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  [No.2535] 無邪気に願おう 投稿者:   投稿日:2012/07/29(Sun) 09:57:49   59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



 この世界には、ジラーチというポケモンがいる。
 ジラーチというポケモンは、本来ならば千年の内、七日しか活動できないという。とはいっても、個体数自体はそれほど少なくはないため、一年に一度はどこかでジラーチが活動しているというのだが、発見された際はポケモンレンジャーなどにより丁重に保護され、公募で願いを決めるため、運に恵まれない一般人がお目に掛れる機会は少ない。
 だが、そんな俺達でも願いにあやかれるチャンスもなくはないようだ。何でも常に活動し続けるジラーチが、とある場所にいるのだという。
 その場所というのは、ごく普通の観光地の付近。観光地としてのそこは、美しい滝と美味しい空気が味わえる竹藪や、その付近にある戦死者供養のための寺院とそこから見下ろせる俯瞰ふかんが美しい、風光明媚*1な場所である。腕が六本と顔が三つあるゴウカザルの像がここの一つの目玉だが、お目当てはもう一つの目玉。戦死者供養のため、戦死者の魂が宿るというヒトガタが大量に展示された寺の構内は壮観である。
 粘土で作られた物や、兵士たちの防具で作られた物。古くなった鍋や食器で作られた物。木の破片で作られたものもあるし、布で作られたものもある。素材も大きさも無秩序に作られたそれらが、朽ち果てながら戦争が終わった国の行く末を見守っているのだ。

 記録の上では、ここは数百年前にジラーチが目覚めた場所らしく、その当時この地域は豊作に沸き立ったらしい。
 そして、そのジラーチはこの寺院の僧に見守られながら、静かに眠りについたとされているのだが。出所の知れない都市伝説のような噂によれば、ここ。正確にはここの付近にはまだ別のジラーチの個体がいるのだと言われている。
 それが、件の常に活動し続けるジラーチだそうだ。寺院のある山を越え、霧の深い山奥、俯瞰から臨む立ち込めた雲海。ここから先に行くと、リオルの足で一日ほどの距離、人の住む場所はない自然の要塞が立ちはだかっている、広大な土地がある。
 噂の域を出ないこの場所は前々から気になっていたのだが、先日夢の中で『僕はここだよ、誰か僕を迎えに来てよ』と呼ばれた気がしたことが決心したきっかけだ。退屈を打ち壊すには丁度いい。
 ジラーチの願いの力を求めて踏み入る者がいるこの場所は毎年遭難者も出ているという噂で、観光がてらの冒険をするには、素人には少々危険かもしれない。一応、それなりに旅の経験を積んでいる自分なら大丈夫だろう、なんて考えで私は歩みを進めていた。


 ここらへんは地磁気が乱れて方角が分からなくなるとかそんなこともないし、天気が変わりやすい山の中とは言え、嵐や洪水などの天候の変化は起こる季節ではない。食料は予定の滞在日数の倍以上持ってきたし、いざという時のために空を移動できるポケモンだって連れてきている。
 準備を万端にして、自分はジラーチを探し求めた。眉唾物の噂だけれど、こんなところだからこそ冒険心をくすぐられる。リングマ避けの鈴を鳴らしながら、履きなれたブーツで腐葉土を踏みしめ、道なき道を行く。降ってくる蛭ヒルや、蚊との格闘を経て、傷のついた幹のあるマニューラ達の縄張りを迂回しながら、私はあてもなく目的の場所を探す。

 連れてきたエアームドにも協力してもらい、上空から探してもらったりもしたが、生憎それらしき場所は無し。昼や霧が出ていない時は発煙筒、夜は多少空けた場所で指示灯*2を使い、私の元に帰って来る時には、相棒のエアームドは毎回申し訳なさそうな顔をしていた。
「そんなにしょげるな。私もそう簡単に見つかるとは思っていないさ」
 霧を浴びてしとどに濡れた鋼鉄の体を指で拭い、私はエアームドを労う。目を覆う透明な膜があるから、目にゴミが入ることの無いエアームドだが、流石に膜に水滴がつくとうっとおしいらしい。顔を撫でて水滴を拭ってやると。光沢のある体から伝っていく水滴が腐葉土の地面に落ちて、目を覆う膜も視界がクリアになる。
 視界がクリアになったエアームドは、私に労ってもらえて嬉しいのか、甘い声で鳴いては頬ずりをしてくる。尖った場所で私を傷付けたりなんてしないように、滑らかな曲線を描く部分で優しく、花を愛でるように。
 水で滑る冷たい金属の感触を味わいながら太陽の位置を見る。曇っていて定かではないが、時計を見る限りではもう夜は近い。そろそろ野営の準備を始める時間帯だ。
 なあに、予定の時間はまだまだあるさ。たとえジラーチが見つからなくとも、こうしてポケモンと一緒に過ごす時間が楽しいのだ。旅と冒険の面白さってものは、これだからやめられない。


