夢の光が射す湖



 いにしえの都、ジョウト。ここにはポケモンにまつわる数多くの伝説が、今でも人々の間に大切に語り継がれている。伝説には先人たちの教訓や知恵が多岐にわたり含まれ、ジョウトに住まう人たちはみな其れを生かして生活しているのだ。穏やかなときの流れに逆らわず、自然やポケモンと共存していく意義、己を鍛え常に強く構える知識、ありとあらゆるものがこの街を満たしている。

 私の名前はショウ。ドラゴンという属性を持つ気高いポケモンに魅了された、流浪のトレーナーだ。 穏やかに続く命と、長い時にはぐくまれた深い知識、自然に共存しなお屈することの無い力強さ、研ぎ澄まされた美しい身体、そのどれも欲しい侭にする気高く孤高の生き物ドラゴン。いつかはそのドラゴンの名を持つ優美なポケモンを、パートナーとして迎えたいと願ってやまない。 私のパートナーは最初にもらったポケモンのリザードと、シードラ、そしてプテラの3匹。みなドラゴンの遺伝子を持つ頼もしい仲間たちで、どんな旅路にも私の助けとなってくれている。こうして暗い夜道を歩くにも、リザードの尾に携えられた炎はすすむべき地を照らしているし不穏な輩への警告もかねたものだ。
 チョウジタウンよりも奥まった山と森に囲まれてたたずむ「いかりの湖」は、誰がそう呼び始めたのかわからないが、地図に記されるほど公然とその湖の呼び名は浸透しているようだ。いかりの湖に主に生息しているのはコイキングだが、進化すればこのポケモンも気性の荒いドラゴンのギャラドスへと進化する。近年、赤く光るギャラドスが湖に現れたという事件がおこり、いかりの湖の存在ははるか遠くの人々にも広く知れ渡る出来事だったと思う。  この日、私がこの森へ足を運んだもの、その事件との関連を期待してのことだ。私が望む気高きドラゴンは残念ながらギャラドスではなかったが、聞きつけた噂の中に少し気になるものがあったのだ。  このいかりの湖を囲む森の中では、赤いギャラドスだけにとどまらず光るポケモンにまつわる話が幾つもあるのだという。

 ある時期になると湖や森の周りで黄金の実が実ることがあるのだと聞いた。黄金の実は、ひとたび口にすれば怪我は治りを早め、疲れを癒し、この世に生きるすべてのものに命の恵みを与える奇跡の木の実といわれているものだ。頻繁ではないものの地元の住人が、何度か見かけたこともあると証言もあった。そしてこの黄金の実が見つけられるときには、もう一つ目撃されるものがある。それが光るポケモン。
 こちらの目撃例は非常に少なく、中には黄金の実と光るポケモンの両方を運よく見たものが居るらしいのだが、決まってそういったものたちは町にとどまらず出てってしまうらしい。一体どういうわけなのか見当も付かないが、町の住人たちは良くないことに違いないとして、この話題に触れたがらなかった。

 町の人たちの話がそんな様子なものなので、私は仕方なく自分の足で調査するより他になかった。いかりの湖を囲う森はさらに外側の山に囲まれた地形の所為か、森も奥に続く道は細く獣道ほどの草木の割れ目をたどるしかなかった。それほどに人が入るのを拒む自然の中に、どんな神秘的な秘密があるのか、期待に踊る私の足は歩きにくい地面を苦ともせずに歩んでいた。
 日が傾き、深まった森を歩くにも少々疲れてきたところだった。湖畔からほど近い場所に炭焼きに使われていたであろう、今は使われて居なさそうな小屋を見つけたのでここを拝借することにした。  一見使われて居なさそうだが、住人がいるかもしれないと思いノックしてみたが反応がない。扉をそっと押すとカギは掛かっていないようで、軋みながら扉は開き、その隙間へまた声をかけて確認をしてみる。やはり返事は無く人の気配もしなかったので、今度は自分が入れるほどに扉を広く押し開けた。
 「!」

 バサバサバサッと勢いよく中からズバットが群れをなして飛び出してきたかと思えば、足元にぶつかってきたのは何匹かのコラッタたち。差し込んだ夕日の光と急な来訪者に、驚いてしまったようだ。静かな暮らしを邪魔してしまってなんだか申し訳ない気もしたが、ポケモンたちの住まいになっている小屋に人間の持ち主が居ないことだけは確かだろう。歩き回って疲れた私には都合がよかったので、遠慮なく中を使わせてもらうことに決めた。
 炭焼きの小屋の中は思ったよりも快適だった。石で組まれた暖炉はリザードの火もしっかりと囲い、その前で彼もとても気持ちよさそうにしている。水桶には湖から引かれている水道がちゃんと生きていて、蛇口をひねれば新鮮な水がいつでも出てくる。これにはとても助かった。山での長期の滞在でシードラに新鮮な水を与えられるのはとても安心できる。プテラも翼を休ませてやろうと出してやり、彼もこの石造りのひんやりとした感触が気に入ったようで今はおとなしく眠っている。  ひとしきり、ポケモンたちの世話を終えると私も自分を休める支度に掛かった。張り布の傷んだボロボロの長いすでも、野宿よりはよほどマシなベッドになる。外套を布団代わりにかけて体を横たえると、暖炉の温もりがほんのりと当たってとても心地がいい。リラックスした意識がまどろむには、そう長い時間はかからなかった。



 白くしなやかに光る鱗。地球の様な青い水晶。風のように透き通った瞳。森の木々を浴びるようにすり抜けて、水と踊っているかのように湖面を跳ね、しぶきを受けている。まるで一陣の風が吹き抜けるような、煌めきと華麗さを身にまとったハクリュー。
 その身体はあわい光に包まれていて、まるでオーラが目に見えているかのようである。自由に宙を舞い、身を翻す。其れは風のように小屋の窓をするりと通り抜け、私の方へとまっすぐに…。