しゃらしゃらと涼しげな音を立てながら、大きな笹が夜風に揺れています。
その枝葉には、色とりどりの短冊がいくつも結び付けられていました。柔らかな風に踊るそれらには、人とポケモンの祈りや願いが書き込まれています。
道の向こうからくたびれた様子の駱駝が一頭、とぼとぼと歩いて来ました。
足を引きながら笹竹の前にやってきた駱駝は、大きな溜息を吐いて背中の荷を下ろしました。小さな袋に詰め込まれた短冊の束です。
あれからもう一年が経ったんだなあ、と呟きつつ、さらさらと手元の用紙に何かを書き付けています。
肉厚の蹄で器用に――どうやってという疑問は胸にしまっておきましょう――結び付けられたそれには、『藁一本で背骨が折れそうなこの現状を、なんとか打破できますように』とありました。なんとまあ、辛気臭いことです。
……それはさておき、自分の分を書き終えた駱駝は、預かってきたらしい短冊たちを次々と結び付け始めました。
『ブラック3・ホワイト3で主役級に抜擢されますように 風神・雷神』
『またポケンテンの新作料理を食べられますように 学生A・B』
『監督の尻をひっぱたいてとっととロケを終わらせて、年内には上映できますように 飛雲組』
『世界中での百鬼夜行を望む 闇の女王』
『第三部及び完結編まで続きますように! 甲斐メンバーの一人』
『今年の夏休みも、あいぼうといっぱい遊べますように 夏休み少年』
『いつまでも“彼”と一緒にいられますように 名も無き村娘』
『もう大爆発を命じられませんように ドガース』
『今年も美味しい食事にありつけますように。 桜乙女』
『僕たちが無事に「割れ」られますように タマタマ』
『彼らの旅立ちを祝福できますように…… マサラの研究員』
『この世界に生まれ出ることができますように 未完の物語一同』
さらさら、しゃらしゃらと笹が揺れています。
一年分の願いを括り終えて、駱駝はふうと息をつきました。
しばらくぼんやりと色紙の踊るさまを眺めていましたが、やがて意を決したように首を振ると、元来た道をのろのろと引き返して行きました。
おや? 駱駝の立っていた場所に、二枚の短冊が落ちています。どうやら、付け忘れてしまったようです。
仕方がないので、私が結んで締めくくりましょう。
『受験・就職・体調・原稿その他もろもろの、皆様の願いが良い方向へ向かいますように』
『自分の思い描くものを、思い描いた形に出来ますように。今後も地道に書き続けられますように』
七夕の夜に、願いを込めて。