マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.333] 『もふパラ』から見た世界史 投稿者:巳佑   投稿日:2011/05/02(Mon) 21:50:53   63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


【1】

 それは昔、遠い、遠い昔の話です。
 森の中で一人の坊やが遊んでいました。
 年の葉は十を超えたぐらいのまだ小さな坊やで、
 今日は村の友達と遊ぶ約束をしていたのですが、どの子も用事があると言われて断られてしまいました。
 そんなわけで、今日は坊や一人、森の中で遊んでいました。
 くさぶえを吹いたり、木登りしたり…………。
 あらあら、六本の尾を持った狐や、黒に赤を咲かせた狐と戯れていたりと、結構楽しんでいるようですね。
 このような感じで楽しい時間があっという間に過ぎていくと……ぽつんと坊やの鼻に何か当たりました。
 どうやら、雨が降ってきたみたいです。
 坊やと遊んでいた二匹の狐は雨から逃げるように坊やから離れていき、森の奥へと姿を消してしまいました。
 雨足がかなり強くなっており、橋を越えた先の村に住んでいる坊やは、今日は帰れないことを悟りました。
 川が増水して氾濫している中で橋を渡る行為は死に行くようなものです。
 坊やは仕方なく、森の奥に進んでみることにしました。
 もしかしたら、雨宿りになる場所があるかもしれないと思い、
 その希望に一縷(いちる)の望みを託しながら、坊やは歩き続けていきます。
 暗い中、坊やは歩き続けていき、なんとか森から抜けて、開けた場所に出ますと、
 一つの小屋が坊やの視界に現れました。
 …………。
 まるで坊やを待っていたかのように。


【2】

 坊やはとにかく小屋へと足早に駆けていきますと、玄関の戸が開いているではありませんか。
 とりあえず、坊やが急いで中に入りますと、間もなく誰かが坊やの元へとやってきました。
 恐らく、この小屋の住人でしょう、背は坊やよりも少し高く、顔や手には多くのしわを刻んでいます。
「おぉ、どうしたんだい坊や? ……おやまぁ! びしょ濡れではないか!?」
 老獪(ろうかい)に話す、小屋の住人であるらしいおばあちゃんが、またどこかへ消えたかと思えば、
 すぐにまた現れ、坊やに白い布を渡します。
「さぁ、これで体をおふき。代わりの衣(ころも)を用意してやろう、そのままでは風邪を引いてしまうからのう」
 白い布を受け取った坊やはおばあちゃんに言われた通り、体をふき、水に濡れて若干重くなっている衣を脱ぎ捨てます。
 すると、おばあちゃんから終わったらこっちにおいで、という声をもらったので、坊やは声のする方に行ってみると、
 そこには囲炉裏で温かく揺れている炎と、代わりの衣を持っているおばあちゃんがいました。
「ほれ、これを着るのじゃ」
 手渡された衣は質の良いものだったのですが、残念ながら坊やに違いは分かりませんでした。
 それでも、坊やは受け取った衣を身にまといながら思いました。
 このおばあちゃんは優しい人なのだと。
「さて……坊やはどうやら橋を越えた先にある村に住んでる者じゃろう? もうこの雨じゃ、どのみち今日いっぱいは帰れん。今日はこの小屋に止まっていくとええ」
 おばあちゃんは微笑みました。
「……さて、ちょうど粥(かゆ)を暖めておいたんじゃ。一緒に食べるかのう」
 坊やはおばあちゃんのことが大好きになりました。

