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  [No.3059] 進化 投稿者:フミん   投稿日:2013/09/06(Fri) 23:14:52   151clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:ランクルス】 【批評してもいいのよ】 【描いてもいいのよ

青年は怪しい機械に取りこまれている。
大きな機械だった。様々な色のボタン、様々な色に分かれたメーター、視線や指先で操作できるモニター、そして、人間の頭部に合わせたヘルメット。そのヘルメットに、青年の頭はしっかりと入り込んでいる。青年はまさに、自らの体に人体実験を行おうとしていた。

 


青年は裕福な家庭に産まれながらも、多忙な両親にしっかりとしつけられ成長してきた心身共に健康な男である。
 
スポーツはそれなりに得意でもちろん性格は温厚。勉強もよくでき、上辺だけの友達から傍から見れば大したことはなくても本人にとっては最重要な悩みを相談できる親友まで、交友関係はそれなりに広い。容姿も悪くなく、何人かの異性に告白され交際したこともあるが、あまり長く続かなかった。どこにでも一人はいるような男性だった。
 
彼の手持ちのポケモンはランクルス。小学生になる頃に両親が与えたポケモンで、ユニランから大切に育ててきた大切な家族だった。
 
彼のランクルスはとても頭が良かった。青年が学校で勉強する学問に興味を示し、難解な本を数え切れないほど読み漁り、青年が大学へ進学する際、家庭教師として青年の面倒を見る程までに成長した。人とポケモン、意思疎通は難しいが、エスパータイプの力を駆使して青年の頭にイメージを送ったり、分かりやすい解説を紙に書いたり等をして、彼らは言葉の壁を克服した。
結果、青年はとても頭が良くなった。環境が良かったのだろう。自分の望む大学へ進み、好きな学業に励み、そして行きたい企業へ就職した。
彼はモノづくりが好きだったが、それらを仕事にしようと思わなかった。一般的な会社できちんと働き、夜にゆっくりと好きな発明を行う。第二の親と言っても過言ではないランクルスの知恵を借りて、あくまでも趣味として発明を楽しんだ。それらの中には、世の流れを変えるような発案もあった。彼の父親はその発明の権利を取得し、自らの企業で販売する商品として売り出した。
これが上手くいった。たちまち父親の会社は業績を伸ばしていく。

その後、青年の父親は自分の息子にある提案をした。それは、自分の会社の社員にならないかということである。
但し、それは社員であって社員ではない。父親は、青年の発明を仕事にしたくないという気持ちを充分理解していた。あくまで企業に所属しているだけで、経費は会社で落とし発明の期限は設けない(というもの、新しい発明を待たなくても、既存の発明だけで企業が運営できるからだ)。もちろん、時期社長という青年にとって面倒なポジションにも置かない。あくまでも好きなことをやっていける状態。父親は、あくまでも息子を自由にさせるつもりだった。

その提案を持ちかけられた時、偶然にも、青年が勤めている企業の人間関係が悪くなっていた。加えて、発明の意欲が更に高まっていた。そのため彼は、勤めている会社を退職し、父の提案を受け入れることにした。
朝になると父親の会社へ行き、専用の部屋へと向かう。そこで本を読んだり勉強をしつつ、少しずつ発明を進めていく。帰る時間は気分によって変わり、昼間に自宅へ戻ることもあれば、日付をまたぐまで部屋に籠り発明に没頭することもあった。
 
名目上父の会社へ所属することによって、これまでよりも発明の幅が広がった。それまで金がなくて諦めていた部分まで青年の父親は面倒を見た。自由度が上がり、青年は自然と父親に貢献していく。
 
自由になって初めて、彼は、やはり自分は発明者向けなのだと気づいたのだった。
彼の側には、常にランクルスがいた。


そんな青年が空調の利いた部屋で作業をしていると、ランクルスが彼の肩を叩いた。

「?」
 
青年が首をかしげると、ランクルスは紙切れを手渡してくる。

【作って欲しい物がある】
 
まるでお手本のように綺麗な字で、そう書かれていた。
青年は戸惑っていた。今まで自分の為に尽くしてくれたランクルス。そんな彼が、これまでの長い人生の中でお願いをしてきたのは初めてのことだった。
自分には今、力がある。父に頼めば大きな金額を易々と動かせるし、一般人には手を出せないような高額の物も利用することができる。そして昔よりも知識があり、他人を気遣う余裕もある。今までランクルスには沢山お世話になってきた。その恩を返せるのならば、多少の無理は引き受けよう。彼はそう思うのだった。


