マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
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  •   [No.3061] 隠しコマンド 投稿者:きとかげ   《URL》   投稿日:2013/09/15(Sun) 14:44:58     106clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:↑↓↑↓←→←→LR


     俺は木々の間から向こうを透かし見て、呆れた。森の中に建つ謎の建造物、もとい、悪の組織運営の研究所。悪の組織は、どうして重要なアジトやラボを僻地に建てたがるのだろう。不便でしかないだろうに。
    「まあ、俺がこれからぶっ潰すから関係ないか」
     俺の足元に立っているオーベムが、手の平の三色ライトをキラッキラッと光らせた。きっと激励してくれているんだろう。
    「ああ、頑張ろうぜ、ラピ。今回こそ、あの馬鹿上司がしゃしゃり出てくる前に終わらせよう」
     オーベムが上げた片手と、フィストバンプ。それから俺達はまっすぐ、敵のラボへ向かった。

     今回の任務は敵の頭領の捕縛。証拠の獲得は敵を縛り上げてから、全速力で行う。左腕の腕時計兼通信端末の表示を確かめる。今は午後二時。作戦開始は、本当はこれより十二時間後の午前二時。だが悠長なことは言ってられない。なんとしても、あの上司が辿り着くより早く事を済ませなければ。
    「ラピメント、フラッシュ」
     俺の指示で、オーベムが両手の三色ライトを光らせる。目眩まし、ついでに短期記憶も飛ばしてくれるオマケ付きだ。廊下の突き当たりの角を曲がって影に隠れ、来た道を窺う。立ち止まって首を傾げている下っ端研究員が見えた。研究員は「何しに来たんだっけ」と独り言を言った後、俺が隠れている場所とは違う方向へ行ってくれた。やれやれ、と俺は一旦胸を撫で下ろした。これをやると一週間ほど健忘になって取り調べに支障が出るんだが、背に腹は代えられない。早く敵の頭領を捕まえなければ。他の遭遇した研究員の短期記憶も飛ばしつつ、俺達は奥へ走った。何故か? だいたい敵の頭領というのは、建物の一番奥の一番高い所にいると相場が決まっているからだ。ここは平屋だけど。

     そして着いた。平屋もとい研究所の一番奥。時間は午後二時五分四十秒。
    「やった」
     思わず小さくガッツポーズした。いくらあの奇天烈上司といえど、作戦開始前の十一時間五十四分二十秒前にはここには来られまい。早起きして来た甲斐があった。
     出来ればこの調子で奥へ踏み入って御用だ、とやりたかったのだが、生憎扉にはロックが掛かっている。扉の横に細い六角柱が生えていて、その上にキーボードが乗っている。
     俺はキーボードに手を伸ばしかけて、引っ込めた。
    「これ、間違えたら奥の人逃げるよな。警報とか鳴って」
     特にオーベムに聞いたわけではないけれど、俺の相棒は律儀にこくこくと頷いてくれた。
    「闇雲に押しても駄目だよな。かといって悩んでる暇もないし。テレポート……は中の様子が分からないから駄目か」
     相棒はまた律儀に頷いた。少し考えて、さっきの下っ端研究員を適当に捕まえて記憶を覗き見れば良かったと気付いたのだが、後の祭り。
    「仕方ない。面倒だけど、戻ってパスワードのヒント探すか」と背筋を伸ばしたその瞬間。図ったように左腕の腕時計型端末が身震いしてメッセージの受信を知らせた。
     もしかしなくとも、差出人は上司だった。文面は簡潔に、
    『パスワードは↑↓↑↓←→←→LR』
    「いや、これ絶対ウソだろ」
    「騙されたと思ってやってみなよ」
     今、一番聞きたくない声が聞こえた。

     俺は慌てて振り向いた。予想通り、いた。外れてほしかった予想は外れず、そこにいた。ヒトツキを担ぎ、服の胸元を真っ赤に汚した女が、間違いなく俺の上司が、邪悪な笑みを浮かべてそこに立っていた。
    「何してんの、早く入れなよ」
     上司はクスクス笑うと、俺が黙っている間を埋めるように、無駄に長くて美麗な銀髪をかき上げた。
    「あんた、その服……」
    「ああ、これ?」
     上司は汚れた胸の部分を摘むと、事も無げに笑ってみせた。
    「いや、朝起きたらツバキいないじゃん? 先に行ったのかなって思って、とりあえず朝飯は食べてから追いかけようと思ったんだけど、慌ててたのかケチャップぶちまけちゃってさ」
    「そんなことだろうと思ったよ。あと本名で呼ぶなコードネームで呼べ」
    「あと朝食はオムライスでした」
    「聞いてねえよ。俺も食ったよ」
    「パスワード入れないの?」
     上司はヒトツキを担いだまま、空いた方の手で六角柱に乗ったキーボードを指差した。いやいや『↑↓↑↓←→←→LR』って絶対外れだろ、と抗う間もなく。
    「パスワード入れないんだったら、私が強行突破するよ?」
     上司から最後通牒が突きつけられる。つまりだ。俺が外れと分かっているパスワードを入れて警報が作動して上司が強行突破するか、俺がパスワードを入れないから上司が強行突破するかというほぼ一択である。
    「パスワード入れなよー、それとも入れないのー?」
    「くっ」
     俺は唇を噛む。どちらを選んでも地獄。ならば一縷の望みを賭けて、外れである確率が限りなく高いパスワードを入れるしかない、な。

    『↑ ↓ ↑ ↓ ← → ← → L R』

    「エンター……っと」
     俺の人差し指が大きめのキーを押し込む。と同時に、廊下中に赤い光が満ちて耳障りな警報が鳴り響いた。こうして一縷の望みはあえなく霧散した。
    「やったー、パスワード外れちゃったねー」
     言いつつ、上司はヒトツキの鞘を払って構えた。こいつ今、「やった」って言わなかったか?
    「細かいことは気にしない。強行突破いきまーす!」
     宣言して、上司はワンステップで強引に扉の一歩手前に踏み込むと、ヒトツキを両手で持って振り抜いた。強引に蝶番を叩き壊した後、扉を蹴り飛ばして通路を作る。上司が踏み込んだ後に続いて部屋の中に入った。重くて高級そうで如何にも重役っぽいデスクと椅子が部屋の真ん中にどんと置かれている。その手前に、これまた重役っぽい高級スーツで太鼓腹の人間が立っていた。
    「な、何だお前らは!」
     人間、おそらく敵の頭領が月並みな台詞を吐いた。警報がこれだけ鳴り響いているのに、今更「何だお前らは」も何もないと思うが。
     俺の上司は満面の笑みでヒトツキを敵に突きつけて、言った。
    「曲者だ!」
    「やっぱり曲者か!」
    「曲者じゃねえよ、国際警察だよ! お前を逮捕しに来た」
     俺が訂正すると、敵の頭領は狡猾そうな笑みを浮かべて机の上のボタンを押すと、「そうか、だが国際警察と言えど俺を逮捕することは……」と言いかけた。
     言っている途中で上司がヒトツキを投げた。
     投げられたヒトツキは空中で体勢を整えると、柄から伸びた長い布を頭領の腕に絡ませ、刃の方を床に刺して固定した。ついでに布越しに頭領の体力を少々吸い取って、腰を抜けさせる。
     上司が顔面に笑みを湛えたまま、一歩踏み出した。
    「『国際警察と言えど俺を逮捕することは……』、で、何て?」
    「何でもありません」
     頭領が項垂れる。
     上司はフンフンと鼻歌を歌いながら、部屋の中を物色して回った。資料らしいファイルの中身に目を通して、「お宅さん、人間にポケモンの能力を植え付ける研究なんてやってたんだな。いい趣味だな」等々、いつも通りの上機嫌でコメントしている。ヒトツキに捕まり、体力も吸いたい放題に吸い取られている敵の頭領は、黙って擦り切れたタイルカーペットを見つめていた。俺はその二人から距離を置いて、本部へ連絡を入れていた。
    「……今回は無事に済みそうです」
     通話を終えて、顔を上げる。上司は敵の頭領に背を向けて、資料を貪るように読んでいた。敵の頭領はヒトツキに巻きつかれて俯いたまま――何故だか口角を上げていた。
    「おい、何がおかしいんだ」
    「気付かないのか?」
     そう言ってこちらを見る頭領の目は、脂ぎった肌のように気味悪く光っていた。
    「警報が鳴り止んでるだろう?」
     言われて、思わず辺りを見回した。見回してみたって音なんて見えないが、つい。警報は確かに鳴り止んでいる。しかし一体いつから、と考えて、気付いた。
    「ボタンを押した時か」
    「ご名答」
     頭領はヒトツキに捕まっているというのに笑顔だ。そして、頼んでもいないのに滔々と喋り出した。
    「さっきのボタンは非常時の召集用だ。あれを押すと戦闘特化の精鋭部隊がこの部屋の周りに集まってくるのだ。そして俺を引っ張って外に出た途端、お前らの方が御用というわけだ! 言っとくが、建物の外にも部隊を配備してある。もうお前らの逃げ場はないぞ!」
    「へえ」
     上司が可笑しそうにくっくと笑った。ご丁寧に「何が可笑しい」と聞く頭領。上司は首を傾げて、緩んだ口元から嘲笑を零した。
    「ん? いや、精鋭部隊がいるなんて……教えてくれて優しいなーと思ってさ」
     ファイルを放り捨てながら、言う。それから上司は手妻のようにモンスターボールを取り出し、スイッチを押して、投げた。
    「この部屋の周りに竜星群」
     ボールから出現したのは、空の暴君と名高きドラゴン、ボーマンダ。上司の手によって強く逞しく育てられたそいつは、ボールから出た折体と同じほどの長さの尾を不用意に振って壁を壊し。尻尾を振るだけでそんな被害を出すボーマンダがドラゴンタイプ最強の技を出した日には。そして技を出したと同時に、首元でドラゴンジュエル特有の藍色の光が閃いて消えた日には。

     陥落。
     崩落。
     瓦礫。

     俺は青天井を見上げていた。十秒もかからなかった。
    「……ありがと、ラピ」
     俺を守ってくれたオーベムに礼を言う。こいつがサイコキネシスで落ちてくる屋根を弾いてくれなかったら、俺もこの灰色の塵芥の山に仲間入りするところだった。
    「ってか、おい、大丈夫か? 人殺してないか?」
    「大丈夫だろ。精鋭部隊だし。戦闘特化の」
     胸の前をケチャップで真っ赤に汚した上司はあっけらかんと答えた。その格好で言われても説得力がない。
    「いかにも一般人っぽい研究員とかは……?」
    「あいつらなら、警報が鳴った時点で証拠を削して逃げおおせてるさ。残念だったな国際警察。これで証拠は」
     が、と頭領が首を締められたカモネギみたいな声を出した。上司が頭領の襟首を掴んで持ち上げている。
    「お前を締め上げて吐かせればいいだけの話だろ? それとも何、言えないことでもあんのか?」
     言いながら、頭領の襟首をきつくねじり上げていく。
    「脅されても言うものか……」
    「ふうん」
     上司はぱっと手を離した。頭領は地面に手をついて咳き込んでいる。全く、どっちが悪人か分かったもんじゃない。
     急に、ヒトツキが頭領の腕に巻き付けていた布を外した。どうしたんだろう、と思っている間に、上司はヒトツキを地面から抜き、頭領から離れる方向へ歩いていく。
     その先にはボーマンダがいた。上司はボーマンダの太い首筋に軽く手を置いた。撫でられた、と思ったのか、ボーマンダが頬を緩ませる。
    「知ってる? 鍛えたドラゴンの火炎放射って、人間の骨までキレイサッパリ燃やせるらしいよ」
    「え」
    「こういう悪の組織の頭領って大変だよなー。一度悪事が露見したら全力で逃げなきゃいけないし? それはもう、行方不明者認定される勢いでさあ」
    「あの、ちょっと」
    「それは下っ端どももおんなじかあ。大変だよなー。追いかけるこっちも大変なんだけどさあ」
    「すいませんちょっと」
    「死んでるか生きてるか分からない逃亡者を追いかけて、その内捜査は打ち切り。散り散りになった悪の組織の構成員は生死も行方も不明のまま留め置かれ」
    「分かった、言います! 言いますから!」
    「あ、そう、協力してくれるの? 嬉しいなあ」
     土下座した頭領に、上司は表情をコロリと変えた。「協力でも何でもするので部下には手を出さないでください」と頼み込む頭領に上司は手錠をかけ、そして、「考えとくよ」と悪魔のような返事をした。


     今回の戦果。
     逮捕者十一名(内訳:頭領一名、戦闘特化の精鋭部隊十名)、証拠品(頭領の部屋にあったファイル類)。破壊したラボの瓦礫の撤去費用。これは、支出。
     そして、後から後から湧き出る始末書の山。
    「はぁ」
     俺は書いても書いても終わらない始末書の山を見て、思いっきり溜め息をついた。オーベムがそっと緑茶を差し入れてくれた。
    「ありがと、ラピ」
     ぽんぽんと、オーベムの大きな茶色頭を撫でる。そして、始末書に目を通した。ラボを破壊したことに関する反省文、証拠と被疑者の大部分を取り逃がしたことに対する反省文、逮捕者に暴行脅迫をした疑いがあることについての言い訳に、俺の本名がバレてることについて何か思うところがあればどうぞ、エトセトラ、エトセトラ。
    「これ殆どあんたが暴れた結果じゃねえか! なんで俺が始末書書かなくちゃなんねえんだよ、くそっ!」
    「仕事のパートナーじゃん。それくらいやってよ」
    「だあもう! だからあんたと仕事すんのは嫌なんだ!」
     叫びつつ、レポート用紙にいつもの定型文を書き殴る。『今後はこのようなことがないよう、努力します』努力しろよ!
     俺の苦労なんてどこ吹く風、始末書の原因となった上司はボーマンダと遊んでいる。ボーマンダは構ってもらって嬉しいのだろう、ぶぅん、ぶぅんと尻尾を振っている。ポケモンバトル用に作られた部屋を与えられているので、スペースは余るくらいある。本部もボーマンダのお遊びで壁や天井を壊されて修繕費用を持ってかれるのは嫌なんだろう。
     暴竜とも呼ばれる、気難しくて育てるのが大変なドラゴンのはずだが、ボーマンダは仰向けに寝転がって懐いたヨーテリーみたいに腹を見せている。そう、あいつはなまじっか育成が上手く、バトルが強い分質が悪い……。
     ノックの音がした。
    「はい」と返事をして立ち上がる。ドアが開いて差し出されたのはレポート用紙の束。
    「逃げた研究員、何人か捕まえたんだけど、全員健忘の症状が出ててね。取り調べに支障が出てるんだよ。何か心当たり、ないかな」
    「……」
     オーベムが短期記憶飛ばした奴らか……。
    「あります……思いっきり」
    「じゃ、上の耳に入って機嫌損ねる前に、それらしい理由書いといて」
     どさり、と紙束を渡される。重い。増えた紙束を机まで運ぶ。置いた拍子に緑茶がコップから飛び出そうな勢いで揺れた。
     上司が明るい笑い声をたてた。
    「あはは、ツバキも始末書食らってやんの」
     それも元を辿ればあんたの所為だよ、と言いたいのを飲み込んで、俺は机に向かうことにした。まっさらなレポート用紙が、憎いほど見慣れたレポート用紙が、今か今かと黒文字で埋められるのを待っている。
     俺は部屋の中でボーマンダと戯れている上司を見た。そして、まだまだ白いレポート用紙に向き直る。「よし」書くことを決めると、ペンを取って、キャップを取って、レポート用紙の一番上にこう書いた。
    『上司替えてください』


    =============
    昔と同じネタで書いてみた。


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