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  [No.2115] ジングルベル 投稿者:キトラ   投稿日:2011/12/14(Wed) 23:15:43   138clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 神の鐘を鳴らせ!雪ふぶく風の上、神を呼ぶ鐘を!


 マフラーに顔をうずめて、あたり一面真っ白な街を歩く。後ろには彼女のパートナーが雪の上に足跡を残して歩く。
「冷たい!」
ゾロアークがしぶそうな顔をしている。森に住んでいる時から雪は苦手。
「もうすぐだからね、ごめんね」
「おれはツグミと違って毛皮があるから多少の寒さは平気だ」
 気遣うツグミをこれ以上心配させないよう、ゾロアークは言う。けれどそれにも限界があることは、寒さで震える足を見ればすぐ解る。
 ツグミは歩きなれない雪道を早足で歩く。それにゾロアークもついていく。


 ポケモンセンターもない山間の街にツグミたちはたどり着いた。夜をあかすには野宿というのは無理がある。
 宿を探していると、街外れの教会に行けば一晩くらい泊めてくれるだろうと教えてもらった。
 しかしその教会の遠いこと。街のまんなかから雪をかぶった屋根が見えていたが、雪道では歩みも遅い。
 日が落ちて目の前が紫色の吹雪になっても、ツグミは一生懸命歩いていた。ゾロアークは彼女を信じてついていく。


 坂を登り、吹雪で凍りついた教会の扉に触る。ツグミが叩くと、すぐに落ち着いた声が帰って来た。
「すみません!ポケモントレーナーなんですが、一晩止めてもらえないでしょうか!」
 手袋をしても指先は冷たく、ブーツに入った雪がツグミの足を凍り付かせている。扉の向こうの暖かさを期待して、ツグミは返事を待った。
「おや」
 扉が開き、出てきたのは背の高い男の人だった。聖職者のようで、左手には厚めの本が握られている。
「ポケモントレーナーとは珍しい。これも神のお導き。お入りなさい」
 男は穏やかな口調で微笑む。ツグミは大きく息を吐く。
「ありがとうございます!」
「ありがとう!」
 ツグミに続いてゾロアークも中に入る。そして一瞬だけゾロアークは男を振り返り、すぐさまツグミの側へ行った。


 中は石造りなのにとても暖かい。ツグミはさっそくコートを脱いだ。マフラーも手袋も取り、暖炉に当てる。ブーツを脱ぎ、濡れた靴下を干すと、冷たくなった足を火に当てた。
「ゾロアークは何を食べるのでしょうか?」
 男はツグミにホットチョコレートを渡す。受け取りながら、ツグミがここまで得たことを話した。
「ゾロアークはタマネギチョコレート鳥の骨魚の骨以外なら食べても大丈夫です!」
「では暖かい野菜のスープとパンで大丈夫でしょう」
 ツグミが話している間、ゾロアークは落ち着かない様子だった。暖炉の側にいながら、天井につるされたシャンデリアや、壁に灯されたろうそくを交互に見ている。
「どうしたのゾロアーク?」
「いや、その気になって…」
「神の鐘、でしょうか?」
 男が指さした方向。それはつるされたシャンデリアに隠れるようにして見える金色の何か。
「屋根裏になっていますが、あそこまでいく階段も梯子もないため、現在では鳴らせません。けどあれは神の鐘といって、昔あらわれた邪悪なポケモンを神が鐘を打ち鳴らし全て葬ったと言われています。そのため、あの鐘は神にしか鳴らせないあんなところにあるのです」
 野菜スープが皿に盛られる。硬めのライ麦パンと共に。暖かい食事に、ツグミとゾロアークは夢中になった。
「神の誕生祭では教会の外にある鐘を使います。神の誕生と共にあの鐘があると言われていることから、あちらの方が相応しいとは思いますが、神の御心次第なのです」
 ゾロアークがパンをかじりながら男の話を聞いている。ここに入った時から気になって仕方ないのだ。ツグミは気にならないのか、いつもの通りだった。

 ツグミのベッドの足元にゾロアークは丸くなって眠る。毛がつくからたいていの人間は嫌な顔をするものだ。毎朝、ゾロアークの毛だらけになりながらもツグミは笑っていた。
 ツグミに会ってから数ヶ月。季節は巡って冬になってしまった。ゾロアだったのがゾロアークとなった。時間と共に変わっていく景色。そして関係。

