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これを書く前、久々にMちゃんと会った。そもそもこれを書くきっかけに至ったのが彼女との会話だったのだ。直接会うのはそれこそ五年振りくらいだったと思う。
彼女は既に天パの名残を消した髪を靡かせ、待ち合わせから五分ほど遅れて私の前に姿を表した。私は駅の改札口前で、コートの薄さから来る寒さに顔をしかめながら立ち尽くしていた。
「よう」
「久しぶり」
彼女はワンピースにタイツと茶色いローファーを合わせていた。小学生時代の服装を思い返すと、信じられないくらい地味な色合いになったものだ。当時彼女は某キッズブランドの、Tシャツが一万円は下らないような物ばかり身につけていた。ちなみに私はパリと青がモチーフの物ばかり身につけていた。
当時の服は、私が知る限り残っていない。皆母の友人の子にあげてしまった。
「寒いんだけど」
「悪い」
「んじゃ行こうか」
風が吹きつける構内を通り、私達は南口にある真新しいビルへ向かった。今日はここにあるスイーツ・バイキングに行くのだ。
エスカレーターで三階まで上がり、店に入る。券を買い、店員に案内されて席に着く。平日、しかも午前十一時前後とあり、人はまばらだった。私と同じくらいの子が二組、おばさんが一人。
烏龍茶を注いでテーブルに置いてから、私は実のある物を取りに向かった。流石にスイーツ・バイキングと銘打ってあるだけ種類が多い。青りんごのケーキ、ベリー系のショートケーキ、かぼちゃのプディング、シブースト、抹茶のシフォンケーキ。
ついでにたらこスパゲッティもチョイスして席に戻る。店員が気を利かせてくれたのか、テーブルがもう一つくっつけられていた。
さて食うかと手を合わせたところで、店内のBGMが変わる。聞き覚えのあるイントロ。
私は吹き出すのをこらえるのに必死だった。
「ねえ」
しばらく黙々と目の前のスイーツを平らげる作業が続く。沈黙に耐え切れなくなった私は、彼女に話を持ちかけた。
「?」
「最近どうよ。学校は?」
「ああ……。Kも同じだと思ったんだけど、違うの?」
どうやら一週間に一度の割合、らしい。私立の高三って何処もこうなのかしら、と嘆く母の言葉を思い出す。そうみたいだぜ、お袋さん。
「課題とか出てる?」
「レポート的な。あと英単語があるから、それ。まあ意味だけ覚えればいいから楽だけど」
「へー……」
その後お互いの学校の話題が続く。体育祭で初等部との綱引きが女子は勝ったのに男子は負けて女子に般若の形相でお説教をくらったとか、修学旅行の沖縄でプライベートビーチで服を着たまま走り飛びして先生に怒られたとか、そんなもの。
何故か女子が砂場で女の裸体を作っていた、と話したとき、彼女はふと思い出したように呟いた。
「この後、どうする?」
カラオケに行くことになった。二時間。トイレに行くと言って彼女は出ていき、私が最初に歌うことになった。
曲は『少年よ/我に帰れ』。途中で彼女が戻ってきてハチPの曲を入れた。彼女がボカロを知っていることに少なからず驚いたが、高音の曲を歌い上げることにも驚いた。
(あんだけジャニーズって騒いでいたのにねえ)
ふと七年前のことを思い出す。今思えば大したことのない、ただの無邪気な残酷さに遊ばれただけだったと笑い飛ばせるのに、当時はひたすら傷つき、涙を流していた。
当時彼女らを夢中にしていた物は、今はすっかり存在を消している。今の小学生は彼らがいたことすら知らない。当時ハマっていた子すら、覚えていないかもしれない。
飛沫の夢に弄ばれた、子供達。
あそこで培った何かは、どこへ行ったのだろう。
「おいK」
「あっ」
気がつくと彼女の曲は終わっていた。私は機械を操作し、『恋愛/勇者』を入れる。ボーカルの発表会で三ヶ月前に歌ったばかりだ。
あの時、スポットライトとギターの音色と、マイクを持つ手が私を動かしていた。緊張は最初の音で全て吹っ飛んだ。
歌っていて、自分の声が随分低くなったことに唖然とする。男ではないからそこまで変化はないけれど、それでも昔の声じゃない。
確実に、
(……)
二時間はあっという間だった。次に何処へ行く、と聞くと彼女は某青い看板のアニメショップを挙げた。ニッと笑えば足は自然と動き出す。
白いタイルに、長さが変わらない影が並ぶ。
「ねえ、」
「何ー」
「こうかんノートやってたの、覚えてる?」
その話題が出たのは、帰りのバスの中だった。彼女は目を丸くして、それこそ―― バスの中だったからそこまで大きくはなかったけど―― それでもこちらが驚くくらいの声を上げた。
「あー!やってたやってた」
「十冊くらいまでいったんだよ、私とMのノート」
「えー!そんないったっけ!」
一人百面相する彼女に、私は少しため息をついた。覚えていない。本当に、彼女は覚えていなかった。
思い返せば、あの時が一番人間関係で悩んだ時期だったと思う。今まで仲良くしていた人間が、急に敵になる。『裏切られた』『誰も信じられない』本気でそう思った。皆表面では仲良くしていても、裏では何を言っているか分かったものじゃない。
