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こんにちは。NOAHです。
まずは、この小説をここまで読んでいただき
本当にありがとうございます
長編未経験ながら、どこまで書けるか不安ながら
衝動だけで書き始めたこの小説ですが
少しずつ書き足していってるのが現状です。
これを書く前にも書き足したのですが
このような形で更新して大丈夫だろうか?
と、疑問に思いました。
と同時に、このまま書き足すことも、勝手に消してしまうことも
マサポケ管理者のNo.017様を始めとした
たくさんのマサポケノベラー様に、ご迷惑になるのでは?
とも思っています。
そこで皆さんに、お聞きしたいことがあります。
それは、この「アリゲーター・ロンド〜受け継がれる名前〜」を
消した方がいいか、書き終えた方がいいかということです。
私個人では、どうしても決めきれません。
皆さんのご意見を、ぜひお聞かせください。
NOAHより.
『ヘルガーが来たぞ!』
その声を聞いて集落は恐怖に包まれる。
『ヘルガーが来たぞ!』
見張りの少年の声を真似て、ペラップは何度も鳴きながら飛び回る。
その集落はメリープを育てる遊牧民のコロニーだ。そんな場所にヘルガーはやってくる。ヘルガーはその牙や爪、炎を使って人々やメリープを襲う。
大事な物を纏めて、もしくは何一つ運ぶこともできず、メリープと人々はその場から一目散に逃げる。
一人残らずに逃げ切ったところ、前々から決まっていた避難場所で皆が冷静になったところ、最後の一人が現れる。危機を知らせたペラップを肩に乗せ、皆のことを見回しながら少年は満面の笑みを浮かべた。その時だけ少年は笑う。
ヘルガーは来なかった。
少年の両親はヘルガーに食べられてもうこの世にいない。天涯孤独になってしまった少年をある親子が引き取って育てた。同じく妻をヘルガーによって失っていた男も、同い年の少女も、少年を新たな家族として迎え入れて精一杯の愛情を与えたつもりだった。
少年は男の言いつけを守り良く働いた。しかし少年は笑わなかった。幼くして両親を亡くしたのだ。無理もないと思いながら親子は特に変わらずに少年に接した。しかし、集落はそんな少年に最初こそ同情したものの段々と気味悪がるようになった。少年が熱心に働けば働くほど集落の心は離れていくようだった。
ある日、少年の働きが一人前と認められた時、集落はある決定をして少年に仕事を与えた。
見張りだ。
集落の端で放牧を行い、異変が起きればそれを皆に知らせる。重要な役割だ。そしてそれは危険な役割だった。
少年の父親代わりの男は異を唱えた。そんな危険な役を押し付けるのか、一人前に認められたとはいえまだ子どもではないかと。しかし少年は極めて平静に言った。僕がやります、と。
ある日、ペラップが集落を飛んで回った。少年の声で「ヘルガーが来たぞ!」と何度も鳴いて飛び回った。皆は少年がペラップを使って危険を伝えたのだと思い、メリープを連れて一人残らず逃げた。しばらくして少年が姿を現した。幸い、誰一人ヘルガーの餌食にならなかった。
それからしばらくして同じようなことが起きた。また犠牲者は出なかった。しかし集落に戻ったところで誰かがおかしい、と言い出した。ヘルガーを誰一人見ていないというのだ。そしてヘルガーが来た形跡すらないと言ったのだった。ヘルガーはほのおポケモンだ。少年の親が犠牲になった時も、それ以外の時も、集落で火事や焼け焦げた跡があった。しかしこの前も今回もそれが無い。その時はおかしいと思わなかった者達も、再びペラップが『ヘルガーが来たぞ!』と飛び回り、何も起きなかったことに不信を抱いた。そして誰かが少年に聞いた。
「どこも燃えてないのか。ヘルガーはここまで来なかったのか?」
少年は笑った。誰もが始めてみる満面の笑みを浮かべるだけで、何も言わなかった。
