マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
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  •   [No.2890] [誰がためになったか] 投稿者:MAX   投稿日:2013/02/17(Sun) 23:55:15     120clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:批評、感想、再利用 何でもよろしくてよ】 【ゴースト

     少し、昔の話をします。
     私がスクールにいた頃の、お話です。


     スクール……ポケモントレーナーを志す子供たちのための学校がありました。
     そこはポケモンとの絆を深めるため、学内ではポケモンを連れ歩くことを奨励している学校なんですが。
     そこに、乱暴な少年と、その子のパートナーのゴーストがいました。

     ゴーストといえば、バトルでは高いスピードと特殊攻撃力から強いポケモンと言われてます。
     特にゲンガーまで育てきったならば、バトルでの活躍はきっと目覚しいものとなることでしょう。
     それ故に、男子たちの間で人気のポケモンの一種でした。

     しかし少年のゴーストはバトルが下手でした。というか、荒っぽいこと全般が苦手だったんです。
     やさしげで穏やかで、バトルの相手のポケモンにもついつい痛くないようにしてしまう。そんな子でした。
     それに見た目も、自分の鋭い目つきを嫌ってツリ目を直そうとしてはジト目になっちゃう……なんだかかわいい子でした。

     その子の主人の少年ですが、わざわざ乱暴と言うのはワケがあります。
     少年はいつも木の枝を持っていました。子供の手で振り回すのに、手ごろな大きさの棒きれです。
     危ない物です。どうしてそんな物を、と聞いた子もいました。その返事は……。

    「素手じゃゴーストには通じねぇ。枝でも使わなきゃ殴れねぇんだ」

     少年は、ゴーストがバトルで負ける度にその棒きれでゴーストをたたいてました。
     明らかな八つ当たりです。一度見ていられずワケを問いつめましたが、「ゴーストが弱いから」と少年は自分の非を認めませんでした。
     この年頃の男子にとって、バトルに弱いことはとても恥ずかしいこと、惨めでかわいそうなことでしたから。
     自分のゴーストが性格的にバトルに向かないことは、少年は分かっていても納得できなかったんです。

     弱いままなら捨てられそうなものですが、少年は別のポケモンを持っていません。
     もしあの子を手放して一匹も連れ歩かなくなったら、ただでさえ「ポケモンをいじめるイヤなヤツ」と言われているのに「とうとう見捨てられたか」と、少年はますます惨めに見られたことでしょう。
     だから一度、聞いたことがあります。新しいポケモンを捕まえたらどうなの、と。しかし……。

    「ゴーストがヘタッピだから負けるか、やりすぎて逃げられるかのどっちかなんだよ」

     また物事はあの子のせいにされ、そして暴力はあの子に集中するのです。
     しかしどれだけ痛めつけられてもあの子は少年に特に優しく、ずっと少年の身の回りの世話を続けます。
     それはまるで付き人とか、甘やかしがちな親のように、私たちには見えていました。


     ある時、私はパートナーのキルリアに頼んで、テレパシーでゴーストから話を聞いてみました。
     どうしていつも殴られるままなの? あの少年に嫌と言わないの、と。

    「あの子、強い望む。弱い、あの子殴る。当たり前」
    「嫌がる、あの子怒る。怒る、ダメ。だから、私怒るない」
    「あの子、私パートナー。一緒、当たり前」

     そしてゴーストは目を細めて笑いました。精一杯の笑顔でした。
     あんな目に遭いながら、ゴーストは少年を好いてたんです。
     でも、それを教えても少年は……。

    「弱けりゃ意味ねぇっての」

     吐き捨てるように言われました。
     その日、私は決めました。このままじゃあの子が可哀想です。なんとかして助けよう、と。


     後日、私は洞窟で捕まえたズバットを少年にプレゼントしました。

    「育ったら、ちょっと脆いけど、速くて強いポケモンになるよ」

     そう言えば、男の子は喜んで受け取りましたよ。
     これでゴーストがバトルに出る必要は無くなるはず。
     もう、負けたからと殴られることも無いはずです。


     翌朝、スクールの校門前で私はゴーストに襲われました。
     つり上がった目と食いしばる歯。怒りを露にした表情は、これほど恐ろしい顔があるのかと恐怖に震えました。
     その右手が私の首を掴み、憤怒の形相が詰め寄ります。
     息が詰まり、キルリアに助けを求めました。しかしキルリアも同じく左手で首を掴まれ、私と同じように引き寄せられてしまいます。

    「どうして、あの子に」

     キルリアを通じてゴーストの怒りが私に伝わりました。それがどういう意味なのか、すぐには分かりませんでした。
     だけどテレパシーでわかってしまうキルリアは、ひたすら怯えて「私は悪くない、言われたとおりに戦っただけ」と心の声を叫びます。
     ショックでした。トレーナーに従順なはずのキルリアが、こんなにトレーナーを見捨てるようなことを言うなんて。
     それだけこのゴーストが怖かったんです。

    「おい、ポケモンが人を襲ってるぞ!?」
    「誰か! トレーナーを呼んでこい!」

     遠くでそんな声がしました。人を襲うポケモンを退治しようとする声です。そしてここはスクールの校門前。ポケモントレーナーは新人を含めて大勢います。
     すぐに人が集まり、ゴーストは騒ぎになる前に私たちを離して消えました。「許さない」との意思を残して。


     その日以来、少年はゴーストを連れ歩くことはなくなり、木の枝を振り回すことも無くなりました。
     代わりに連れ歩くズバットには、やはりバトルに負ければキツく当たるようです。ですがズバットも殴られないように距離をとるし、少年は「ポケモンにも見捨てられた」と後ろ指を差される。
     結局、少年のほうが折れる形で関係を修復する。そんなことが繰り返され、なんだかんだで上手くやってるみたい、という印象をみんな抱くようになりました。
     もう以前のように「ポケモンをいじめるイヤなヤツ」という声は聞こえなくなっていました。

     ただ、ゴーストはもういません。
     ズバットがいるから逃がした、と少年は言いますし、そうなるように私も仕向けました。
     もうあの子が、無理なバトルで傷つくことはない。
     少年の評判も少しずつ良くなってきてますし、これでいいんです。

     でもあの時、どうしてあの子はあんなに怒っていたんでしょう。

     後になってキルリアから、あの時のゴーストがあの少年のゴーストだったと教えてもらいましたが、すぐには信じられませんでした。
     それぐらいに目つきが違いすぎました。あんな、恐ろしい顔をする子とは思えなかったんです。
     いったい私たちの何が、あの子をああまで怒らせてしまったんでしょう。

     今でもそれはわからないままで、心と首に残る爪痕が息苦しさを残しています。


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