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こんばんは、逆行さん!
小説読ませていただきました。
表現を趣味とするものとして、非常に身につまされる寓話でした。
絵と文章、表現形態は違っても、自分の好きなものを信じるあまり、盲目的に他者を排除しようとしてしまう心理は痛いほどよくわかります。
自分とは異なるものがもてはやされているところを見ると、自分の創作まで否定されたようで、どうしようもない嫉妬に駆られてしまうものですよね……。
ふと我に帰った瞬間の、ドーブルの言葉にできない後悔と苦々しさが伝わってくるようでした。
それでは、ありがとうございました。
俺のかわいい3匹のグラエナ。俺のことが大好きで、いつも俺の言うことを聞く。今日も俺が仕事から帰って来たらしっぽが千切れるくらい振って俺のところに来て。寂しかっただろ。こんな男には女なんかこねーから世話してくれるやつがいなくて困るよなあ。
一番古い付き合いのグラエナがクロコで、2番目の素直なやつがハイイロで、最近の勇敢な新入りがチョコだ。特に意味はねえ。でもどれも俺の自慢のグラエナだ。強さだってその辺のひよっこなんかに負けん。
餌箱に入れてから待てと待機させてクロコにお手、と命令した。待ちきれない様子で、しっぽを振ってるから尻が浮いてる。それに前足を何回も俺の手に乗せてくるからお手というより俺の手にタッチしている。ハイイロは俺の目をじっとみて早く許可をくれないかと言っていた。チョコはおすわりを命令したのにしゃがんでる。
みんなのふわふわの黒い毛皮をなでてやると、俺はよしと言った。早いが我れ先に餌箱に鼻を突っ込む。対して上手くもないポケモンフードだが俺の安月給だから我慢してくれよ。
飯おわったら夜の散歩行こうなー。おかげで俺は運動不足にもならねーし。もう真っ暗だからお前ら保護色だけどな。
ポケモンの足にはやっぱり舗装してない道路がいいみたいだな。グラエナたちが土の上をはしゃぎながら歩く。歩くというより、飛び跳ねてる。散歩のときくらい落ち着いて前歩けよ。俺が歩けないじゃねえか。
俺の足に体おしつけて歩いてるのはチョコ。俺の足の間に顔を出すのはクロコ。歩けと言えば歩くけどそのうちチョコと反対の足にじゃれついてくるハイイロ。街灯が暗いんだが仕方ない。少し離れるとグラエナだと見えなくなるからな。リードつけてるからどっかいっちまうようなことはないが。
3匹のリードは同じ手で持ってたんだが急に引っ張ってそれぞれ走り出した。俺はその反動で転んだ。いきなり何があったんだ。俺のグラエナが家出の仕方をするとは思えない。
「クロコ! ハイイロ! チョコ!」
遠くでグラエナの息づかいが聞こえる。3匹で何をしてるだ。追いかけないとあいつら野生で生きていけるかもしれねーけど!
道を少し外れると真っ暗で何も見えなかった。名前を呼んでも何の反応もなかった。
なんでいきなりあいつらが俺から離れていったのか解らない。俺は真っ黒な森をぼーっと見ていた。あんなにかわいがっていたのに見捨てやがって。あっさり見捨てやがって。餌も毎日やってたのに裏切りやがって。
個人的なことだけど一週間前に振られたばかりでそれでもお前らの世話してやったじゃねえか。餌餌餌、散歩散歩散歩って毎日いってやったのにこのザマかよ。
ああもう人間もポケモンも信じねえ。どーせお前ら自分のやりたいようにやるんだろうよ。帰って寝てやる。もう明日から何の世話なんかしなくていいんだー。
俺の家の玄関の前に、黒い毛皮が座っていた。
なんだよ、なんでお前ら帰って来てんだよ。しかも一匹増えてるじゃねえか。遅かったじゃないかと言いたげな顔してんじゃねえよ。じゃれつくなよ。しかもハイイロのリード切れてんじゃねえかよ。いくらすると思ってるんだよ。これでも節約してお前らに投資してんだぞ。
しかもチョコ、増えたやつを見てみてと差し出すなよ。ポチエナだし。大きさからいって生まれたばかりか?
