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ある森に、かわりもののメタモンがおりました。
かわりもののメタモンには、非常な不満がありました。
「なぜ人間は『メタモンがへんしんした姿』として『目が点のポケモン』を取り上げるのだ。
僕らはもっときちんと観察して、再現してへんしんするのだ。もちろん、目が点なんかじゃあない。
それをなんだ、へんしんが特に下手なメタモンを取り上げて、これがさもメタモン界全体でのスタンダードですよ、メタモンがへんしんしたらみんな目が点ですよ、みたいな顔をしやがる。
おまけに最近はメタモンの方にも迎合するのが出てきて、へんしんするとき、わざわざ目を点にするときた。
これはメタモンに対する名誉の毀損だ、固定観念の押しつけだ」
この話を聞いたメタモンは、こう言いました。
「別にええやん」
かわりもののメタモンは、納得がいきません。
「僕ら、莫迦にされているのだぞ」
別のメタモンが言いました。
「別に、困らんがな」
「へんしんしか芸がないくせに、目元はへんしんができない連中だと、虚仮にされているのだぞ」
またまた別のメタモンが言いました。
「気にせんかったらええがな」
森のメタモンたちは、だれもかれもそんな調子で、かわりものメタモンの言うことに耳を貸しません。
かわりものメタモンは、体をきゅうとひねって怒りました。
「あいわかった。みんな、メタモンの誇りというものがないのだな。
僕は相手をひと目見て、そっくりそいつにへんしんするという特技がある。目が点なんかじゃないぞ、尻の毛までそっくりだ。僕はみんなより一等へんしんが得意で、上手で、だからメタモンの誇りを持っているのだ。
もうみんなのことなど知るものか。見下されるまま、森の土でも川の砂でも好きなものにへんしんすればよい。
僕は森を出て、人間へ直談判に行くとしよう。
ポケモンの言葉は人間に通じないというが、世界中巡れば、通訳のできる人間かポケモンか、一匹くらいいるだろう」
そんなわけで、かわりものメタモンは森の上を飛んでいたオオスバメをひと目見て、目元から尾羽根までそっくりオオスバメにへんしんして、森を飛び立ったのです。
メタモンはさまざまなポケモンにへんしんして、世界各地を巡りました。
そして通訳のできるポケモンの噂を聞きつけました。
そのポケモンはとても賢く、人間の言葉もポケモンの言葉もよく理解して、その上、テレパシーでもってどちらとも会話ができるというのです。おまけに、とびっきり強くて最強だときました。
メタモンはさっそく、そのポケモンに会いに行くことにしました。
メタモンは洞窟の奥にたどりつきました。
「やあやあ、この洞窟にミュウツーというポケモンがいると聞いた。
僕はメタモン。人の世に流布する誤ったメタモン像を正すため、そしてメタモンの誇りを取り戻すため、人間の言葉にもポケモンの言葉にも通ずるという君に、通訳を頼みに来た。
君がポケモンの誇りというものに少しでも興味があるのなら、どうか胸を貸してくれまいか」
するとメタモンの声に答え、白くてのっぽで目の吊り上がったポケモン、ミュウツーが姿を現しました。
ミュウツーは言いました。
「これはこれは、小さな紫の、へんしんが得意のポケモンじゃないか。こんなところまでよく参った。
言うこともとても面白い。喜んで力を貸そう。
しかしその前に、一つ聞きたいことがある。
お前さんが人間にへんしんして話すのでは、いけないのかね」
ミュウツーに問われ、メタモンのやわらかなスライムみたいな体に、穴が開きました。
むろん、この穴は表現として開けたもので、ふていけいのメタモンは問題なく息をしているのですが、とにかく、体に穴が開いたくらいのショックをメタモンは受けました。
それは何故かといいますと、
「実は、やったことがあるのだ」
「ほう」
ミュウツーは洞窟の地面にあぐらをかき、座ってメタモンの話を聞く姿勢になりました。
そうなれば、メタモンは話すより他にありません。元よりミュウツーを頼ってきた身です。大切なプライドも、今はかなぐり捨てました。
「そして、失敗したのだ」
「失敗? 目が点になったのかね」
ミュウツーのその言葉は、メタモンの逆鱗にふれました。メタモンはぷうと倍ほどに膨らんで、赤くなって怒りました。
「目が点だと!? そんな失敗、この僕がするものか。
目元から尻の毛まで、すっかり再現してやったとも! てごろな人間を見つけてね。
そしてその口で、メタモンのへんしんがいかに優れているか話したとも!
