戻る
------------

88 ランプの精と空飛ぶ絨毯  No.017(HP


PDFバージョン  フォルクローレに採用されると見開きの片側に絵がつきます。


 ポケモンは今でこそ世界共通にポケモンと呼ばれるが、アラビア等の地域一帯では古くはジンと呼ばれていた。ジンとは、人にあらざる存在でありながら、人のように思考し、知性を持つとみなされる存在で、いわゆる精霊、妖怪、魔人といった類の超自然的な生き物の総称を言う。それ故、古くから家畜として人の生活に寄り添ってきたゴーゴートや、砂漠などでよく見かけるポケモン、例えばイシズマイやサンドといったポケモンはジンとは見なされない。ジンはポケモンの中でも比較的珍しいものや特に能力の強いものをそう言ったらしい。この時代では入手が難しかった進化系のポケモンや伝説級のポケモンを指す事が多かった。
 さらにアラビアのジンを特徴付けるアイテムがある。それはランプである。
 ランプは本来、中で香を炊き、その口から煙を出して香りを漂わせる道具であるが、ぼんぐり普及以前はジンを入れる道具としても用いられた。ジンの所有者がランプをこすると煙と共にジンが顕現する。砂漠地帯が多く、ぼんぐりの普及が遅れたこの地域ではポケモンの文化も独自の発展を見せたのである。かつてのこの地域のポケモンバトルではトレーナーは互いにランプをこすり、ポケモンを出して戦わせていた。また、空を飛ぶ際はエスパーポケモンに絨毯を操らせて飛んだという。
 この様子などは中世イスラム世界で形成されたアラビア語の説話集、アラビアンナイト(千夜一夜物語)にも多く収録されている。とりわけ有名なのは、「アラジンと魔法のランプ」であろう。そのストーリーはこうだ。
 あるところに母と共に暮らすアラジンという男がいた。正直者で働き者のアラジンであったが貧乏暮らしだった。ある時、アラジンは叔父と名乗る魔法使いに儲け話があるそそのかされ、試練の洞窟に入れられてしまった。
「中にあるランプをとってこい」
 魔法使いは言った。
 そこは凶悪な罠やジンの待ち受ける極めて危険な洞窟であったが、何とか最深部に辿り着いたアラジンはそこで魔法のランプを手に入れる。ランプをこすると現れたのは小さな獣の姿をした白いジンであった。白いジンは長い尾を振りながら言った。どんな願いでも叶える、と。
「外に出たい」
 アラジンが言うと、ジンはフーディンの姿になり、その入り口までテレポートした。そして洞窟の前に出ると今度はトルネロスの姿となって、風が吹くように瞬く間にアラジンを送り届けてくれた。
「お金持ちになりたい」
 と言えば、猫の姿になってたくさんのお金を降らせ、あらゆる姿となってアラジンの願いを叶えたという。ついにアラジンは国のお姫様と婚約するまでになった。
 が、それを妬んだのはかつてアラジンを洞窟に送り込んだ魔法使いである。侍女を騙してランプを交換させると、ジンを呼び出して姫を攫ってしまった。
 そこでアラジンは古道具屋からたくさんのランプを買ってきて、各地で様々なジンを捕まえてきた。そしてその力を借りて姫を助けに向かった。チャーレムの操る空飛ぶ絨毯に乗っていくつもの国を超え、シャワーズのダイビングで地下水路から魔法使いの城へと忍び込んだ。魔法使いがいる部屋は扉で固く閉ざされていたがエルフーンがすりぬけて忍び込み、眠っている魔法使いの懐からランプをかすめ盗る。再び魔法のランプを手にしたアラジンは白いジンに命じた。
「こいつを世界の果てへ連れて行ってくれ」
 すると白い獣のジンは巨大なムカデのようなジンに姿を変えると異空間に魔法使いを連れ去ってしまった。こうして姫を助けたアラジンは国へ帰り幸せに暮らしたそうである。
 モンスターボールが世界的に普及した昨今においてはランプにポケモンを入れる事は少なくなった。だが今でも国王の前などで行われる御前試合等では伝統に倣い、ランプのジンを用いたバトルが行われる事があるという。