごく一部を内蔵したものになります。が、それでも人々は赤い糸に願いを託し、恋愛成就を祈るのです。
赤い糸のおかげかどうかはわかりませんが、そのお守りを持っていたら恋が実ったという人もたくさんいるみたいですね。メロメロ状態が伝染するように、恋する気持ちが相手に届くのかもしれません(「どんかん」な人には効きませんが)。
さて、この先は余談ですが、ここ最近になって赤い糸にまつわるメロメロ関連以外の新しい効果が発見されました。それは「持たせた状態でポケモンがたまごを産めば、その親の能力値の半分以上を受け継ぐ」というもの。
強さを追及するトレーナーたちにとってはこれ以上無いほどの朗報ですが、しかし先ほど述べた通り赤い糸が力を発揮するのはポケモンの限りでは無いのです。実際、インターネットの匿名掲示板にこのようなタイトルのスレッドが立ったことにより大きな反響を呼んでいます。
「【悲報】俺氏、赤い糸をずっと持っていたのに嫁との子どもが全く似ていない」
念のため記述しておきますが、人間における赤い糸との因果関係は証明されておらず、このようなケースに科学的根拠は無いとされています。
今のところ、の話ですけどね。
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