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  [No.3319] 眠れる星 投稿者:焼き肉   《URL》   投稿日:2014/07/07(Mon) 20:47:50   95clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:七夜の願い星ジラーチ】 【マサト

 七夕なので、映画『七夜の願い星 ジラーチ』で二本立てです。



 へとへとになってやっと辿り着いた町では、七夕祭りがやっていた。来る前は町についたらポケモンセンター
で休もう、と四人(と一匹)で満場一致だったのが、祭りがやってると知るや、全員で元気を取り戻し、会場を
見て回ることになった。

 大きな網ですくうトサキント掬いに悪戦苦闘しているカップルや、かわいいピカチュウやピチューのお面を眺
めているうちに、マサトとハルカはサトシたちとはぐれてしまった。おねえさーんと目をハートにして走って行
くタケシをピカチュウとサトシが追いかけていって、戻ってこないのだ。

 この人混みのせいで、いつもタケシの耳を引っ張ってたしなめているマサトも、うまくタケシを止めることが
出来なかったのである。最初は二人で探していたのだが、何しろこの人混みでは行きたい場所に移動するのも一
苦労、すぐに諦めて祭りを楽しむのに専念することにした。

 ポケモンセンターの位置は事前に調べて全員把握していたし、適当にまわったところで戻ればまた落ち合える
だろうという判断である。

「マサト、はぐれないように手を繋いでなさい」
「やめてよ、もう子どもじゃないんだから」
「あんた小さいんだから、この人混みじゃ危ないわよ」
「だいじょうぶだよ」

 子ども扱いされたのが気に入らないのか、マサトはプイッと頬を膨らませて、先に行ってしまう。勝手な弟の
行動に、ハルカはため息をつく。そういうところが子どもっぽいというのを、果たして弟は理解しているのだろ
うか。

「もー、手は繋がなくてもいいけど、勝手に歩いてっちゃダメよー」

 仕方なく人混みをかきわけながら、マサトの後を追う。
 幸いマサトは少し離れたところで立ち止まっていたので、苦労はしなかった。

「見ておねえちゃん、すごくおっきい」
「ホントだ」

 マサトと同じようにハルカが空を見上げると、笹というよりは竹のような大きさの笹の枝がいっぱいに広がっ
ていた。

 笹は、折り紙で作ったわっかや、よくわからないヒラヒラした飾り、スイカ、折り紙の織姫彦星さまをいっぱ
いにくっつけて、サラサラ揺れている。織姫と彦星をイメージしているのだろうか。飾りの中に紛れた短冊は、
ピンクと水色で統一されている。

 笹は商店街の軒先に括りつけられていて、店の主人らしい男性がやってきて、ハルカ達に短冊を差し出した。

「お嬢ちゃんとボウズも、一枚どうだい? 今年の七夕はいい天気だから、織姫と彦星も願いごとを叶えてくれ
るかもよ」
「ありがとう、おじさん。マサトもやったら?」
「うん」

 用意されている台の上に短冊を置いて、ハルカは何を書こうかと悩んだ。

 後数キロ痩せたい?
 今日のご飯はシチューがいい?

 疲れているせいだろうか、なんだか直接的な願いばかりが浮かんでしまい、首を振る。マサトの方を見ると、
もう書き終わったらしく、既に短冊を飾りにくくりつけていた。

「マサトは何てお願いしたの──」

 何気なく弟の手元を覗きこんで、ハルカは周囲の音が一瞬、全て消え去ったような錯覚にとらわれた。もちろ
んそれは気のせいで、すぐに祭りの騒がしい喧騒が、焼きトウモロコシやあまい綿菓子の匂いとともに運ばれて
くる。

「……マサト」
「うん、わかってるよ、おねえちゃん」

 なんと言ったらわからないハルカにマサトは振り返って、笑ってみせた。
 涙のひと粒もなかった。
 代わりに、まだまだ子どもの手が、ハルカの手に重ねられた。

「おねえちゃんが短冊書きおわったら、戻ろっか。ボクもうお腹すいちゃったよ」
「……そうね、じゃあ戻ろっか」
「短冊はいいの?」
「わたしは、別にいいかも。すぐに叶えたいってお願いもないし」

 短冊とペンを規定の場所に戻して、ハルカは弟の手を握る。さっきみたいな抵抗はなかった。

 自分のポケモンコーディネーターになりたいという願いは、これから努力すればいつかは叶うものだ。

 だけどマサトの願いは。

「サトシ達もまだ戻ってるとは限らないし、ちょっと屋台でなにか食べていこっか」
「ええーっ、もう夕飯の時間だよ、いいの?」
「たまには、ね。一個だけならだいじょうぶよ」
「やったあ! 何にしよっかな」

 ハルカに言ったように、マサトにもわかっていた。久しぶりに会えた想い人に夢中な織姫と彦星は、地上の人
間の願いなんて知ったことじゃない。

 願いを叶える星はマサトの思い出の中だけで微笑んで、遠い自然がいっぱいの土地で眠っている。



 かなわないちっぽけな願いを乗せた水色の短冊が、大きな笹の枝の隅で、ヒラヒラとそよいでいた。



 ──ぼくを見守りながら眠っている友達に、もう一度逢えますように。  


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