 ゾロアークは目を覚ます。うたた寝してしまったようだ。気づけばツグミの気配がない。トイレにでも起きたのかと寝床に臥せる。
 それにしても遅い。ゾロアークはベッドから起き上がると部屋を出た。
「ツグミー!」
 ゾロアークの声が石造りの教会にこだまする。自分の声が重なって、ゾロアークは少し頭がクラッとした。
「まったく、世話のやけるトレーナーなんだから」
 これだから一人で行動してはいけないと…。ゾロアークはぶつぶつ言いながら次の扉に手をかける。
「うぶっ!?」
 熱風を食らったかのような暑さ。先ほど食事をしていた場所と同じところとは思えない。
「あ、暑い…」
「起きたんですかゾロアーク」
 男の声がする。その脇には寝間着のままのツグミが抱えられている。
「ランプラー、ちゃんと薬は混ぜたんですか?」
 石造りの壁一面に灯るヒトモシ、そしてランプラー。ゾロアークの感じていたものはこれだ。
「マゼタヨ。ケドゾロアークガタフナンダモン」
「そうですか。仕方ないですね」
「ちょっと待て、どういう意味だ。そんでツグミをどうするんだ」
「ゾロアークバカ。ニンゲンナンテタベチャエバイイノニ」
「ランプラー、口が悪いですよ。ゾロアーク、ここにいるヒトモシたちはみな人間に弱いからと捨てられた子たちでね、人間が嫌いなんですよ。この子たちは人間の生命力を使って生きる。弱いから要らないと言われたヒトモシたちに食われる人間の滑稽なこと」
「お前ら…あいつらみたいだな」
 すでにゾロアークの毛は逆立っている。そして素早い動きで男に飛びかかる。ツグミの体が男から離れた。
「私を殺しても、恨みは消えない」
 男の顔を殴りつける。けれど当たったのはやわらかい紫のメタモンだった。
「早く、出るぞ」
 ツグミを見る。起きる気配は無さそうだ。主犯のメタモンがやられてヒトモシたちは動揺している。逃げるなら今だ。
「お待ち!久しぶりの獲物、逃がさないよ!」
 声が響いた。動揺していたヒトモシが一斉に静かになる。どこから聞こえるのか解らない声が、ゾロアークの頭に響く。
 直後、ゾロアークの上に衝撃が走る。気絶し、床に臥せたままのゾロアークは無視し、ツグミを抱える。
「シャンデラママ!」
 次々にヒトモシたちが盛り上がる。ランプラーは落ちてきたシャンデラのまわりを嬉しそうに囲んだ。
「よしよしボウヤたち。お父ちゃんがやられちまったからね、今度はゾロアークに邪魔されないところでご飯にしようね」
「ハーイ」「ハーイ」「ハーイ」