「もちろん引き受けるよ。どうすれば良いんだい?」
 
続いてランクルスは、青年に紙きれの束を差し出した。
それは、大きな機械の設計図だった。作り方が事細かに図で示されている。
これを作って欲しい。そう伝えたいのは明白だった。

問題は、これは何の機械なのかということ。
 
当然青年は自分の相棒に尋ねようとしたが、ランクルスはそれよりも早く新たな紙切れを顔の前に出した。

【今は言えない。でも、あなたにとって絶対に得するものです】
 
ランクルスは、必死に懇願し頭を下げ続ける。隠し事、これも青年にとって初めての経験だった。
彼は考える。完成するまで黙っておきたい。そして、自分にとっても得をする。
長年の信頼がなければ、青年はやる気になっていなかっただろう。

「分かった。できるだけ早く作ることにするよ」
 
彼がそう呟いた時、ランクスルはとても嬉しそうに笑った。それを見て、もちろん青年の心は満たされ、あまり乗り気ではなかった謎の機械を作る作業に労力を費やす気になったのだった。
 
機械作りは順調に進んでいく。一度始めてしまえば、まるでプラモデルを組み立てるように完成に近づいていく。機械の規模が大きいからこそ時間をかけているが、それは部品の組み立ての作業に手間を取られているだけで、青年の知識や技術は充分足りていた。後に彼は、ランクルスはあくまで自分の力量に合わせて設計図を用意したのだということを察した。
 しかし彼は、作業の終わりに近づけば近づく程に謎が深まっていった。確かに作り方は簡単で図面の解説も丁寧なのだが、この機械が一体何の目的で作られる物なのか、それは青年自身にも分からなかった。唯一分かるのは、人体に何らかの影響があるということだけ。人間の頭脳がきちんと収まるくらいのヘルメットのようなものを制作している時に、漸く彼は察することになった。それがどんな効果をもたらすのか、どんな影響があるのかは、全ての工程が終了するまで判明することはなかった。
青年は睡眠時間を減らし、”趣味”である発明を休み、数日後、ついにランクスルのお願いは果たされた。
 
大きな機械だった。縦、横、高さ、それらは集合住宅に建つ平均的な一軒家程の大きさがあり、丁度中央には、あのヘルメットのような、筒のようなものと、深く座れる椅子が設置されている。
この機械を置く為、青年は父親に頼んで大きな倉庫を用意して貰った。その判断は正解だった。今までの部屋に置いていたら、完成する前に一度解体しないといけなかっただろう。
 
ともかく、青年は労力を費やして相棒の夢を叶えた。
 
当然ランクスルは歓喜し喜んだ。青年の手を持ち、屈託のない笑みを見せる。その様子を見て、もちろん青年の気持ちも満たされた。

「それで、これは何をする機械なんだい?」
 
ランクルスはあの時、機械を作る前には用途は言えないと伝えてきた。しかし、こうして目的のものが完成した今、不鮮明だった事を明らかにして欲しい。青年は、我慢に我慢を重ねて、漸くこの一言を放つことができた。
ランクルスは紙とペンを走らせる。

【これは、生物の頭脳を発達させる機械です】
 
紙には、確かにそう書かれていた。

「発達させる機械?」
 
青年にとっては意外だった。とても大きな機械。それがただ脳に刺激を与えるだけの機械だなんて。あまりにスケールが小さい気がする。
しかし、冷静に考えると凄い機械なのかもしれない。頭脳を発達させるということは、脳が進化するということだ。子供の頃に一度は夢見た「頭が良くなる機械」それがこれなのではないか。
そう考えると、青年の心はときめいた。
あなたにとって得するものだとランクルスは言った。その言葉は正しかったことになる。

「是非試してみよう」
 
青年は迷うことなく呟いた。ランクルスは彼の決断を尊重し、使い方を筆談で教えるのだった。

 