 そうして、あと二日して何も見つからなければ帰ろうと思っていた日であった。どこかで捕まえたコラッタを咥えて戻ってきたエアームドが、またどこかへ飛んで行ったかと思えば、またすぐに戻ってくる。何事かと思って問いかけてみても、エアームドは喋られるわけがないから答えないが、答える代わりに彼女は私へ背中に乗れと促してきた。背中に乗せるとバランスが崩れやすいので、いつもは嫌うはずなのだが、短距離ならば私としては乗ったほうが楽……つまり、エアームド曰く、近くに何かあるということらしい。
 何を見つけたというのだろうか。まさかと思って、そのまさかであった。
 小さな洞窟。十数メートルも奥に行けば行き止まりにたどり着いてしまった場所ではあるが、不思議と明るいその洞窟の奥には、黄色い衣に包まれた赤子のようなポケモンがふわふわと中空に浮いている。黄金色、星型の頭部から垂れ下がる、青緑色の短冊。雪のようなに真っ白な肌に映える涙模様。ちんちくりんな手足を生やした胴は、今は衣ころもに包まれて見えない。
 それは紛れもなくジラーチであった。そのかわいらしさだけでも見に来た価値はある……けれど、やっぱりこの子を見たからには、願い事をしないと損じゃないかと私は思う。

 私は淡く光るその子(恐らく自分よりもはるかに年上だが)の元に近寄ってみる。洞窟の砂利を踏み締める音、霧によって発生した水滴が滴る音、心臓の音が痛いほどに聞こえてくる。ジラーチに触れてみると、鋼タイプだという事が信じられないほどに柔らかな頬。赤ん坊と同じ、まるで大福をつついているような指ざわりで、餅肌という言葉の意味がよくわかるというものだ。
 その指をたどって金色の頭部に触れてみると、そこは流石に柔らかくないらしい。きちんと金属質であることを感じさせる硬さと質量。ちょっと指で強く抓ってみたが、簡単には変形しそうにない硬さであった。
「うーん……」
 そんなことをしていたせいなのか、流石にねぼすけのジラーチも起きてしまったようだ。黄色い衣に包まれていた体は露わになり、小さな手足が顔を出す。纏っていた衣はマフラーのように垂れ下がり、そうして腹にある真実の目と呼ばれる第三の目も確認できた。
「だれ?」
 寝ぼけた口調、寝ぼけまなこでジラーチが問いかける。
「マルク。私の名前はマルクって言うんだ。よろしくな」
「マルク……ふぅん、よろしくね。僕の名前は、シャル・ノーテ。シャルって呼んでね」
「あぁ、よろしく、シャル……驚いた、昔話の通りの名前じゃないか」
 シャルは浮き上がったままこちらに向き直り、まだ眠そうに目を擦って私の存在を認める。名前も覚えてもらったところで、さてどうしよう。

「ところで君、何の用?」
 そんなことを思っている間に、シャルは私に質問してきた。
「な、何の用……かぁ。なんというか、ここにずっと活動し続けるジラーチがいると風の噂で聞いたから……ダメ元で探しに来てみたんだけれど……意外といるものだね。幻のポケモン」
「あぁ、まぁ……僕も、ここにいることはみんなに秘密にしてもらっているからねー。だから、噂が噂の域を出ていないってことは、みんな僕との約束をきちんと守っているっていう証拠なのかなぁ……」
「そんな約束を?」
「うん、誰かに喋ってしまえば、願いは叶わなくなるってね……それに、願い事を独占しようとしちゃダメ。僕をゲットしたりしようものなら酷い目に合うよ」
 最後に言い終えると、シャルは目を擦り終え、大きくあくびをして空中で伸びをする。
「その代わり、誰にも喋らなければ、願いは叶うって。そういう風に約束したんだ」
 あくびを終えたジラーチは、口調もはっきりとして、可愛らしく微笑んだ。
「だから、君も同じ……」
 そう言って、シャルは空中で宙返り。
「君には願い事はあるかい? 僕が何でも叶えてあげる」

