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  [No.2148] リスタートについて 〜 組織犯罪者と社会復帰 〜  ※没稿 投稿者:クーウィ   投稿日:2011/12/25(Sun) 14:39:14   161clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

[大掛かりな組織犯罪が多発し、大規模な地下組織が相次いで摘発される昨今、そこに所属していた容疑者やポケモン達の社会復帰が、深刻な課題となっている。進まぬ対策と法整備の遅れ。渦中の人々の証言から、今何が起き、求められているのかを問う。]


 抜けるような青空の下、子供達の歓声が上がった。漸く涼味を帯びて来た秋の風を熱っぽく掻き分けて、まだまだトレーナー免許を許されていない小学生達が、一列に並んでいるポケモン達に向け、懸命に走っていく。
 彼らの手には、先ほど通過したチェックポイントで手に入れた、ポケモンのNN(ニックネーム)を書き記した紙。ポケモン達の列線に辿り着いた児童らは、思い思いの感情や熱意を込めて、目的のポケモン達の名前を呼んだ。

 ――ここは、ジョウト地方にある小さな小学校。運動場に於いて、児童達が秋の体育祭のプログラムである、ポケモン借り物競争で火花を散らしている。
「足の速い子には、走るのに邪魔にならない様なポケモン。あまり駆けっこが得意で無い子には、適時機敏にサポートが出来るポケモンが当たるようにしています――」
 そう話すのは、イタミナオヤスさん(34)。老人ホームや小学校などへの慰問やイベント参加を専門にしている、福祉専門のポケモンブリーダー。――元、ロケット団のメンバーである。
 八年前に組織が解散してから、一年間の更生プログラムと二年半の職業訓練を経て、この仕事に就いた。
「あのポケモン達も、みんな元ロケット団員達の手持ちです。今ではああやって穏やかに振舞える様になってますが、当初は環境の変化に慣れさせるのに苦労しました」
 私と同じ様にね――彼はそう言って苦笑すると、遠い空に向けて目を細めた。


 現在確認が取れているだけでも一万余人。一説には、下部組織も含めると二万人規模だったとも言われるロケット団の元団員達の内、イタミさんの様に無事満足の行く形で社会復帰が出来た人は、約五千人程度だと言われている。全体の半分にも満たない数字だ。
「怖い」、「嫌悪感を感じる」等、一般住民の忌避意識は今も根強い。
「職業訓練を受けても仕事が無い。住居の前を通る時、ポケモンを予めボールに入れる人もいる」
 カントー地方に住む、元団員の女性。孤独感と疎外感から、再び非合法組織や残党グループの仲間入りをする元メンバーもいると言う。
「職業訓練と更生プログラムを終えても、トレーナー資格を取り戻すには試験が必要。例えそれに受かっても、新たなパートナーを手に入れるのは躊躇われる」
 ポケモンを持つことが、周囲との摩擦を更に悪化させてしまう可能性を捨てきれない――彼女はそう話す。

 嘗てロケット団員達が所持していたポケモン達についても、行政は対処に追われている。
「親が代わったポケモン達は、簡単には新しい主人を信用しようとしません。……手っ取り早く言う事を聞かせるにはバッジが必要ですので、どうしても人手不足になりがちなのです」
 担当者はこう明かす。
 資格を剥奪され、手持ちのポケモンの親権を失った元団員達が孤独に喘ぐ一方で、逮捕された団員達から『保護』されたポケモン達の再教育も、遅々として進んではいない。


 一方此方は、海の向こうのイッシュ地方。同地方の海の玄関と言われる港町、ホドモエシティのマーケットに売り場を構えるジョゼフ・サーキースさん(23)は、元プラズマ団の構成員だったと言う過去を持つ。
『ポケモンの解放』を唱え、まだ記憶に生々しい『プラズマ団蜂起』で知られるこの組織に、彼が加担したのは大学生の時だったと言う。「幼い頃から、ポケモンの扱われ方に疑問を抱いていた」と言うジョゼフさんは、プラズマ団幹部による街頭演説で感銘を受け、そのまま入団。その後は組織に従って『解放闘争』に身を投じ、支給されたポケモンと共に各地を転戦する内、『リュウラセンの塔』に於いてバトルに敗北。逮捕・拘束された。
「四ヶ月の懲役を終えて家に帰って来た時、一番に迎えてくれたのがこいつだったよ。……飛びついて来たのを受け止めて、ただ今って言った時。その時が僕にとっての、本当の再出発だった――」
 社会復帰プログラムを受け入れて、地域のコミュニティ活動に積極的に参加、職業安定所で斡旋してくれるパート労働で地道に資金を溜めて、今の商売を始めた。色取り取りの香炉が並ぶ売り場の隅には、組織から与えられて以来、ずっと一緒に生活しているレパルダスが、ふかふかした敷物の上で丸くなっている。
「嘗て戦った相手だったトレーナーが、買い物に尋ねて来てくれた時が一番嬉しかった」と振り返る彼は、静かに手を伸ばすと、うとうとしている紫色の相棒を、愛おしそうに撫でた。 