「……またか」
だからこいつら走って行ったんだな。お前らもそうだったもんな。
ホウエンでは子供でも小さい時からポケモンに触れさせる教育をしている。個人的に持つ場合もあって、力のあまり強くないジグザグマとかポチエナとかエネコが人気だ。
けれどな、力のあまり強くないということは、強くなったらイラナイんだよ。不要になる。だからクロコはゴミ捨て場に一匹でひたすら主人を待っていた。ハイイロは餌を取ろうとして川で溺れてた。チョコは主人に会って自分より強いポケモンにコテンパンにされていた。
俺にボランティア精神はないが、クロコが俺の弁当の匂いにつられて会社まで追いかけてきたことが発端だ。仕方ないから飼ってやったら次々に捨てグラエナを拾ってきやがる。
俺の経済力を知ってろよ。全部のグラエナは助けられねえよ。あー、そんなこといってもこいつらには解りませんですね。俺がバカだった。生まれたばかりのポチエナとかどうしろって言うんだよ。
頭かかえてしゃがみ込むと、クロコが覗き込んで来る。疲れたのか、元気だせと言ってるのか知らんが、元はといえばお前らのせいだ。
「随分たくさんのグラエナを飼ってるんだな」
知らないおっさんの声がかかる。好きで飼ってるわけじゃねえよおっさん。こいつらみんな俺をよりどころにしてる捨てグラエナだっつーの。なんならこのポチエナおっさんが飼ってやれよ。
「その力をトレーナーとして使わないか」
「はぁ?」
「そんなたくさんのグラエナをそのレベルまで育てるのは、トレーナーとして……」
「これは俺のグラエナじゃねえよ。弱くなって要らなくなったグラエナを引き取っただけで、育てたトレーナーは今頃どっかでエリートトレーナーじゃねえの」
それより俺はもう寝たい。ポチエナのボール買いに行きたい。誰だよこのおっさん。話が止まりそうにないというか、ますますこのおっさんの恐ろしい系のオーラが増えてる気がする。上司に怒られる前の空気と似ていて俺の居心地もよくない。
「それを制御しているのだから、やはりトレーナーの才はある。どうだ? 悪い話ではあるまい。私は才能のあるトレーナーを探している。あるポケモンを探しているのだが、それにはトレーナーの協力が必要なのだ」
「へえ。何の為にポケモン探してるんだ? こいつらの寝床を広くしてくれるのか?」
「……まあそんなところだ。条件はこちらから出そう」
人をほめて引き抜くなんてよくやるじゃねえかこのおっさん。今より貰える金が増えるなら協力してやろうじゃねえの。そうしたらこいつらにもっといいもの食わせてやれる。
「これだ。この計画は秘密にして欲しい。先を越されたくない」
「企業秘密ってやつか。なるほどな」
妖しい匂いはする。しかしこのおっさんの話になぜか興味がある。玄関先でグラエナに囲まれてる男に声をかかけるやつなんていないだろ。何を期待しているんだ。
「この話に乗るなら、君の名前をそこに書いてくれ」
俺は敢えて違う名前を書いた。よく知らないおっさんに全てを吐き出す勇気はないんでね。
「……この話、乗ってやるよウヒョヒョ!」
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グラエナに囲まれたホムラというツイートがホムラ大好きな人からまわってきました。
グラエナ多頭飼いしてるんだろうなあ。いいよなあ。ワンコに囲まれて幸せそうなホムラ。
わんわんお
【好きにしてください】
ドーブルという種族は、好きなように絵を描く権利があった。野生に生きる者はもちろん、たとえ人間に捕まっても、たまに自分の身体に傷をつけて戦い、ちゃんと言うことを聞いていれば、そんなに悪いトレーナーじゃない限り、自由に絵を書くことができる。それは私達ドーブルが、絵を描くために生まれた存在だからであって、そうじゃなかったら認められない。
私のトレーナーは、とても良い人だった。私のことを無理させず、適度に回復してくれた。私が火傷を負った時は、すぐに薬を塗ってくれた。私に対して、とても優しく接してくれた。だから私は、あの人に良く懐いた。
私は主人を喜ばせたかった。私の描いた絵を見せて、主人を心から喜ばせたかった。それがドーブルとしての、せめてもの恩返しだと思った。
そのために私は、主人の嗜好を徹底的に調べた。明るいものが好きなのか。暗いものが好きなのか。シンプルなものが好きなのか。複雑なものが好きなのか。何を正しいと思っているのか。何を悪だと思っているのか。