ランクルスの発明に好奇心を動かされた青年は、未知の体験に酔いしれていた。機械は、やかましい音を立て続ける。
頭はきちんと固定されている。クッションに優しく包み込まれた脳天が刺激され続ける。その刺激は人の指で力強く押されるように心地よく、気持ちが安らいでいく。それと同時に、気持ち悪くない程度の電流も流される。こちらは少々痛みが走るが、押される快楽がその不快感をかき消してくれる。
彼は気分が悪くなる覚悟でこの機械に取りこまれた。しかしそれは結局杞憂であり、寧ろ心地良い。安らかな気持ちのまま、ただこの奇妙な現状を受け入れていた。
突然視界が曲がる。でもそれは一瞬のことで、彼の体には、更に電撃が走った。

そして、唐突に機械が止まった。
 
青年の頭がゆっくりと解放される。彼は、放心したまま動かない。糸が切れた操り人形のように、椅子にもたれたまま気を失っている。ランクルスは、そんな彼を介抱することなく、ただ見つめ続けていた。
やがて、青年は目を開けて立ち上がった。
彼は無表情のまま自分を取りこんでいた機械を見上げ、そして直ぐに視線をランクスルに当てる。ゆっくりと、長年連れ添ったポケモンに微笑した。

『気分はどうですか?』
 
ランクルスは口を開いた。

『とても良いよ。脳みその隅々まで暑くて、まるで自分が自分じゃないみたいだ』
 
青年には、これまで聞こえなかったランクスルの声がはっきりと聞き取れた。突然の違和感にも彼は動じない。
同時に彼は、ランクルスの言っていた意味が理解できた。

『生物の頭脳を発達させる機械か。確かに、言っていることは本当だったね』
 
こうしてポケモンの言葉を理解できているのが何よりの証拠だった。もちろん彼は、ポケモンの言語を学ぼうとしたことはない。

『脳の機能を隅々まで使えるようにする機械か。ランクルスは凄いね』

『同時に私が学んだ知識も頭に入れておきました。少々負担をかけてしまいましたが、誤差範囲内だと思います』
 
ランクスルは、青年に抱きかかえられた。

『これで、あなたは私と同等の脳を得ました。本当はゆっくりとお話をしたいのですが、協力して欲しいことがあるのです』

『協力して欲しいこと?』
 
青年が言葉を繰り返すと、ランクスルは彼の手から抜け出し、自分の後についてくるように言った。進化した青年は大人しく従う。
機械を置き去りにして青年は社内を歩いていく。途中青年の父親の企業に勤める社員と何度も顔を合わせたが、ここでも彼は自らの変化に気づくことになった。その人物を人目見ただけで、おおよその年齢、身長、体重、その体が何に長けているか、その人物の体調が悪いか否か、更に女の社員に関しては、その微弱な体調の変化によって新たな命を身ごもっていることも大凡察することができた。更には社内の温度、湿度等、今現在自分がいる環境を数字として把握することもできた。
不思議なことに、青年には奇妙という感情が湧いてこなかった。寧ろ、今の自分が普通だと思っている。機械に取りこまれる前の自分自身は本当の自分ではなかったのだ。そう改める程だった。
前を進むランクルス、後を追う青年。社内でそれを不審に感じる者はいない。
やがて一つの扉の前に辿り着く。
そこは、機械を作る前、青年とランクルスが発明をしていた部屋だった。

『ここに用事があるの?』
 
青年が呼びかける声に軽く頷いたランクルスは、その質問には答えずに扉を開けた。
 
いつも通りの風景だった。彼ら以外は殆ど立ち入らない部屋。多種にわたる本が山積みになっており、様々な装置や道具が床に散らばっている。扉の近くにあるゴミ袋は破裂寸前で、少々埃っぽい。しかし空調は管理されているので息苦しくはない。
暫くの間、あの機械を作ることに熱中していた為、青年はここに来ることを懐かしく感じた。
ランクルスは、跳びはねながら真っ直ぐに目的の場所へと向かう。それは、青年が愛用していたパソコンだった。青年が複雑な計算をする時や、必要な書類をまとめる等に利用していたものだった。
ランクルスはパソコンの電源を入れ、何かを開こうとしている。その様子を青年はただ黙視している。今までコンピューターに頼っていた計算も、これからは頭で計算すれば良いから、以前よりもパソコンを使う頻度は減るかもしれない。そんなことを考えながら、彼は事の成り行きを見守った。

