マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.615] チャレンジ・ザ・トリプル 投稿者:   投稿日:2011/07/31(Sun) 01:20:42   54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 暑いったらありゃしねえ。
 むんむんとした熱気が襲ってくる縁側で、おれは中庭に広がる惨状を眺めていた。
 池でアメタマがひっくり返って浮いている。池の周りでは、マメパトが暑さで羽を広げて寝ていたり、スピアーがぐったりしていたりする。ここからは見えないが、たぶんテッカニンは池の底に沈んでいるだろう。大丈夫、あいつは死なない。死んでもヌケニンになるからいいや。いや、あれはツチニンからだったか……。
 と、そんなことはどうでもよくて、今の問題はなぜか隣んちのガーディがうちに上がり込んでいて、おれの隣にいることと、夏を乗り切るための最強の武器であるバニリッチを切らしてしまったことだ。
 暑い。
 そう、バニリッチがいないと暑い。
 動く気も起きない。どうせ全国の皆さんは冷房でぎんぎらぎんと冷やした部屋に引きこもり、バニリッチを貪りながらテレビでも見て、夏のくせに暑さとか苦しさとか理不尽さとか、その他諸々を味わわずして秋を迎えようとしているのだろう。
 そして、うちには冷房がない。これも理不尽な世情の一つと言っていい。
 しかもこのご時世であるから、やれ節電だ、やれエコだ、などとのたまった挙句にそういうのを気にする人に限って冷房施設完備の室内に引きこもっている。
 おれはと言えば、見ての通り、暑さで溶けかけている。
 ここまで苦しんでいるおれが電力を消費しないで、節電節電言ってるやつが平気な顔して消費しているのだから、その悔しさを紛らわすにはおれも電力を消費する以外方法がないではないか。
 
 その決意から点けたテレビは、夏だというのに熱血な芸能人が出ていたりして、完全に冷やしたお茶の間仕様だった。クーラーで冷えた身体に熱血だ。そりゃあ、ちょうどいいことだろう。
 チャンネルをぴこぴこ動かして、やっとこさ涼しげなものを発見。番組かと思ったが、それはCMだ。
 夏になるといつもやってるやつだな。溢れ出る涼しさにおれは目が釘付けになる。
 アイスのCMだ。確か1301と書いてサーティーンアンドワン。メニューの数が店の名前だとかいう話を聞いたことがあるけれど、いくらなんでもそれは多すぎじゃねえか、と思う。
 今はキャンペーンをやっているのだとか。可愛げなバネブーが頭にカラフルで真ん丸なアイスを三つも乗っけて、『チャレンジ・ザ・トリプル』なんて宣伝をしている。
 なんて美味しそうなんだ! そしてバネブーが可愛すぎて、夏の暑さなんて吹っ飛ぶかと思ったけどそんなことはない! 暑い!
「おい、ガーディ。お前の名前を教えてもらおうか」
 おれはテレビを消して立ち上がる。ガーディが一吠えしてだるそうにおれの足下を歩き始めた。
「そうか、ストロベリーか」
 噛まれた。
「いってえ! いいじゃねえか、ストロベリーおいしそうだろ」
 庭にいたポケモンたちが、ストロベリーと聞いてぴくりと反応したのは気にしないことにしよう。今からおれは言わねばならないことがある。
 おれは、今夏最大の決意を胸に抱いて、高らかと宣言してやったのだ。
「ストロベリー、これからチャレンジ・ザ・トリプルにチャレンジしてやろうと思う! 依存はないな?」
 中庭のやつらが一斉に起き上がった。



 そんなわけで外に出たおれは、暑い。ひたすら暑い。暑かった。
 照りつける日光はディスプレイに点るライトの如く。日光を浴びるおれたちは店先に出されたかき氷の気分だった。
 なぜか後ろをついてくるのはガーディだけじゃない。テッカニン、アメタマ、スピアー、マメパト、ミノムッチ、ポッポ。お前ら、バニリッチ食べたやつらだろ。
 こいつらの好みのかき氷を記憶していたおれは、瞬時に名前を考えた。スピアーはレモンだ。マメパトがレモンだと被るので、ユズにしてやろう。ユズ味のかき氷なんて美味しそうだ。ブルーハワイはポッポにしておこう。ハードボイルドな千鳥足、彼の名は、ブルーハワイ。完璧だ。ミノムッチには代わりにアイスの称号をくれてやる。そういえばガーディが好きなのはイチゴだ。
「ガーディ、やっぱお前イチゴだわ。ストロベリーなしな」
 そしたら喜びやがった。
 テッカニンとアメタマの好みは知らないからまた今度でいいか。
 今決めたことを堂々と宣告してやったら、一同は盛り上がりを見せた。テッカニンとアメタマは残念そうにしていたが、こんな適当な名前でも羨ましいと思うのかお前らは。
 などと暑さを忘れたいけれど忘れられずに歩を進め、ようやく1301についた。幸運なことに並んでいる人はいない。ここは人気があるからこの時期なら数人並んでいてもおかしくないのだが、開店直後だったからか、並んでいる人はいなかった。
 店先に貼ってあるポスターでは、頭にアイスを三つ乗せたバネブーが可愛く写っている。なんて素晴らしいマスコットキャラクターだろう。おいしそうだ。
 店に入って、注文をしようとしたのだが、アイスを選ぶときにはさすがに苦労した。なにせ1301もメニューがあるらしい。適当におすすめを選んでもらって、チャレンジ・ザ・トリプルのアイスを三つ買う。
 一つはおれのだ。残りの二つは適当にポケモンたちで分けろ。
「さぁ、食っていいぞ!」
 ポケモンたちはアイスにかじりついた。おれもいただくとしよう。店内は冷房が利いていて最高の環境だ。
 まずは、顔を近づけるだけで漂ってくる冷気を堪能する。ふんわりと漂ってくる甘い香りが続く。これぞアイスクリームの醍醐味だ。かき氷とはまた違った良さがある。
 食前の楽しみをたっぷりと堪能してから、ようやくおれは食すことにする。
 思わず口の中に唾液が満ちた。さぁ、いただきま――。
「って、おいイチゴ! お前の分はこっちじゃな、ああああああ、ばか、食うなこのやろう! うわあああああ」
 コーンから上を丸々掻っ攫われた。
 こいつらを連れてくるなんて間違いだったのだ!
 ポスターのバネブーが微笑んでいる。おいしそうだ! くそう、おいしそうだ!
 どうやら店員さんがこの悲しき大事件を見ていたらしい。黒髪の長髪で清楚な雰囲気しか感じない女の店員さんだ。名札にはイノウエと書いてある。小顔で目がぱっちりしていて、手にチャレンジ・ザ・トリプルを持って、笑顔で近づいてくる彼女は女神のようだった。
「いりますか?」
 夏の暑さも忘れてしまいそうな、おれの心臓を確実に一秒は止められるような、それくらい最高の笑顔だった。これが営業スマイルでないと、おれは信じている。
「ありがとうございます、いただきます」
 その施しをいただいて、食べたはいいのだが、頭はぽーっとしていて味がよく分からなかった。

 でも、うむ、最高だ。チャレンジ・ザ・トリプル。もとい、三段バネブー。



 ○ ○ ○

 私は1301の回し者ではありませんばにら。


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