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  [No.2248] アンハッピーバレンタイン 投稿者:紀成   投稿日:2012/02/16(Thu) 18:02:14   75clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

バレンタイン…… 正月気分がすっかり抜け、更に一月が過ぎた頃にやってくる。ちなみに一部の人間には『忘れた頃に』が付くという。関係ないが作者もそうである。だって男子にあげないし。
女子がチョコレートに義理や本気を込めて意中の男子に渡す。と、ここまでは皆さんご存知であろう。だがこんなカップル同士の甘いイベントとしているのは日本だけである。そりゃあ、海外でもカップルが関係することは間違いないが、その中に『お世話になっている人』や『家族』も入るのはおそらく向こうだけであろう。ちなみにイタリアでは男性が女性にバラの花束を贈る日ともされている。
まあどちらにしろ、信頼し合っている人の絆を深めるイベントと見ていいだろう。一部を除けば。

――そう、一部を覗けば。


鼻が溶けそうだ、とバクフーンは思った。ここ数日、街に出ると必ず鼻を押えなくてはいけなくなる。それだけ街に充満する匂いが一致していた。どこの店からも、甘ったるい香りが漂ってくる。それに付け加え、柑橘系の匂い、ベリー系の匂い。そしてブランデー、シャンパン、ワインのアルコール臭。
右の店からはバラの匂いが漂ってくる。花屋だ。凍えてしまわないように中で展示してあるのだろう。こちらから白やオレンジ、赤色が見えた。まだそこまで蕾が開いていないが、この状態のままあげれば家に飾る期間が長くなるだろう。
反対側の店はケーキ屋だった。アップルパイが美味しいことで有名な店だ。目印はフランスはパリにあるエッフェル塔の砂糖細工。だが今日はアップルパイの香りだけでなく、別の甘い匂いが漂ってくる。
チョコレートだ。
チョコレートをたっぷり使ったパイが、カウンターに所狭しと並べられていた。
バクフーンは甘味が嫌いではない。むしろ好きな方だ。だが、こうもギュウギュウ詰めに匂いを嗅がされてはたまったものではない。早いところ散歩から戻って、無糖のゼクロムを……
ライモンシティ、ギアステーション前。お馴染みとなったカフェ『GEK1994』は、世間のバレンタインイベントなど何処吹く風で、いつも通りの営業をしていた。ただ多少メニューに変わりはあるが。
寒さと匂いでへとへとになったバクフーンを、ユエが迎えた。
「お帰り。散歩はどうだった?気分転換に…… 
ならなかったようね」
様子を見てすぐに気がついたらしい。もぞもぞとカウンター下に潜り込むバクフーンに苦笑した後、カウンターに座っていた彼女らにカップを出した。
「はい。バレンタイン限定、ホットチョコレート」
まだほかほかと温かいそれは、寒空の中を歩いて来た学生達にひと時の安堵をもたらした。店内に笑顔という名の花が咲く。
「おいしい!そんなに甘くないし」
「皆はバレンタイン、どうだったの?友チョコとか本命チョコとかあげたの?」
ユエの言葉に、カウンターの花だけが萎れていく。あら、とユエは焦った。聞いてはいけないことを聞いてしまった……気がする。
「んー、友チョコ交換はしたんだけど」
一人の子が、持っていた小さな紙袋の中身をカウンターに出した。可愛くラッピングされたクッキー、ミにチョコレート、キャンディ、ビスケットの数々。流石女の子同士。それぞれのセンスが光っている。
「可愛いじゃない」
「でも、本命渡せなくて……」
「どうして?」
一人がユエをキッと睨んだ。察せ、という意味だろうか。ユエは恋愛に疎い。これ以上ないというくらい疎い。だが場の空気は読める女だった。肩をすくめて、話題を別に持っていく。
「まあ、ね。熱いカップルを見たらチョコレートも溶けるわよ。というわけでチョコが溶けるどころか固くなるくらい冷たい話でもしましょうか?」
「えっ」

「こんちはー」

グレーのスーツを着た女が入って来た。首にマフラーを巻いているだけの姿を見て、学生達が震える。一方ユエは特に気にせずに女に気さくに声をかけた。
「カズミ。久しぶりね」
「取材で近くまで来たから寄ってみたんだ。ほれ、お土産。あとゼクロム頂戴。熱いの」
カズミのお土産は、ココアパウダーがたっぷりかかったティラミスだった。タッパー一つ分あり、ユエ一人じゃとても食べきれない。そこでスプーンを渡して学生達にも手伝ってもらうことになった。
「グッドタイミングのお菓子ね。これ食べて来年は頑張りなさい」
「どういうことですか」
「ティラミスは、元々名前が『Tirami su!』……『私を引っ張りあげて』『私を元気付けて』って意味なの」
ああ、と皆が納得したところでカズミが言った。
「ユエ。さっきこの子らに言おうとしてた話を聞かせてよ。コラムに使えるかもしれない」
「あら、何処から聞いてたの?」
「ちょっと趣味で読唇術勉強してんだ。それで」
一般人がそんなの勉強すんなよ!と思うかもしれないが、カズミはフリーのジャーナリストである。なので表に出せない話を得るためにこれを勉強した、らしいが……
「アンタいつか殺されるわよ。モランの部下みたいに」
「1929年2月14日。よく考えたらまだ一世紀も経ってないんだねえ」
「なんでバレンタインってこう血塗られた歴史が多いんだか」
「ヴァレンティヌスが処刑されたのもその日なんだよね」
二人の会話についていけない学生達が固まっていた。ホットチョコレートは冷めてしまったようだ。



※補足
・1929年2月14日……アメリカ・シカゴで起きたギャング同士の抗争事件。アル・カポネが敵対するバックズ・モランの部下六人とたまたまそこにいた眼鏡屋をガレージの前に立たせて銃殺した。血のバレンタインとも呼ばれている。
・ヴァレンティヌス……ローマ時代、クラウディウス二世によって結婚できないようにされた法律を破り、恋人達を結婚させていた司祭。掴まり、2月14日に処刑された。


――――――――――
世間が甘い雰囲気に包まれてるのでここらで冷ましてあげようかなー……と。
ちなみに私は皆と交換して沢山もらいました(笑


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