『これを見て下さい』
 
作業が終わったランクスルがパソコンの画面を指差した。
 
そこには、様々なデータが映し出されていた。ここ数年の世界の気象情報、近年起きた様々な自然災害、環境を大きく破壊する公害の事例、戦争がどこで起きたのか、各地方の人口の増減、出生率、絶命した生き物の種類―どれも、普通の人間やポケモンが見たら一目で理解するには難しいようにまとめられているが、青年はそのことに気づくことなく、スムーズに内容を呑み込み、暗記していく。
最初はただ淡々と内容を把握しているだけの青年だったが、次第に顔色を曇らせていく。

『信じられない…』
 
全てに目を通し終えると、彼はそう呟いた。

『ランクスル、このデータは全て本物かい?』
『はい。世界各国の公式のサイトから集めたもので、どれも機密事項ではありません。何なら、元のデータが置いてある場所も確認しますか?』

『いや、良い』
 
青年は直立したまま顎に手を当てて考え事をしている。その表情は真剣そのものだった。ランクルスによって覚醒された脳みそをフル稼働させ、見せられたデータからもう一度計算をやり直す。しかし、何度やっても結果は変わらなかった。


『このままだと、近いうちに人とポケモンが殆どいなくなる』
 
間違いだと信じたかった。無意識に相棒の顔を見つめる青年だったが、彼は首を横に振る。
『間違いありません。これは真実です。急激な環境変化と人間とポケモンによる自滅、宗教問題等、様々な因果関係が合わさって、今から約十二年後には世界が滅ぶでしょう。ここで言う世界が滅ぶというのは、人間とポケモンの数が絶滅寸前まで少なくなるということです。この星自体が無くなるのは、私達が影も形もなくなったずっと遠い未来のことでしょう』

冷静を装っていた青年だったが、あまりに壮大で現実味のない話に、流石に動揺を隠せないでいた。
深く息を吸い、息と一緒にゆっくりと不安を吐き出す。呼吸を整えることで、この戸惑う感情を調節する。気持ちを落ち着かせれば、じわじわと現実が体に浸透していく。
自らの頭が言っている。ランクルスも否定しない。歴史で学ぶような大規模な異変を体験することになるのだ。青年は、夢を見ているのだと錯覚したかった。だが、頭脳は答えを曲げようとはしない。

『僕はこれからどうすれば良い?』
 
近くにいるポケモンに語りかけたつもりはない。ただ、無意識に出てきた言葉。
だが、ランクルスは、まるで説明書を読むように答える。

『結論から言うと、この星で生きている人間とポケモンを全て救うのは無理です。どう計算しても時間が足りません。私達が不眠不休で全力を尽くしても実現不可能でしょう。ですから、人間とポケモンを厳選しなければなりません』

『厳選? 優秀な遺伝子を持つ者を選ぶということか』

『半分正解です。正確には、遺伝子に何ら異常がなく健康的な人とポケモンを集めます。ポケモンの方ですが、あまりに種類が多いため必要最低限しか集めることはできないでしょう。ですが、それは独断と偏見で決めはしません。もう少しデータを集め、将来残るべきポケモンを生態系のバランスを整えつつ選びぬきます。きちんとした形で、最初から種が繁栄されるよう、来るべき変化を万全の態勢で迎えます』

『人間はどうしようか』

『差別をするつもりはありませんが、人間に関してはあなたと同じ系統のみにしませんか? 種類を混合すると、どうしても争いが起きる確率が高くなります。できれば、宗教も統一することが望ましいです』

『―なるほど。ならば、そうしよう』
 
青年の頭が冴えていく。

『避難先も決めなければいけません。食糧問題や、計画を漏らさないことも大切です。身内にも、このことを知らせてはいけません。やることは山積みですよ』

『分かっている』
 
身内、今まで世話になった父親にも言ってはいけない。
青年は迷うことなく頷いた。

彼はあくまでも冷静だった。ぬかりない状態でその時を受け入れる為、彼は全てを投げ捨てて動くことを決意する。それは、自分に与えられた使命。他の人類から逸脱したからこそ果たさなければならない義務。彼はそう信じていた。

 
ランクスルの言っていることに一つも嘘はない。ただ、これから行われる入念な計画の唯一の例外が青年であること。その例外こそが、後に歯車の狂う原因であることをランクルスが気づくのは、全てが終わった後である。





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フミん


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