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  [No.3479] 月とポテチで二重唱を 投稿者:かきのたね   投稿日:2014/10/31(Fri) 17:06:52   82clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:はじめまして】 【何してもいいのよ

今夜は満月。
真ん丸なお月様が照らす道を私は一人で歩いている。
自宅まで徒歩20分の道のりを歩いているのは、単にバスの終電に乗り遅れたからだ。これだから田舎は。
バスが駄目ならタクシーに乗ればいいじゃない。いやいや、一人暮らしの社会人一年生には財布の紐は緩められぬ。
そう思いながら途中コンビニさんにちゃっかり貢ぐ私。
腹の欲求に素直で何が悪い。

川沿いの舗装された土手道を歩く。
左手側から聴こえるコロコロという虫の音。草むらが生い茂り、キュウコンの尾のようなススキが垣間見える。
右手からはジジジ・・・と疲れ果てた街灯の音が響く。小さな蛾ポケモンがわらわらと光に群がっていた。
秋も深まったなあ、高々十数分歩いたのに汗も出てこない。
周りを見渡し、右手のビニール袋からアルミ包装のジャンクフードを取り出す。灯りの下に行き、袋のつまみを引っ張り開ける。子供の頃はこの開け方が出来なかった。パンッと音がはじけ、香ばしいジャガイモの香りが広がる。
これこれ、この香りがたまらん。
食べ歩きは大変宜しくないが、残業帰りである。この夜更けでおまけに駅から大分離れた。人通りの少ない土手道である。怒る人なんていない。
腹の欲求に忠実で何が悪い。

ポテチ。何となくつまんだまま空を見上げる。
小さい頃、満月を見てはポテチみたいだとほざいていた。今こうして目の前で並べてみても、全く似ても似つかない。子供の発想とは面白いものである。
あの頃が、懐かしい。

社会に出て半年。
敷かれたレールの上を歩いてきた22年の歳月を経て私が手にしたものは、学歴という名の箔とくだらない嫉妬から身を守る鎧だけだった。
学校という小さな世界から社会という大きな世界に出て知ったのは、自身の視野の狭さと経験の少なさ。
それでも私は歩き続けなければならない。

先日、久しぶりに同窓会があった。
盆休みということで中学の同級生と集まったのだが、私同様大卒で社会人一年生の子もいれば、浪人や院生で学生をやっている子もいた。しかし大半が高卒や専門、短大卒で既に社会人経験のある人達ばかりだった。
私が知っているのは、中学の時の彼らだ。もちろん同じ高校だった子もいるが、同じ中学だった子とは三年間で一度もクラスが一緒になったことがない。
卒業して七年。
思い出話に花咲くものの、垣間見えるのは成人した彼らの姿。
クールになった、ポーカーフェイスになるのは意外だったなどと皆から言われたものの、中身は良くも悪くも子供のままである。
あの頃と変わらないのは、自分だけだった。

あと少しで住宅街に入る。入ってすぐ通りを曲がれば自宅のあるアパートだ。
明日も早いから本当は寄り道している場合ではなかったが、こうでもしなければやっていられないのだ。
ふう、とため息つきながらふと足元の白いコンクリート道を見た。

街灯に照らされて出来た影。
二ヤリ、と笑う。
あれ、私こんな顔だったっけ。吊り目じゃないし口は耳まで裂けていないぞ。そもそも裂けていたら人間じゃない。それにどうして角が頭から生えているんだ。ちゃんと髪はセットしてあるんだぞ。
ケケケッと甲高い声が耳を貫く。
影が、笑っている。
待てよ、冷静になって考えれば影に顔がついている時点でおかしくないか。それに声帯がないのに何で影から声が出せるのか。
しばらく硬直した後、最近小耳にはさんだ噂と、都市伝説、ついでに高校の生物の授業内容が頭の中を一気に流れた。
“隣町で一人で夜歩いていたら、突然笑い声が聞こえてきた、影が勝手に動き出したとか”、“満月の夜、影が突然笑い出す”、“ポケモンの中には、人や他のポケモンの影に出入り出来るものもいます”
ああ、あれだ。
妙に納得して一人で頷くとケタケタ笑う影に向かって、君、ゲンガ―でしょと問う。
ピタリ、と急に笑い声が止まった。
シン……――。
あれ、正体言い当てるとまずかったっけ。何かの昔話で妖怪か何かの正体を言ったら、相手が逃げて行ったとかあったから言ってみたのだけれど。
疲れた頭をフル回転させ、記憶を探ってみる。だが、正体を言い当てたらまずかったという様な話は見当たらない。
そもそも言い当てた人間が無事でなかったらそんな話残るわけないよな、はっはっはと頭の中の私が笑って宣う。しかも残らないくらい、語り継げない程の無事でなさと言ったら、それはもう食われるとかそういった意味では。
――まずい、これはピンチだ。
そう認識した瞬間、足元から、指先から、サァ…と冷たくなっていく。
ぶるり、と寒気がする。ドクッドクッと耳の奥で音が響く。
どうしよう、しまった。
それしかない。それ以外頭に浮かんでこない。
逃げ出したいが、身体が動かない。かなしばりでは無かろう。指先は動くし、身体が震えている。声は、喉の奥で詰まったようだ。
よくドラマで車に轢かれたりするシーンがあるが、いつも逃げればいいのにそのまま突っ立って事故に遭っている。あれを見るたび、どうして逃げないのか、逃げればよいものをとつくづく思っていた。まあ話の都合上仕方ないのかもしれないが。しかし今、全力で謝罪したい。人は急にピンチになると、すぐに身体を動かすことが出来なくなると身を以て知ったのだから。いや、今さら知ってもという感じではあるが。
走馬灯の様に、頭の中をぐるぐると何かの映像が浮かび始める。
ああ、もう駄目なんだなぁ。
脳裏をよぎるのは数か月前まで一緒に暮らしていた親の姿。現在居候している薄桃色の鞠玉。親しくしてくれた友人たち。
ごめんなさい、何も恩返し出来ませんでした。ごめんよ、君の好きなお菓子買ったのに食べさせてあげられない。ごめん、こんな私と仲良くしてくれて。
ああ、こんな事ならポケモンをちゃんと育てていれば良かったな。
世間は物騒だし、野生ポケモンが街中では全く出ないわけではないから、せめて護身用に育てれば良かったのに。私は大丈夫という根拠もない自信のせいで今まで来てしまった。
一応唯一の居候も何か技名を言えば何かはしてくれるだろう。しかし、会社の規定で社内ではポケモンはボール内が必須。あの子はボールを嫌うので、番犬代わりに留守番役をあてがわせた。だから、今手持ちにいない。
動こうとしない私を見て、シャドーポケモンは何を思ったか、パチリ、パチリと目を瞬かせた。
あ、意外とかわいいな。
思わずそんなことを思ってしまった。人間、救いが無いと分かるとどうでもいい事を考えてしまうのかもしれない。
そんな風にほんの一瞬、一瞬とはいえ気を緩ませたのが、まずかった。

べろーん。
影の舌が伸びた。
ついでに顔も横に伸びた。
……待て、私はこんな顔じゃない、というか体型も変わってないか。何このラグビーボール、やめて、せめてボーリングのピンにして。ちょっと、私の影を福笑いにしないでよ、何その顔、よく見たらかなりウケる。
はっはっはっ!
ケケケッ!
ようやく出せた声は、笑い声だった。

ゲンガ―が私の腹筋に攻撃をしかけて、私が息切れした頃、気が済んだのか影をうねうねさせると、最初に見た顔つきの影に戻った。
ひとしきり笑ってゼイゼイ言ってるものの、苦しいわけではない。むしろすっきりしている。
ああそうか、最近笑顔を忘れてた。
社会に出て、いやその前から、多分高校に入ってからずっと。受験勉強して、資格勉強して、良い成績残して奨学金貰って。我武者羅に必死で周囲の視線から身を守るための鎧まで作って。
本当、息が詰まっていたんだ。


今夜は満月。
真ん丸なお月様が照らす道を、私は歩いている。またバスに乗り遅れたからだ。
でも一人じゃない。隣には夜闇に紛れて新しい居候がいる。帰り道で時々私の影に入っては、変な顔をして、笑いの二重唱。

あれから一か月経った。仕事が出来るようになったわけでもなく、親しい同僚が出来たわけでもない。相変わらず目の前の仕事をこなし、新たな仕事を覚え、休憩では同僚達の聞きたくもない愚痴を聞かされる毎日だ。
それでも、変化はあった。
周りから、明るくなったと言われるようになったのだ。ただ単にこの環境に慣れただけかもしれないが。
まだまだ自分が変わらなければならないのだろう。
先は、長い。

そういえば、新しい居候と元々の居候について話していなかった。
あの日、帰宅した私を出迎えた居候は、突如現れた濃紫の影に驚いた。そして、真ん丸で大きな瞳といわれる両眼をこれでもかとかっ開くと、ブクブクとその薄桃の身体を巨大化させた。威嚇である。
やけにファンシーなポケモンを、とよく友人からからかわれたが、この威嚇を見たら誰もが黙った。というより逃げた。ポケモンならぬバケモンである。私がこの子一匹で生活し、番犬代わりにしていたのは、こういう性(さが)だったからだ。
種族によって性格が大体決まっているものも多いが、種族柄割と大人しいはずのこの子は何故かこうだ。人も色々、ポケモンも色々だろう。新しい居候のように。
薄桃色のバケモンを見た濃紫色のポケモンは、パチクリと瞬きすると、べろろんと舌を出して変顔をした。
どうやらにらめっこだと思ったらしい。その様子に私は正直どっちがゴーストタイプだと頭を抱えたくなった。
玄関先で行われたにらめっこはすぐに軍配が上がった。
ブクブクと膨らんだ居候は、グブホゥアッとフェアリータイプにあるまじき声を出すや、じきに元の大きさに戻った。長く一緒にいた分ツボも同じだったのだろう、不気味に目を細めブフウと笑い声の様な声を出すと、私をちらりと見た。そして身体に対して小さ過ぎる手でちょいちょいちと手招きすると、奥へと戻っていった。
にらめっこを笑って見ていた私はシャドーポケモンと目を合わせ、二ヤリ。一緒に玄関を上がった。
こうして居候は、二匹になった。

帰り道の途中、寄り道をする。
真ん丸なお月様を見ているうちに、ポテチが食べたくなってしまったのだ。
何だかポテチ、食べたいねえ。
そうつぶやくと、濃紫の居候はぺろりと舌なめずり。
よし、給料日だし、行くかコンビニ。ポテチの他に、そうだ、あの子の大好きなプリンも買っていこう。友人に話したら共食いかと言われそうだけど。
ない首を長く伸ばして待っている薄桃の居候の為に、三個パックのあのお菓子、皆で仲良く分けましょう。
明日も早いから、あんまり遅くまで起きられないけど。
ポテチとプリンの入った袋を抱えながら。
明日も笑顔で頑張ります。

<了>

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はじめまして。
四年前にマサポケを知り、三年前にはじめてポケモンの二次小説を書きました。それを大幅にリメイク+手直ししたものです。
未熟者ですがよろしくお願いします。また皆様の小説を読むのを楽しみにしています。


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