 そして、シャルは甘えるかのように私に抱き付いてきて、上目遣いをする。幼児性愛の趣向はないが、これは純粋にかわいいと思わざるを得ない、天使のような愛らしい表情だ。こんな目で見ていると、相棒のエアームドが嫉妬しないといいんだけれど。
「なんでも、いいのか?」
 なんでも、と言われると困る。やりたいことは色々だ……恋人が欲しいとか、長生きしたいとか……あー、でも、やっぱり私はこうやって冒険をするのが性に合っている。そうなると、冒険をするには先立つものが必要なわけで、今の会社の安月給では有給休暇の都合もあるし、あまり回数を期待できないのだ。
 そうなると、そうだな。お金が欲しい……お金が目的になってしまうのはいけないが、お金はあくまで手段である。そうだ、大金を手に入れた暁には、エアームド以外の他のポケモンとも一緒に冒険したいものだ。仕事なんてやめて、自由気ままに諸国を回る……うん、これは夢のような生活だ。
「そうそう、僕の願い事で出来ないことはね、願いの数を増やすこと。まぁ、これは基本だよねー」
「確かに、それは基本だよな。大丈夫、私もそんなことを頼むほど強欲じゃないから」
 ベタな話だが、よくある話だと私は笑う。
「そして、規模が大きすぎる者は無理なんだよね」
「例えば?」
「地震を起こせとか、隕石を落とせとか。その現象を起こすのに、多大な力がいる願いも、僕は出来ないんだ……でも、風が吹けば桶屋が儲かるようなことを利用すれば出来ないこともないと思うけれどね。
 でも君が願えば、ポケモンしかいない異世界に旅立つことだって、ポケモンに変身することだって出来る。どんな突拍子もない願いでも言ってみなよ、言うだけならタダだから」
 風が吹けば桶屋が儲かる。他にも、アゲハントが飛ぶと地球の裏側では竜巻が起こるというようなことわざもあるが……ふむ。きっかけを与えれば、大きなことが出来るというような方法ならば不可能ではないのだろうか。よくわからないが、そういう事なのだろう。
「じゃあ、私が抱えきれないほどの大金を手にしたいって言う願い事を頼む場合は?」
 それだけあれば、体が動くうちは旅道楽にも事欠かないはずだ。ポケモンとずっと一緒に居られるのも楽しみだ。

「あぁ、その程度の願いなら簡単。でも、その程度でいいの? もっともっと億万長者にだってなれるよ? 自分がポケモンなるとか、そんな夢だってかなえられるさ」
 シャルは私に抱かれながら。上目づかいで問いかける。傍らで佇むエアームドも私の方をじっと見ており、人生を決めるかもしれないこの選択に私は息をのむ。
 億万長者というのは確かに夢のようだ。そういった夢が叶うのならば、その選択肢の方が良い願いなのかもしれないけれど……やっぱり、私はポケモンと一緒に道楽に浸っていたい。
 あんまり多くを望みすぎると罰が当たるし……うん。抱えきれないとかはちょっと贅沢かもしれないな……まぁ、一生冒険するのに困らない程度のお金が手に入ればいいさ。
「構わないよ。やってくれ。一生冒険するのに困らないくらいでいいから」
「うん、分かった」
 シャルはそろりと私の胸から離れ、真実の目を開く。その小さな体には不釣り合いなほど大きな目が開かれると、少々グロテスクな容姿に見える。マフラーのような部分や、頭から垂れ下がる短冊は縮れて先端が震えていた。
 シャルが構えた両手の間にある空間にはほのかに光が灯っている。その光は最初こそぼんやりとしたものでしかなかったが、徐々に洞窟を照らすほどの煌めきを得たかと思うと、その光は洞窟の天井をも無視して天空に打ち上げられて消えてしまった。
「うん、これで大丈夫」
 嫌にあっさりと終ってしまったような気がするが……これで、大丈夫なのだろうか?
「それじゃあ、僕は寝るよ……」
「え、ちょ……」
 まだ話したいことがあったのだが、そんなこと知るかとばかりにシャルはそう言って眠ってしまった。私が発見した時と同じように、黄色い衣に包まれた赤ん坊のような姿で眠りこけて……起こそうと思えば起きたのかもしれないが、それは止めた。
「誰かにこの場所を教えると、願いは叶わなくなるのだっけか……」
 そんなことを呟きながら、私は後ろ髪をひかれる思いで街へ向かって歩き出した。