長い間の努力の成果もあり、主人の嗜好がだいたい分かった。主人の嗜好に従い、私はたくさんの絵を描いた。主人は必ず喜んでくれた。心が安らぐと言ってくれた。心が安らいで、幸せな気持ちになれると言ってくれた。だから私も嬉しくなって、もっと頑張って描いた。主人が嫌いな思想に対する風刺も、訳が分からないながらも、盛んに取り入れてみた。主人はくすっと笑いながら、良くやったと誉めてくれた。
何時の間にか、主人が喜んでくれる絵が、一番描いてて楽しいものになった。それ以外を描くことに、もはや喜びを見出せなくなっていた。
楽しい日々は、あっという間に過ぎていった。私が絵を描く。主人が喜ぶ。そんな単純な日々が、ずっと続けばいいと思った。
しかし、運命というのは残酷だった。
ある日突然、主人は交通事故で死んだ。
外から大きな音がした。ボールから出てみると、主人が血だらけで横たわっていた。隣には、トラックが止まっていた。私はその光景をただ眺めていた。
何が起こったのか分からず、しばらくの間、主人の親の家でぼーっとしていた。しばらくして、その事実をじわじわと理解して、私は暴れまわった。主人の親が必死で私を止めた。
それから私は、いろいろあって野生に帰った。主人に捕まる前の、草むらへと戻った。戻ってきた私を見て、昔の仲間は喜んでいたが、私の心が晴れることはなかった。
野生に帰った後も、絵は描き続けていた。それは、ドーブルとしてのアイディンティを保つための行為であり、やらなくてはならないものだった。
そして、どのような絵を描いていたかというと、主人が好きな絵を描いていた。前と変わらない絵を描いていた。何時の間にか、主人が好きな絵が、「これが普通」という形に変っていた。絵とはこうゆうものである。これが正しい絵の姿だ。そう思うようになっていた。
仲間達とは、仲良く暮らせていた。主人のことは辛かったけど、仲間がいたから、私は前向きに生きてこれた。
ある時、自分より年下のドーブルが、絵を描いているところを見つけた。私は自分の絵に没頭していたので、他のドーブルの絵をしっかり見ることがなかった。年下のドーブルは、私が見ていることに気づかず、ただひたすら絵を描き続けていた。
描いてる本人には、興味がなかった。ただ、その絵が少し気になっていた。その絵を見ていると、何か、自分の中に、黒い感情が、沸いたような気がした。
その絵は、主人の好きなものとは、全然違うものだった。むしろ、正反対だった。背景の色や絵が複雑な所が。もちろん、正反対じゃない部分もあった。けれど、一部が正反対なせいで、全てが真逆のように見えた。この頃私は、主人が好きな絵が、正しい絵の姿だと思っていた。だからその絵に、違和感を感じた。違和感はすぐに、怒りへと変わっていった。そして怒りはついに、極端な思考を産み出した。
こんなのは絵じゃない。
私は文句を言った。こんな絵は、おかしいと。冗談じゃないと。もっと真面目に描けと。こんなものは全然、心に響かないと。時折暴言を織り交ぜて、私は散々に言いたいことを言った。相手の反論を怒鳴り声で遮って、ひたすら何度も「正しいこと」を伝えた。
言われている方は、とうとう我慢できなくて、ついに私に攻撃してきた。私は非常に呆れ返った眼で相手を見つめた。相手は攻撃を止めなかった。こいつは手を出さないと分からないのか。その思った私は、戦闘態勢に入った。
相手はオスとはいえ年下。簡単に勝てるだろうと思っていた。
しかし、私は甘かった。
相手の力量を知らずに、戦いを挑むのは愚かだった。
自分より遥かに強い技を、相手はたくさん持っていた。「スケッチ」を使って火炎放射やハイドロポンプを覚えていた彼は、あっと言う間に私のHPを0にした。絵を描くことに努力値を振っていた私に、最初から勝ち目などなかったのだ。
相手は去っていた。意識が朦朧としていた私は、彼に何も言うことは出来なかった。
しかし、これで終わりではなかった。痛い思いをして、これで終了とはいかなかった。
彼は、私の仲間に、一連のことを伝えた。あいつが急に偏見を押し付けてきた。挙句の果てには攻撃してきた。恐らく誇張して、話を簡潔にするために嘘も混ぜて、ここらへんにいるドーブル達に話した。そのせいで、私はすぐに、嫌われ者となってしまった。仲良くしていた友達も、次第に離れていった。
そしていつしか、私の味方はいなくなった。私は独りになった。