平穏が続き、忘れた頃にそれは繰り返された。そんなことが何度か続いた時、誰かが言い出した。
「アイツは我々にヘルガーが来たと嘘をついてからかっているんだ! 嘘をついて逃げ回っている俺達を見て笑っているんだ!」
「アイツは集落の者を恨んでいるんだ! 自分の両親が食われたのは我々の所為だと思っているんだ!」
人々は段々少年に不信感を募らせていった。
「寒くない?」
「うん」
夜風に当たる少年の元に少女がやってきた。頬を押さえる少年を見て彼女は溜息をつく。濡らしたハンカチを手渡して彼女は言う。
「またお父さんに殴られたの」
「うん」
「どうせ『だって』とか言ったんでしょ?」
「『言い訳するんじゃねぇ!』ってさ」
「あなたはペラップとは違って物真似の才能はないわね」
少女が薄暗いながらも彼の腕や脚に痣があるのを見つけた。父の仕業だろうか? いや、きっとそうではないのだろうと思った。少年を良く思っていない連中の仕業で、そのことが原因で口論になったのだろうと推測した。
「ねぇ、ペラップに『ヘルガーが来た』って鳴かせるのは止めなよ」
「どうして?」
「もし、ヘルガーが来なかったらどんな目に遭わされるか――」
「君はヘルガーが来た方がいいって言うのかい?」
「そんなことあるわけないでしょ!」
「じゃあ、僕は止めないよ」
そう言って、彼は家に戻っていった。
少女は、本当は見張りなんて辞めればいいと言いたかった。
でも言えなかった。
少年が見張りを辞めたら誰が見張りをやるのか。辞めろと言ったら「じゃあお前がやれ」と言われるのが怖かったのだ。それは彼女だけではない集落の皆が思っていることだった。だから少年はずっと見張りをさせられている。
我が身の可愛さに何もいえない自分が情けなくて、悲しくて、少女の目から涙が溢れた。
それでも家族である自分だけは少年を信じなければならないのに、人々が逃げ回った後だけ見せる彼の笑顔を見ると、彼女は何にもわからなくなってしまうのだった。
そして、またペラップが集落を飛び回る日が来た。
『ヘルガーが来たぞー!』
ペラップが飛び回りながら叫ぶ。何ども叫ぶ。
だが集落の者は誰一人として慌てる者はいなかった。
「またか」
「全くしょうがないやつだなアイツは」
誰一人として逃げる者はいなかった。皆は少年にどんな言葉をかけてやろうか考える。今度は騙されなかったぞ、と笑いものにしてやろうという者もいれば、今度こそ足腰立たなくなるまでぶん殴ってやると息巻く者もいた。
ヘルガーは現れなかった。そして少年も現れなかった。
夜になっても朝日が昇っても、次の日も、そのまた次の日になっても帰ってくることはなかった。
それから数日して少年が放牧していた場所の近くで、焼け焦げ食い散らかされた少年らしき亡骸が見つかった。近くにペラップが飛んでいて間違いないとされた。集落の皆は新たな見張り役が選ばれることを恐れ、その見張りは同じような目に遭うのだと思い、憂鬱になった。因果応報だと少年の死に悲しまなかった。親子を除いては。
「お父さん、飲み過ぎよ」
「うるさい」
枯れた声で娘が制止しても男は酒を飲むのを止めなかった。男はその日、朝からずっと酒を飲み続けている。
「もう、その辺にしておいてよ。私、水を汲んでくるわね」
娘が出て行くと、男は空になったコップに酒を注ぎながら、テーブルの上で豆をつまむペラップを見た。
「お前の主人は馬鹿なヤツだったよ」
呂律の怪しい男の声を聞き、ペラップは男をじっと見た。それが妙に癪に障り、男は紅い顔をさらに真っ赤に染めてテーブルを叩いた。
「テメェの主人は大馬鹿野郎だっ!」
大きな音と声に驚きペラップは飛び上がった。そして男の頭上を羽ばたいてぐるぐる回ると大きな声で鳴いた。
『ヘルガーが来たぞ!』
少年の声でペラップは何度も言う。
『ヘルガーが来たぞ! ヘルガーが来たぞ!』
「止めろ」