 数週間たって、私は宝くじを購入して夢を見ながら、日常生活に戻っていた。いまだジラーチにした願い事が叶う気配はなく、日々は穏やかに過ぎてゆく。
「しかし、なにも起こらないなー……アレは夢だったのだろうか」
 会社の昼休みの最中。弁当箱をごみ箱に捨てながら私は呟く。そんな時、私の元に突然ニュースが流れ込んできた。
 この国が核を含むミサイルの標的となったこと。そして、そのミサイルの行方を見守っていると、対応しきれないほど多くのミサイルによる飽和攻撃で撃墜に失敗して、この国が炎に包まれたと。

 意味が分からなかった。だが、全てのテレビ局がそのニュースを報じ、実質的な被害を受けたと思われるテレビ局のみが砂嵐となって黙している。被害にあった地域の惨状は想像だにしたくない。
 ミサイルを放った国は、当然のように国際社会から厳しく糾弾されたうえ、自国内で大規模なクーデターが発生するなどして、その国は権力のトップに立つものが悉く処刑される。瞬く間に、周りの状況が一変していった。
 結局、相手国の国際的な責任問題や賠償などの問題もうやむやになって(というよりも、払えるわけがなかった)私の住む国と共に、仲良く経済が崩壊してしまうのにも、そう時間はかからなかった。なんせ、こちらは主要都市や港、空港が壊滅し、汚染され、復興は不可能と断ぜられたのだ。あらゆる経済が死に絶えたことで、街は失業者が溢れ、通貨は紙切れになっていた。
 そう、核ミサイルを放つというのは大事おおごとかもしれないが、国のトップの人間の思考をちょちょいと操作するだけでも簡単に出来るのだ。催眠術の才能は必要なのかもしれないが、ジラーチにはそういうことは難しい事ではないのかもしれない。
 数年のうちに、私たちの国は先進国の枠組みから外れ、治安も悪くなった。かつてはポケモンが出現するから危険だと言われた草むらなんて可愛いもので、今や街こそポケモン無しに歩けば、食料か、金品か、貞操か、命か、何かを奪われる危険な時代だ。そして、たびたび起こる過剰なインフレの影響で通貨の信用がなくなった我が国では、電子マネーも機能せず。
 手渡しの給料は、とても抱えきれるものではなかった。


 私はあまりに浅墓だった自分を呪いながら、こんな危険なジラーチを駆除してしまわなければと、私は再びあの場所へ向かう。
 近所の人やポケモンレンジャーに話してみたが、誰も信じてくれなかった。こうなりゃ私達だけでやるしかない。
 だがおかしい、同じ季節のはずなのに、霧が前よりも極端に深いし、一瞬たりと晴れてくれない。
 ここらへんは核の影響を受けていないはずなのに、こうまで気候が変わるはずがない。
 それだけじゃない、コンパスが狂っている。前はそんなことなかったのに。もちろん携帯電話も通じない。
 エアームドが帰ってこない。位置を知らせるための発煙筒も使い果たした。
 食料が半分ほどになった頃には時計が二周しても夜が明けなくなった。
 食料が残り少なくなった頃には、星と月が消えた。
 懐中電灯の明かりで気分だけでも明るくしたが、指示灯の電池を流用しても、電池が尽きた。
 自分の手さえ見えない、目を閉じているのか開けているのかすらわからない無間の闇の中で、私は毎年遭難者が出る意味がわかった気がする。
「君のお願い通り、一生冒険をするのに困らなかったみたいだね。満足したかい?」
「誰か……食べ物……」
 そして私が最後に願ったのは、食料が欲しいという願いであった。
「はい。骨も体表も鋼鉄だから、硬くて鉄臭くて食べ難いかもしれないけれどね」