私が絵を描いていると、みんなが笑ってきた。平気で馬鹿にしてきた。私は構わず無視をしたけど、心の中では悔しくて泣いていた。私の絵を否定されると、主人のことを否定されようが気がして、それが一番辛かった。それが一番悔しかった。誰にも責任はない。ただ、私が自我を失って変なことをしたせいだ。
私は言い聞かせた。主人は良い人だった。良い人が私の絵を誉めてくれた。ということはその絵は、正しい。間違ってなんかいない。
それに、ドーブルという種族は、「自由」に絵を描く権利があるのだから。何を言われたって無視すればいい。
それは、とても立派で、とても愚かな考えだった。
その一言を待っておりました。
こういう話って、現実世界でも具体例はありますよね、きっと。
暇です、暇です、暇、暇、暇、暇、暇、暇、暇、暇、暇!ねー、遊んで、遊んで、遊んで、遊んで!今すぐ遊ばないと、サイコキネシス…【以下略】
誰かこの状況から助けて下さい、1万払ってもいいから。誰にだ、誰でもいいから。コイツ止めてください…
ほら、英雄!出番、出番!チャンピョン、ジュンサーさん、ジムリーダー!1万でいいなら雇いますから。
ー悲鳴じみたことを考えつつも、無粋に思考に割り込んでくるそれ。情け容赦なく飛んでくる念波。
先ほどから、頭がガンガンしている。
エーフィに進化する前から似たようなことしてさ、飽きないの?
遊んで、遊んで、遊べよ!どうせまたくっだらない男に、玉砕しに行くんでしょ。自分の容姿も考えろって!そこらへんのフツメンで妥協しなさいよ。未来見せてあげようか?
やめてください。そんな殺気出しながら、睨まないでください。後、サイコキネシス飛ばすのもダメだから!
下の人から苦情来たら、出ていかなきゃならないんだよ。
イジケルな。
瞳、ウルウルさせても無理!
「せっかくのデートよ、留守番くらい頼んだっていいでしょ?」
ようやくゲットした彼氏の方が、優先度は大きくなるに決まってる。小うるさいエーフィよりは、マシだし。
さみしがり屋でもない癖に、何でいつもデート前になると、こうな訳?邪魔ばっかする。
クールな癖に……。
あーあ、あたしも甘いな。うう、頭痛、ひどいな。
こんなことされても、やっぱね。
「大人しくしてたら、遊んであげるから、ね?」
コクンと頷いたエーフィの瞳に、妖しい光が宿った。そう簡単にいくと思わないことね、ユキ。甘いわよ?
数時間後。
ライモンシティの遊園地に、カゲボウズとジュぺッタ、イーブイの3種が大量発生したのだった。
「エル!出てきなさい、今日という、今日は!許さないから、お風呂入れるわよ!おやつなしよ、ブラッシング1週間なしよ。いいわねー」
こうして、旅のトレーナーは追いかけっこする二人を見るのだった。
こんにちは、お世話になっている小樽ミオです。m(_ _)m
唐突かつ勝手ながら、ストーリーコンテストを開催する運びとなりました(企画ページ:http://yonakitei.yukishigure.com/stcon2012/index.html)。
マサポケでは休止中のストコンに準拠し、できるだけ「ストコンのつづき」といった雰囲気でご参加いただけるように計画しているものです。
以下、
(1) コンテスト概略、準備チャット会開催のお知らせ
(2) コンテストのトップを飾るイラストおよびバナーイラストの募集
(3) 審査員の募集(10月3日21時追加)
の3点についてお話を進めさせていただきます。
◆
【1. コンテスト概略、準備チャット会開催のお知らせ】
開催期間は「年内に完結する」ことを基準に、
2012年10月15日〜12月23日(募集:10月15日〜12月1日、投票:12月3日〜12月22日)
として仮決定しています。
ただ、もっとも重要な「お題」が未決定です。みなさまのご参加を想定する以上、お題はこれまでのストコン同様多数決で決定したいと考えております。また、上述の開催期間も当方が勝手に仮決定したものですので、修正が必要になるかもしれません。
つきましてはチャット会を開催したうえで、お題や開催期間を筆頭に、今回のストコンに関してみなさまのご意見を賜りたく存じます。
チャット会は本年10月7日(日)20時より、マサポケチャットにて行わせていただく予定です。
かなり急な提案ですが、ご参加いただければ嬉しく思います。
●とりわけご意見をお伺いしたい点
・ お題
