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  [No.2452] つがい 投稿者:紀成   投稿日:2012/06/09(Sat) 13:57:56   83clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

ねえ、きみはどこにいるの?

じめじめした空気。狭くて暗い空間。足元は水と何か細くて糸のような物が纏わり付き、歩くことも難しい。
そんないるのも嫌になるこの場所を、一匹のペンドラーがゆっくりゆっくり這い上がっていた。
彼には、時間の経過という物があまり感じられない。
いつからここにいるのか、どうやってここに来たのか、それすらも覚えていない。
それでも、ただ一つだけ理解していることがあった。というよりそのためにここにいるのだということを忘れてはいなかった。

(こっちから匂いがする)

毒タイプ独特の匂い、と人間は言うだろう。特に湿っているこの空間では、それは普段以上に効力を増す。
そのペンドラーは、相棒を探していた。生まれた時から一緒で、いつも隣にいた。フシデ、ホイーガと進化して最終進化のペンドラーになっても、常に一緒にいた。
性別うんぬんではなく、相手と一緒にいれば幸せだったのだ。
だが、数日前――既に彼は記憶していないが――彼の相棒は、珍しく一匹で散歩に出ていた。いつもは森しか散歩しない彼だったが好奇心に負け、森から出てしまった。
そしてそのまま行方不明となり、何処へ行ったのかも分からないまま数日が過ぎた。だがある日――雨が降った日だった――湿り気のおかげで相手の匂いを突き止めることができ、残された彼は相棒である彼を探しに出たのだ。

だんだん薄暗くなってきた。自分の目線数センチ先まで見えるようになった。ふと上を見ると、光がいくつか隙間から差し込んでいるのが見えた。
――もうすこしだ。きっとあの隙間を通り抜ければ、彼に会える。
ペンドラーは糸のような物がついた足を振り払うと、そこへと向かう。

やがて、視界が開けた。と同時に、ガチャという音がした。
空気が、凍りついた。


「おかーさん、またペンドラーが風呂場にいるんだけどー」
「やっぱり?」

若い娘がうんざりした声を出した。高校生くらいだろうか。悲鳴も上げなければ、恐がりもしない。慣れているのだろう。
風呂掃除をしようとそっとドアを開けた瞬間、めざわりな姿が目に入る。流石に一人では対処できないため、母親を呼ぶ。
ほどなくして彼女は来た。ティッシュを大量に持って。

「やっぱり、ってことは前に出たの?」
「うん。一週間前くらいにね。ほら、ペンドラーってつがいで行動するから、近いうちにもう一匹出るんじゃないかなって踏んでたのよ」
「ふーん」

しばらくして、トイレの方から水音が聞こえてきた。

「ところで母さん、ご飯まだ?」
「今作るからもう少し待ってなさい。それよりも、志望理由書今週の金曜締め切りよー」
「うわっやばっ」

娘の方がそそくさと階段を上がっていった。その頭には、無残に死んだペンドラーの影などこれっぽっちも無い。


――――――――
久々に書いた物がこれか!ちなみにこういうことがよく家で起きています。
でかいペンドラーやマダツボミがいるなら、ちまっこいペンドラーがいてもいい気がしたのですよ。

【何をしてもいいのよ】


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