 凍えるほどの寒さで目を覚ます。ゾロアークが再び目を開けると、灯りもなにもない、真っ暗な空間。その中で唯一見える、雪明かりに反射する神の鐘。
 手を探ってみれば、何かやわらかいものをつかむ。それが先ほどのメタモンだった。
「おい!」
「なんだ」
「ツグミはどこだ。どこへやった」
「知らないさ。シャンデラと共に食事中だろ」
 ゾロアークはその拳で再び殴った。
「ふざけるな。捨てられたがなんだか知らないが、お前らみたいにひねくれ過ぎてんのは初めてだ」
「人間に必要とされてるポケモンに何が解る!」
「何も解るか!解りたくもない!自分の環境を嘆くのは勝手だが、ウダウダ昔にとらわれすぎなんだよ!これでツグミに何かあったらお前ら皆殺しだ」
 ゾロアークは立ち上がる。焦げた匂いの中に残るツグミの匂い。それをつけていけばたどり着ける。
「待て」
「なんだよ」
「神の鐘の言い伝えは本当だ。ここにかくまってくれた男がそういっていた」
「その男も食ったのか」
「そうだ。ヒトモシたちを養うにはそれしかなかった」
「お前らとんだ恩知らずだな」
 それだけ言い残してゾロアークは走る。入ってきた扉を開けようとノブに手をかける。
「開かない!?」
 どのドアもそうなのだ。ガチャガチャとゾロアークの力でも開く気配がない。
「溶接までしていったか」
「おい、メタモン!」
 吠えるようにゾロアークはメタモンを怒鳴りつけた。
「お前がやつらに何とか言え。恩知らずが偉そうに語るなと」
「…お前はなんでそんなに人間に肩入れするんだ。人間など…」
「ツグミだからだ」
 ゾロアークは上を見る。雪明かりに鈍く光る神の鐘。邪悪なポケモンを追い払った神が鳴らしたならば…
「あの鐘を鳴らす」
 しかし階段も梯子も見当たらない。ゾロアークが石造りの壁に手をかける。少しずつ壁を登っていく。
 落下したら命はない。そんな高さである。けれどゾロアークは躊躇なく登った。神の鐘が近くなる。
 鐘は壁からも遠かった。梁から吊されてればまだマシだった。天井からただ吊されてるだけの鐘。ゾロアークの爪も届かない。
「ゾロアーク!」
 ドンガラスがゾロアークの目の前を飛ぶ。追い払うがまとわりつくように飛んでいた。やがてゾロアークの頭の上に乗ると、紫のメタモンへと姿を変える。
「黒い鉄球になる。それを投げつけろ」
「どういう風の吹き回しだ」
「お前みたいなポケモンに初めて会った。私が会うポケモンみな目が死んでたのに、お前は人間といると楽しそうだった。不思議だった。羨ましかった」
「…お前、好奇心が強いタイプか?」
 メタモンはすでに黒い鉄球へと変身していた。
 落ちないようにしっかりと壁をつかみ、反対の手で黒い鉄球を握る。そして雪明かりの鐘めがけて投げつけた。



 神の鐘はとても美しく、クリスタルのような透き通った音色だった。



 シャンデラもランプラーもヒトモシも、その鐘を耳にして動きが止まる。
「あ、あ…」
「みんな、みんな助かるんだ」
「ママ、アタラシイトコロコワイヨ」
「大丈夫、神様がみんな楽しいところに連れて行ってくれるから」
 ヒトモシたちの姿が徐々に消えて行く。神の鐘に導かれるように。


 その音量にゾロアークは思わず手を離してしまう。床に真っ逆様に落ちるが、下にあったのはカビゴンのやわらかい腹だった
「いてて…どうなったんだあいつら…」
「シャンデラの気配が消えた。浄化されたようだ…あいつも出会った時はヒトモシだったんだけどな」
 メタモンはその姿のままぽつりと言った。


 マフラーをする。手袋をはめて、コートを羽織る。
「今回はゾロアークに感謝ね!」
 朝になってツグミが起きた。ゾロアークとメタモンが夜のことを話した。驚いたようにしていたが、ツグミが次に言ったのは「もう出よう」だった。
「じゃあねメタモン」
 ツグミが入り口の扉を開けた。昨日の吹雪が嘘のよう。晴れた雪景色。
 それよりも教会に集まって来ている大勢の人たち。ツグミを見るとひれ伏し始める。
「神様だ…」
「神様の生まれ変わりだ…」
「神様の誕生を告げる聖母ではないか」
「神の鐘を鳴らした、神に違いない!」
「こんなタイミングで鳴らすのは、神の誕生に関わった聖母しかいない」
 ツグミが鐘を鳴らしたのはゾロアークだと言おうとしても、それ以上の人数で神様に祭り上げられる。
「神様が誕生祭にやってきたぞ!」
 あっという間に神様にされて、ツグミは何をどうしていいか解らない。けれど教会の奥でツグミが何か言うのをワクワクして待っている人たちに対して、無言では気まずい。
「あ、あの…」
「おおっ、神のお言葉が…」
「静かにしろ、奥まで聞こえないだろ」  大変なことになっちゃった、とツグミは後ろのゾロアークを振り返る。
「お願いがあります。弱いからってポケモンを捨てないでください。ポケモンは人間が好きです。私のゾロアークも人間が大好きです。だから、ポケモンを捨てないでください。好きな人と離れて悲しいのはポケモンも同じです」
 人々はツグミの言葉をじっと聞いている。ツグミはさらに続けた。
「私はこれから、このことを各地に伝えなければなりません。ですから私はここに留まることが出来ないのです。どうか皆さん、このことを忘れずに、今日の誕生祭を楽しんでください」
 人々が何とか留まるように頼むが、ツグミはそれは出来ないと言って教会を出て行く。後にはゾロアークが護衛のようにくっついていた。


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