・ コンテストのタイトル(決まってないんです 苦笑)
・ 開催期間は適切な長さか
・ 募集は「小説」だけに限定するか
・ その他みなさまがお気づきの点
募集期間につきましてはすでに「駆け足気味」というご意見をいただいておりますので、「年内で完結させる必要はあるの?」「年を跨いだっていいじゃん!」というご意見が多ければ、募集期間を中心にもう少し余裕のある開催期間としたいと思っております。
また、「チャットでは聞きづらい/チャットに入りづらい/チャット前に伝えておきたい」という方がいらっしゃりましたら、当方のツイッターアカウントやメールアドレスに直接ご連絡をいただいても構いません。アカウントやアドレスはこちらに掲載しませんので、お手数ですがコンテスト用のウェブページからご確認ください。m(_ _)m
◆
【2. コンテストのトップを飾るイラストおよびバナーイラストの募集】
コンテスト開催にあたりまして、トップ絵およびバナーとなるイラストを募集させていただこうと思っております。チャット会後に本格的に始動したいと思っておりますので、「描いてもいいよー!」という方がいらっしゃいましたらお心づもりをしておいていただけると幸いです。
◆
【3. 審査員の募集】(10月3日21時追加)
当コンテストでも、可能であれば審査員というシステムを継承したいと思っています。
審査員の募集要項は、(1) 全作品を熟読し、 (2) かつ熟考した上で全作品に評価およびコメントを行う ことが可能な方とさせていただきます。
審査員であることに対するお礼はできませんが、ソルロックも裸足どころか全裸で逃げ出すほどにまばゆい笑顔で感謝の気持ちを表させていただきたいと思います(やめい)
※審査員とは
(これまで同様)全作品を読み、全作品にコメントすることを使命とする役職です。
これまでのストコンでは、どの作品に対しても審査員の方々から必ずコメントがつくことが応募特典として挙げられていました。
◆
以上でございます。
では、ご参加を考えてくださっている方がいらっしゃりましたら、チャット会で改めてお会いいたしましょう(*・ω・*)ノ
後味わりい。
でもなんだろう、ポケモンの世界ではよくあることなんだろうな…現実はシビアだ
通りすがりの青年の前で、少年が草むらの中に入って行った。
「こら。君は、ポケモンを持っているのかい?」
「持っているよ。ほら」
少年の腕には、ミネズミが抱かれている。
「そうか。なら草むらに入っても大丈夫だな」
「うん。これからミネズミ逃がすの」
「逃がしちゃうのか。見たところ随分懐いているようだが、何か事情があるのかな?」
「うん。ポケモンは人間と暮らしちゃいけないんだって。だから逃がすの」
「ポケモンは大事な家族じゃないか。誰がそんなことを言ったんだ」
「お母さん。テレビで見たんだって。ポケモンは大事な友達だけど、やたらむやみに捕まえたらいけないって。僕の家にはもうチョロネコがいるから、どっちか逃がしなさいって言われたの」
「そうなのか。家で面倒が見られないならしょうがないな」
「うん。チョロネコもミネズミもタマゴから育ててきたけど、家で二匹もポケモンを飼えないんだって。家計が苦しいんだって」
「困ったな。お兄さんも手持ちがいっぱいなんだ。ミネズミを欲しがるトレーナーも少ないだろうし、ポケモンセンターや施設に預けても、こいつが幸せになるとは限らないからな」
「うん。お母さんも、きっと野生で立派に生きていくから大丈夫だって。きっとたくましいミルホッグになって、群れのリーダーになるって」
「そうだな。よく見ればこのミネズミは良い顔をしている。お母さんの言っていることも正しいかもね」
「うん。じゃあさよなら、ミネズミ」
少年はミネズミを地面に置いた。ミネズミは、最初はおろおろとしていたが、やがて森の中に走り去って行く。
「ミネズミー 元気でねー」
「達者に暮らせよー」
少年と青年が見守る中、ひたすらミネズミは走っていく。
そして数十メートル走り続けた頃、一匹のケンホロウが、ミネズミめがけて一直線に飛んでいく。ミネズミが危機に気づいたときにはもう遅かった。
獲物を捕らえ悠然と飛び去る鳥ポケモンを、青年と少年は何もできず、ただ呆然と見つめていた。
――――――――――
一発ネタです。これ以上の意味はありませぬ。
フミん
【批評していいのよ】
【描いてもいいのよ】
お望みの結末
