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  [No.2896] つよいのどっち? − ポケモンむかしばなし 投稿者:小樽ミオ   投稿日:2013/03/02(Sat) 21:41:39   96clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:昔話】 【ラムパルド】 【トリデプス

 むかしむかしの、そのむかし。
 とある街に、ポケモンバトルの強いトレーナーがいました。彼は遠くから旅をしてきたトレーナーで、この街には昨日たどり着いたばかり。いろんな街をわたり歩いてたくさんのトレーナーに勝ってきた彼は、自分の強さに自信を持っていました。
 そんな彼はほめられるのが大好きでした。この街でもいっぱいほめられて、鼻を高くしながら歩きたい。そう思った彼は、「今から旅の話を聞かせてあげよう」と人々を集めて、自分の自慢話をはじめることにしたのです。

 彼のいちばんの自慢は自分のポケモンでした。数えきれないくらいのポケモンを持っていましたが、中でも強かったのはトリデプスとラムパルドでした。この二匹がバトルに出れば負けることはめったにありませんでした。それだけ強い二匹のことを彼は誇りに思っていましたから、彼はこの二匹のことを自慢して街の人をおどろかせてやりたい、そしてえへんと胸を張りたいと考えたのです。
 ところが彼にはひとつ悪い癖がありました。それは実際にあったことを大げさにして話してしまうことです。彼はほめられるのが大好きでしたから、もっとほめられたいと思ってついつい嘘をついてしまうのでした。

 さてさて、彼が旅の話を聞かせてくれるというので、道ゆく人たちがぞろぞろと集まってきました。石畳の通りにはお店の屋台がいっぱい並んでいます。けれどきのみを売っているおばさんも、ポケモンのたべものを売っているおじさんも、みんなおしごとの手を止めて話を聞きにきました。お上品に着かざった女の人に、さっきまで追いかけっこをしていた子どもたち。いろんな人たちが次々にやってきます。
 人が増えてきたのを見ると、彼はボールをほうり投げて自慢のトリデプスとラムパルドをくり出しました。どちらも彼が遠くの街でつかまえた、この辺りにはいないポケモンです。見たことのないポケモンの姿におどろきの声が上がります。物珍しさにどっと人が押しよせてきました。トレーナーの姿がすっかり埋もれてしまうほどの人だかりです。その様子を見て、なんだなんだと「やじうま」たちもやってきました。
 これまで旅をしてきた街では、自慢話をしてもこれほどの人が集まったことはありません。今ならいろんな人がほめてくれるに違いない。彼は思わずにまにま笑いました。するとどうでしょう。彼の悪い癖がひょこっと顔を出しはじめました。大げさに話をしてしまうあの悪い癖です。彼はほめられるのが大好きで大好きでたまりませんでしたから、嘘をつくことがどうしてもやめられなかったのです。彼はえへんとたいそうなせき払いをして話をはじめました。

「このトリデプスが“てっぺき”を使ったら、これを破れるポケモンなんているはずがない」
腰に手を当てふふんと笑いながら、彼はトリデプスの自慢をします。もちろんこのトリデプスだって“てっぺき”を使ってもふせげなかった相手がいます。けれどトリデプスを見たことのない街の人はすっかり話を信じこんで、おおっと目を見張りました。たしかに彼のトリデプスは、くわの先のように分かれた牙がぎらりと輝き、その手足は岩肌のようにごつごつとしていてとても簡単に破れそうにはありません。このトリデプスの守りを倒せる相手はいないのだとだれもが感心しました。
 すごいぞ、すごいぞ。あちこちから歓声が上がります。そんな強いポケモンを持っているなら君も腕のたつトレーナーに違いない。だれかが叫ぶと拍手がわきおこりました。するとすっかり気をよくしてしまった彼の心に、またあの悪い癖がむらむらと立ち上りはじめたのです。

「そしてこっちのラムパルドが“しねんのずつき”を使ったら、倒れずにいられるポケモンなんているはずがない」
鼻をつんと高くして、トレーナーは次にラムパルドの自慢をしました。もちろんこのラムパルドにだって“しねんのずつき”を使っても倒せなかった相手がいます。けれどラムパルドを見たことのない街の人は、やっぱり話を信じこんでしまいました。またもや唸って目を見張ります。たしかに彼のラムパルドは、頭に生えたするどい角はつららのよう、硬そうな頭はてかてかと光を跳ね返していて、ずつきをされたら倒れずにいられそうにはありません。このラムパルドの攻撃を耐えられる相手はいないのだとだれもが感心しました。
 すごいぞ、すごいぞ。やはりあちこちから歓声が上がります。こんなに強いポケモンを二匹も持っているなんて、やっぱり君は凄腕のトレーナーに違いない。だれかが叫ぶと、またもや拍手がわきおこりました。
 石畳の道は彼をほめる言葉と拍手でいっぱいになりました。あまりに彼が誇らしげに話すので、だれも彼が嘘をついているのに気がつかなかったのです。トレーナーはといえば、すっかりご機嫌で大笑い。わっはわっはと大声を上げながら、もっとほめてくれと調子に乗っています。

 と、ひとりの少年が、なにやら不思議そうに首をかしげていました。眉をひそめて、なんだか言いたいことがありそうな顔をしています。それに気が付いたトレーナーは、そこの君、と叫んで笑顔で少年を手まねきしました。わあわあと騒がしかった道の上がしいんと静まりかえります。何か聞きたいことでもあるのかいとトレーナーがたずねると、少年はこくんとうなずきました。
「ふだんはヒミツを教えないが、とくべつに今ならどんな質問にも答えてあげよう」
ほめられてすっかり気をよくしていたトレーナーは、ふうんと大きな鼻息をついて、恩きせがましく言いました。どうやらもっと自慢話をしたくて、そしてもっとほめられたくて仕方がないようです。

 首をかしげた少年は、ぽつりとひとこと言いました。

「絶対に破れない“てっぺき”と絶対に耐えられない“しねんのずつき”をバトルさせたら、どうなるのですか」

 ――ほめられるのが大好きなトレーナーは、ついに答えることができませんでしたとさ。







ご無沙汰しています。
真新しさはありませんが、むかしばなしをポケモンの世界から描きなおすという試みです。
今回は故事成語「矛盾」をモチーフに書いてみました。

実際に書いてみて、ああ、漢文ってテンポよくできているんだなぁと感じます。
ただ文字数や描写を重ねれば必ずいい作品になるというわけじゃないんだなぁ。


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