だが……だが……」
メタモンはわなわなと震えました。
そこから先は、思い出すだにおぞましいことでした。
「誰も耳を貸さんのだ! メタモンのへんしんは目が点などではないといくら語っても、目の前に実物がいるというのに、人間ども。
見ぬフリをするならまだいい方で、連中、僕をバケモノだと罵って、石を投げてきやがった。挙げ句、メタモンのへんしんならば目が点のはずだ、などと言う始末!
喧々諤々と言い争う内に、投げられた石の一つが僕に当たった。僕は辛抱たまらず、へんしんを解いてその町を去ったのだ」
言い切って、メタモンはくんにゃりと地面にのびました。そして小さな手で目元をおおいました。
「ああ、ああ……本当は逃げてきたのだ。そうだとも!
僕は僕のへんしんが自慢だった。なんでもひと目でそっくりにへんしんできることが、僕の誇りだったのだ。
なんて矮小な誇りだったろう! 僕はへんしんでなんでもできると思いこんでいた、自分だけの王さまだった!
だがそれでも、目が点の下手くそなのがメタモンのへんしんだなどという、誤ったメタモン像を放置してはおけぬのだ。先祖代々子々孫々、地の底から空の果てまで、メタモンすべての名誉を汚されるままに捨て置くことが、どうしてもできぬのだ。
どうか笑ってくれたまえ。自慢のへんしんで何事も為さなかったくせに、誇りだけは捨てられない愚か者だと。自分の誇りのために故郷の森を出てきたのに、ことこの期に及んで種の誇りを持ち出す愚か者だと。
しかしどうか、君がポケモンの誇りというものに少しでも思うものがあるのなら、手を貸してほしい。
それが叶うなら、僕は道化にでもなんでもなろう」
そこまで言い終えて、メタモンはそろりとミュウツーを見上げました。
これだけ言って協力を得られなかったら、帰ろう、とメタモンは思いました。
ミュウツーを言葉で動かせないならば、この先、たくさんの人間を言葉で動かすことなど、できるものでしょうか。
届かない言葉をずっと叫び続けることのむなしさを、メタモンは、身に染みて辛く思っていました。
ミュウツーははいともいいえとも言いません。その代わり膝をついて、
「お前さん、もう一つ聞こう。
お前さんもメタモンならば、俺そっくりにへんしんした上、俺の能力も十全に使えるのかい」
と問いかけました。
メタモンは、くんにゃりから身を起こしました。
「もちろんだとも。僕にとっては造作もないことだ」
ふるり、と身をふるわせた次の瞬間には、洞窟にいるミュウツーは二匹になっていました。
もちろん、片方はへんしんしたメタモンです。
「ほう、これはすごい」
ミュウツーはメタモンの周りをぐるりと回って、背中側を見ました。
「尻の毛までそっくりか」
「ああ、そうだ」
メタモンは胸を張りました。
その所作がいかにも自分らしかったので、ミュウツーは驚きました。
「俺は自分の尻の毛は見たことがないのだが、しかし、そっくりだと太鼓判を押そう。
テレパシーはコツがいるが、同時に、たくさんの相手に思いを伝える方法を伝授しよう。
人間どもにメタモンの正しい姿というものをわからせる方法も、俺が教えよう。
俺の言う通りにすれば、すぐにみな、メタモンのへんしんは目が点などではなくて、もっとすごいものだと、心から納得するぞ」
「いったい、どうやるんだ」
メタモンがたずねました。
ミュウツーは答えました。
「お前さん、道化になれ」
###### ######
二匹のミュウツーが壇上に上がる。
一方のミュウツーはサングラスをして、目元を隠している。
「どうも、ミュウツーです」
「どうも、ミュウツー兄さんの弟のミュウスリーです」
「誰やお前。俺は悪の科学者に作られた最強のポケモン。兄弟はおらへん」
「しかし兄さん、僕、兄さんにそっくりです」
グラサンミュウツー、グラサンを外す。
グラサンの下は目が点になっている。
「どこがや!」
「そっくりでしょう。目の下からしっぽの先までそっくりです」
「自分で似てへんとこ自覚あるやないか!」
グラサンミュウツー改めメタモン、しゃべる。
「いえいえ目はちょっとつぶらですけどね、それ以外はそっくりです」
「どこがそっくりなんや、言うてみい」
「ミュウツー兄さんと同じわざを使えます」
「ほな使ってみい。
お前そっちに立ってな、俺はここに立つさかい。
せーので同じわざ撃とう」
ミュウツーとメタモン、舞台の両端に立ち、構える。
鏡に写したようにそっくりである。目元以外は。
「せーの!」
「サイコブレイク!」
「みずでっぽう!」
メタモンの指先からぴゅんと水が発射される。
水はバケツに回収される。
「いや何やねんみずでっぽうて!」
「そっくりでしょう」
「どこがやねん。ミュウツーといえばサイコブレイク。みずでっぽうやあらへん。
そっくりどころか弟を名乗るにも似てなさすぎや。顔洗って出直して来ぃ」
メタモン、先程バケツに受けたみずでっぽうの水で顔を洗う。
顔を拭うと、目が点からまつ毛バシバシの大きめキラキラになっている。
「どうも、ミュウツー兄さんの妹のミュウフォーです」
声も高くなっている。
「妹を名乗れっちゅう意味ちゃーう!」
メタモン、目元を手で隠す。
手をどけると、太眉になっている。
「ミュウツーの叔父のミュウファイブです」
「誰やねん! 兄弟おらん言うたんは叔父がおるいう意味ちゃうねん!」
メタモン、太眉を白にする。
「ミュウツーの大叔父のミュウシックスです」
「大叔父もおらんねん!」
メタモン、今度は幼年らしい目つきのミュウツーになる。
「どうも、父がお世話になっております」
「子供もおらんねん!」
「ミュウセブン……」
「はいはいミュウセブンやな」
「……ティーツーです」
「セブンティーツーて七十二や! 増えすぎや!
なんや急に大きなって。七から七十一までどこいったんや」
「七から順に従兄弟再従兄弟甥姪叔母大叔母曾孫玄孫」
「ストップストップ!
ええわ、ええわ弟で。
お前を弟と認めるから、勝手に数字増やして続柄増やすのやめぇ。悪の科学者どんだけポケモン作ってんいう話なるからな。もう弟と認めるからな。
今日からお前は俺の弟、ミュウスリーや」
「認めていただき光栄です、ミュウツー兄さん」
メタモン、サングラスをかける。
サングラスを外すと、その下からミュウツーそっくりの顔が現れる。
「最初っからそれをやれーっ!」
二人声を揃える。
「どうも、ありがとうございました〜」
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「なんだか釈然としないぞ」
と言いながら、メタモンはかたわらのお菓子をつまみました。
「何、うまくいったじゃないか」
とミュウツーは答えます。
メタモンとミュウツーの漫才は、人間社会に一大センセーショナルを巻き起こしました。
メタモンは人間の作った大きな家に住み、人間の作ったお菓子を日常的に食べられるまでになりました。
ミュウツーもお菓子をつまみながら話します。
「これからは目が点のへんしんと言えば、お前さんのへんしんだ。
とびっきりのへんしん上手が、そっくりにもなれるのに、わざと目を点にしてみせる、高い技術の表れなのだと、みんな言葉にしなくっても得心する。
これは、メタモンの誇りを守れたことにはならないか」
「うむ、まあ、それはそうなのだが」
メタモンは結果には満足していましたが、過程には満足していませんでした。
なんかもっとこう……人間たちがスイマセン間違ってましたー! と総土下座して次の日から正しきメタモン像が発布されるとか……そんな感じのを期待していました。
メタモンはさらにもう一つ、人間のお菓子を口に放りこみました。
「うーん、おいしい!」
なので、まあいっかとメタモンは思いました。
世界に点在するダンジョンと呼ばれる空間、そこは不思議な場所であり様々なトラブルが発生する。そんなダンジョンへと探検に向かい、時には人々からの依頼に応え、時には無法者を成敗し、時には財宝を持ち帰り、時には未知の解明をする。それが探検家、あるいは探検隊と呼ばれる者達の生業である。そしてその探検家達が集う探検隊ギルドの内の1つ「あかいはね」。そこに所属する探検隊「ブラックサンダー」のサンダースとブラッキーが、受ける依頼を探し掲示板を眺めていた。 |
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