「なぜきみにはポケモンがいないの?」
そう聞かれたとき、僕はいつも答えに窮する。
ポケモンがいる理由は明確だ。好きなポケモンがいて、10歳以上20歳以下の年齢で、なりたい自分を強くイメージした時に現れる。
だから、「なぜ君はそのポケモンにしたの」と聞かれたときに理由が答えられない人はまずいない。
僕はポケモンが好きで、10歳以上20歳以下の年齢で、なりたい自分を強くイメージしたけれど、エーフィもサーナイトもリザードンも現れなかった。
それなのに、僕はいま、なぜここに立っているのだろう。
◇
最初にポケモンを手に入れた人が誰なのかは、正確にはわかっていない。なぜなら、最初のうちはみんなそれが来たことを隠していたからだ。怪物出現が社会現象になったのは、初めて彼らがやってきてから数か月以上経った後なのではないかとも言われている。
ポケモンは友達だ。道具じゃないし、見世物でもない。初期のトレーナーが彼らの存在を隠したのもうなずける。
しかし、あまりにも多くのティーンエイジャーがポケモンを手に入れたことから、彼らが存在することがむしろ普通のことになってしまって、それでポケモンの存在が社会一般に認知されることとなった。
まず槍玉に挙がったのは、その攻撃性だった。
ポケモンは強い。人を殺せるくらいに。
ゲームの中における「きりさく」と、実際の世界における「切り裂く」は全くの別物で、前者は威力70の平凡な物理技、後者は血しぶきがでて、肉片が散らばり、人が死ぬ。
理論上は。
ポケモンは、ポケモンバトルという競技を除いて戦うことはなかった。彼らはトレーナーに従順で、人間を殺すはなく、危険性はとても少ないとされた。といっても、バトルに負けたポケモンは致命傷を負うこともしばしばだったが。そのため、一部の地域ではポケモンバトルを禁止する条例が発効された。しかし、ポケモン本来が持つ闘争本能を完全に抑え込むことはできなかったようだ。
ある程度の安全性が確保されてからようやく、彼らがいつどのようにしてこの世界にやってきたのかが公に議論されるようになった。
もちろんポケモンは株式会社ポケモンが管理運営するゲームあるいはそれに現れるキャラクターのことであったが、裁判沙汰になることを危惧したのだろう、今回出現した「それら」に関しては、株式会社ポケモンの商標権の範囲外にあるという発表が本社からなされ、とりあえず「それら」はいわゆる「株式会社ポケモンが作ったポケモン」ではなく、まったく別個の「ポケモン」であるという結論が下された。
もちろんこの発表がなされた後も、ポケモンの発生ルートは謎のままである。
とはいえ、わかったこともある。
それが冒頭にも述べた3か条。
1.好きなポケモンがいて
2.10歳以上20歳以下の年齢で
3.なりたい自分を強くイメージした時
にポケモンは現れる。
そして僕にはポケモンがいない。
◇
最近はポケモンバトルにも明文化されたルールが出来上がった。
これはポケモンバトル協会が設定したものである。なお、ポケモン協会という名前は、株式会社ポケモンのポケモンにおける商標権の侵害であるとされたためポケモンバトル協会になったというのはまた別の話。
そのルールによれば、ポケモンが相手に致命傷を与えるのを防ぐために「瀕死」あるいは「気絶」という概念を用いる。これは医学な意味における「瀕死・気絶」とは異なり、あくまでもポケモンバトルにのみ適用される概念であり、レフェリーあるいはトレーナーがもう戦えないと判断した状態のことである。だから意識があっても気絶になる。「瀕死・気絶」を区別するルールも区別しないルールもあり、それは日本の東西でわかれているということである。
このルールのおかげで命を落とすポケモンは極端に減り、安心して強さを追い求めることができるようになった。
強いポケモンと弱いポケモンが明確に分かれるようになり、強さ別のトレーニング施設ができ、空いたニッチに滑り込もうと多くのベンチャー企業がポケモン産業に参入した。
いま僕の目の前にいる人たちは、明確に分かれたうちの片方である強い人たちであり、いま僕の目の前にいるポケモンたちは、文字通りの強者である。
それなのに、なぜ僕はここにいるのだろう。
◇
グーグルアースを通じてこの社会の隅々まで知ったつもりでいた人が突然自分の家の前に放り出されて、そして今自分のいる場所がどこだかわからなくなってしまったような、そんな心持。