 激しい雨の音が外から聞こえてくる中、囲炉裏を囲んで、坊やとおばあちゃんが話に花を咲かせます。
 まぁ、ほぼ坊やが今日したことをおばあちゃんに語っているだけなのですが。
 坊やがあの六本の尾を持った狐や、黒に赤を咲かせた狐と戯れていたことを語ったとき、おばあちゃんの声が上がりました。
「ほう、坊やは狐が好きなのかのう?」
 坊やは大好きだと答えました。
 あのとき戯れていたときに残っている二匹の狐のあのもふもふ感が心地良かったことを坊やは鮮明に覚えています。
 自分も狐になれたら、もっともふもふできるのではないかと坊やは興奮しながら話すと、おばあちゃんがけたけたと笑いました。
「ふふふ。可愛い子じゃな、坊やは。あ、そうじゃ、一つ、わしからも狐の話をしてやろうかのう……坊やは天気雨というものは知っておるかのう?」
 坊やは首を縦に振りました。
 坊やの目にも何回か映ったことがあります。
 お日様が出ているのに、どうして雨が降ってくるのだろうと、天気雨を見る度に坊やは首をかしげていました。
「あれは、狐の嫁入りといってのう。二匹の狐が番(つがい)になった証ともいうべきものなのじゃ」
 坊やはなぜ、天気のときに雨を降らしているのかを尋ねました。
「ふふふ、狐は人を驚かすのが好きじゃからのう。番になった勢いで、降らぬはずの雨を降らして人を驚かせたいのじゃろう」
 おばあちゃんの話に坊やの耳が興奮して、もっと聞きたいと訴えかけてきます。
 おばあちゃんの話はなんだか不思議で楽しそうなことが詰まっている……もっともっと聞かせて欲しいと坊やの顔がらんらんと輝きました。
 坊やの分かりやすい顔を見たおばあちゃんは更に話を続けていきます。
「天気雨が降ったその日には、番になった二匹の狐を祝う為に、他の狐たちも集まって祭りが行われるんじゃよ」
 坊やはその祭りを想像してみました。
 たくさんの狐たち。
 それは今日一緒に遊んだあの二匹の狐の仲間もいるかもしれません。
 叶うのならば一度、その祭りを覗いてみたい、あわよくば、その狐たちをもふもふしたいと坊やは思いました。
 その坊やの心を読んだかのように、おばあちゃんは警告しました。
「ふふふ、人間はその祭りを決して見てはいけないよ? ……もし、その祭りを覗いとることがばれたら……喰われてしまうからのう」
 坊やの喉が戦慄(せんりつ)で鳴りました。
「手持ちの食料を、のう……その後はたくさんの狐たちによる、もふもふの刑が待っておるぞ」
 坊やは胸をなでおろしました。
 そしてすぐに坊やは、もふもふの刑という言葉に反応しました。
 今日、感じたもふもふよりもっと、もっともっと気持ちいいものに違いない、
 それは手持ちの食料が失ってもいいぐらいの価値があると坊やは思いました。
「あまりの気持ち良さに気を失ってしまってな、次に目を覚ましたときには身ぐるみを全部はがされておるぞ」
 坊やのらんらんとしている顔が雲一つも見せません。
「……まぁ、それでもよいというのならば、わしゃ、止めないが……ただし」
 おばあちゃんが不敵にほくそ笑みました。
「もふもふの刑の際にはくれぐれも、九本の尻尾を持つ狐には気をつけてのう? あの狐の尻尾に触れたが最後、狐の仲間にされてしまうからのう」
 狐になってしまうのではなく、狐になることができる。
 坊やの頭の中ではそういう意味に変換されていました。
 狐は可愛いし、もふもふすることもできるなんて素晴らしいという気持ちから、
 坊やは狐が大好きだ! そう、声を弾ませました。
 そんな坊やにおばあちゃんは笑います。
「ほ、ほ、ほ! そうかそうか……ふふふ、ほれ、嬉しさのあまり――」
 坊やの手に何か柔らかいものが――。

「わしの尻尾が坊やに触れてしまったよ」

 おばあちゃんの姿が人間から徐々に黄金の毛を生やしていき、一匹の九本の尾を持つ狐に変わりました。
「ふふふ……これで坊やも狐の仲間入りじゃ……もふもふでどんな狐になるか楽しみじゃのう?」
 一本、また一本、狐の尻尾が坊やを絡め取り、そして坊やは九本の尻尾に包まれてしまいました。

 もふもふもふもふもふもふもふもふ。

 最初こそは驚いていた坊やでしたが、あまりの気持ち良さに、もう身を狐にゆだねていました。
 でも坊やは後悔などはしていませんでした。
 むしろ大好きな狐になれることが嬉しかったのです。
 あまりのもふもふの気持ち良さに坊やのまぶたは徐々に重くなっていき、やがて静かに閉じました。

