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  [No.3518] 救世主の条件 投稿者:WK   投稿日:2014/11/25(Tue) 20:35:02   44clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

あてんしょん!

 ※オメガルビー、アルファサファイアの終盤、殿堂入り後エピソードのネタバレ含みます。
 ※ダイハルです 多分
 ※苦手な方はバックプリーズ


















 彼女に出会った時から、強い光を放つあの目が印象に残っていた。色合いは深く、月の石が放つあの鈍い灰色によく似ている。初めて会った薄暗い洞窟の中でさえ、輝きを失うことのない光。
 その後も度々各地で会い、その度に少しずつ色を変えていく。宝石に例えるならオパールだろうか。光の性質毎に色を変えるアレキサンドライトでもいい。旅をして経験値が貯まるごとに、彼女の目の光も少しずつ変わっていく。
 あの異常気象の一件では、とんでもない物を背負わせてしまった。彼女は言っていた。大人はずるいと。自分達が引き起こしたのに、自分達ではどうすることもできない。じゃあ、私が行くしかないじゃないと。
 あの目ではっきり見つめられ、それを言われると後ろめたさもあってその場にいた大人達は全員黙り込んでしまった。僕もその一人だった。
 なんて、と彼女は笑って言った。
「別に責めるつもりはないんだよ」
 その声が若干震えていることに気付いたのは、どれくらいいただろうか。瞳にぼんやりした光の溜まりは見受けられない。こんな状況でも、気丈に笑って軽口を叩いて見せる。
 十代前半の子供ができる表情ではなかった。パン! と頬を叩いて祠の入り口を見据える。
「私がやらなきゃ、誰がやるの。こんな所で愚痴ってる暇なんてないんだよ」

 祠の扉が閉じてから、僕達はルネシティの人達の避難に当たっていた。人々を安全に導きながらも、視線は自然と祠の方へと行ってしまう。
 ふと見ると、彼女のお隣兼ライバルの少年も焦り顔で向こうを見つめていた。それをしながらも避難経路への言葉と手の動き、そしてポケモン達への指示は抜かりない。器用なことだ。
 最近の子供は、皆器用なのだろうか。
 雨風が酷い。彼女はもう、カイオーガと共にあの場所へ向かっただろうか。アクア団が開発したスーツを着用したとはいえ、彼女の体力と精神力が耐えられるだろうか。
 嫌な考えばかりが頭に浮かび、僕は頭を振った。言ったじゃないか。僕達は僕達にできることをする。そして彼女を信じると。
 君の言う通りだ、と僕は心中で呟いた。大人はずるい。そして勝手だ。君達子供を導かなくてはいけない立場なのに、逆にとてつもなく重い荷物を背負わせてしまう。それはホウエンの――いや、世界中の人々とポケモン達の祈りと願い。どうか世界を救ってくれ、この異常気象を止めてくれ。
 その中で君の存在を知り、君の無事を願っている人間はどれくらいいるだろうか。君のご両親は何処まで知っているだろう。
「―――」
 僕が呟いた名前は、雷の音に掻き消された。

 一緒にいたメタグロスが、不意に空を見上げた。どうした、と言う前に人々の間から声が上がる。
 祠より少し離れた――海上の方角から天に向かって上って行く一つの巨大な光の柱。そして何事も無かったかのように晴れ渡る空。
 さっきまで暴風雨の中心だったのが嘘のようだ。しかし僕を含全ての人間の服は水で重たくなっている。髪から雫がしたたり落ちて、地面に落ちた。
 秋特有の静かで優しい太陽が、ルネシティに降り注いでいる。雲一つない、穏やかな天気だ。
 助かった、と人々の中から声がした。俺達は助かったんだ、あの子のおかげだ、と。
 そこでハッとした。体は水と冷えでひどくぎこちなかったが、それでも必死に走って祠へ向かう。
 こんな状況でも祠はヒビ一つ入らず、ただそこに鎮座している。超古代ポケモンを世に出さないために造られたようだ、と誰かが言っていたことを思い出した。
 彼女が入ってから、既に一時間以上が経過していた。
 あの子は――。
 
 ギギ、という音がした。祠の入り口が少しずつ開かれる。
 待ちきれなくなって外から開けると、鈍い赤が視界に入った。一瞬血かと思って青ざめたが、違った。
 ぐっしょり濡れた、彼女のバンダナだった。
 バンダナだけじゃない。靴、上着、髪。そしてパンツとレギンスからはとめどなく雫がしたたり落ちている。腕に抱えているのは持って行ったアクア団のスーツ。左手には、中身が入ったハイパーボール。
「ハルカ!」
 少年が戸を開いた。途端にふらふらと外へ出て来る彼女。ボールが手から離れて、コロコロ転がった。それを拾い上げたマグマ団のボスの顔に、驚愕の色が浮かぶ。
「カイオーガを……」
「死ぬかと思った」
 外見とは裏腹に、その声はいつもの調子だった。さっき聞いた震えはない。
「すごいね。伝説のポケモンって。うちのラグラージが一発でやられるんだもん、流石にびびったよ」
 それでも、その”伝説のポケモン”はこうしてボール内に大人しく収まっている。
「人が制御できる物なんかじゃないんだ。どうしてそれを、最初に気付かなかったんだろうね」
「……」
「ま、どうにか世界滅亡までは行かなかったみたいだし、よかっ――」
 彼女の体が倒れこんだ。まるで、マリオネットの糸が切れたかのように。
 抱き留めた彼女の体は、とても冷え切っていた。当然だ。これだけ濡れているんだから。
 それでも安心できたのは、心臓の鼓動がきちんと伝わって来たからだ。


「……どうして、私なんだろう」
 もはやこうして会って会話するのは、日常茶飯事となってしまったようだ。
 巨大隕石の一件から一週間後、彼女から会って話がしたいと言われた。一目があると落ち着いて話せないと言われた僕は、デボンの一室に彼女を連れて来た。
 お茶請けのコーヒーとクッキー片手に、彼女が切り出したのはそんな言葉だった。
「カイオーガをゲットしたまでは良かった。普通、伝説のポケモンの背中に乗ることも、ゲンシカイキと呼ばれてる姿を間近で目撃することも、
 ……ましてや、捕獲するなんて多分普通はありえないことだから」
「いい経験になった……そう考えたのかな」
「まあ。色々あったけど、一生に一度くらいはこういう目に遭ってもいいかなって、考えられるようになったの」
 強い子だ。元からそうなのか、それとも僕達大人がそうさせてしまったのか。
「でもさ、流石に二回目となると……」
 空の柱から戻った後、彼女は僕に話してくれた。ヒガナのこと、流星の民に纏わる昔話、自分が持っていた隕石の欠片がレックウザに力を与え、最終的に隕石を破壊する手助けになったこと。
「あの隕石は、もうずっと前から私が持ってた。故意に手に入れたわけじゃない。偶然手に入れたの。
 それがまさか、あんなことになるなんて……」
「……ハルカちゃんは、それをどう思うのかな」
「偶然も度を超すと、必然になると思う。私の場合、それなのかもしれない」
 コーヒーの表面に、雫が落ちた。ハルカちゃん、と呟いた。
 
 ――彼女は、泣いていた。

「怖かった」
「……」
「カイオーガの背中に乗った時も、レックウザの背中に乗った時も――。手持ちで深海へ潜ったり、空を飛ぶのとは全く訳が違う。同じポケモンなのに、場合が違い過ぎる。
 ゲンシカイキに世界滅亡、宇宙に隕石の破壊」
 どうして、と彼女が呟いた。

「どうして私なの!? 強いトレーナーなら、他の地方にだって沢山いる! それが、何でその場にいたとか、それを持ってるだけで勝手に選ばれて……。
 私、普通にトレーナーやってたかった! 普通に旅をして、人と出会って、ジム戦して……。
 普通に、生きていたかったよ……」

 僕は彼女の隣に座った。少し躊躇ったが、そっと彼女の手を握った。
 彼女はその手を振り払うこともせず、ただ静かに泣き続けていた。


 この世界に、神様と呼べるべき人――いや、ポケモンかもしれないが――。
 そんな奴がいたら、一つだけ聞いてみたい。
 
 世界に危機が迫った時、貴方は何を持ってして救世主を選ぶのか。
 ポケモンを愛する心の持ち主か。強い精神力を備えた者か。大きな夢を持つ人間か。
 あるいは、それを全て兼ね備えた者か。

 だが、選ばれた人間がどんな気持ちで救世主となるのか……。
 貴方は、考えたことがあるのだろうか。

―――――――――――――――――
 一昨日のオフ会で書くと宣言したから書いてみた。
 初心に戻って書いてみた結果がこれだよ!

 書き終えたのは昨日だったのにネットの調子が悪くて今日アップになりました。すみません。
 
 実を言うと初めてポケモンではまったCPはダイハルだったりします。もう八年近く前のことです。
 ノマカプ読んでたのはごくわずかな期間でしたが……。
 


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