 ジラーチは、願いをかなえる時に、大量の呪いを必要とする。恨み、嫉妬、嘆き、悲しみ、それらが生み出す呪いの力がジラーチの原動力。それを知った人間は、呪いを集めるまでもなく、最初から持ったポケモンをジラーチに変身させてと、そう願った。
 戦死者の魂を供養するための憑代として、集められたヒトガタに宿った僕を、ジラーチに変身させてと願ってしまった。でも、呪いというのは、大半はジラーチの力だけでも浄化して願いの力に変えることが出来るが、ジラーチだけでは決して浄化できない呪いもある。そういった呪いは、ジラーチが千年眠っている間に魂だけを宇宙に飛ばして強烈な太陽の光に当てて浄化する。そういうものだったんだ。
 僕は、元がジュペッタだったおかげで眠ることも出来ずに、微睡むことしか出来ず、そのおかげでいつでも人の願いを叶え続けることが出来た。
 そして、願いを叶えるごとに体内の綿に染みこんだ憎しみや恨みによって生じる呪いも減らし続け、やがてジュペッタを作ることも出来ないくらいに呪いは枯渇した。しかし、ジュペッタから生まれた僕は、ヒトガタに込められた呪いを受け取ればまた願いを叶えられるようになる。
 そこまでならば、良かった。少なくとも人間にとっては、そこまでは完ぺきだったのだと思う。

 今では、寺院に届けられるヒトガタを盗み、それから呪いを受け取ることでいつでも願いを叶えられる。それと引き換えに、僕の中にある浄化されることの無い大量の穢れが悪さをするのだ。千年待つとか、厳しい試練だとか、そんなものも無しに願いがかなうなんて甘い話は元から無いのだ。
 綿に染みこんだ呪いが全て消えた時、自分は姿を消してしまったほうがいいのかとも思った。けれど、眠ることが出来ず、魂を宇宙に送ることも出来ない僕は、浄化できない穢れを抱えて地上に留まるしかない。自殺するのも怖くて出来なかった。そうこうしているうちに、僕はパラセクトのように、自分以外の何かに突き動かされるようになった。
 僕の中で混沌と渦巻いている呪いという名の穢れは、日の当たらない霧の中で、いつまでたっても宇宙に流せず、太陽の光で浄化出来ず、僕を突き動かすのだ。

 『敵国の人間はみんな死んでしまえ』とか、『私達を地獄に落とした奴らを許しちゃいけない』とか、『どうせ死ぬならお前らも道連れだ』とか。人間も、戦争に巻き込まれた人間以外の者たちも願ったそれは、永遠に消えることなく今も僕の内にある。
 自分でやっておいて言うのもなんだけれど、だんだんと願い後に訪れる災害も悪化している。


 これでまた、どこかで人間に対する憎しみが生まれる。ヒトガタが送り込まれる。そのヒトガタから得た呪いは、浄化出来るものも浄化出来ないものも僕の内に溜まるだろう。もう、人を根絶やしにしなければ収まらないくらいの呪いが、急速に加速し、僕の中で牙を研いでいるのだ。
 その穢れに、呪いに、僕が突き動かされる事を邪魔する者がいるならば、僕を危険視したアブソルだろうと、僕を疎んだ人間だろうと、神だろうと、あらゆる手段を用いて殺してやる。
 脅威が去った後は、また人間をここに誘ってやればいいさ。
『僕はここにいるよ。だれか、僕を迎えに来てよ』
 誰かの夢に向かって、そうささやきながら。






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あとがき


もともとは、例のwikiで『甘い話なんてない』というテーマで書いた作品なのですが、なんと言うか、そのお話の前日談も浮かんできてしまったために、同時期に行われていたオタマロコンテストにも応募してみたという感じです。
どちらもひとつの物語として成立するように作っているため、『無邪気に願おう』では『霧の中のジラーチ』の内容を復習するような感じになってます。
主催者様を始めとして、ハッピーエンドだと思った人たちに衝撃を与えることが出来て、私はとても満足です。猿の手、消えたアブソル、眠らないと魂飛ばせないのに眠れないジラーチと、伏線をちりばめておいたけれど、バッドエンドにならないのが不思議に思った人はあんまりいなかったですねw

参考にした作品は、もちろん猿の手。腕がいっぱいあるゴウカザルの像とか、ジラーチの名前で、オマージュさせてもらいました。


【何をしてもいいのよ】


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