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  [No.2140] With Heart and Voice 2 投稿者:きとら   《URL》   投稿日:2011/12/24(Sat) 00:26:08   97clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 すれ違う度、それには気付いていた。

 垣根を軽く乗り越えて、いつものように元気よく。窓から見る彼女は外で見るよりもずっと暗く見えた。
「ハルカ!」
 顔をあげるけれど、やはりいつもの彼女ではない。そんなことは解っていた。
「ユウキ!」
 庭先にも関わらず、ユウキは話しだす。
「今は暇? 今度バトルフロンティアっていう施設が出来るんだけど、その先行公開でバトルタワーのチャレンジチケットがもらえたんだ。行こうよ」
「悪いけど……」
「んじゃ、ミナモシティなー! 先いって待ってっから!」
 言うが速い。ユウキはすでにオオスバメの翼を大空へと広げ、その身軽な動きで飛んで行ってしまう。残されたハルカはオオスバメが消えていく方向を見て、ためいきをついた。
「そんな気分じゃないのに」
 庭にモンスターボールを投げる。緑色のしっぽを振り、フライゴンはハルカに寄ってくる。その無邪気な行動も、今のハルカにとってどうでもいいこと。二枚の羽が作り出す微風が肩にかかる。いつもフライゴンはそうやって甘えてくる。
「ミナモシティに行くよ」
 フライゴンの風を手で払いのける。戸惑いながらもフライゴンは主人の言う通りに空を飛ぶ。


 近づくに連れて、潮風が強くなる。そしてミナモデパートのアドバルーンも見えてきた。あの時とは違う宣伝が上がってる。
ーきみのこと、いいと思うよー
 活気のある街。夜になれば灯台の光が海を照らし、道しるべとなる。キャモメの群れが港を飛んで行き、旋回して海へと突っ込む。そうして海面に出たキャモメは、嘴に魚をくわえていた。
ー修行を続ければ、いつかはポケモンリーグのチャンピオンにだってなれる。僕はそう思うなー
「うるさい!」
 ミナモシティに降りると同時に、ハルカは誰に向かってでもなく怒鳴った。フライゴンはおそるおそるハルカの顔色を伺う。そして機嫌を取るように、二枚の羽を動かした。しかしフライゴンの微風よりも潮風の方が強く、かき消されてしまう。
 フライゴンの気遣いはハルカに届かない。前は些細なことでもほめてくれたし、かまってくれたのに。何が起きたか解らないフライゴンは、そのままボールに戻される。


「でさー、この前は釣りしてたらイワシとホエルコの追いかけっこ見たんだよ。野生のホエルコの狩りって映像でしか見た事無いからさあ」
 ユウキは船着き場の前からずっとこんな調子でハルカに喋りかけていた。当のハルカは生返事でひたすら聞き流している。さっきからユウキにしては話題がくるくると変わっている。聞いてる方も今、彼が何を話したいのかもよくわからない。
「ハジツゲタウンにまた隕石が降ったっていうから、調査で……」
「ユウキ、さっきから何?」
「え、何って何?」
「うるさいよ」
 それ以降、ユウキは黙ってしまった。ハルカはというと、そんなユウキの方を見向きもせずに、海の方を見ていた。


 まだ建設中のバトルフロンティアだけど、建物の形はそれなりに見えた。そしてその中で一番早く出来たバトルタワーは、青い空を突き抜けるほどの高さだ。船を降りた二人はしばらく上を見上げ、そして人の波に促されるように入って行く。
「がんばれよハルカ!」
 人ごみに消えていくハルカの後ろ姿に声をかける。振り返ることもなく、ハルカは彼らの中にまぎれていった。
「なにがあったんだよ、ポケモンリーグで」
 笑わなくなったのはその時から。ポケモンに構わなくなったのはその時から。誰ともまともに話してくれなくなったのも。何か聞き出そうとしても、ハルカは誰にも話さない。
 その前は、朝会おうが夜中に電話しようがずっと嬉しそうだったのに。ポケモンの話ならすぐに返ってくるし、戦ったトレーナーの話も飽きずに。