 もふもふもふもふもふもふもふもふ。


【3】

 坊やが目を覚ますと、そこは例の小屋の中でした。
 まだ、ぼんやりとしている坊やに顔を覗きこんでくる狐が一匹、二匹……そして三匹います。
「なぁ、キュウコン長老、コイツが今日から俺たちと一緒に修行するやつなのか?」
「まだ、ボーっとしているみたいだけど……」
「ふふふ、仲良くするのじゃぞ?」
 一匹からは気の強い言葉が。
 もう一匹からは優しい言葉が。
 最後の一匹からは老獪な言葉が。
 それぞれ坊やの耳に舞い込み、最終的にそれらが坊やの目を覚まさせることに繋がりました。
「うむ、目が覚めたようじゃな」
 坊やは目をぱちくりさせています。
 目の前には六本の尾を持った赤茶色の狐と黒に赤を咲かせた狐と九本の尾を持った黄金の狐がいて、
 坊やのことを見ています。
 その視線が刺激となったのか、坊やは昨日のことを思い出しました。
 一人で森で遊んでいて、途中で二匹の狐と遊んで、激しい雨にあって、小屋にたどり着いて、
 そこに住んでいたおばあちゃんに泊めさせてもらうことになって、
 話に花を咲かせていた途中、おばあちゃんが狐になって、もふもふされて……。

「可愛い水色のゾロアになったのう、坊や。ふふふ」

 九本の尾を持った狐が尻尾で器用に鏡を扱い、坊やに見せてあげました。
 坊やが映った姿に驚きの顔を見せると、鏡に映っているものも驚きの顔を見せます。
 姿形は狐そのもの。
 どうやら黒に赤を咲かせた狐と同じ種族のようですが、坊やの場合、黒に水色を咲かせています。
 おもむろに坊やは前足で自分のほっぺたをつねってみたところ、返ってきたのは痛みだけでした。
 夢ではありません。
 本当に狐になれたこと、その嬉しさのあまり坊やは尻尾を振っていました。
「さて、坊や。まず、朝ご飯をお食べ。話は食べながらでもしようとするからのう……あ、その前に」
 九本の尾を持った黄金の狐に促された二匹の狐が坊やの前に出てきます。
 まずは六本の尾を持った赤茶色の狐の口が開きました。
「初めまして、僕はロコンっていうの。よろしくね」
 次に黒に赤を咲かせた狐が勢いよく口を開きました。
「俺はゾロアだ! よろしくな!」
「ふふふ、坊やもゾロアじゃけどのう……そうじゃ、坊やはなんという名前か訊くのを忘れておったな」
 坊やは人間のときの名前を教えました。
「ほう、池月、というのか。うむ、今度からそう呼ぶことにするかのう。ちなみにわしはキュウコンじゃ。よろしくのう……さぁさ、自己紹介は終わったことじゃし、朝ご飯じゃ」
「ふ〜ん、変わった名前なんだな、お前。まぁ、別にいいけど」
「もう、ゾロア! そういうことは思っても言っちゃだめだよ……それにしても」
 ロコンは訝しげな顔で坊やを見つめました。

「……本当に、初めまして、だよね……?」


【4】

「よいか? 狐になったからには、誰かを化かすという術を知らないといかぬ。わしが老婆に化けて池月を化かしたようにのう。池月、お主は今日からはロコンとゾロアと一緒に化かしの修行をしてもらうぞ。今日から弟子じゃからな、わしのことは長老、と呼ぶがよい」
 朝ご飯の最中、キュウコン長老の話を坊やは真剣に聞いていました。
 狐として――ゾロアとしてこれからを生きていく坊やにとっては大事なことです。
「うむ、まずは……朝ご飯を食べた後にのう……マトマの実を取りに行ってくれるかのう? その道中、誰かを化かすというのも忘れずにの。池月はまだ化けることを知らぬと思うから、ロコンとゾロアをしっかりと見て勉強しておくように、のう」
 外は昨日と違って雲一つない青い空が広がっており、かっこうの修行日和です。
 朝ご飯を食べ終えると、坊やはロコンとゾロアと一緒にキュウコンのお使いと修行に出発しました。

