※グロいです。苦手な方はバックプリーズ
この時期になると、冬を越すためにポケモン達は大量の食物の摂取を必要とする。中でも、リングマやゴロンダなどのポケモンは、その体の大きさから食糧不足となり、時々街の麓にまで降りてくることがあるという。
もし出会ってしまったら、背中を見せずに、ゆっくり後ずさるのが一番良いと言われている。
だが、ごくまれに”人を襲うために”麓まで降りて来る物もいる。それは大抵、何らかの理由で人を襲い、その味を覚えてしまった物だ。
昔から言われている。人の味を覚えてしまったポケモンほど、厄介な物はない、と。
彼らはゲットできればボールで縛ることは理論上可能だ。しかし、野生では腕力、体力共にどんな人間にも勝る。過去の人身事故で助かった例は、ごくわずかだ。
時代が変わっても、その事実は変わらない。
では、そのような大きくて狂暴だと言われているポケモンに近付かなければいいのか。
そうと言い切れないのが、事実だ。
これは、私が各地を旅している時に聞いた、恐ろしいポケモンの話である。彼(おそらく♂)は、その世間一般で言われているイメージから、数々のトレーナーを惑わし、挙句の果てに手持ちに襲われることなくその肉を喰らい尽くしてしまったのだ。
彼はとても賢く、強かった。もし普通のポケモンなら、どれほど重宝されただろうか。
だが、彼はそれをしなかった。私がその話を初めて聞いた時、彼はどんなポケモンであるかさえもまだハッキリと分かっていなかった。
――ただ、その知性と策略家であることを評価され、こう呼ばれていた。
”colonel the carnival”
……”人喰いカーネル”と。
その噂が出回り始めたのは、確かカント―地方を暗躍していたロケット団という組織が壊滅してからだった。
各地の警察に、自分の子供と連絡がつかなくなった、という届け出が多数寄せられるようになったのだ。
どれも実力のあるトレーナーで、人為的な被害を受けたとは考えにくかった。最初はてっきり、携帯電話が故障したのではと考えられていたが、それにしては数が多過ぎる。
何より、短期間に固まって届け出は出されていた。一月に大体五、六件。その次の月に別の場所で、同じくらい。
最初は只の行方不明事件だろうと言われていたが、急遽捜査本部を設置する事態が起きた。
何でも、次のエリアで起きた事件の被害者の中に、有名政治家の息子がいたらしい。それで、父親である政治家が警察上層部に圧力をかけたそうだ。
だが、犯人像が全く見えて来ず、また捜査員を派遣しても大した情報は全く見つからなかった。
進展があったのは、初めの事件があってから四か月後だった。
一人のトレーナーが、ポケモンと共に現場近くの森を探索していた際、土砂崩れに遭ったのだ。幸いにも本人はポケモン達に助けてもらい、命に別状はなかった。
だが、その崩れた跡地から、大量の骨が見つかったのだ。前日までそこは雨が降らない日が続いており、乾燥注意報が出ていたほどだったという。
土砂降りの雨で、崩れたのだろう。
鑑識がその骨を調べた所、行方不明になっていたトレーナーのDNAと一致した。更に判明したことには、その骨に齧られた痕が幾つも見つかったということだ。
結論ははっきりした。
このトレーナーは、何者かによって襲われ、そして――。
”食べられた”。
その後、骨を再び調べた所、齧られた痕の歯形はかなり小さい物だった。予想していたリングマなどの大型ポケモンではないということになる。
とはいえ、彼らは実力トレーナーとして名が通っていた。そんな目に遭うような真似をするだろうか。少なからず警戒しそうな物だが。
そして、彼らの手持ちであるポケモンも、未だに一匹も見つかっていなかった。もしかしたら一緒に喰われてしまったのでは……。その考えも、否定できなかった。
だが、こんなに小さな歯型を持つポケモンが、六匹の大型ポケモンに適うだろうか。
一先ず、報道管制は解かれた。これ以上被害を増やさないためだ。未だに見つからないトレーナーも多く、家族はもし死んでいるなら、せめて骨だけでも回収して欲しいと必死に訴えていた。
それからしばらく、事件が起きることはなかった。それで終わりかと、誰もが思っていた。
――だが。
それから更に三か月後、再び事件は起こった。ただし、今回はトレーナーじゃない。
子供だ。
幼い子供が襲われ、喉笛を噛み切られた状態で見つかった。手足は所々喰いちぎられており、第一発見者はあまりの悲惨さにその場に吐いたという。
首に残されていた歯形と、骨に付いていた歯形が一致したことから、警察は同一犯だと決定した。そして、子供を決して一人にしないようにと釘を刺した。
それにしても、何故そのポケモンは人間を襲うのか。それが一番分からなかった。人の味を覚えたからだとしても、何故人を襲うに至ったのか。
最初に被害が出た土地は、別に乾いた場所でも、枯れた場所でもない。むしろ緑豊かで、野生のポケモンが数多く生息しているとして有名な場所だ。
だから、絶対に人を襲って喰らう理由があるはずだと彼らは踏んだ。
鑑識は現場写真を見て、おかしなことに気付いた。
子供の手の平だけが喰われていた。更に服が引きちぎられ、持ち去られていた。
そういえば、と彼らは別の事件の現場写真を見た。案の定、他の被害者の服も引きちぎられていた。それも一部分のみだ。
そこで彼らは、現場検証をした際に足跡が被害者の物以外見つからなかったことを思い出した。そして、土が撫でられたような跡が残っていたことも……。
そこで分かった。
そのポケモンは、食い殺した痕に、服を引きちぎり、足跡を消すための布を作った。そして、自分の足跡が付いた布が証拠品になることを恐れ、持ち去った。
見つかっていないことから、おそらく廃棄されてしまったのだろう。
それにしても、何て頭の良いポケモンだ。普通、これだけの知能を持ったポケモンはいない。
この悲惨な事件は、とある一人の男が警察に来たことにより、急展開を見せる。
まるで浮浪者のような身なりをした男は、自分のことを元・ロケット団の科学者だと名乗った。
解散したとはいえ、行方をくらました団員は数多くいる。ボスもその一人だったが、彼はボスのことについては知らなかった。
その口から、とんでもない事実が判明した。
その男は、今起きている事件の犯人に心当たりがあるという。
かつてロケット団の化学部門にいた男は、上司や同僚と共にとある実験をしていた。それは、ポケモンの脳をどこまで大きくできるか、という物だった。
ポケモンは人の言葉を理解できる種はいるが、人間の言葉を話したり、また手先を器用に使うことができない。後者は手の構造の違いからなる物だが、もし人間と同じくらい賢くなったら、どれほど大きな進歩になるだろう。
そう考え、彼らは脳細胞を増やす原理で薬を制作し、攫ってきたポケモン達に投与した。
『動物実験』だ。
ほとんどのポケモンはそのあまりの容量に耐えきれず、死亡した。第一回目の時点で、生き残った者はいなかった。
そこで考えたのは、その死体を別のポケモン達の餌にすることだった。
薬を投与された肉体を少しずつ餌として与え、薬に慣れさせようというのだ。
そして迎えた二回目。やはり結果は一回目と変わらなかった。
だが、一匹だけ――。 たった一匹だけ、その薬に耐えた種がいた。
それは、とある育て屋から攫ってきたポケモンだった。トレーナーによって高個体値のポケモンを産ませるためにずっと預けられていたらしい。
ここに来てからは、大分回復した様子を見せていたのだが、まさかそれが耐えるとは思わなかったという。
何故なら、その個体は……。
”イーブイ”だったからだ。
”進化ポケモン”と分類され、染色体が非常に不安定。それゆえ、何種類ものポケモンに進化できることで、様々なトレーナーから支持を受けている。
その話を聞いた時、捜査員達は耳を疑った。無理もない。
イーブイは一般的に、愛くるしく可愛いという評判を持っている。もこもこしていて、癒し担当のポケモンだと。女性からも人気が高い。
だが、ふと思った。
もし、山の中でいきなりイーブイが目の前に現れたとしたら。
そのイーブイが、こちらにすり寄って来ようとしたら。
トレーナーは、どんな反応を示すだろうか。