ゲームは100回以上プレイした。プレイ時間は、1万から先は覚えていない。
でもここが、どこだか分らなかった。
リーダー格の青年が、ほかのみんなを励ます。隣にいるショートカットの女の子がそれに同調する。
この事態に不平を言う性格の悪そうな痩せたメガネの青年がいて、涙を流し始めた小さな少女もいる。そして少女を慰める優しそうな太った青年。
ここにいる人はみんな互いに互いを知らなかった。
みんな突然ここに飛ばされた。
年齢も性別も性格も皆ばらばら。それでも、不思議な一体感で結ばれていた。
僕を除いて。
◇
「なんでポケモンがいないの?」
小さな少女にそう尋ねられ、僕は答えに窮する。
リーダー格の青年が僕をフォローし、僕の知識が役に立つとみんなに説明する。
メガネの男がわざとらしくため息をつく。ショートカットの女がそれを諌める。太った青年がつぶやく。
「ぼくらはこれからどこへ行くんだろう」
◇
その時僕を、得体のしれない違和感が包み込んだ。
この世界の存在そのものに対する違和感だ。
あまりにも唐突な展開。
あまりにもステレオタイプな登場人物。
そして僕という存在。
右を向く、左手を挙げる。その程度ならば許される。けれども、僕が反対しようと思っても、僕はリーダーに賛成する。思ってもないことを突然提案する。
ようするに、旅の進行にかかわりの低い些細なことならば僕に行動権があるが、メンバーの意思決定にかかわる事項はあらかじめ答えが用意されていて、それ以外のことはできないようになっていたのだ。
そして、僕はいつの間にか真面目ながり勉タイプの人格に置き換わっていく。
僕でない僕が、勝手に僕を作っていた。
僕の状況は明らかだった。僕は単なるマリオネットになり下がったのだ。
なぜそうなったのか。
僕は神を信じるタイプではない。突然僕を操る存在が出てきたと考えたとしても、いま僕がいる場所、僕らの進む道は明らかに非現実的だ。
信じられないくらいベストなタイミングで僕らに助言が入り、進むべき道が決定し、僕らが話しかけた人間は、何回話しかけてもほとんど同じセリフを繰り返す。
そこで僕は一つの仮定を立てた。
いま僕のいる世界はゲームなのだ。もちろん僕が現実からゲームの世界にやってきたなんてことはありえないから、僕は最初からゲームの駒だったと考えるのが妥当だ。
僕は今マリオネットになったのではない。生まれたその瞬間からマリオネットだったのにそれに気づかずにいたのだ。今まではまだゲームが始まっていなかったから自由に動けていた、それだけのことだろう。
最初のイベントをクリアすると、よくわからない女の人が現れて僕らに助けを求める。
僕はこの展開に辟易する。
いまどき、こんなストーリーでは子供漫画のプロットも勤まらないだろう。
それでも物語は進んでいく。だって僕は作者じゃないんだから。
◇
その旅は唐突に始まり、しかし、目的はゆっくりと明らかになっていった。
ある一部の人たちが私利私欲を追い求めた結果、この世界の秩序が乱された。今の状態が続くと世界が歪んでしまう。
それを何とかしましょうね、と。
世界をゆがませている原因は多々あるが、どれも人為的なものだった。ついでに言うと、子供だましのつまらない理屈で運用されているものがほとんどだった。そんなことをして本当に利益が上がるのかしらん。
エスパータイプの力を増幅させる装置を壊し、敵の結社の幹部をとらえ、また別の悪事を、力を合わせて懲らしめる。
体がほとんど乗っ取られているとはいえ、ある程度は自主的に行動することができたし、僕の思考そのものが乗っ取られるということはなかった。また、ゲームのストーリーに反しないように行動する限り、ほとんどは僕自身の意思で動くこともできるようだった。
特に自分が自分で行動していると感じられるのは戦闘シーンである。
戦闘時は各々が自分で判断して攻撃、回避を行うことができる。当然といえば当然だ。そこまでストーリーが決めていたらゲームとして成り立たない。
しかし、僕にはポケモンがいない。
だから僕が戦闘に参加することはなかった。
一つのダンジョンが終わるたびにまた新たな旅の目的地が設定され、また一つクリアするごとにこの世界に関する新たな発見があり、そして僕はその様子を後ろで見ている。