 人間のときとは違って、四足歩行から見る世界はなんだか新鮮で、歩く度に坊やの心は楽しそうに弾んでいて、
 例えばいつも見ている木も違って見えたりと、歩く度に新しい発見をしているような気分でした。
「お前、楽しそうだな。いいか? これは修行なんだからな? しっかりやろうぜ!」
「……そんなこと言ってるけど、昨日、途中で寄り道して遊んでいたのはどこのだれだっけ?」
「ロコンも遊んでたじゃねぇか!」
「うっ……それはその……つい、ね」
 マトマの実を求めて森の中に入った三匹は、坊やにとって先輩狐のゾロアを先頭に、その後ろにこちらも先輩狐のロコン。
 そして坊やは一番後ろを歩いていました。
 人間のときとは違って、目の前でロコンの六本の尻尾が揺れているのも、なんだか坊やの心をくすぐっているようです。
 飛び込んで、じゃれて、もふもふしてみたい……! 
 けれど、ゾロアの言うとおり、今は修行中の身なのですから、我慢、我慢なのです。
「ヒヒヒ。今日もマトマの実を集めて、化かしマスターになるぞぉ!」
「……もう、ゾロアったら、絶対に騙されてるよ、それ」
 坊やは首を傾げました。
 初めて聞いた言葉です。
 どういうことなのかとゾロアに尋ねてみました。
「ん? お前、しらねぇのかよ。キュウコン長老がな、誰かを化かすことも大事だけど、マトマの実を集めまくることが化かしマスターになる為の近道だって、教えてくれたんだぜ」
「……僕は絶対に騙されてると思うんだけどな……まぁ、キュウコン長老にはお世話になってるから、なんとも言えないけどね」
 ロコンの不安の呟きはゾロアに届くことはなく、一方、話が見えてこない坊やは何も言うことができませんでした。
 更にとことこと三匹が先を進んでいきますと……ようやくたくさんのマトマの実をつけた一本の木にたどりつきます。
 真っ赤に染まっていて、イボイボがところどころにできている不思議な実で、
 なんだか刺激的なものが伝わってくるようなものがあったからか、坊やの喉が物欲しそうに鳴りました。
「……池月、最初に言っておくけど、あれは食べないほうがいいよ。めちゃくちゃ辛いみたいでさ……ゾロアなんか勢いで試しに食べちゃったんだけど、唇がはれあがって大変だったんだから、火まで吹くし」
 坊やはロコンの忠告を素直に受け入り、唇がはれあがったゾロアを想像して、決して食べないと心から誓いました。
 ゾロアは味を思い出したからか、水が欲しくなって、近くの川に向かいました。
 ……どうやら、マトマの実の味はゾロアにとってトラウマのようです。

