91 魔女ランダと三匹の聖獣
No.017(HP)
所変われば神様が邪神なんて事はよくある話だけれど、東南アジアはバリ鳥にいるホウオウのぶっ飛んだ設定には驚きを禁じ得ない。というか、ジョウト出身の著者としてはカルチャーショック以外の何者でもなかった。
ホウオウと言えば、ジョウト地方では塔で焼け死んだ三匹のポケモンをライコウ、エンテイ、スイクンとして復活させたという伝説を持つ生命の象徴とも言える存在で、神聖視されてきたポケモンだ。ところがどっこい、このバリ島ではホウオウは大変恐ろしい邪鳥である。撒き散らす羽に触れれば病気になり、子供を攫い死肉を喰らったりする。墓から死者やポケモンをゾンビとして蘇らせて操る魔女ランダの化身であるとされているのだ。蘇らせるという点では同じでもその印象はまったくの正反対なのである。
人型、ホウオウ型を問わずバリ島のあちこちに魔女ランダことホウオウの像はあって、仮面や絵なんかもたくさん見る事が出来るのだけど、とにかく怖い! そもそもカラーがなんか違う。黒と赤が基調になっているその配色を見てるとたしかに邪神に相応しいと思えてくる。何年か前にオーレ地方でダークルギアが出たという話があったけれど、そのイメージが近いかもしれない。バリのホウホウはダークホウオウといえるかもしれない。が、そのデザインはとげとげしく、どういう訳か牙が生えていたり、いろいろぶら下げてたりしてデザイン面でもぶっとんでいる。その存在はバリ土着信仰の悪の側面を象徴しているという。
そして、もちろん邪神があればそれをやっつける存在というのもちゃんといる。それをバリでは聖獣バロンと呼んでいる。別名はバナスパティ・ラジャ(森の王)と言う。そして、そのバロンと言われる獣は三匹いるのだそうだ。もう勘のいい読者諸君の中には察しがついた方もいるかもしれない。
そう、そのその聖獣三匹とはライコウ、エンテイ、スイクンの三匹である。ジョウトではホウオウに仕える存在である三匹が、ホウオウをやっつける存在になってしまうんだから頭を抱えざるをえない。価値観が反転してしまうバリ島はマジに魔境だと思う。
バリ島では祭日になると、チャロナラン劇と呼ばれる悪霊祓いの舞台劇が行われる。これはバロンダンスとも言われ、こちらでういう獅子舞に似ている。ライコウ、エンテイ、スイクンを模した張りぼて(ちょっとブサイクだ)にそれぞれ二人の男が入って舞をするのである。だがあくまで観光客向けに簡素に行われるそれは本当のチャロナラン劇とは呼べない。本当の劇は210日に一度訪れるオダランの日にあわせ、寺院の境内で奉納劇として夜中に行われる。その上演時間は非常に長く4時間にも及ぶという。不可思議な能力故に森の奧に追いやられた王妃チャロナランが、魔女と化し黒いホウオウの姿となり、国中に疫病を流行らせる。困った王は、聖者ウンプー・バラダに助けを求めた。応えたランプーは飼っていた三匹のポケモンに術をかけ、魔女ランダに戦いを挑む、というストーリーである。舞台上でホウオウたる魔女ランダとライコウ、エンテイ、スイクンたるバロン達は狂ったように舞い踊って、激しい戦いを繰り広げる。
元々は疫病が流行った際に、悪い事が起きるのは善悪のバランスが崩れているからで、悪を制しそのバランスを整えなければならない、という事で始まったそうだ。彼らの考えでは世界は善と悪の共存で成り立っているのだという。だから魔女ランダとバロン達は今も戦い続けている。どちらか一方が倒されても復活するからだ。戦いは永遠に決着が付かない。それはある意味、ホウオウに象徴させる生命とか永遠という部分をバリ島流に表現したのかもしれない、などと考察してこの記事を終わりにしたいと思う。
ちなみにオダランの日のチャロナラン劇はちゃんと終わりまで観ていかないと、ランダの手下の悪霊が憑いたままになって、あとで病気になったりするらしい。バリ鳥のホウオウはやっぱり怖い。
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