今なら『それが女なんだよ』とバッサリ言えるかもしれない。『仕方ないよ』『人間だもん』『女同士だもん』そんな言葉がぽんぽん思いつく。生きとし生ける物全てを愛せ、そんなことできるわけがない。悟りを開いているならまだしも、普通の人間にそんなことできるわけない。
今でも私には受け付けない人間がいる。私をそう思っている人もいるかもしれない。それでいい。だって、人間だもん。
だが当時の私にそんなことを言ったって、おそらく何も解決しないだろう。何もかも未熟な子供にそんなことを理解しろと言う方が無理なのだ。反対に言えば、あれがあったから今の私の一部分が作られている。
(ま、今の私が語っても多分意味ないんだろうけどね……)
「そういえば、この前部屋の掃除してた時に、Yとのノート出てきたよ」
「……マジで?」
今度は私が驚く番だった。それで、と先を促す私に、Mは苦笑しながら言った。
「おそるおそる開いたんだよね。そうしたらさ、すごいの。もうね、相手に土下座しても足りないくらいの、罵詈雑言」
「おおう」
「思わず叫んでビリビリに破ったよ。いや、ほんと当時の私を殴りたいね」
一体何を書いていたのだろう。そしてそれを振られたYは、何と答えたのだろう。Tちゃんが私にひたすら求めたように、彼女らもお互いに自分と同じことを考えるように求めたのだろうか。
そして、きっと二人が求めた物の中には、私への――
「……ほんっと」
子供とは、残酷な生き物だ。
そして――。
四十分近くバスに揺られて、私は先に降りた。彼女に手を降り、歩き出す。
空は夕焼け。風は冷たく、肌を突き刺す。
「寒いなあ」
家までの緩やかな坂を、ただ歩く。脳裏に、数時間前に彼女が歌った歌の歌詞が浮かんでくる。
そっと、呟く。
「『――きっと、歩いていけるわ』」
そう、どんなことがあっても。生きている限り、足は動くのだ。
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そしてこれは、夜の話。
夕食を終えた私は、ふと思い立ってしばらく手を付けていない戸棚を漁った。嵩張るから、とプリントや薄いノートを入れてある大きめのファイルを漁る。途中で中三の時に書いた小説もどきを見たような気がするが、無視する。
「……あった!」
そう。それは上の小説の最後に出てきた、『七代目のこうかんノート』だった。今から七年前、ポケパークが期間限定でオープンした際に売られていた物だ。万博のついでに連れて行ってもらい、買ってもらったのだ。
『星空トリップ』というアトラクションをモチーフにしたそれは、ジラーチとセレビィとミュウが表紙だった。そしてそこには小学生女子らしく、シールとプリクラが貼ってあった。
「懐かしいなあ」
そしてそこで『何故このノートをこうかんノートなんかにしたんだ』というツッコミを入れたくなる。ちなみにプリクラはまだ幼さの残るMちゃんと私―― ではなく、Mちゃんと彼女の幼馴染の男子二人だった。ちなみに片方は今や車の免許を所得し、ついでに車まで買ってもらい(借金だってさ、byMちゃん)、バリバリ運転しているらしい。
感慨にふけったところで、ふと当時の私の画力を思い出す。
「……」
開けてみた。そして閉めた。別の意味での寒気を感じた。下手すぎる。これを描いた後に『Kって塗り方雑だよね』とMちゃんに言われることとなる、私の絵。これはひどい。
とりあえず表紙を写メって彼女に送る。
二時間後、『寝てた』という題名とともにこんなメールが返ってきた。
『懐かしいいいい!それか!
ってか右下にあるのは一体…… 私が何か貼っちゃったのか……?』
色々思うことはあるが、とりあえず右下を拡大して写メって送る。今度は数分で返ってきた。
『ぎゃあああああああああああああ\(^ω^)/
なんでww表紙にwもうwww私の馬鹿』
今にも『もうやめて!私のライフはゼロよ!』とでも言いだしそうな空気だったので、とりあえずいじるのはやめる。
ああ、本当に。
「人生って、何が起こるかわかんないねえ」
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まだ半世紀も生きてねえお前が人生も糞もねえだろ、というツッコミをいただきそうですね。WKです。
さて、この『こうかんノート』とこの『前日談、もしくは後日談』。読んでいただければ分かると思いますが、ほとんど実話です。いや、カゲボウズは実際にはいませんが。というか実際にいればどれだけ楽に過ごせたか……。
女の子の友情って難しいですよね。今一番仲がいい友人に聞けば、
『私は小五の時に急にある子に嫌われたよ。私、その子に何もした覚えないの。その子自身も、R(私の友人の名)は何もしていないって言った。でも何故か気に食わないって言われた』
とのこと。なるほど、と二人小学生時代の思い出について語りながら帰りました。
三年ほど前に書いた『友情メモリー ブロークン』も実話から書いています。知っている人いるのかしら。
とりあえず、ここまで読んでくださり、ありがとうございました!