 マトマの実をたくさん持ってきた風呂敷(ふろしき)の中に包み、それぞれ、三匹は背中に結ぶと小屋へと一旦戻ろうと歩き出します。
 最初は慣れない四足歩行で大丈夫かな……と坊やは心配していましたが、不思議なことに違和感なく歩けていました。
 まるで、最初から狐だったかのような感覚。
 だけど、風景は新鮮に見える……と摩訶不思議だらけです。
 これから毎日続いていく狐の日々に、坊やの心の興奮は鳴り止みそうにありませんでした。
 さて、もうすぐ小屋に着きそうになったところで、先頭を歩いていたゾロアが近くの茂みに隠れるようにと声をあげます。
 何事かと坊やの胸に緊張が走りながらも、言われたとおりに、すぐさま近くの茂みに身を隠します。
「クルマユ発見! おい、池月。今から化かしの見本を俺が見せてやるぜ!」
「……大丈夫なの? ゾロア」
 ゾロアの得意げな顔に心配そうな視線をロコンが送ります。
 坊やは初めて化かしのところを見るだけに、期待が膨らんでいました。
「まぁ、見てろって!」
 そう言うとゾロアはさっそうと茂みの中から飛び出し、クルマユが来る前にぴょんと飛んで一回転するとクルマユに化けました。
 ゾロアの化ける場面で坊やは思わず感嘆の声をあげます。
 そしてやって来たクルマユは目の前にいる(ゾロアが化けた)クルマユを見て、驚きの顔を見せました。
「えぇ!? あたしがもう一匹!?」
 成功した――そうゾロアが確信したときでした。
「――な〜んてね。尻尾が見えてるよ、オキツネさん! じゃあ〜ね♪」
 ロコンがなんとも言えない溜め息をもらします。
「はぁ〜……まだ尻尾が隠せないんだね……」
 一方、坊やは化かしの難しさが伝わってきて、勉強になりましたとゾロアに言いました。
 今回のことで坊やは自分もちゃんと他の者を化かすことができるだろうかと、不安がよぎりましたが、狐の生活はまだ始まったばかりだから、そういう不安もこれからの糧(かて)にしていけばいいと思い直しました。
「よ〜し! マトマの実をたくさん集めて早く化かしマスターになるぞぉ!」
「もう……ゾロアったら……まぁ、池月。改めて、今日からよろしくね」
  
 その日の夜、眠れなかった坊やは隣で寝ているゾロアとロコンを起こさないようにと、ゆっくりと寝室から出ました。
 ゾロアになった今日から、坊やもこの小屋に住み込み始めたのです。
 寝室の隣、囲炉裏のある部屋に行きますと、キュウコン長老がいました……どうやらまだ起きているようで、坊やに気がつきました。
「ん? なんじゃ、池月か。眠れんのか? ふふふ、こっちへ来るがよい」
 坊やは失礼しますと一言置いてから、キュウコン長老の元へと歩み寄りました。
 ゾロア――狐になって初めての日は坊やに冷めない興奮を与えていたようで、先程、寝ようとしたときも、やけに大きい心臓の音が坊やの耳にくっついては離れませんでした。
「どうじゃ? 狐になった感想は?」
 坊やは今日一日を過ごして見たもの、聞いたもの、感じたものをキュウコン長老に教えました。
 世界が新鮮に見えたことや、マトマの実のこと、誰かを化かすことが難しいことなど。
 キュウコン長老は坊やの話を聞き終えると、微笑み、ゆっくりと坊やを抱き締めては、もふもふしました。
 坊やはそのもふもふを気持ち良さそうに受けてます。
「そうかそうか……お主は本当に狐が大好きなのじゃな……のう、池月、お主はこの世が狐だけの世界になったら、どう思う?」 
 坊やは想像してみました。
 この世が狐だけになったら……きっと皆でもふもふしあったりすることができるだろうな……きっとこの世が幸せになるだろうなと思いました。
 本当に想像しただけでも幸せになれそうで、坊やはきっといい世界になると答えました。
「ふふふ、池月、わしの夢はな、この世を狐だけの世界にすることが夢なのじゃ……お主もここで修行して、化かすのがうまくなったら、わしの夢を手伝ってくれないかのう?」
 キュウコン長老が語った夢は自分にとっても夢ですと坊やが答えると、キュウコン長老は笑いました。
 この子はもしかしたら、頭が早く回るかもしれないという意味を込めながら。
「よい子じゃな、池月は。ふふふ、そうじゃな。共にこの世をもふもふにしてやろう、のう? 池月」
 坊やは首を縦に振りました。
「よし、今宵は最初の一歩として、共にこれを食べるとするかのう」
 そう言って、キュウコン長老が取り出した風呂敷の中から――。
「マトマの実、これはわしの大好物でのう。ほれ、池月も」
 坊やの頭の中に昼間起こったことが思い出されます。

『ん? お前、しらねぇのかよ。キュウコン長老がな、誰かを化かすことも大事だけど、マトマの実を集めまくることが化かしマスターになる為の近道だって、教えてくれたんだぜ』
『……僕は絶対に騙されてると思うんだけどな……まぁ、キュウコン長老にはお世話になってるから、なんとも言えないけどね』 