男は彼らの反応を見て、そうだと言った。
おそらくは、その犯人は私達が実験体に使っていたイーブイだ、と。
実験に成功した彼らは、早速ボスに報告しに行った。
だがその時既に、ロケット団は壊滅へのカウントダウンを開始していた。
一人のトレーナーに敗北したボスは、ロケット団を解散すると宣言したきり、連絡が取れなくなっていた。
そして彼らを、悲劇が襲う。
檻に入れられていたはずのイーブイが、その爆発的に進化した知能で鍵を開け、施設から逃走したのだ。
去り際に、その場にいた研究員達全ての喉笛を噛み切って。
男は言う。
おそらく、あのイーブイは人間が大嫌いだったのだろう。元はといえば、高個体値のポケモンを産ませるためだけにゲットされた個体だ。
何も与えられず、ただ生み出すのみ――。
そして攫われた後も、強制的に実験に使われた。その時、何を思っただろう。
人間をどれだけ恨んだだろう。どれほどの怒りを抱いただろう。
その気持ちがおそらく、彼を薬の投与に耐えさせたのだと。男は締めくくった。
何も言えず、ただ茫然とする彼らに、通報が入った。
近くの街で、一匹のサンダースが、人の生首を咥えたまま歩いていると。
彼らは直ちに現場に急行し、最悪の事態を考えて狙撃班を出動させた。
町は静まり返っていた。住人は既に避難したらしい。
配置させて数分後、街角から一匹のサンダースがゆらりと現れた。
目はぎらぎらと光っており、体は普通のサンダースの数倍ある。あれでは、いくら強いトレーナーのポケモンでも適うはずがない。
彼は警察に気付くと、首を離した。ごろん、と首が足元に転がった。それを踏みつけたまま、こちらに歩いてくる。
拡声器で説得しようとしても、効果が無い。だがどうやら、こちらの言葉は完璧に理解できているようだ。やはり、脳が通常のそれより大きくなっているらしい。
もう言葉による説得は不可能だと判断した上層部は、射殺命令を出した。
一斉にライフルを構える狙撃隊。
だが――
一瞬、影が見えた。
気付いた時、狙撃隊は噛付かれていた。
とてつもない力だった。装備が全く役に立たない。
元々サンダースは素早さに特化した種族だ。だが、あそこまで素早いとは誰も思っていなかった。
一人の狙撃手の手をボロボロにしたサンダースは、次に周りで怯えている人間達を襲おうと身構えた。
慌ててライフルを構えなおす男達。
そして……。
突然、サンダースが苦しみ出した。嘔吐し、体が床に横たわる。
状況を掴めない狙撃隊だったが、本来の自分達の役目を思い出し、引き金を引いた。
乾いた音が、人気のない街に響き渡った。
サンダースは、少しだけ―― ほんの少しだけ相手を睨んだ後、そのまま絶命した。
目は開けたままであり、憎悪のと怒りの色で染まった視線は、その場にいた彼らを震え上がらせたという。
その後、ロケット団にいたという科学者は逮捕され、拘置所に入れられた。事件は全貌が新聞に掲載され、世界中を震え上がらせた。
サンダースの遺体は処分される予定だったが、それに殺されたトレーナーの父親…… この事件の捜査本部を作るよう圧力を掛けた議員が剥製にさせた。
趣味が悪いと口々に言われたが、見世物にすることで人を食い殺したポケモンへの恥とすると彼は述べた。
それから、数日後。
議員は殺された。部屋からは剥製が持ち出され、当の本人は喉笛を噛み切られた状態で絶命していたという。
パニックになるのを恐れ、この事件には報道管制が敷かれた。というよりも、既に別の事件が世間を覆っており、メジャー性が無かったのもある。
その後も度々、成金趣味のコレクターが殺害されるという事件が起こったが、大して話題にはならなかった。
あの剥製は、何処へ行ったのだろう。
今もこの世界の何処かで、人への恨みを抱きながらその目を開き続けているような気がする――。
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タイトル詐欺ですね。WKです。
久々にまともな話を書いた気がします。語り手は誰なんでしょうね。書いてる私にも分かりません。