戻る
------------

90 天狗の血  No.017(HP


PDFバージョン  フォルクローレに採用されると見開きの片側に絵がつきます。


 艶めかしい黒や赤に彩られる漆器、その塗料となる漆(うるし)はウルシノキから採取した樹液を用いて作られる。その語源は麗(うるわ)しとも潤(うるお)しともいわれ、漆器の持つ艶やかな美しさを感じさせる。漆を塗る事で木の器は堅牢さを手に入れ、その艶やかな美しさで人々を魅了してきた。
 漆器の生産地は全国各地にあって、特にジョウト地方をさらに北上したワジマという地域のものが有名であるが、そこでは漆の事を「天狗の血」と呼ぶ事があるらしい。それにはこの地方に伝わる悲しい伝説があるという。
 昔、ウルシノキに病気が流行り、漆を掻く事が出来ない年があった。材料が無くては漆器を作る事が出来ず、収入も絶たれてしまう。職人達は困り果てた。そんな彼らを哀れに思った楓の天狗――ダーテングは自らの腕を切るとその樹液を漆の代わりに与えた。おかげでその年を職人達は乗り切る事が出来たが、あまりに多くの樹液を失った為に天狗は死んでしまったという。職人達は神社を建て天狗を祀る事にした。これがワジマの漆器神社の始まりで、奉納漆器の蒔絵に楓の柄が多いのはこの為であるらしい。漆器神社では毎年の祭で古くなった道具を焚きあげ供養するが、同時にこれは木々の命を貰う事への戒めだと伝えられているそうだ。