マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.3216] 水の女神・1 投稿者:NOAH   投稿日:2014/01/22(Wed) 15:48:01   86clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:グラエナ】 【描いてもいいのよ

ー ガシャ………。 ガシャ………。


大きなワインの熟成倉庫へと続く農道を歩きながら、なんとなく辺りを見回す。
ここは、シンオウ地方のズイタウン。その一角にあるのが、我がワイナリーだ。

たわわに実ったぶどうと木の実。咲き誇る色とりどりの薔薇とグラシデアの花。その間を走り回るのは、近くの川辺に住む、マリルやブイゼルたちといったみずタイプのポケモンたちと、この農場の一部に住み着いたポニータたちの群れ。朝はムックルが飛ぶ空は、今は夕方のため、ヤミカラスが飛んでいる。しかし、自然豊かな広大な景色に響く、相応しくない鉄の音は、俺が持ってる道具からではなく、その後ろから。


「クゥーン………。」

「ん?……テテュス?どうした?」

「クゥ、。」

俺の後ろを付いていた、黒く大きな、1匹のメスのグラエナが、しきりに小さく、切なさそうに鳴く。ガシャガシャとなるのは、このグラエナの、テテュスの足。右の後ろ足を頻りに上げ下げして、そのたびに少し、痛そうにする。その足は、他の箇所と違う、鉄製の義足が組まれていた。

「足、痛むのか?」

「きゅー……っ。」

「テテュス、ちょっと見せて。」

大丈夫だから、と頭を撫でて落ち着かせて、彼女が痛がってる、義足のつなぎ目のあたりを見ようと、足の付け根の毛をめくりあげた。義足が食い込んでしまっているのか、鉄と肉が擦れて赤く腫れ上がっており、よくみると血が滲んでいる。これはまずい、と直感的にさとり、ケータイを取り出した。







「義足がうまく噛み合わなくなってますね……。そろそろ替え時でしょう。新しいのができるまでは歩かせないであげて下さい。それから、傷薬と包帯をこちらから支給しますね。」

「ありがとうございます………。」

「とりあえず、義足はこちらで慎重にお取りしますね。」

ジョーイさんと、この町の少し老いた女性ドクター、それからラッキーにストレッチャーに乗せられて、治療室へと入って行った。それを見送って、ふぅーっ……と大きな息を吐いて、どかっとソファに座り込む。その横に、ロズレイドが座った。バラの花のようになってる手で、器用に飲み物を開けて飲んでいる。

「ユウ、あなたも飲む?」

「ばあちゃん………。うん。貰うよ。」

おいしいみずを祖母から手渡され、ペットボトルの蓋を取って、口に含む程度に飲んだ。ゆっくりと息をはいたことで、だいぶ落ち着いた。

「よかった…………。テテュスの足、なんとかなりそうで。」

「えぇ。本当にね。」

「……ねぇ。テテュスの名前ってさ。誰が決めたの??」

「おじいさんよ。…でも、それがどうかしたの?」

「うん………。気になったことがあってさ。」

手に持ったおいしいみずを見つめる。ふと、そこに突然ぬっ、と顔が覗き込んできた。驚いてみた先にいたのは、ポニータだった。左目に大きな傷があった。

「ポニータ、だーめ。……ごめんなさい。」

「いえ。……お大事に。ポニータ。」

赤い炎の鬣をふわふわと撫でたあと、ポニータとそのトレーナーを見送った。もう一度だけ、おいしいみずを飲んだ。

「………テテュスってさ。水の女神の名前なんだってね。」

「……そうみたいね。」

「ねぇ。ばあちゃん。」

テテュスになにがあったのか。詳しく教えてほしいな、俺。
爪先を紫色に染めた祖母に目線を送る。

ここ、シンオウ地方には、グラエナはおろか、ポチエナは生息していない。祖父母はともにここ・ズイで生まれ育った人で、ホウエンにもカロスにも行ったことが無い。なのに、うちの農場にはグラエナがいて、しかも相当の美人らしい。ジョーイさんや、ドクター。果てはこの町で育て屋さんをやってる人も口を揃えてそう言うのだ。

主にコンテストなど、ポケモンを魅せることを生業としたトレーナーが彼女を見かけようものなら、義足であることも興味を惹かれるが、その毛並みの良さにも心惹かれるだろう。それほどまでに、このワイナリーの、ひいてはズイタウン全体で人気の高いテテュスだが、彼女の過去を知ってる人間は、祖父母だけだ。

「ね。……教えてよ。俺も、まだ半人前にすらなってないけど、いずれはテテュスのトレーナーになりたいし。」

俺だって、ワイナリーの一員だから。そうは言ってみるものの、祖母は口を開かない。
ばあちゃん、と、もう一度口を開いたところで、治療が終わった合図がなる。扉が静かに開き、ストレッチャーに寝そべったまま、テテュスがやってきた。

「おかえり。テテュス……痛かったでしょ?よく頑張ったわ。……さあ。帰りましょう。」

「きゅー……。」

「………。テテュス、お疲れ。」

結局、何も聞けなかった。が、俺が望んでいた彼女の過去は、思わぬ形で聞けることになることを、この時はまだわからなかった。


主人公
ユウ:ズイタウンのとあるワイナリーで働く青年。25才。手持ちはロズレイド♂のディオの他に、もう一体いるもよう。

テテュス:主人公が働くワイナリーの看板娘ならぬ看板ポケモンであるメスのグラエナ。右後ろ足は義足になっている。今作のメインポケモン。名前の由来は、古来の水の女神かららしいが………。

ユウの祖父母:ズイタウンでワイナリーを経営する老夫婦。テテュスを自分たちの子どものように可愛がっている。


- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー