マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
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  •   [No.4197] 塀に花が咲いている 投稿者:久方小風夜   投稿日:2024/11/09(Sat) 18:43:36     9clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:ほぼ出オチ

     塀に、変な青い花が刺さっていた。

     家をぐるっと取り囲んでいる塀の、山に面した方。朝起きて何となく家の裏手に回って、それを見つけた。
     青い花……と言っても、昔の少女向けアニメで見たことあるような、例えば投げられたバラの茎が壁に刺さってて……って感じではない。壁に青い花びらみたいにひらひらが放射状に刺さってて、その真ん中から白い茎が伸びて、先っちょがつぼみみたいに膨らんでいる。正確には花と言うより、何というか……SFに出てくる鉱物生命体の星で花の役割をしているなにがしか、みたいな風体だ。

     いや、これポケモンだな。見たことないけど多分ポケモンだわこれ。大体こういうよくわからないものはポケモンって相場が決まってる。
     スマホで写真を撮ってささっと検索する。最近は画像で検索できるから便利だよね。答えはすぐに返ってきた。キラーメ、というポケモンらしい。岩と毒タイプ……うわっ毒じゃんこれ。触らなくてよかった。このパルデアでもそこそこ珍しいポケモンで、洞窟でごく稀に見つかるらしい。へえ。洞窟の壁に頭を突っ込んで栄養を得ているとか。
     ……なるほど? それでうちの塀に刺さっている、ということなのだろうか。この青い花びらみたいなのが頭の後ろにあるたてがみみたいな部分で、今まさに頭を壁に突っ込んでお食事中、ということなのか。……いいのかな。

     うちの塀……漆喰なんだけどな……。

     いやポケモンには全然詳しくないから知らないけどさ、岩タイプの奴が壁から栄養を得るってなるとそれは大地に繋がっているところからなにがしかのエネルギーを得ているってことじゃないんだろうか。この塀がたとえ岩壁であっても疑問なのに、漆喰だぞ。漆喰。ここから何を得ているんだこいつは。
     一旦家に戻って物置からゴム手袋を探し出す。それをつけて塀に戻り、壁に刺さった白いつぼみもどきをぐいっと引き抜く。すぽん、とガラスみたいな透明な円錐形が壁から抜ける。そのまま首根っこを掴んでいると何事かと辺りをキョロキョロ見回した。
     やがて目が合う。透明な円錐の底に見える目は思った以上につぶらだ。こちらを確認すると、あ、どうも、とでも言いたげに黄色い目をパチパチさせた。
     手を放すと、鉱石生命体はふよふよとその辺に浮かび、何を考えているのかわからない顔で辺りをふよふよとしばらく飛び回ってから、またふよふよと山の方へ飛んでいった。何かよくわからないがやたらとぼんやりした奴だ。うちに刺さっていたのは迷子か何かだろうか。
     塀にぽっかりと空いた穴を見て、あいつの飛んでいった山の方を見てから、もう迷うなよ、と心の中で呟き、家に帰った。


     次の日の朝、何となく家の裏手に回ってみた。
     山に面した方の塀に、青い花もどきが刺さっている。

     すぐに家に戻ってゴム手袋をつけ、塀に刺さった毒花を抜く。
     キラーメはまたきょとんとした顔でこちらを見て、またふよふよと辺りを飛んで山に帰っていった。うちの塀にはまた穴が増えた。

     その後のことはまあご想像の通りである。
     あの何を考えているのかよくわからないぼんやりとした鉱石生命体は、毎朝毎朝うちの塀に刺さっていた。だから何でうちの壁なんだ。漆喰だぞ。漆喰。
     抜いても抜いても次の朝には別の場所に刺さっているので、しばらくするとうちの塀は銃撃戦でもあったのかっていうほど穴ぼこだらけになった。正直困る。この前はご近所さんが来て「抗争か何か……?」と恐る恐る聞いてきた。別に反社じゃないんだようちの家は。清く正しい一般市民なんだよ。


     さて、今日もそいつはうちの塀に刺さっていた。
     予めネットや図鑑でキラーメについて調べておいた。今日はそれを実行に移す。

     いつも通り塀に刺さったそいつを引っこ抜くと、原付の後ろに取り付けてある荷物入れに放り込んだ。いつもと違う行動に毒花は少し戸惑ったのか、かごから頭を出してキョロキョロと辺りを見回している。
     ヘルメットをかぶり、原付のエンジンをかける。鉱石生命体を後ろに乗せたまま、ゆっくりと走り出した。

     しばらく原付を走らせてたどり着いたのは東3番エリア。採石場の広がる荒野で、時折キラーメが発見されるらしい。
     適当な横穴を見つけ、原付を停める。荷物かごに入れた野生の毒花を見る。黄色い目を閉じてスヤスヤお休み中だった。突いて起こして持ち上げる。寝起きの鉱石生命体はキョロキョロ辺りを見回して、どこここ? とでも言いたげにこちらを見つめてきた。
     青い花もどきを連れて横穴に入る。当然だが辺りは天然の岩壁だ。どの辺りがいいのかはわからないけど、まあどこでもいいだろう。多分。

     適当に良さそうな場所を選んで、岩壁を指でトントンと示す。キラーメは「?」とでも言いたげに小首を傾げるような動きをする。首を掴んで岩壁に顔を寄せさせ、もう一度指で示す。透明な円錐の先が何度かちょんちょんと岩壁に触れ、そのまま洞窟の壁に頭を突き刺した。
     そっと様子を見守る。毎朝うちの塀で見ている謎の花もどきが洞窟の壁に突き刺さっている。しばらくするとキラーメは壁から頭を抜き、こちらを見てきた。

     透明な円錐の奥にある目がキラッキラに輝いている。
     頼むから「何これめっちゃ美味いんですけど!!?」みたいな顔をしないでほしい。お前産まれてから今までどうやって生きてきたんだ。何を思って毎朝うちの塀(漆喰)に刺さってたんだ。お前普段山に住んでるんだろ。その辺の岩に首突っ込んでおけよ。多分うちの塀より美味いよどこでも。

     鉱石生命体が嬉しそうにまた岩壁に頭を突っ込むのを見届け、横穴から立ち去った。
     珍妙な出会いだったが、これから先はあいつもここで普通に生きていけるだろう。達者で暮らせよ。
     原付にまたがり、エンジンをかける。家に帰る前にホームセンターに寄ることにした。





     翌朝。ホームセンターで買った補修道具を手に、家から出る。
     やれやれ、ようやく漆喰の穴を埋められるな。反社の噂ともお別れだ。

     塀に、変な青い花が刺さっていた。

     眼前の光景にしばし固まる。頭を押さえ、ゴム手袋をつけた手で花もどきを引き抜く。
     透明な円錐の奥にある黄色い目が、やっほー、とでも言いたげにパチパチ瞬く。頭を抱える。お前、何で戻ってきた。何なんだお前。だから漆喰だぞこれ。
     あれか、ちゅーるは美味いけど普段はカリカリでいいやとかそういうアレなのか。わからん。もうわからん。ポケモンのこと何もわからん。


     そんなこんなで。倒壊寸前までぼこぼこに穴が空いたうちの塀(漆喰)に、いずれ毎朝大きな青い毒の花もどきが咲くようになるのだが、それはまたしばらく先の話。


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