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  [No.2320] 斧歯相撲 投稿者:リング   投稿日:2012/03/26(Mon) 00:45:53   76clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 ここに来るまでに糞の跡、尿の跡、そして真新しい踏み跡を探り回っていた二人は、傍目には変人奇人の類に映ることであろう。
「見ろ、オノノクスだ。11時の方向、あの岩場の方だ」
 そんな行動の末に、迷彩服に身を包んだ男はお目当てのポケモンを見つけた。彼は、隣の草むらに興奮した様子で話しかける。もちろん隣の草むらにいる者も同じく迷彩服に身を隠し、擬態した人間であり、動かずにじっとしていれば発見するのは難しい。
 視覚で彼らを捉えるならば、ハブネークの持つピット器官を使うか、カメラのレンズの反射を視認するしか手は無いだろう。オノノクスの嗅覚は、退化こそしていないがそれほど敏感と言うわけでもないから、まず嗅覚からは見つからないし、聴覚だってここは山。吹き寄せる風に紛れて、足音なんてかき消されてしまう。まず見つかるはずもない。

「おー、本当だ。いるいる」
 双眼鏡を覗いて、もう一方は感嘆の声を漏らす。視線の先には、オノノクスが互いの手を掴みながら抱き合っている光景。愛を語らっているわけではない。ましてやオノノクスに社交ダンスの生態は無い。

 あれは、メブキジカやオドシシの角と同じ。外敵に対する攻撃手段としても使われるが、メインは相撲を取るためだ。メブキジカならば、角を絡め合わせて押しあいを始める。角の付け根の痛みに負けて押し返される若い雄は、格上の雄に凄まれればすごすごと引き返しては視界から消える。
 そうして、ほとぼりが冷めた頃に大きさが同じくらいの雄に挑んでは、勝った負けたを繰り返して、そうして切磋琢磨ともライバル落としとも付かない期間を終えて、繁殖期に至るまでその行為は続けられるのだ。
 繁殖期の頃にはもう雌が雄を選んでいる。強い雄は複数の雌を囲み、数日の間はほとんど飲まず食わずで子孫を残す行為に専念するのである。


 その斧葉相撲を撮影するには、さすがに最初の位置からでは遠すぎるため、ある程度近づいてから二人は撮影を始める。その際、周囲の景色に紛れる迷彩服は非常に役に立ち、二人とオノノクスの距離は30メートルほどまで縮まった。そのまま追いかけることも考えたのだが、運がいいことに忍び足で近寄って行くうちに、オノノクスはもう一頭の雄と鉢合わせしていた。
「見てください……二頭のオノノクスです」
 小さな声だ、ここまで離れていれば、普通に会話をしてもオノノクスの耳に届く前に風にかき消されるであろうが、万が一のことを考えると慎重にならざるを得ない。マイクは顔に固定するイヤホンマイク型。安物ではないが、いかんせん小型であるため機能性は芳しくなく、周囲の雑音も容赦なく拾われていくため、さわさわと木の葉を撫でる程度の優しいそよ風が相手でも、音量を絞った声では太刀打ちできない
「おい、マモル。声小さい……全然聞こえないぞ。大丈夫だって、この時期のオノノクスはまだ温厚だから多少の声なら安全だ」
「あいあい、アマノ。それではー……えー、見てください。アレがオノノクスです」
「……うーん、これはどうなのかなぁ」 
 言わせておいてなんだが、と言う風にアマノと呼ばれた青年は呟いた。
「やっぱりあれだ、基本的に自然の音だけを録音して、後からナレーションを入れた方がいいかもなぁ……口パクでナレーションを入れる間だけ作って……」
 アマノが提案する。
「そうだな……周りの音も邪魔せず入れておきたいし」
 そしてその提案にはマモルも納得した。
「じゃ、黙るぞ……」
 ポケモン達を刺激しないよう、マモルは黙りこくって撮影を始める。しばらくフィルムをまわしていると、闘争心の強い二頭の雄のオノノクスが雌の争奪戦に向けての斧歯相撲を始めてくれた。
 手と手を握り合ったまま、顎の斧歯をガツンガツンと打ち合わせる斧歯相撲。歯の付け根が痛くなるか、ヒビ割れるかでどちらかが降参すれば勝敗のつくこの試合。同族の仲間を殺さないように、かつ必要以上に傷つけないようにどちらが強いかを競い合うにはもってこいである。

 繁殖期の前は、斧歯同士を打ち鳴らす音が時折山で響きあうため、オノノクスを恐れるポケモンはその音を聞くとすぐに逃げ出してしまうのだ。
 フキヨセの街では、そんなポケモンたちの性質を利用して、オノノクスの斧歯相撲に似た音を出す楽器を打ち鳴らすことで農作物の被害を減らしたという。
 そんな、斧歯相撲の力強い音色を間近で聞いていると、その迫力にはナレーションを入れる余裕もないくらいに息をのんでしまう。
 双方ともに斧歯の付け根が痛いのか、時折休みを挟みながらもつなぎ合った手は離れない。
 痛みで膠着状態に陥っていた時、痺れを切らした僅かに体が大きい方のオノノクスが牙を振り上げる。
 待ちの体勢に入っていた小さい方はこれを待っていたのだ。わずかに小さい方は斧歯の中心で、相手の斧歯の中心から外れた部分へ打ち付けた。
 斧歯の芯で斧歯の比較的弱い部分を叩いたことで、痺れを切らした大きいオノノクスの斧歯は僅かながらに欠けてしまう。
 これには、大きい方も負けを認めざるを得ず、体の大きなオノノクスは自分から手を離して頭を下げた。
 鮮やかな勝負の幕引きに思わず撮影者も感嘆の声を上げる一方で、小さなオノノクスの勝利の雄たけびが撮影者の声をかき消す勢いで周囲に響き渡る。
 あの雄はいずれ大物になる、そんな気がした。


 思ったよりも迫力のある映像を撮れての凱旋帰還の最中の事。
「そういえば、ソウリュウシティのジムリーダーのシャガさん……オノノクスとレスリングをやっているって言うけれど……あの髭の中に金属仕込んで斧歯相撲でもやっているのかなぁ?」
「いやいやいや、アマノ。それはないだろ」
 あの圧倒的な力強さの相撲に、人間が太刀打ちできるわけがない。いかにあの逞しいシャガさんでも、それは例外ではないだろう。それでも、ありえそうに思えてしまうあのカリスマが、彼が市長たる所以なのだろうか。


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