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  [No.3276] 誓いのブーケ 投稿者:焼き肉   投稿日:2014/05/22(Thu) 20:10:55   94clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:ポケモン不思議のダンジョン】 【マグナゲートと∞の迷宮】 【ミジュマル】 【ピカチュウ

 こんばんは。こちらに投稿させていただくのは初めてになります。
 マグナゲートクリア記念に主人公とパートナーで書きました。



 苦楽を共にしてきたミジュマルが帰ってきた。サザンドラ曰く、あなたの友達が帰ってきたのは、あなたと一
緒に、この世界に居たいと強く願ったからだということを聞いて、また同じことを本人からも聞いて、二度嬉し
かった。

 一度は世界のバランスを崩さないため、帰ってしまったけれども、最後にはずっと一緒にいてほしいという、
自分との約束を果たしてくれたのだ。

 だけど時々、少しだけ不安になった。また世界の法則が崩れてしまって、ミジュマルがこっちの世界に来れな
くなってしまったら。平和すぎてそんなことを考えてしまうのだ。

 もちろんそうなったとしても、自分の気持ちはずっと友達のそばにあるつもりだし、友達も同じように思って
くれていたからこそ、またこっちに来れるようになったのだろう。

 あんまり変なことを考えていると、愛想を尽かしてここを出て行ってしまうかもしれない。ケンカになってし
まうかもしれない。それはいやだと、わらを敷き詰めた寝床の中、ひとりでじたばたを繰り返す。カミナリ尻尾
がもじたばたしていた。

 その夜は雨が降っていた。ザアザア降り続ける雨を、じたばたし疲れたピカチュウである彼は、長い耳をひく
つかせながら静かに聞いていた。ナイスな提案を耳にしたのは、じたばたを繰り返して、いつの間にか眠りこけ
て朝になって、宿場町に行ってからだった。

 ☆

(プレゼント?)

 プレゼントというのはもちろんチラーミィのギフトでもなければ、博打みたいな技のことでもなく、ごく普通
の贈り物のことだった。それも冒険の役に立つスカーフでもない。ピカチュウが自分に差し出してきたのは、い
わゆるブーケというものだった。

「ついさっき宿場町にやってきたっていうポケモンに聞いたんだ。ずっと一緒にいたい人には、これを渡して、
ずっと一緒にいようねって約束をするんだって」

 そういう風習があるのか、と聞くと、ピカチュウはううんと首を振った。

「ボクも聞いたことない。ボクに教えてくれたポケモンも、覚えがないのに何故かそんな感じの風習があったっ
てことだけは知ってたんだって」
(覚えがないのに、知っている?)

 首を捻った。そしてすぐに思い至る。この世界を救うべく呼ばれたのは自分だけではない。他にもたくさんの
人間が、世界を救うためにやってきて、打ちのめされ、元の世界に戻された。その際に関わったポケモンたちか
ら消えたはずの記憶のほんの一部が残って、こうしてピカチュウに伝えられたのかもしれない。

 とすると、ピカチュウが聞いた話はいろんな前提要素や詳細が欠落している可能性がある。ブーケと、ずっと
一緒にいようという誓い。とくれば・・・・・・綺麗な白いドレスや教会、神父さんと次々関連ワードが浮かび
上がってくる。そこから導き出されるのは言うまでもない、結婚式だ。

「だからね、これをキミにプレゼントしようと思って。ずーっと一緒にいよう、って約束はもうしちゃったけど


 自分の知っている結婚式と、ピカチュウの言っている行為にはだいぶズレがある。だけどそこに悪意がないの
は、ピカチュウの顔を見れば当たり前のようにわかることだ。だからそこに関して何かもの申すつもりはない。
だが、

(そのブーケって・・・・・・どう見てもドテッコツに開拓をたのむときに使う、材料だよね?)