 …………ロコンも大変なんだなと坊やは苦笑せざるを得ませんでした。
 けれど、これも化かしの一つのなのかなと思うと、いかにキュウコン長老が自分たちよりも何枚も上手だということが分かったような気がしました。
 大好きなキュウコン長老からのマトマの実を断ることができなくて、坊やは一つ、キュウコン長老からマトマの実を受け取り、そして、一口、食べてみると……刺激的な液が舌に乗った瞬間、坊やの口から火が吹きました。
「ほ、ほ、ほ! 見事な『かえんほうしゃ』じゃな、池月!」
 愉快そうに笑うキュウコン長老につられてか、坊やもつい、笑ってしまいました。

 この日、坊やはマトマの実が大好きになりました。



【5】

 月日が流れるのは早いものというより……坊やが天才だったのかもしれません。
 初日の次の日からゾロアやロコンに見習って、化ける練習をしてみると……尻尾は出ていたものの、殆ど、化けることに成功してました。
 それからキュウコン長老の下、修行を積み重ねていくと、あっという間に坊やは化けるコツをつかみました。
 坊や曰く(いわく)、化ける対象を想像し、その姿に一点集中して、そこに飛び込むといった感じ、だそうです。
 化けられる時間も増やしていき、一分しか持たなかったものも、最終的には一週間化け続けることに成功しました。
 もちろん、誰かを化かすということにも成功と経験を積み重ねていき、ロコンやゾロアよりも早く、キュウコン長老から卒業することになりました。
 坊やが水色のゾロアになった日から約一年が経った日、坊やはお世話になった小屋から旅立ちます。

 本当は坊やは小屋を離れたくはありませんでした。
 もっとキュウコン長老やゾロアやロコンともふもふしあったり、とにかく一緒にいたかった。
 キュウコン長老は本当におばあちゃんみたいで、ゾロアは兄で、ロコンは姉、そして坊やは弟みたいな感じで、本当の家族のように暮らしていましたから、離れるのは坊やにとって辛いものでした。
 けれど、水色のゾロアになった初夜、坊やはキュウコン長老と共にこの世を狐だけの世界にしようと語りあったのです。
 その夢を叶える為にも……それと、その夢を叶えにいくこと、それが今までお世話になったキュウコン長老への恩返しになるからと、坊やは強く心に決心しました。

「池月……これを持ってゆけ」
 坊やの小さな手に乗せられたのは一本の何やらもふもふしているもの……尻尾のようなものでした。
「それは、先祖のキュウコンの尻尾じゃ。化かした相手にこれを触れさせれば、狐の仲間にすることができる……頼んだぞ」
 キュウコン長老が坊やを抱きしめました。
 最後のもふもふ……坊やが一生忘れることのない、世界で一番のもふもふ。
「池月……頑張ってね」
「俺たちもすぐに化かしマスターになって、お前に追いつくからよ!」
 坊やは泣きながらも笑顔で答えると、出発する為にキュウコン長老から離れました。

「池月……夢が叶いしとき、また出逢おう」

 その言葉が背中を押したかのように坊やは一歩、前へと踏み出しました。


【6】

 この後、坊やはもちろんのこと、キュウコン長老や、他の狐たちが貢献した結果、なんと本当にこの世は狐だけの世界になりました。
 坊やはキュウコン長老との約束通り、小屋に赴いていました。
 小屋から出てきたキュウコン長老は坊やを見たときに驚きました。
 坊やがゾロアからゾロアークに進化している……というのもそうでしたが、
 坊やの隣にいる赤い花のかんざしをつけているキュウコンと、まだ年葉もいかぬロコン――妻と子を持ったことにも驚いたのです。
 坊やはこの世を狐だけにする為の旅をしている途中でケガをし、そのときに出逢った人間の娘と恋に落ち、番になり、子を産んだと語ってくれました。
 たった一年だけとはいえ、我が子のように見てきたキュウコン長老が嬉し涙を流すと――。

