『クリスマスはまだ終わっちゃいねぇ!! 今日が当日なんだ! 幸いアイツは午前中いっぱい居ないし!』
『おまえら、三時間で仕事完了させやがれえぇぇ!!』
*
一匹のシュバルゴが、目の前に生える沢山の針葉樹を、まるで品定めするかのように見渡していた。
「ったく、リーダーのアシガタナの方がこの仕事には適任なんじゃねえのかよ…」
ぼやきながらも、彼はだいぶ小ぶりな若木に近づいていく。
「あなたが木を切らないと、始まらないわよ? あなたのお姫様だって待ってるし」
「そうだな、早く戻ってやるか」
「リーダーの事だから、もし遅れると人質…ポケ質にされても知らないわよ?」
彼は若木の前に立ち止まった。隣のウルガモスからクスクスと笑い声がする。
「そん時は、リーダーであっても俺のメガホーンでぶっ飛ばす」
ナイト――騎士と呼ばれたシュバルゴがため息を一つ吐いた刹那、彼の背後でドサリと音が立った。
「ナスカ、後は頼んだ」
「サイコキネシスって本当に便利ね」
ピンクの光に包まれた針葉樹は、いとも簡単にふわりと浮遊する。
*
「……と、パイ生地と、お菓子を沢山に、シャンメリー。あとはサイコソーダ…」
メモをそこまで読み上げた女性は、はあっとため息をついた。反対側の左手には、すでに膨らんだ買い物袋が下がっている。
「全くもって子供っぽいわねぇっ! 今日になって突然言い出すなんて!!」
ターン! と八つ当たりをするかのように、今いた家の屋根を蹴ると、そのまま数メートル近く跳躍し次の屋根へと飛び移る彼女は、すでに黒い毛皮の狐、ゾロアークだった。
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「シザークロスのPPが切れた」
「あまりの冷たさに角の感覚が無い、だと…」
周りには、クリスマスツリーに飾り付ける透き通った天使、球、プレゼントボックスが転がっている。
無論、今ぐったりと床にへたり込んでいる彼ら…ペンドラーが氷塊を砕き、シュバルゴがシザークロスで形を作ったのだった。冷たい氷を使った細かい作業に、二匹の体力と精神力は限界に来ていた。
「私も熱風がもう出せないんだけど」
ウルガモスは氷の表面を薄く溶かして、つるっと滑らかにしていた。溶かしすぎては駄目なので、火力の調節がこれまた絶妙、上の二匹と同様の状態である。
「もう気力が限界なんだけど、まだ作るの?」
「これ以上やったら身がもたないでござる」
「…エネルギー切れです…」
隣の三匹、コジョンド、アギルダー、ドレディアはそれぞれ波動弾、エナジーボールを使って氷に細工をしていた。
氷の中に光が閉じ込められ、とても美しく光るのだが『気』とか『波動』を使った特殊な細工のため、量産すれば疲れる事この上ない。
六匹が何故ここまで凝った“クリスマスツリーの飾り”を作っていたのかといえば、全ては『リーダー』と呼ばれるダイケンキ――シェノンの命令である。
「リーダー今頃何してんのかなぁ…」
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そのダイケンキは、今彼らとは別の場所で、ツリーに別の作業を施しているのだった。
「後から考えれば、氷技を使えるのが俺だけだったっていう…」
冷気を枝に吹きかけるのを一時中断すると、代わりに口から出たのはため息だった。自業自得というのだろうか、こちらもれいとうビームを使いまくって、クリスマスツリーに霜を降ろして白くする地道な作業に、本人もへとへとになっていた。
「あいつらも多分辛いと思うから、差し入れでもしてやるか…」
普段子供っぽい彼は、彼らしくない言葉を発した。疲れでどうにかしてしまったのだろうか、それとも、心の底には皆から慕われるモノがあるのだろうか。
少なくとも、彼の口の端が持ち上がったのは確か。
*