 見間違えようがない。何度も何度も、自分とピカチュウは仲間と一緒に依頼を成功させた際、いろんな報酬と
一緒にそれを受け取っていたのだから。

 この世界にだって、元々いた人間界にも負けないくらいの美しい花はいっぱいあるし、事実ドテッコツのサー
ビスで、自分と友達の家の周りにはキレイな花が咲き乱れている。

 しかしブーケと聞いて、彼が思い至ったのは工事の材料である、わかばのブーケであったらしい。あるいは、
ポケモンの世界において、ブーケ=花束という方程式は成り立たないのかもしれないが・・・・・・。

「ええ!? ブーケってドテッコツの開拓の材料のことじゃないの!?」

 案の定指摘をすると、彼はショックを受けたようだった。やっぱり天然であったらしい。わあどうしよう、と
あたふたし始めたのがなんだか面白かったが、素直でまっすぐな気質である彼がだんだん涙目になってきたので
、慌ててフォローをする。

(これはこれで、お花みたいでキレイだし・・・・・・何よりも、ピカチュウの気持ちがうれしい)
「ご、ごめんね・・・・・・ボクも聞きかじりの知識だったから・・・・・・でも、受け取ってくれて嬉しいよ


 気持ちを伝えて、ミジュマルがピカチュウの手からわかばのブーケを受け取った、その時。

 しばらく倉庫にしまっていたせいで、劣化していたのだろうか。ブーケを束ねていたヒモがやれやれ疲れたぜ
と言うように唐突にちぎれ、花のような形をしたそれが、いっせいにばらけ、手のひらからこぼれ落ちる。

「うわわわわっ!!」

 ばらけた植物を慌てて受け止めようとしたピカチュウが、雨上がりでぬかるんだ地面に足を取られ、すべって
転んで見事仰向けに寝転がり、お望み通りに体全体で、落っこちた植物のいくつかを受け止めた。

(だ、大丈夫!?)
「う、うん、平気」

 こぼれ落ちたブーケはひとまず置いといて、ミジュマルはすっころんだピカチュウを引っ張り起こした。自慢
のカミナリ尻尾も背中の虎みたいな模様も、泥だらけ。

「うう、カッコ悪いなあ・・・・・・」
(・・・・・・ピカチュウ)
「あ・・・・・・ミジュマル!?」

 ミジュマルは黙って、辺りに散らばったブーケだった植物を一つ一つ拾い集めた。手が泥だらけになるのも構
わず、ちょっとも取りこぼしのないよう、丁寧に。

 全部拾い集め終わった頃には、ミジュマルはピカチュウ以上のどろんこまみれになっていた。どろんこまみれ
なのに、雨上がりの晴れた空から落ちる光は、ミジュマルをキラキラと輝かせていた。何よりも、泥まみれのブ
ーケをかかえているミジュマルの表情は、この上ない財宝を手に入れた時みたいに、誇らしげだった。だから、
ピカチュウも決して卑下することなく、冗談混じりに話す事が出来た。

「ゴメン、泥だらけで汚くなっちゃったし、カッコ悪いし、いいとこないよね、ボク

 ──いいんだ。ピカチュウがくれたってことが一番大切で、キレイかどうかなんて、どうだっていいことなん
だから。

 どろんこまみれで立っている二匹の頭上に降り注ぐ光は、二匹を祝福しているようだった。

 照れたように赤いほっぺを掻くピカチュウの胸元には、ブーケがばらけ落ちたときにそうなったのか、胸に差
す形で、小振りな一本の若葉が黄色い体毛の中に収まっている。

 ピカチュウも、指摘したミジュマルでさえも知らない。ブーケを贈ることそのもの、贈った相手にブーケの花
束から一輪、胸に刺して返すことが遠い昔の、「ずっと一緒にいる」という誓いの証であったこと。

 知らないまま、想い出のブーケは二匹の家に大切に飾られて、
 二匹は今も、
 これからもずっと、一緒にいる。 


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