『ヘルガーが来たぞ! ヘルガーが来たぞ!』
「止めろって言ってるだろう!」
男は中身がまだ入っているコップを投げつけました。直撃し、落ちてきた所をさらに男は殴り、ペラップは壁に叩きつけられました。
『ヘルガー……ヘルガー……』
「まだ言うかこの――」
男が再び怒鳴り声を上げようとした時、ペラップは少年の声で言った。
『ペラップ、早く行くんだ』
男は動きを止めた。それは初めて聞く言葉だった。
『早く行って みんなに知らせるんだ』
羽を広げたまま息も絶え絶えにペラップは言う。
『ここは通さない ヘルガーめ 僕の大切な人達に近づけさせるものか』
「おい、何を言ってるんだ――?」
『あっちへいけ 絶対に通すものか おいペラップ何やってる 早くみんなに知らせるんだ早く』
男は知っている。ペラップは聞いたことしか物真似ができないことを。少年が会話しようとどれだけ喋っても、聞いたことをオウム返しに喋ることしかできなかったことを。
『ペラップ 帰ってきたのか でも下手を打ったかな いつもみたいにいかなかった いや いつもが運が良かったのかな? 大丈夫 先に行けよ もう 不思議と痛くないんだ もう少し休んだら行くよ』
それが何なのか想像することはたやすいことだった。
そう、これはペラップが聞いた少年の言葉。
「そんな馬鹿な――」
「どうしたのお父さん? そんなところに突っ立って」
顔を向けると入り口に少女が立っていた。彼女は部屋を見回すと驚き、水の入った桶を乱暴に置くと壁際に伸びているペラップに駆け寄った。
「ちょっとお父さん! ペラップは何も悪くないでしょ! 急いで手当てしないと!」
治療道具を急いで取ってくると娘はペラップの手当て始めた。
「そうだ悪くない」
「え?」
少女は父の呟きが聞こえて思わずその顔を見る。まるで生気の無い表情でどこか遠くを見ていた。
「ペラップも、あいつも悪くないんだ……」
男は気が抜けたように座り、そのままテーブルに突っ伏した。そして両手を握ると、何度も何度もテーブルに打ち付けた。
「ヘルガーが来なかった時俺達がするべきは怒ることじゃなかったんだ! そんなことじゃなかったんだっ!」
肩を震わせ叫ぶ彼に娘は何も言うことはできなかった。ただ、彼女の側でペラップが『馬鹿野郎』と男の声で小さく鳴いた。
その集落でペラップが『ヘルガーが来たぞ』と少年の声で鳴いて飛び回ることは二度と無かったという。
一匹のワルビアルが、突っ立っていた。
砂嵐のひどい、この4番道路のど真ん中で
傷だらけの体に何も手当てをせず、誰かをずっと待っていた。
その傍らには、1つのポケモンのタマゴがあった。
孵るとしたら、おそらく、メグロコ……。
このワルビアルの子が生まれるのだろうと、大体の検討がつく。
「……まだ待つつもりか?」
「がう。」
「お前のトレーナーは……ヤツはもう死んだんだぜ?
お前はもう野生だろう。ヤツの言葉に従うことはねぇだろうが。」
そう。コイツのトレーナーは、相棒であったあの男は死んだ。
コイツの目の前で、幼い少女と、傍らのタマゴを守ろうとして、死んだ。
ヤツが死んだことで、唯一の手持ちであったコイツは野生となった。
だがコイツは、今でも死んだヤツの、最後の言葉を聞いて、今まさに、それが果たされようとしている。
ザッ、ザッ、と、砂を踏む小さな足音が聞こえた。
吹き上げる砂煙の向こう側から現れたのは、12、3才くらいの少年だった。
砂嵐から身を守るための防護用コートで身を包んでいるため確認できなかったが
確実に、わかったことがある。
あの少年は、死んだヤツの子どもだ。
ワルビアルはタマゴを持ち上げると、無言で少年に近寄る。
少年は、ワルビアルとタマゴを交互に見やり、こちらも無言で受け取った。
「……父さんのこと、悔しかったろ。」
「…………。」
「ありがとう、父さんの傍にずっといてくれて。
……本当に、ありがとう。幸せだったと思うよ、きっと。」
少年は、自分より背の高いワルビアルに、臆せず話しかける。
普通のガキなら、そのいかつい見た目を怖がるっつーのに
ヤツの子である少年からは、微塵もその様子はなかった。
「よう、少年。」
「……だれ。」
「てめえの親父を撃った……って、言ったら?」
少年は眉を顰めて、ポケモンが入ったボールを
無言で突き出すように構えた。
ギロリ、と睨みつける目は、ヤツにそっくりだった。
「冗談だ。……俺はヤツの同僚だよ。」
「…………。」
「くくっ……親父そっくりだ……お前、名前は?」
「……『仁科シュロ』。」
「シュロ、な……お前、刑事になる気は無いか?」
その言葉で、シュロと名乗った少年は驚いた表情をする。
隣では、ヤツのワルビアルが、事の成り行きを見守っていた。
「素質はあるぜ、充分にな。」
「……試したの。」
「あたり。……お前なら、コイツと、ヤツの意志を継げるってな。刑事のヤマ勘信じろ。」
「へぇ……子どもに賭け事させるわけ?」
「刑事とその辺のペテン師を一緒にすんなよ。」
この生意気な口調も、親父譲りのようだ。
警戒心はもう解いたのか、ボールは既にしまっており
タマゴを改めて抱え直していた。
「刑事になれ、ね……考えとく。」
「おー、来るの、楽しみにしてるぜ。」
「……それじゃあ。」
シュロはコートをはためかせて、来た道をまた戻っていった。
砂煙の中に消えたシュロを見届けて、隣にいたワルビアルが
ついに事切れたように倒れ込んだ。
「なんだ……てめえも死期が近ぇのかよ。」
「ぐぅ……。」
「は、笑えってか?……そうだな、盛大に嘲笑って見送ってやる。」
にやり、と笑って、倒れ込んだワルビアルを見る。
コイツもにやり、と笑い返した。
「じゃあな、『ヴィッグ』。『仁科レン』の、良き相棒。」
最後まで笑みを浮かべたまま、コイツはその生涯を終えた。
*
-11年後-
「あ"ー!もう!雑務押し付けてどこ行きやがった、あの飲んだ暮れーーッ!!」
人の行き交うヒウンシティに、俺の主の声が響いた。
その横で、穏和な顔付きの、主の先輩にあたる緑の髪の男が笑う。
「あはははは、本当だよねぇ。班長ってば、俺たちほったらかして
昼間っから飲み明かすもんねぇ。……この前なんか、100万もするロマネコンティ飲んでたし。」
「ヒースさん、他人事のように笑わないでください!
俺は、事件のときだけマジメに取り組む
あのおっさんの鼻を明かさないと気が済まないんですッ!!」
「ねぇ『シュロ』君。新作スイーツ販売の度に
班長と同じようなことを仕出かすキミが言えた義理かい?」
「……………。」
主にとっては思いもよらない反撃だったらしく
つい押し黙った主を見て、隣の男がにへら、と
力の無い笑みを浮かべる。
「キミも大変だねぇ、『ヴィッグ』。似た者同士の義理の親子に付き合わされて。」
「ヒースさん、冗談でもそれ以上言わないでください。
有り得ないですから。マジで本当に、無いですから。」
「あーじゃあ…あれだ。キミの亡くなったお父さんと班長が似た者同士で
キミがお父さんの血を濃く引きすぎたから、親子に見えるんだ。」
「ヒースさん……言ってることが半分くらい無茶苦茶ですよ……。」
「そう?的を得てると思うけど。」
適当すぎる推理に突っ込みを入れている主を横目に
ずっと抱きかかえている、俺の子どもがいるタマゴを見つめる。
時々動く程度で、まだ生まれる気配は無い。
……やはり、信頼できるトレーナーに任せた方がいいだろうか。
「あー……何であの人の誘いに乗っちゃったかなぁ……。」
「誘われたんだっけ、子どもの時に。」
「そうですよ、『お前なら、親父と、親父の相棒の意志を継げる。刑事のヤマ勘信じろ。』……と。」
「へぇ、刑事のヤマ勘ねぇ……。」
「あの人のギャンブル運、半端無いっすからね。」
「そうだよねー、それはまあ、あの人のお子さんにも言えることだけど。」
「『あいつら』とあのおっさん、血ぃ繋がってないっすよ?」
「え、そうなの?」
主の言うあいつらとは、2人の上司にあたり、今現在をもって
行方を眩ませている人の元に、養子に入った双子の姉弟のことで
このヒウンシティで、『Jack Pot』という捕獲屋を営んでいる友人だ。
今俺が抱えているこのタマゴも、普段はそこに預けているが
ここ最近は平和なため、俺が親として責任持って抱えている。
「しかし、どこ行ったんだあの飲んだ暮れ……!!」
「何時も行くカフェにも、カジノバーにも居なかったもんね……。」
本格的に頭を悩ませる2人だったが、プライムピアの方が
やけに騒がしいことに気付いた。
何か事件でも起きたのだろうか。
よくよく見るとなんとこの街のジムリーダーがいた。
慌てて彼の近くに寄ると、ベレー帽の女の子がわんわん泣きながら、ポニーテールの女の子と
浅黒い肌の、元気そうな女の子に慰められていた。
「どうした、アーティ。」
「んうん……心強い刑事さんのご登場だ。
シュロ、ヒースさん、ちょっと力を貸してよ。」
「何かあったの?」
「聞いてよ!このお姉ちゃん、プラズマ団にポケモンを奪われたんだって!!」
「「……!!」」
プラズマ団、この状況で一番聞きたくなかった名前だ。
主の表情が、一気に険しいものに変わる。
「ちっ……またヤツらか……。」
「まずは、詳しく話を聞こうかな。キミたち、名前は?」
「私はトウコ。カノコタウンから来ました。この子は幼馴染のベル。」
「私はアイリス!」
聞くと、このベルという少女のムンナが、1人のプラズマ団によって奪われたらしい。
追いかけたが、この辺りで見失い、途方に暮れて泣き喚いていたそうだ。
ふと、こちらを見張るような視線に気付いた。
振り向いた先には、奇天烈な服を着た男。
間違いない。プラズマ団……!!
「ぎゃうっ!!」
「げ、バレた……!!」
「!待てッ!!」
脱兎の如く逃げ出したプラズマ団を、主とジムリーダー
そしてトウコと名乗った少女が追いかけて行った。
向かった先は、ジムの方向のようだった。
「ヴィッグ、タマゴは僕が預かるよ。
キミはシュロ君の相棒でしょ?
彼が無茶しないようにしなきゃ。ね?」
何かがあっては困ると、ココに残ることにしたらしい
ヒースさんにタマゴを預けて、俺は主の後を追いかけた。
*
カノコタウンを旅立った時から、度々目立つ集団がいた。
プラズマ団。ポケモン解放を訴える、奇妙な服装の謎の集団。
けど、実際はポケモンを道具としか見てないヤツらばかりだった。
このヒウンシティに来る数日前も、ジムと共同で動いている
シッポウシティの博物館の、展示品の盗難事件に携わったばかりだ。
あのときは追い詰めた先で、丁寧にも盗んだものを返してくれたが
今回は、物じゃなくてポケモンだ。しかも、幼馴染の、ベルのポケモン。
「絶対に、取り返してやる……!」
「ぎゃう!」
「!」
気付いたら、刑事さんのワルビアルが追い付いていて
私を諭すような目で見ていた。
危ないから下がっていなさい。そう言わんばかりの痛い視線だった。
しかし、その目線に何故だか懐かしさを感じた。
なぜだろう。私はあの刑事さんにも、ワルビアルに会うのも初めてなのに。
「……私、引き下がる気はないから。
このまま指を加えて見てるって云うのは嫌なの。
ましてや被害者は、私の幼馴染だから、余計に。」
「……がう。」
「どうしてもって言ってる?……もちろんよ。」
挑発的な目線を送れば、諦めてくれたのか
これ以上、咎めることはしてこなかった。
「……ありがとう。行こう!」
私の掛け声に彼が応えてくれた。
それが嬉しかったけど、ジムのすぐ近くのビルの前で
プラズマ団とバトルを繰り広げている刑事さんとアーティさんを見つけた。
「全員、携帯獣愛護法違反、強盗、窃盗!
その他諸々の罪で現行犯逮捕だ!!」
「ぎゃうん!!」
「!!」
「!トウコちゃん!!」
「私も戦います。ベルを泣かせた上に
彼女の大切なポケモンを奪ったんです。
絶対許さない……!!行くよ、ジャノビー!!」
*
あれから少しして、ビルの中に入ることが出来た私たちの前に
カラクサタウンで演説をしていた、壮年の男の人がいた。
ゲーチスと名乗った男の話の前に、目を泣きはらしたベルが
アイリスちゃんと、もう1人の刑事さんに隠れながらもやってきた。
彼は何を思ったのか、ベルにムンナを返すように指示し
そのまま煙玉を使い、結局は逃げられてしまった。
ワルビアルのトレーナーである黒髪の刑事さんは
悔しそうな顔で外に出ると、ぐしゃぐしゃに頭を掻き始めた。
それをもう1人の刑事さんが宥めている。
「くそ……また逃げられた……!」
「まぁまぁ。根気良く行こうよ。」
「……そうっすね。」
ハァ……と、ため息を吐く黒髪の刑事さんを見ていると
何だかずっと昔に会ったことがあるような気がした。
黒髪に……ワルビアルを連れたトレーナー……。
「……ぁ。」
「トウコ?どうしたの?」
「ベル……11年前、私が遭遇した事件のこと……覚えてる?」
「え……っと、確か、トウコを守ろうとして
亡くなった人がいるって言ってた、あの?」
「うん……あの黒髪の刑事さん……
たぶんその亡くなった人の、子どもさんだと思う。」
「ぇ……?」
「おー、じゃあキミがあの時の女の子か。」
ぽん、と頭に、男の人の手が置かれた。
……あれ?この人、どこかであったような……。
「あ。ギリア班長ー、どこ行ってたんですか?」
「……墓参りだ。あぁ、そうだ……アーティさんよぉ。」
「んうん?何でしょ?」
「どっか一室、貸してくれねえかなァ。
……11年前のこと、きちんと話してやろうと思ってさ。」
アーティさんは、突然の申し出ながらも
笑顔で承諾してくれた。
「…あの!…私も、お邪魔していいですか?」
「ベル……?」
「トウコを助けた人の話だもん……幼馴染として聞かなきゃ。」
「……ありがとう、ベル。」
「気にしないで!……あ、チェレンも呼ぶ?」
「……うん。」
「わかった。ちょっと待ってて!」
ベルが、ライブキャスターでチェレンを呼んでくれた。
今からジムに挑戦しようと思っていたらしく
すぐに駆け付けてきてくれた。
「んじゃ、話すか。……1999年、6月13日。
20世紀最後の、凶悪事件が発生した日のことを。」
*
-1999年6月13日・イッシュ地方ヒウンシティ-
「いやー、やっぱ向こうと違って、こっちは晴れの日が多いね!」
窓から外を眺める、長身の、黒髪の東洋人の男。
見た目だけなら、まだ人種差別も残っていた当時のイッシュ地方では
ソイツは異質な存在だった。
「そうかー?普通だと思うけど。」
当たり前のように返していたが、俺はこの男―…。
仁科レンが、少し苦手だった。
「ギリアは知らねえだろうけど、俺の故郷の
ホウエン地方はこの季節、どっこも雨ばっか何だよ。
晴れの日なんてホント稀!!」
「へェ……興味ねぇや……つーか声、うるさい。」
「おま……また二日酔いか?いい加減控えろよ……。」
「お前が甘いもん控えたら止めるかもな。」
「………。」
皮肉を込めて返したら押し黙った。ざまぁみろ。
ペットボトルの中の水を飲んで、息をつく。……やっぱ昨日、飲みすぎた……。
「……あ、お前、今日なんかあるんじゃなかったっけ?」
「あ"ぁー!!」
「だからうるさい……。」
「あ、すまん……。」
うるさくなったり静かになったり……。テンションの幅が本当にうざったい……。
このホウエン人の気質である、能天気なとこが苦手だ。
「少し出てくる。」
「おー…そのまま帰れ。」
「ひどっ。」
そしてげらげらと笑うレン。ギロリと睨みつけると
おどけた表情の笑みを浮かべて出て行った。
これが、事件発生1時間前の
俺とヤツの、最後のやり取りだった。
*
始めてこの地方に来たとき、目にする物全てが新鮮だった。
ホウエンの大自然の中で育った身としては、空を貫くような高いビルも
モノクロのタイルのようなレンガ道も、食べる物も、住んでいるポケモンも
何もかも、全てが違う場所。
生まれ故郷のホウエンを離れたのが18才のとき。
……あれから17年が経った。
今は守るべき家族がいて、良き友人がいて、ライバルがいる。
片手間に、途中で買ってきたミックスオレを持ち
ポケモンセンターへと入って行った。
「仁科さん。」
入ってすぐに、ここを取り仕切るジョーイさんが
タブンネと共に話しかけて来た。
「やぁ、ジョーイさん。……アイツは?」
「今日はお元気ですよ。相棒さん。」
「そうか、良かった……会えるかな?」
「わかりました。少しお待ち下さい。」
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