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  [No.2899] おじいちゃんの思い出 投稿者:きとら   投稿日:2013/03/11(Mon) 22:39:01   63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 私のおじいちゃんが入院した。明るくて優しいおじいちゃんが大好きだった。学校が終わり次第、病院に直行した。

 私のおじいちゃんが話してくれるポケモンの話や旅の話が大好きで、私もいつか旅に出たいと言った。けれどおじいちゃんは難しい顔をしていた。昔はポケモントレーナーとしてとても強かったのだから、色々教えてくれる。けれど旅に出るのだけはあまりいい顔をしなかった。おじいちゃんがポケモントレーナーをしていた時よりも強いポケモンが出るようになったからだと言っていた。
 だから私はお父さんのお仕事を手伝えるように勉強している。でも、時々おじいちゃんの時代のポケモントレーナーとして旅をしたいなと思うことがある。

 病院につくと、独特の臭みが鼻につく。手続きをしておじいちゃんの病室を訪ねる。701号室はおじいちゃんのものでいっぱいだった。お仕事関係の人たちからの手紙とか、お友達からの手紙が飾られていた。
 肝心のおじいちゃんといえば、たくさんの点滴に囲まれて眠っている。私はお母さんからおじいちゃんの具合はあまりよくないことを聞かされていたので、起こさないように帰ろうとしたら、サイドテーブルにあったティッシュが落ちた。その音に目が覚めたみたいでおじいちゃんは手を動かした。
「ハルカちゃん!?」
 ビックリしたようにおじいちゃんは喋った。たぶん二人ともビックリした顔のままだった。ハルカ、って誰だろう。おばあちゃんでもないし、叔母さんにもいない。
「おじいちゃん、ハルカって誰? 私はサクラだよ」
「あ、ああ………うん」
「さては愛人?」
「……内緒!」
 それだけ言うとおじいちゃんは頭まで布団をかぶってしまった。こんな姿を見たことなかったので、おばあちゃんに怒られてきたんだろうな。女遊びもぬかりないんだなぁ、昔の男なんだから。
「おばあちゃんには内緒にしといてあげるね」
 おじいちゃんからの返事はなかった。


 あれから数日もしないうちに、真夜中におじいちゃんの危篤を知らせる電話が来た。
 急いでパジャマから適当な服に着替えてお父さんの車でかけつけた。すでに他の親戚も来てて、ハピナスが出たり入ったりして集まった人たちを誘導していた。おじいちゃんはその真ん中で機械と点滴に囲まれていた。
 一人ずつおじいちゃんの顔を覗いていた。私も促されておじいちゃんの顔を覗いた。この前会ったような穏やかな顔じゃなくて、目を見開いて苦しそうな顔で息をしていた。取り付けられた酸素マスクは最大出力なのに、全然楽になりそうにない。
「おじいちゃん」
 返事はなかった。何も聞こえてないようだった。こんなおじいちゃんをみて私はこれ以上声をかけられないと思った。
 アラームが鳴った。多分心拍数を表してる数字が低くなってるからだ。何度か戻っていくけれど、少しずつ弱まってる。それは私にもわかった。ドラマとかではいきなりゼロになるけど、実際はそうじゃないんだなぁと思った。こんなに冷静なのがおかしいくらい、大人たちは慌ててた。
 それにしてもおじいちゃんはすごい。親戚はともかく、会社の重役まで駆けつけて最期を看取ってる。みんなから慕われた人を祖父に持てて、私は凄く嬉しい。私の自慢のおじいちゃん。
 だから死なないで。まだポケモンのこと全部聞いてないし、旅の話だって全部聞いてない。まだやることだってあるでしょ!


 私の自慢のおじいちゃんは午前2時2分、みんなが集まる場所で息を引き取った。危篤を知らせる電話から3時間のことだった。
 相続関係は事前に済ませていたので大きな混乱はなかった。葬式は会社の関係からポケモントレーナーの関係までずいぶんと多くの人が来た。口々に生前のことを話していた。特にポケモントレーナーの人たちの付き合いは古い。特に利害なく付き合って来れたからだとその人たちは言っていた。
 棺に蓋がされ、火に包まれていく。煙が曇った空に拡散されるのがよく見えた。
「部屋も整理しないとな」
 待ってる間、お父さんはそう言った。おじいちゃんの部屋には趣味のものとかたくさんあってジャングルのようだ。
 そういえばおじいちゃんは私が小さい頃、一つの石を自慢げに見せてくれたことがある。現役のポケモントレーナーだったとき、仲良くしていた人からもらったのだそうだ。そういえばその人は葬式に来てる様子がなかった。もし知らないのだったらその石と一緒に教えてあげた方がいいのかな。けど私はその人を知らないけれど。



 初七日を過ぎておじいちゃんの部屋はかなりものがなくなった。私は記憶を頼りに見せてもらった石を探したけれど見つからなかった。もうおじいちゃんはどこかへと処分してしまったのか、その相手に返したのか。本棚しか残ってないおじいちゃんの部屋をみて思った。
 お父さんが本棚を上から出す。経済の専門書やポケモンの古い雑誌なんかが整列されていた。高そうな辞書も出てくる。そして本の間に挟まっていた写真がするりと落ちた。若い頃のおじいちゃんとポケモンたち。そして隣に写っている女の子。裏をみると、子供の字で「写真できました。ダイゴさんに送ります」そのメッセージと共にある名前をみて驚いた。
 この人が「ハルカちゃん」。チャンピオンだったおじいちゃんを倒した人だ。本の間に挟まれていたから、保存状態がよくて、この人の持ってるポケモンもよく見える。みんな嬉しそうに、幸せそうに写ってる。
 おじいちゃんは死ぬ前に、そんな幸せな時を夢見てたのかもしれない。ポケモンに囲まれて楽しく過ごした日を思い出したんだ。

 「ハルカちゃん」貴方に知らせたい。私のおじいちゃんは死にました。おじいちゃんの幸せな思い出を作ってくれてありがとうございました。


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