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「やーコウミ、元気ー?」
「う、うん元気」
「だよねー! 相棒のラッタそっくりで丸いもん!」
言われて手鏡を取り出し覗き込むと……そこにはアローララッタそっくりの頬のプクプクした女が!
心なしか目もネズミネズミした三角になっているような!
「ポケモンとトレーナーは似てくるって言うもんねー」
「イヤァ! 違うの! ラッタは好きだけどこんなのは望んでいないの!」
「なんでー? 仲良しの証って感じでサイコーだよー」
「それはいやあああああっ!!!」
「ぎゃあああああああ!!! ラッタちゃーう! ザコちゃーう!!!」
さけびながら起きると、そこはポケモンセンターの部屋だった。コウミは清潔でパリッとした布団に寝ていて、毛布は床に蹴り飛ばされていた。朝から騒がしいにも関わらず、床のポケモン用ベッドではラッタがスヤスヤと眠っている。
「こーんなでっかい耳してよく起きないなあ……」
マイペースで寝てるラッタが恨めしくて、コウミは丸いお腹を撫でる。気持ち良さそうに目を閉じたネズミの眉間にシワが寄り、「ぐおお、そこは嫌だ、嫌なんだわ」と言うようにヂューヂューうめく。
カントーでもそうだったが、アローラでもラッタは珍しいポケモンではない。進化前のコラッタが夜なら見つけやすいのもあって、手持ちにくわえて旅をするトレーナーは案外多いのだ。なにが言いたいかというとラッタのネズッタはモテた。人にも同族にも。オスのラッタにはエサをもらい、人にはほっぺをプニプニされた。ちっちゃなコラッタが頭に乗っても怒らずにじっとしていた。マダムの「美人さんのラッタねえ」という言葉には面食らったが。
なるほど確かに進化した時そのぷっくりとした容姿の可愛さに悶えただけあって、ネズッタはかわいい。真っ黒な毛並みも不潔なそれではなく、ヤミカラスの濡れ羽色というようにツヤツヤしている。毛並みに触れるとフカフカして温かい。他のトレーナーのコラッタが頭に乗りたがるのもこのせいだろう。
「……人だったら多分黒髪の美少女なんだろうねえ」
故郷のカントーのジムリーダーで言えばエリカとかナツメのような。そう考えるとオスのラッタに貢がれたポケマメをかじる姿もお嬢様の動作ぜんとして……いやコレは普通にネズミだ。
「あー、コウミじゃーん!おんなじポケモンセンターに泊まってたのー?」
予想外の声に、コウミは撫でていたネズッタのほっぺを両手でギュウと押してしまった。くわえていたポケマメをポロリと落としたネズッタが「は〜そこごっつええ感じなんだわ〜」という顔になる。
「は、ははははハウくん!?」
「ははははハウくんではないなー。コウミもここのポケセン泊まってたんだー。気づかなかったなー」
「わ、私昨日は夕方にはここに来て早めに寝たから……」
「それですれ違っちゃったんだー。ねーせっかくだし朝ご飯一緒に食べようよー」
「えっ! う、うん!」
コウミはついガッツポーズを取る。やったー! という内心が隠せていない。
「朝はたくさん食べないと力が出ないからねー。コウミとご飯食べられたら効果も2倍かもー」
「わ、私は今朝はほどほどでいいかな……」
ハウの天然な言動にどきまぎとしながら、コウミは心の中で叫ぶ。
(アローララッタと美形基準が一緒だったら、昨日の夢なんか引きずらずにすむのに!)