「博士が言うにはね、カロス地方にはハロウィンかぼちゃそっくりのポケモンがいるんだって!」
秋も半ばに差し掛かった頃合いに、ドタドタバタバタとヒュウの家にやってきた彼の幼なじみの少女、メイは、お邪魔しますも久しぶりも通り越して、いきなりそんなことを言った。
玄関先で立ったまま尚も続けそうな妹分を手で制して、取りあえず上がれよと手招きをする。
落ち着かないメイを半ば強引にテーブルに座らせて、お茶うけのクッキーはまだ残っていたかとハリーセン頭を使って思案する。
「もちろんその子たちはお化け……ゴーストタイプでね、あと私のジャローダのツルと同じ草タイプでもあるんだって。カボチャがお化けになったポケモンだかららしいけど」
ムシャムシャバリバリモグモグごっくん。
よっぽど面白いものを見つけた喜びが大きいのか、クッキーの箱の半分くらいをでんこうせっかの速さで片付けながら、仕入れた情報をヒュウに向かってまくし立てる。
子どもとメイはおやつを与えておけばおとなしくなると相場が決まっていたはずなのに、いつこの確定事項は崩れ落ちたのだろう。
空腹のガーディにポケモンフーズをやるように、メイに残りのクッキーを押し付けながら、ヒュウはあきれたように言う。
「で? そのポケモンがどうかしたのか?」
「もうすぐハロウィンじゃない、だから、もしその子たちがいたら、お化けの日がとってもにぎやかにならないかなーって思って、ヒュウちゃんに相談に来たの」
「オレに相談してどーすんだっ! こういうのはそれこそ博士とかベルさんみたいな人達の分野だろうに」
「だって今までずーっと、困ったことがあったらママより先にヒュウちゃんに相談してたし」
「……そうかよっ!」
なつきの悪いポケモンよろしく、ヒュウはそっぽを向いた。
まあハチャメチャな妹分に頼られるのは近所のお兄さんとして不本意ではない。
だが自分で言ったとおり、専門外のことで頼られたところで、導き出せる回答はたかが知れている。
「つってもなあ。GTSもまだまだ、カロスと交換出来るほど発達してないんだろっ? 少なくとも近日中にどうにか出来るポケモンじゃないぜっ」
「だよねー。レンタルでもどうにもならなそうなレアポケモンだもん、こっちじゃ。もっと早くに知ってたら、カロスに出かけても良かったんだけど」
背中の花が枯れたフシギバナみたいに、メイの体がテーブルに伏せる。
だがすぐにシャキン! と背筋を伸ばし、子どもがエネルギーを補給するように、またムシャムシャバリバリとクッキーをかじった。
「そんならさー、デスマスとかゴーストとか、呼べそうなゴーストポケモン集めてさ、みんなでハロウィンパーティしようよ」
「立ち直り早いな!」
「ねーねー、いいでしょ! 妹ちゃんもレパルダスも呼んで、みんなで楽しくやろうよ! かぼちゃポケモンは無理でも、かぼちゃのマスクは用意したし」
「いやいや! どっから出したんだよ、それっ!」
どこからともなく取り出したかぼちゃマスクをかぶってお化けに(顔だけ)変身したメイに、ヒュウは鋭いツッコミを入れる。
マスクから頭のお団子が飛び出しているのが謎だった。わざわざ穴を開けておいたのだろうか?
まあでも、腹の中ではメイの提案に乗ってやってもいいかな、と思い始めている自分がいることにヒュウは気がついている。かぼちゃのポケモンがいなくたって、それにばかり拘らず、メイみたいに出来る範囲で楽しむのはいいことだ。もしかしたらこのバカ騒ぎを聞きつけて、かぼちゃポケモンとやらが姿を現すかもしれない。
耳を澄ましてみる。お化けのやってくる足音が聞こえてくるような気がした。