 天気雨が降りました。

 まるで、この世が狐だけの世界になったことを祝しているかのように。
 まるで、この坊やたちを祝福するかのように。

 天気雨は一日中、降り続いていました。


【7】


 やがて、狐だけの世界になったこの世は、後に、狐たちのもふもふしあう姿から、もふもふパラダイス、略して『もふパラ』と呼ばれるようになりました。
 世界のそこかしこで狐たちがもふもふしてじゃれあっていたり、戯れていたり……しばらくは……この『もふパラ』は続いていました。
 けれども、残念ながら、栄枯盛衰という言葉は『もふパラ』をも逃がすことはありませんでした。
 バブルの一種のようなものであった『もふパラ』もやがて割れて、『もふパラ』崩壊を迎えてしまいます。
 『もふパラ』崩壊の背景には、狐にいることを飽きてしまったものが他のものに化け続けるようになったというのもありました。
 海が好きなら魚に、森が好きなら木に、といった感じに狐たちは他のものに化けていきます。
 もちろん人間に化ける狐もいました。

 その人間に化けた狐たちこそが――。


 














 私たちの祖先だったのです。
 
 
 この今の世界の始まりは……狐からだったのです。
 だからこそ……。
 
 稲荷信仰や稲荷神社、
 神の使い、
 呪いが使える獣、
 誰かを化かすことができる獣、
 
 などと言われるように、狐は特別な力を持った獣という見解があるのです。

 だから今、この世の皆は、実は、狐なのです。
 

 化け方を忘れた狐なのです。



【書いてみました】

 Special Thanks : イケズキさん 

 
 それは、日付が変わったエイプリールフールの真夜中、イケズキさんとのチャットが全ての始まりでした。
 天狗のウチワでのロコンちゃんとゾロア君の話題になって、盛り上がっていたところ、
 狐の結婚披露宴みたいなのがあったら、飛び入り参加して、もふもふした〜いというような感じになって……。
 すると私の中でおばあちゃんAが産まれました。

 巳佑:おばあちゃんA「だけどね、坊や、狐の結婚式はばれないように覗くんだよ? もしばれたら……」

 以下、おばあちゃんAは正体を現し、イケズキさんをゾロアにしてしまいました。(笑)
 そう! 坊やとはイケズキさんのことだったのです!(汗&笑)
 坊やの名前を池月にしたのも、そこからです。(キラーン)

 ……話を戻しまして。(汗)
 やがて、その狐の話も終わり、「これ、ポケストに出してみたいなぁ……」と呟いてみたら、
 イケズキさんから「ぜひ!」というお声が!
 というわけで書くぜ! と決心ついた私にイケズキさんからのリクエストで、
 天狗のウチワに登場したロコンちゃんとゾロア君を出して欲しいといたただきまして、
 坊やとロコンちゃんとゾロア君のシーンも書かせてもらいました。
 うまく、あの二匹を表現できていましたかね……?(汗)
 
 それと、最初、タイトルを『もふパラ』から見る狐史にしようかな、と呟いてみたら、
 イケズキさんから壮大だし世界史のほうが似合うかもというお言葉をもらいました。
 確かに! それと、世界史という言葉のほうが、狐史よりも皆さんを化かせるはず! と思って今回のタイトルが決まりました。

 最初は比較的短い話になるかも……と思っていたのですが、思ったよりも長くなっちゃいました。(汗)
『もふパラ』はやはり壮大でした。(汗&笑)
 今回のこの『もふパラ』はイケズキさんの力もあります。
 本当にチャットではお世話になりました。
 ありがとうございます!

 それにしても……今回の話といい、きとかげさんの黒ベルといい、チャットにはどれだけの起爆剤が!?(汗&笑)
 恐るべしチャット! そう思ってしまった今日この頃です。(汗)

「あの日、あのとき、あの場所で、あなたと話さなかったら……きっとこの物語とは見知らぬまま」(汗)

 キッカケの突然性に改めてアゴが外れそうです。(汗)



 ありがとうございました。


【何をしてもいいですよ】 
【チャットもそうだけど、エイプリルフールの力もすごいのよ】
【みんな、狐になぁ〜れ!!】

   


- 関連一覧ツリー (★ をクリックするとツリー全体を一括表示します)

- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー