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  [No.2923] ねないこ だれだ 投稿者:WK   投稿日:2013/04/03(Wed) 18:22:35   113clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:ポケモン】 【みんなのトラウマ】 【読み返してもやっぱりトラウマ

 眠らない子供達。それが普通になったのは、いつの頃からだろう。


 最初に向かったのは、郊外にある一軒家だった。周りには木々しかなく、寂しい印象を植え付ける。
 月が煌煌と辺りを照らし、星が瞬いている。
 俺は二階の、まだ明かりが付いている部屋を覗いた。大量の本が床に積まれている。明かりはスタンドのみ。
 壁に体を預け、ベッドに座っている子供の顔は、少々青白く見えた。

「眠らないのか」

 そう言って窓を開けると、子供は少し驚いた顔をした。だが、それも一瞬。
 すぐに、今読んでいる本に視線を戻す。
 叫び声の一つでも上げるかと思った俺は、少し心外な顔で子供に話しかけた。

「知ってるか。眠らない子は、ゴーストタイプに連れて行かれるんだぞ」
「連れていくなら、連れていけば?」

 ドライな答えが返って来た。擦れた声だ。
 子供は全てに諦めた顔をしていた。傍にあった水差しを取り、ストローから少しずつ飲む。
 飲み干しても、まだ顔色はよくならない。

「僕が自由になれるのは、この本の中だけ。これを読んでいる間は、どんな苦しいことも耐えられる。それが、次の冒険に繋がると分かっているから。
……君は、僕を死後の世界へ連れていけるのかい?」

 この子供は死を望んでいた。俺は自分の立場を話すわけにもいかず、首を横に振った。
 そう、と子供は再び冷めた声で話し出す。

「そう。じゃあ帰ってよ。読書の邪魔だから」


 次に来たのは、都心から少々離れた場所にあるマンションだった。
 五階、南側に面する小さな子供部屋。
 深夜十一時を回っているというのに、机の明りはまだ消されていない。

「眠らないのか」

 その子供は眼鏡をかけていた。俺の声が聞こえないのか、彼は必死に机に齧りついている。
 壁には、『絶対合格』『目指せ、○○中学』の書初め。
 床には、散らばった大量の参考書やノートたち。

「つまり、この食塩の量がxなんだから、水の量は……」
「おい」
「……誰?新しい家庭教師?ママにどれだけ怒られてもいいなら、雇ってもいいけど」

 机の上の参考書から、顔も上げずに答える子供。無言になった俺の耳に聞こえるのは、カリカリという無機質なシャープペンの音。
 しばらくして、部屋のドアを叩く音がした。

「マーくん?お夜食持って来たわよ」

 ドアを開けてきたのは、少し痩せた女だった。おそらく母親だろうその女は、お湯を入れたカップ麺を持って来ていた。
 子供が少しだけ微笑んだ。

「どう?進んでる?」
「うん、ママ。あと少しで終わるよ」
「そう。それは良かった」

 そこで、ふと気配に気付いたのか、母親が俺のいる場所を見た。
 だが、大人には俺の姿は見えない。

「どうしたの?」
「気のせいかしら……。うん、気のせいね」

 俺は既に外に出ていた。星は見えないが、月は相変わらず街に降り注いでいる。

 最後に来たのは、とある繁華街だった。眠らない町、と言えば聞こえはいいが、実態はパチンコ店や風俗が集まる不法地帯だ。
 派手な女が、羽振りの良さそうな男と連れ立ってホテルへ入っていく。
 パチンコ店の前で、一人の少女がホットドックを齧っていた。話しかける前に、向こうがこちらに気付いてやってくる。

「何やってるの?」
「眠らない子供を探しているんだ」
「それって、私みたいな子?」
「まあそうだな」

 否定はしなかった。する必要もない。少女はパチンコ店を振り返って見た。
 少しずつ吐き出される、様々な顔色の人間たち。

「パパがあそこにいるの。勝ったら機嫌がいいけど、負けたら最悪」
「家で待つことはできないのか」
「無理。お母さんがいないから。私は家にいたら、ご飯も食べられない」

 しばらくして、一人の男が出て来た。今日は勝ったらしい。顔が紅潮している。
 少女が駆けていくのを見届けた後、俺もその場を去った。


 もう、今の子供達は幽霊など信じない。人さらいの幽霊など、ただの『話』として片づけられる。
 月が、明るい。


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