 オオスバメがはばたく。戦ったあとの昼食は格別だと言うように。隣には主人のユウキが向かい合ってテーブルについてる。ただならぬ雰囲気を察したのか、オオスバメはそれ以降ユウキの方を見ることもなく大人しく食事していた。
ーなるほど、君の戦い方面白いねー
「七連勝おめでとう」
 目の前のハンバーガーにかぶりつきながら、ハルカに言う。何も言わず彼女はストローをくわえていた。その行動に、意味があるわけがない。視線がチーズがたくさんのハンバーガーでも、ユウキでもない。どこか宙を漂っている。
「いやー、ハルカはすげえよ。やっぱチャンピオンを倒しただけあるよ。俺なんて五勝目がつらくて、そのあとずっとギリギリで……」
 ユウキは黙る。ハルカがさらに黙りこんでしまったように見えた。
ー大丈夫!君と君のポケモンなら、何が起きても上手くやれる。僕はそう信じているー
「残念だよな、チャンピオンになれなくて。ホウエンで誰よりも強いのに、年齢制限なんてさ」
「実力主義とかいいながら、結局は年齢とか、意外だったよなあ」
「今頃チャンピオンだった人はどうなってるんだろうなあ。地位が守れてよかったとか、そんなこと思ってんのかなあ」
「ダイゴさんはそんなこと思う人じゃない!」
 テーブルがひっくり返る勢いで、ハルカが拳を叩き付けた。ジュースの紙カップが握りつぶされている。まわりの客が何が起きたと言わんばかりにこちらを一斉に見た。
「ユウキに何が解るの? ユウキに何が解ってそんなこと言えるの? 何も解らないのに勝手なことばかり!」
「そんなこと思ってたらとっくにダイゴさんは帰ってきてる。何も言わないでいなくなったりしない!」
 テーブルにこぼれたジュースが広がっている。ユウキもハルカもそんなものに気がついてない。時間が凍り付いていた。いきなりハルカから溢れ出す悲しい感情に、ユウキも言葉が出ない。なぐさめようにも、何も言えない。
「チャンピオンなんて欲しくない! 私がならないことで帰ってくるならそんなものいらない!」
「いらない。だから、帰って来て欲しい」
 ハルカの声がだんだんと小さくなる。その願いがかなわないことは、何も解らないユウキでも容易に想像がついた。
「ハルカ……」
 少しの間を開けた。一呼吸おくと、うつむいてる彼女に話しかける。
「その人のこと、好きなの? ハルカらしくない」
「どんな環境だってそのまま入っていけるのに、なんで出来ないの?」
「同じポケモンの道を通ってる人なのに、永遠に会えないわけないだろ!? ここで俺に言うよりも、やる事あるんじゃないのかよ」
 ハルカがユウキを見た。今日会ってから初めて目が合う。
「会いたいなら、同じ道を通り続けろよ。その人が残した足跡を辿り続けろよ。それでたどり着けなかったら、もう一度俺に言えばいいだろ。本当に、ハルカらしくない」
「どうやって? どうしたらいいのかなんて解らないよ!」
「俺なんてもっと知るか。その人のこと知らねえのに、言うことなんで出来るか」
「言うは簡単に決まってる。出来るか出来ないかが問題なんじゃないの!」
「だからハルカらしくないっていってるんだろ!」
 ポケモンを使わない実力行使の取っ組み合いに、道行く人は思わず足を止める。オオスバメはどうやって止めようか外からずっと見守っていた。ポケモンが尻込みしてしまうくらい、二人の殺気が凄かった。
 やがて警備員の人が来て二人を引きはがす。なぜこうなったのか解らないほど、二人の主張は変わり過ぎていた。


 帰りの船で、おたがいの頬には赤い跡や青い跡。そして近くにいるのに二人は絶対に顔を見ようとしなかった。同じことを思っていたのだ。先に謝るなら許してやると。手を出したのはお互い様で、悪いことだと認識しているのに、どうしても先に謝ろうとは思えない。
「あのな」「だから」
 視線を感じて振り向いたのに。二人は同じタイミングで話しかけていた。それがおかしくて、思わず笑い出す。その笑いが落ち着いた頃、ハルカが話しかける。
「ユウキの言う通りだよ」
「何が?」
「ダイゴさんがいなくなって動揺してた。そうだよ、ダイゴさんだってトレーナーだもん。いつかこの道を辿っていけば、また絶対会える」
「だろ? どう考えてもそんな強い人なんてそうそういないんだからさ」
「うん、だから明日からちょっとまた出かけてくる! 次会う時はまた私が勝たせてもらおうっと」
 着岸のアナウンスを流す。ハルカが跳ぶように出口へと駆ける。
「だから今日はミナモデパートで買い物するから先に帰ってて! じゃあね!」
「お、おう……立ち直り早いなぁ……」
 いつものハルカに戻った。ユウキはため息をつく。

「なあ、こんなことってないよなあ、オオスバメ」
 引っ越してきた当日に、ポケモンを貰って、大喜びで見せて来た。目指すものが違うとしても、同じトレーナーとして何度か戦って来た。
 ポケモンに指示する時の凛々しい声、プレゼントしたときの嬉しそうな声。
 勝った時の嬉しそうな表情。進化したと報告してきた時の電話。
 ずっと前から気付いてたんだ。それなのにハルカは気付かない。気付かないどころか……。
「初恋が実らないのは、本当だったんだな」
 ユウキはミシロタウンへと帰る。オオスバメの翼に乗って。



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ウィズハートメモ(プロット?)
テーマ「ダンバルと手紙」
読む対象:マサポケの人たち中心(恋愛描写は極力避ける)
3−1−3もしくは3−3−3
カプ厨を避ける。ギリギリまでうすくする
ダイゴとハルカのキャラを濃く描写せず、読む人の想像に任せる
「初恋は実らない」ダイゴハルカ以外の誰かに言わせる

ウィズハートについて。
原曲:With Heart and Voice(デイヴィットギリングハム作曲)参考音源http://www.youtube.com/watch?v=05n35_VUEG4
フルートソロに当たるハルカの描写を重視。二回目のフルートソロまで。2回目のフルートソロに入ってくるアルトサックスはユウキにあてる。
メインテーマを好きだと自覚するあたりにする。
クラリネットとフルートのは戦闘シーンに持ってくる→はじけるところは手紙をみたあたりに。


その他テーマ候補。
ハピナスの送り人(ポケスコ没としていつか投稿した)
送り火やま
オーレからホウエンへ、ダークポケモン

こんなメモをしたらこんなのできたよ!
2は、2回目フルートソロからラストまで。
チャンピオン戦後にユウキが出せない理由その1
人間関係ってどうしてこうすんなりいかないのか、不思議なもんです。


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