マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.2874] 背負うもの 投稿者:サン   投稿日:2013/01/31(Thu) 16:01:27   93clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:ポケモンのポの字も出ないポケモン小説】 【暗いの注意】 【一日クオリティ】 【何してもいいのよ

 赤茶けて汚れた前足をそっと舐めると、鉄臭い味が口中に広がった。甘苦いような粘っこさに鼻腔が刺激され、舌が唸る。あれだけ派手な戦いを繰り広げたばかりだっていうのに、俺の身体は未だに血を欲しているらしい。まだまだ暴れ足りぬと駄々をこねる本能を、俺は我が身を食むことでどうにか押し止めることに成功する。
 生きるためにはある程度の犠牲が必要だ、やらなければ、こちらがやられるのだから。ありふれた理屈。他者を傷つける行為を正当化するための甘い口実。誰だって死にたくはないだろうし、みんながその理屈を認めていればそのことで恨み憎まれるのはお門違い。そんなの、お前が弱いのが悪いんだろう、ってな。
 下らない、詭弁だ。
 俺は。俺が戦う理由は、他にある。己の生のためじゃない。こんな汚れた命に価値などない。しかし、それでもなお、俺が醜く生き恥を晒しながら血を流し続けているのは、どんな汚い手を使っても守らなければならないものがあるから。あいつを、守らなくちゃいけないから。
 それが俺の償いであり――罪だ。



 青臭い薬が俺の背中に塗られる度、ビリビリとした刺激とともに傷口が熱く疼く。思った以上に深くえぐられてしまったらしい。
 ちらりと横目で見てみれば、杉の木の陰に、ついさっきまで相対していた輩が横たわっていた。やたらと素早い動きが特徴で、俺としたことが手痛い反撃を受けてしまった。どうにか倒すことはできたものの、まだ息はあるようだ。意識が戻ってしまう前になるべく早くここを離れた方がいいだろう。いや、本当はさっさと止めをさせばいいだけの話だが……おそらくそれは、俺の連れが許さないだろう。
「まったく、無茶な戦い方ばっかりして……こんな調子じゃ身体がもたないよ」
 別にもたなくたって構わない。俺の身体をどうしようがそんなものは俺の勝手だ。
「もうっ、またそんなこと言って。いい加減、もっと自分を大事にしたらどうなの?」
 あいにくだがそれはあり得ない。害獣を大事に扱う馬鹿がどこにいる? 俺みたいなクズの命を愛でるより、そこらの草木に大小振りまく方がよっぽど世の中の役に立つだろう。
「はあ……相変わらずなんだから……」
 ため息混じりに背中の傷を撫でる、柔らかな手つき。名一杯の労りが込められた彼女の手は、少しも血に汚れていない。
 いや。汚れさせなどするものか。純粋で、汚れのない、呆れるほどに透き通った無垢なこいつの優しさを、誰にも踏みにじらせはしない。血と泥にまみれて無様な醜態を晒すのは俺だけでいい。
「……ねえ。そんなに、自分のことが許せない?」
 ……ああ、そうさ。許せるわけがない。俺の存在は、許されるものじゃないんだ。
 過去。俺は、罪を犯した。
 生きるためでも何でもない、己の下らない充足感のためだけに牙を剥き、炎を吐き散らした。例によって、あの馬鹿げた理屈を掲げてみせながら。
 言ってしまえば、何とも微笑ましい子供の純粋さだったのだと思う。純粋で、汚れのない、呆れるほどに透き通った無垢な子供の狂気だった。
 彼女を悲しみの底に突き落としたのは、紛れもなく、抑制の効かない野蛮なケルベロス。純然たる悪意で、俺は彼女の大事なものを全て焼き尽くしてしまったんだ。
 彼女が弱かったのが悪い? 何寝言ほざいてやがる。悪いのは全部、俺じゃないか。
 俺という存在が他者に与えられるものは所詮数えるほどしかない。痛みと、恐怖、そして死。汚れた地獄の番犬は、幸せな誰かを不幸にする、呪われた獣だから。
 俺は決して許されない。許されるはずが、ない。
「わたしは、もうとっくに許してるよ」
 そう言って、彼女は笑ってみせる。もう大分薄くなった首元の傷を撫でながら。
「あなたはずっとそうやって、昔の自分と戦い続けてきたんだもの。
 それに、あなたは文字通り身を盾にして、いつもわたしを守ってくれる。そんな危ないことしなくていいのに……本当、不器用なんだから」
 それでも俺はこれからも、彼女のために矢となり盾となり、自ら血にまみれていくだろう。罪を償うために、罪を犯す。それが俺の命の使い道。彼女を守るためならば、この身が燃え尽きるまでどこまでも戦い続けてやる。
 傷の処置を終えたらしい、彼女はぽんと俺の背中を叩くと勢いよく立ち上がった。
「……だったら、わたしはあなたの傍にいて、ずっとあなたを支えてあげる。あなたがあなたを許せるその日まで」
 そして彼女は薬の入った鞄を抱え、つい先程まで俺と戦っていた相手の元へと駆けていく。
 ああ、そうだろうな。お前は傷ついている奴なら誰であろうと、見捨てるなんて真似、できるわけないんだよな。たとえ、それがついさっきまで自分の命を狙っていた相手だろうと。
 こうして俺の犯した罪が、彼女のお陰でまた一つ軽くなる。



 風が出てきた。雲行きからして今夜辺りは雨だろう。そろそろ出発しなければ、山を下りる前に天候が変わってしまう。
「それじゃ、行こっか」
 いつもは俺の背にまたがる彼女が、今日は率先して前を行く。俺の傷を気にしてか、自分の足で歩くつもりらしい。
 舐めんな。ちょっと背中に乗っけて走るくらい、楽勝だ。
「え。ちょ、ちょっと、いいよ! 今日は自分で歩くから!」
 そうは言ってももう遅い。俺はきゃあきゃあ戸惑う声を完全にシカトして首根っこをくわえると、無理矢理背中に押し上げた。彼女が慌てた様子で角を掴む。さあて、振り落とされるなよ。
 多くの罪と、底なしの優しさを背中に背負って、俺は陰り始めた深い山道を駆け出した。



―――――――――――
何かこう、美女と野獣的な組み合わせを書きたかった。
もっとセンスのある文書けるようになりたいなあ。


- 返信フォーム (この記事に返信する場合は下記フォームから投稿して下さい)
おなまえ※必須
Eメール
subject 入力禁止
Title 入力禁止
Theme 入力禁止
タイトル sage
URL 入力禁止
URL
メッセージ   手動改行 強制改行 図表モード
添付ファイル  (500kBまで)
タグ(任意)        
       
削除キー ※必須 (英数字で8文字以内)
プレビュー   

- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー