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お父さんとお母さんに連れられて、とある大きな街に遊びに行った。
いろんなところへ行って、たくさん買い物をして、おいしいものを食べて、とっても楽しかった。
しばらくして、その町をテレビで見た。
私が知っているはずの街と、全然違う町だった。
あの街に行った時のことは、とてもよく覚えてる。どこで何をしたとか、何を食べたとか。でも、私が覚えている雑貨屋さんも、アイスを食べたお店も、その町にはなかった。
おかしいね、とイーブイと顔を合わせた。イーブイも不思議そうに首をひねった。
一緒にテレビを見ていたお父さんとお母さんに、この番組おかしくない? って聞いてみた。そうしたら、お父さんとお母さんは何もおかしくないよ、と言ってきた。
私はそんなことないって言って、あの日何をしたのか、今見たテレビとどう違ったか、細かくお父さんとお母さんに説明した。
そうしたら、お父さんとお母さんは困った顔をして、私を病院に連れていった。
病院の先生は、とても優しくてきれいなお姉さんだった。
「街のこと、教えてくれるかな。覚えてること、全部教えてほしいの。あなたはその街に行って、まず何をしたの? どんな街だった?」
私はお父さんとお母さんに連れられて、その街に行った。
すごく大きなビルがいっぱい建っていた。広い道に自動車がたくさん走っていて、人もすごくたくさんいた。
お店がいっぱいあって、いろんなものを売っていた。
私は最初に、高い塔に行った。エレベーターで展望台に上がって、大きな街を上から見下ろした。見渡す限りビルだらけで、遠くに海も見えた。
お昼の時間になって、レストランでハンバーグを食べた。苦手なニンジンがついていて、こっそり残した。
次に、大きなデパートに行った。おしゃれな服がたくさんあって、きれいな格好の人たちがたくさんいて、羨ましかった。
そのあと大きな通りを歩いて、途中にあるお店でジェラートを買ってもらった。レモンとイチゴの2種類をコーンに盛ってもらった。
雑貨のお店に入った。レースがついた赤いリボンと、同じリボンがついた髪飾りも買った。
そして車に乗って帰る途中で、疲れて寝てしまった。
そんなことを話すと、先生はうなずいて優しく笑いながらメモを取った。
もっと思い出せることはない? と聞かれて、一生懸命思い出したけど、あまり大きなことは思い出せなかった。
それからしばらく先生はお父さんお母さんと何か話をして、明日またお話してくれる? と聞いてきた。
先生が優しくて、話をしっかり聞いてくれて、楽しかったから、また話すことにした。
イーブイと一緒に布団に入って、その夜はぐっすり眠った。
たくさんのポケモンたちと遊ぶ夢をみた。かわいいのやかっこいいのや、すごくたくさんのポケモンと。
私はおしゃれでかっこいい服を着て、たくさんのポケモンを連れて、トレーナーとして旅をしていた。
目を覚まして、こちらを見てくるイーブイを見て、あ、わかった、と私はつぶやいた。
病院に行って、何か思い出したことはある? と先生が言ってきた。
私は大きくうなずいて、先生に言った。
「あのね、あの街、ポケモンが全然いなかったの!」
そう、あの街は数え切れないくらい人がいた。けれども、ポケモンは1匹もいなかった。いつも一緒にいたはずのイーブイもいなかった。
ポケモン関係の道具もなかったし、テレビの画面にも、看板にも、どこにもポケモンがいなかった。
こんなに周りにはいっぱいあるのに、不思議だよね、と私は言った。
先生は何度もうなずいて、メモをたくさん取った後、ここで少し待っててね、と言って部屋を出た。
じっと座っていると、だんだん眠くなってきて、私はうつらうつらとしていた。
頑張って眠気をこらえていると、隣の部屋から先生とお父さんとお母さんの声が聞こえてきた。
「街での記憶は……ただ、その他に対する認識が……」
「それじゃあ、やっぱり最近話題の……」
「ええ、間違いないと……最近若い子に急に増えている……」
「先生、その……『ポケモン』っていうのは何なんですか?」
「わかりません。ただみんな……同じように不思議なものを……私たちには見えないものを……テレビなどの内容も……」
「……街に行った頃から……突然『ポケモン』とか『イーブイ』とかわけのわからないことを言いだして……」
「とりあえず……しばらく様子を……」
大きなあくびをして、眠気と戦うのをやめた。
鼻先を顔に近づけてくるイーブイを撫でて、私は先生が来るまでおやすみすることにした。
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戻ってくると、あの子は椅子に座ったまま居眠りをしていた。
理解してあげられない自分が、歯がゆくて、申し訳ない。
最近、特に若い子を中心に、不思議な現象が広がっている。
周囲が異常に気付くきっかけで特に多いのが、以前訪れたことのある場所に対し、『この場所は行った場所と違う』と言いだすこと。それはテレビや雑誌に載っている情報であったり、昔来た場所に再び訪れた時だったり。
話を聞いてみると、その場所での思い出は間違っていない。細部まで聞いてみても、実際の状態と矛盾することはない。
ただ、その子たちが、テレビや雑誌で見た場所の話、または再び訪れたその場所の話を聞くと、それが事実と大きく異なっている。
その場所の地理や、交通、広告や販売物、全てが実在するものと大きく異なっている。
そして一様に、『ポケモン』という存在が、周りに溢れているのだという。
原因は、いまだにはっきりとしていない。
脳の認識の異常か、何らかの病気か。トンデモ科学なバラエティ番組が言っていたように、何かしらの陰謀で催眠や洗脳がされているのだろうか。
いや、それとも。
それとも本当に、存在しない町が、存在しない『何か』が、そこにいるのだろうか。
もしかして、私たちの大半が、それを認識できていないだけで。
何かを撫でていたように膝の上に手を浮かせている女の子を見て、私は小さくため息をついた。