マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.111] 黒雨2 投稿者:CoCo   投稿日:2010/11/14(Sun) 00:30:09   47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 棒のようになった足を引き摺りながら、石畳の坂道を登る。
 煉瓦を重ねて出来上がった背の高い住居を繋ぎ合わせる急勾配な赤茶の階段と、大小いくつかの丘を縫うように街を広げていった跡であるこの道ごとの高低差。だるいこと極まりない。

 大通りから暖色で塗り固められた町並みを行くと、すぐ右手に聳える二番街へ上がる大きな階段の下、そこにとあるレストランの扉がある。
 しかし、いくら重厚そうな年季の入った黒い木の扉が招くといっても、マナーを弁えていなければ入るにも敷居が高いような店ではなく、ショウウインドウのガラスの中、ロウ製の食品サンプルに混じって可愛らしい手縫いのミミロル人形がおいてあることからも分かるとおり、家族連れを想定したファミリーレストランである。週末には店の一角に置かれたグランドピアノの音色とそれを奏でに座る朱色のドレスの人を目当てに大賑わいする。

 重たい扉を押し開けるとからんころんとドアベルが鳴った。

「いらっしゃいませ! ……間違えたお前か! おかえり!」
 裸電球に照らされ、木目にテーブルが独特の影を落とす落ち着いた店内から、黒いベストを着込んだ若いウェイターが、俺を客かと思って背筋を伸ばして出迎えてきた。
 こいつが猫背をしゃんとすると、同い年だとは思えないぐらいにひょろ高い。
「看板直ったかい?」
「まだ。でも修理はした。あと立てるだけ」
 これさんきゅーな、と俺は工具箱を差し出した。工具箱は店から借りたものだ。俺が"便利屋"業のために所持しているのは大きな虫取り網だけなので、他に用具が必要なときは街中を駆けずり回って探さなくてはならない。
「どいたま。でもお礼はミネさんに言ってね」
 だから多趣味なここの店長、ミネさんにはいつもお世話になっている。
「わかってるっての」
「そうかなー、メモ帳が手放せないお前だったらすかっと忘れかねないぜ」
 余計なお世話だ。そもそもあのメモ帳は物忘れ防止じゃねえよ。そう返すとあはははあと猫のような大きな瞳を細めて笑う。グレイの名に相応しい灰色の瞳だ。
 彼は家族経営で細々やってるこのレストラン唯一の雇われ従業員で、こいつの居る下宿の隣に俺が引っ越してきた縁でよくしてくれている。
「飯は?」
「それを食いにきた」
 例えば、飯代を割り引いてくれたりとか。

 腹が減った。
 なにせ二時間近くあの雨乞い看板の足と格闘していたのだ。最終的に補強するのは諦めて、新しい角材と取り替えてしまった。
 たとえどんなに"便利屋"を名乗っていたとしても、もともと器用じゃあない俺に日曜大工を頼むのは角違いのような気がしてたまらない。
 まあしょうがないか。トレーナーになる気で故郷を経ってしまって学も金も何もない俺にはそれぐらいしかできることがないんだ。

 狭いカウンターの裏から蝶ネクタイを締めてウェイター服を着込んだポチエナが出てきて、アオンと一言吼えた。
 グレイがカウンターの下にフーズを置いているのだ。

 小さい体躯のポケモンに人間風に服を着せるのが上流階級では流行っているそうだが、グレイは趣味でこいつに服を着せているわけではないらしい。
 何でも飲食店だから、こういった毛皮のフサフサしたポケモンを置いておくと毛が舞ってしまって衛生的に悪いんじゃないか、という懸念からだそうだ。
 客が普通に椅子やら床やらテーブルの上やらにポケモンを放す店で今さら何を、と店長のミネさんも言ったそうなのだが、本人は「けじめです!」と一言言い返したんだと。
「そんなんだから雇ったんだけどね」と語ったミネさんが、実はこの凛々しい表情をしたウェイター・ポチエナにべたべたに惚れ込んでいるのを俺は知っている。

 ほとんどタダ飯と言って差し支えない値段で食事をさせてもらってるこっちとしてはメニューなど選べない。トゲチックと一緒にさっさと席についた俺のところへ、グレイがにやにやしながらドリアを運んできた。
 そしてそのまま向かいに座る。

「聞いた?」

 こいつの話はいつも唐突に始まる。俺は知らん、と適当に返事をして、今はこのドリアをおいしくいただくことにした。皿のふちでホワイトソースがまだぐつぐついいながらジューシーな香りを立ち上らせている。すきっ腹をいじめ抜くようなこの焼き具合。たまらずにスプーンが唸る。

「最近さ、妙な雨が降るらしいんだ」

 熱っ! マグマッグ食ったみてぇ! 舌ヤケドした!

「墨みたいに黒い雨だってよ。しかもその雨が降ると、幽霊が出るらしい」

 それでも腹は減って減ってしょうがない、しょうがないからハフハフ食べる。舌は見事なからげんきを発揮してくれた。
 隣ではトゲチックが、きのみを練りこんで作られたパンにおおよそ清純派らしからぬ大口でかぶりついている。今の顔だけ見ればトゲチックというよりかは飢えたキバニア。

「幽霊っつってもゴースとかヨマワルじゃないんだよ、女の子でさ。しかもさ……」
「トゲチックお前顔ひでぇぞ」
「ちちちー」
「おい話聞けよ」

 メニューの角で殴られた。




***

灰「どう聞いても俺の話は次の展開へのキーだろっ。真面目に聞けよ主人公」
雑用男「キー? こんらんでもしたのか」
灰「ピヨピヨパンチッ!」


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