95 ルチャブルになった男
No.017(HP)
カロス革命。世界史をやったならば必ず習うほど歴史的に有名な出来事である。カロス地方で民衆が蜂起し、国王や王妃を捕らえ処刑した。それにより絶対王政は崩壊、カロスは共和制へと移行した。今回紹介するのはそんなカロス革命前夜の男の物語である。
その男はパルファム宮殿に住居を許された大貴族の子息の一人であった。パルファム宮殿はかつてのカロス国王であり、その容貌からソルロック王と呼ばれていたルイ14世によって造られた。その広大な敷地に建った巨大な宮殿は豪華絢爛な黄金のミロカロス像に、他地方から鏡の職人を引き抜いて作らせたという鏡の間が特に有名である。そして代が替わり広大な庭にゼクロム・レシラムの像が建てられた頃に物語は始まる。
宮殿では貴族達が贅沢の限りを尽くしていたが、一方で民衆は貧困に喘いでいた。農産物が不作となれば、貴族や僧侶がそれを買占め独占した。民衆は明日のパンにも困る有様であった。そういう事がこの時代には横行していた。第三身分たる農民達は第一、第二身分たる彼らに逆らう事が許されなかった。
そんな時、貴族達の倉庫や宮殿内から食料や財を奪い、貧しい民衆に分け与えるという義賊が現れた。前述した大貴族の子息であった。彼は貴族でありながら絶対王政を否定するルソーの思想に傾倒していた。また、貧しい民衆の惨状に心を痛めていた。彼は自分が憎まれている事を知っていた為、また自身の正体を隠すために鳥ポケモンに似せた扮装をした。その鳥の頭は緑で目の縁取りや冠羽は橙、両翼の外側は赤く、内側は緑、胸から脚にかけては白という奇抜なデザインであった。鳥ポケモンが好きでヤヤコマやポッポを愛した彼の考えた空想上の鳥ポケモン、それを模した容貌であった。行政の一部に携わっていた彼の計画は綿密で、かつなかなか尻尾を出さなかった。
民衆はそんな謎の鳥ポケモンを称えた。そうして彼の行動は次第にエスカレートし、カロスの人々へ波及していった。彼に賛同した者達はポケモンを模した格好をするようになり、組織的に略奪をするようになった。ポケモンを持ち寄って倉庫を襲撃し、時には人殺しも辞さなかった。そんな彼らは獣のマスク〔Masque bestial〕と呼ばれ、貴族達から恐れられたという。そのうちの何人かは捕まって首を刎ねられた。彼らのうちで特に有名なのはカエンジシマスクの男、フランソワ・ダミアンで、当時のフランス王であるルイ15世が馬車を降りたところをナイフで襲撃、不敬罪で八つ裂きの刑に処せられる事になる。それでもポケモンに扮して、義賊となったり、略奪をする者達は後を絶たなかった。各地で様々な事件を起こして、貴族達を大いに悩ませた。
そんな事が続いたある夜、男は異常に気が付いた。襲撃を終えて帰路につき、人目に付かぬ森の中で鳥マスクを脱ごうとした時、それが頭から離れなくなっていた事に気が付いたのである。マスクはしっかりと身体に食い込み密着して、彼の身体の一部となっていた。もはや人に戻れぬ事を知り、男は慟哭した。
ああ、これは罰だ。神が私に与えた罰なのだ。人殺しに手を染め、数多の人々を巻き込んでしまった私への罰に違いない。
そのように悟った男は人々のいる都会を離れ、森の奥へと姿を消した。そして、その数年のうち、人々の間にこんな噂が立った。
メンヒルロードのにある遺跡の周辺に鳥のような、人のような、奇妙なポケモンが現れるらしい……と。
以上はルチャブルに関する数ある伝説のうちの一つだが、カロス革命の過程におけるバスティーユ牢獄襲撃の際、多数の民衆達とポケモン達に混じってルチャブルも参加していたのは事実であるようだ。
このユニークな風貌のポケモンもまたカロス革命の一員だったのである。
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