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  [No.2849] 雪ん子 投稿者:aotoki   投稿日:2013/01/14(Mon) 15:05:50   60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:大雪なのよ

雪なんて見たことない、と少年は言った。
ガラス窓の向こうで雪は変わり映えのしない街並みを白く染め上げ、
たった1日だけの静謐な世界、明日には日常となってしまう世界を作り続けている。
そうなんだ、としか私は言わなかった。
「でも、遠くの山にふってるのとか、そういうのは見たことあるでしょ?」
「ないよ。・・・・そんなに目良くないし、お姉さんの言いたいそれは『ゆき』じゃないから」
至極つまらなそうにそう言って、少年はまた窓に視線を戻した。その目には子供らしい好奇心も、
大人が雪に見る子供の気持ちも、一切なかった。

『お姉さん』と呼ばれた私がこの少年と暮らし始めて、この雪の日で1週間になる。
その間に私の仲は接近も後退もせず、淡々とこの距離感を続けていた。
普通なら多少なり距離感が変わりそうなもんだけどね、そう思いながら私はマグを二つ手に取った。
お気に入りのミズゴロウと客用といいつつ今まで使わなかったアブソル柄。
「ココア飲むー?」
「お砂糖2杯でー」
「はーい」
ずっとこの調子だ。親に捨てられて、一時期ポケモンに育てられた子供の里親なんて果たしてどうなるのだろうか、と気に病み続けていた
先週の自分が馬鹿らしくなる。机のカギ付き引き出しにしまい込んだ「決意書」の処遇を考えながら
ココアを練っていると、ふと少年が窓に向かって立っているのに気が付いた。
「どうしたのー・・・・」

少年は、両手を上げていた。
万歳のポーズではなく、少し妙に角度づけて、ベタな威嚇のような格好で立っていた。
視線は真っ直ぐ、窓に切り取られた雪空に注がれていた。
思わず、自分の頬が緩んでいるのがわかった。

「・・・・なんだよ、なんだかんだで楽しんでるんじゃん」
ビクンと体を震わせて少年は私に振り返る。
「・・・・駄目?」わずかに耳を赤くしながら少年は言う。その頭を私は片手でわしゃわしゃと撫でた。
「わっ、ちょ」
「いいんだよやりたいようにやっちゃって!私だって雪見てこんなに楽しんでるんだよ?
 あなただって楽しみたいように楽しんでいいの。ね?」
しばらく少年は、少し恨めしそうな顔で私を見つめていた。ずっとこんな調子で人間を見てきたんだろうな、と
私は少年の今までを少し想像して、もう一度、頭をわしゃりと撫でた。
「この家に来たんだったら、良識の範囲でやりたいことしなさい。やっちゃいなさい。
 それが、ここに来た理由なんでしょ?」
―少年は、ベランダの窓を開けた。
靴下を脱いで、コンクリート打ちっぱなしの床面を踏みしめて、灰色の足跡を残しながら、
雪山で育った少年は、両手を上げて叫んだ。

「「!!!!」」

雪はまだ、降り続きそうだった。


****
初めましての方は初めまして。また読んで下さった方はありがとうございます。
aotokiと申すものです。お久しぶりです。
親不在の隙に勢いで書いた文。ポケモン世界じゃ霰の方がよくみられそうですよね。


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