 こうした海外での取り組みに刺激されて、近年我が国に於いても、元犯罪組織の構成員からの手持ちポケモンに対する親権や、ポケモン取り扱い免許の剥奪を、猶予すべきではないかと言う声が上がり始めた。
「入手の経緯はどうであれ、ポケモンと主人の絆は、言葉では簡単に言い表す事が出来ないほどに深いものです。無理に引き裂くのではなく、一緒に更生させる道を選んだ方が、当人達の精神的な苦痛も、行政の負担も軽くなると思われます」 
『シンオウブリーダー連盟』の、カイザワシゲハル副会長はそう主張する。非合法の地下組織・『ギンガ団』による一連のテロ活動に晒された同地方では、組織の基幹が崩壊した後も元団員への徹底的な制裁をあえて避け、嘗ての組織の基盤を利用した再生企業である『ギンガコーポレーション』を通して、彼らを地域社会に溶け込ませると言う方針を採った。カイザワさんの所属するシンオウブリーダー連盟でも、シンオウリーグで活躍した高名な元トレーナーやアドバイザー達が中心となって、元団員達の職業訓練などの支援に当たっている。
 同じ様な風潮はホウエン地方でも見られ、元マグマ団員やアクア団員達が、地質研究所の職員やマリンレンジャーとして公的機関に採用されるケースも増えて来た。街頭での署名活動など、草の根レベルの運動も、着実に成果を上げている。


 しかし一方で、こうした流れを手緩いと評する声もある。「被害者の感情を考慮し切れていない」、「行き過ぎた保護主義は犯罪抑止力の低下を招くだけ」と言った批判は、何処の地方でも共通のものだ。
「地下道を歩いてて殴られた人も、うちの家族の様に物を盗まれた人もいる。飼っていたポケモンを傷付けられたり、あまつさえ奪い取られて殺されたりした人間が、簡単に連中を許せるとは思えない」
 自らも住宅を損壊させられ、盗難の被害にあった事のあるハナダシティの男性は、複雑な表情でそう語る。今尚過去の記憶に苦しむ被害者の精神的なケアや、効果的な再発予防法案の策定無しには、真の解決もあり得はしない。

 保護されている側にも不安はある。
「時々、『こうやって生活していて本当に良いのだろうか』と思う事はあります」
 冒頭で紹介したナオヤスさんは、駆け走る子供達を見ながら、呟くように胸の内を語る。ヒワダタウンやコガネシティでの、一連の暴力行為に関わった自らの身の上を悔やむ頻度は、実は周囲の人間達が思っている以上に深刻なものだ。
「夜中に魘されたり、仕事中にストレスを感じる事も日常茶飯事です。嘗て追い使っていたポケモン達がどうなったのかなど、思う所は尽きません――」
 しかしそう語りつつも、彼は現実を受け入れて前に進む道を選ぶ。
「贖罪で済むとは思いません。取り返しもつきません。……けれども、もう投げ出す訳にも行かないんです。今の私にはあいつ等がいるし、受け入れ、仕事を教えてくれた方々の恩に報いる為にも、生涯この負い目を背負っていく心算です」
 静かにそう結んだナオヤスさんが、心の支えにしている言葉がある。
『人は必ず生まれ変われる。何時どんな時だろうとも、自分を必要としてくれる者の存在を、身近に感じる事が出来たのならば』 ――裁判に於いて彼を弁護してくれ、ポケモン取り扱い免許の再交付に尽力してくれた、今は亡き老弁護士の陳述である。



――――――――――

夏菜さん主宰の雑誌風ポケモンアンソロジー・POKEMONDAY’Sに寄稿するべく書いてみた短編の内の一つ。……後から読み返してみると、どう見ても雑誌の記事と言うよりは新聞の社会欄ですorz 本当に(ry

空気が読めない人で御免なさいとだけ…… お世話になった方々に、心よりお礼申し上げます。


【好きにしていいのよ】
【暫く何も入れてなかったので 後悔は(ry】


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