「先生! てっぺんに飾る大きな星がありませんっ!」
「ナ、ナンダッテー!?」
「もうPP切れでござるよ…」
「でも、星がないと多分クリスマスツリーにならないと思う!! それにリーダーがなんて言うか…!」
六匹がぎゃあぎゃあ言っていると、ガチャンと部屋の扉が開いた。
「シェノンリーダーからの差し入れだってー!」
疲れ果てた六匹の元にやってきたメラルバが背に乗せてきたのは、籠に入ったいくらかのPPマックス。それと、少し大きい氷塊。
絶妙すぎるタイミングと、それらが意味する事に、彼らは言葉を失った。
「要するに…もっと頑張れって事か…」
笑顔のシュバルゴの顔は、妙に引きつっていた。
「わが子の笑顔が眩しく、そして胸に痛いわ」
ウルガモスとペンドラーは、複雑な表情をしている。
「アポロン君、重かったでしょ? お疲れさま!」
一人だけ笑顔のドレディアはメラルバの頭を撫でながら、内心どんな事を考えていたのだろうか……。
「あ、そうそう、ツリーのてっぺんに飾れそうなもの見つけたんだよ!」
「おお! でかしたぞアポロン!」
思わぬ展開に賞賛の声が上がった。
メラルバが黒い手でドレディアに差し出したのは、クリーム色っぽい星型……ではなく三日月型の物体。中心の辺りから、クチバシの様なものが飛び出している……。見るからにルナトーンそのものだった。しかし、こいつはただのルナトーンではない。
「「「それは噂に聞く『スケベクチバシ』だあぁぁぁぁ!!!!」」」
六匹の絶叫が響き渡り、PPの残っている技が一斉にスケベクチバシに放たれた。
シュバルゴからメガホーン、ペンドラーからポイズンテール、ウルガモス、アギルダーからむしのさざめき、コジョンドからドレインパンチ、ドレディアからはなびらのまいが“何もしていない”スケベクチバシに炸裂し、どこかへぶっ飛ばしたのであった……。
不憫だ。今回に限っては不憫すぎるスケベクチバシであった。吹っ飛んだ先で、また誰かにツイートされたりはしたのだろうか?
*
黒い狐――ゾロアークは買い物袋を両腕に提げ、お昼過ぎに家に戻ってきた。彼女を出迎えたのは見事に飾り付けられた輝くツリーと、飾り付けを終え死屍累々の如く転がる七匹だった。メラルバがゾロアークに駆け寄る。
「どうしよう…みんな疲れちゃってて……」
彼女はメラルバに頷くと、袋から一本サイコソーダを取り出した。ダイケンキが瞬間的に飛び起きる。
「お昼ごはんの後ですよー」
物を言わせぬうちにゾロアークは意地悪な笑みを浮かべながら答えた。
「なかなか立派なクリスマスツリーね。……てっぺんの星は?」
気付いた他の六匹が、あっと声を出した。
「ヤバイ…忘れてた」
「でも今からじゃアイツが帰って来ちまうな…どうする?」
「全く……わたくしティラにお任せあれ!」
ゾロアークが右手の爪を立て、くるくるっと魔法使いのように回した。
ツリーのてっぺんに輝きが生じ、直後にポンっという音と共に大きな金色の星が現れた。
「幻影、か?」
「そのとおり。これで大丈夫でしょ?」
そこに居た全員に笑みが浮かんだ。
………ガチャッ
「ただいまぁー」
彼らの主人を迎えたのは、仲間たち全員で作った即席ツリーだった。
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うわぁグダグダ。もんのすごいグダグダ。前のダークライさんの記事が台無しだねwww
クリスマスは何が何でも二つ書こうとか決心した結果がこれだよ!
ケーキを争奪したり喧嘩したりもするけど、彼らも時には協力して何かをすることがあるんですね。ほとんどはシェノンの我が侭だと思うけど!
あとスケベクチバシを勝手にお借りしました。…いろいろな意味ですみませんリナさん…
【書いてもいいのよ】 【描いてもいいのよ】 【クリスマス終了まで約三時間前なう】