僕の持つ知識はとりあえず役に立っているようであり、邪険にされることは少なくなった。それでも戦うのはポケモンでありポケモンを持つトレーナーであり僕ではなかった。彼らが求めているのは僕の知識であって、健全なるストーリーの進行であって、僕ではなかった。そして僕の知識は、僕でない誰かが発言した内容でしかないのだ。
同じゲームの駒とはいえ、僕と彼らには歴然とした差があった。
彼らには力があり、僕には力がなかった。
彼らには自由を行使する戦闘があり、僕にはそれがなかった。
そして彼らには相棒がおり、僕には相棒がいなかった。
その時、声がした。
◇
その声は、僕にポケモンをくれてやる、といった。
僕は喜び、見えない声に従って夜の道を歩いて行った。
二つある月の片方が水平線の下へと沈んでいき、もう片方の赤い月が静かに僕を照らす。この世界の歪な情景にももはや慣れきってしまい何の感慨もない。舗装されていない道を無言でひたすら歩く。
どこかでいつの間にかテレポートされたのだろうか、突然目の前に大きな城が表れて、中に招かれた。このデザインはNの城の使い古しなんだろうなと思った。
大きな階段を上ると中世の建築物を思わせる柱が並んでおり、その奥にある巨大な扉が音を立てて開く。城内には赤いじゅうたんが敷かれており、黒服の男について歩く廊下には様々な絵がかけられていた。
そして男が立ち止った先には、また新たな扉。この向こう側に声の主がいるらしい。
声の主は美しい女だった。
ゲームショウのコンパニオンみたいな服を着ているが顔面偏差値はそれよりやや上といったところか。ゲームに出てくる登場人物なのだからまぁ大体こんなところだよなと想像がつく程度の登場人物であり、悪役であることを確約するかのような冷たい目をしていた。
彼女は僕にハイパーボールを渡した。ポケモンカードに載っているコンピュータグラフィックで書かれたハイパーボールに不思議とよく似ていて、質感はまさにCGのそれだった。
僕はそれを受け取り、中のポケモンを放出する。
赤い光の先に、6枚の黒い羽根をはばたかせ、赤い目を持った三首のドラゴンが表れた。
サザンドラだった。
サザンドラは僕の右手に降り立ち、神妙に僕のほうをうかがう。彼の吐く息が僕の顔にあたる。少し生臭いような、それでいて懐かしいようなにおいがした。
生まれて初めてのポケモンだった。
僕は嬉しくて彼の首に抱きつき、彼もそれにこたえて低く唸った。
僕という存在にこたえてくれる者がいたことに、僕は感激した。彼は彼で今までトレーナーがおらず、コンパニオンのお供をやっていたのだ。ポケモンなりに今までの悲壮さを訴えるかのような、低い、低い、唸り声だった。
そんな僕らを冷ややかに眺めながら、城の主は、僕にサザンドラの見返りを求める。
それは、旅の仲間を裏切れ、というものだった。
◇
僕が旅の仲間を裏切ることを許諾するならば、サザンドラは僕の相棒になる。
どこかで聞いたことのあるような話だった。
そう、僕はゲーム製作者あるいはプロット作成者にとってとても都合の良い立ち位置にいたのだ。
リーダー格の青年はやはりリーダーとしての職を全うしなければならない。幾多の困難と葛藤を乗り越えて英雄として成長していくのだ。
ショートカットの女の子はヒロインとして泣いたり笑ったりしながらリーダーを支えていくことになる。
メガネの男は最初悪い奴だと思われていたものの、いざという時頼りになる奴という立ち位置を与えるのにもってこいだといえる。また理性的なので作戦立案にも役立つ。
小さな少女は物語の悲壮さを冗長させる機能があり、守ってもらう役割を担う存在でもある。
太った青年はチームが乱れたときに、その包容力をして結束を保つ微妙な役回りをこなすことになるだろう。
一方僕は、何だ?
僕は比較的真面目にリーダーや旅の仲間に助言をし、対して役に立たないなりに努力してきた。
そう、まじめに努力。これが重要だ。
世間の子供はまじめであることを極端に嫌がる。生徒会長といえば先生に告げ口するしか能のないつまらんやつだというイメージが先行する。また各種メディアも勉強しかしない若者の無能さを説き、また地味な若者が人殺しなどをした事件が発生すると「まじめな青年の心に潜む暗い影」と大見出しをつけてこの種の人間を罵倒する。
すなわち、このたびのメンバーにおいて唯一感情移入されにくい存在が僕だ。
表面上、僕の性格が突然変わったように見えたのはこのような理由があったからだろう。
だからこそ、僕だけが敵になることができる。
裏切った後僕はどうなるか。
もちろん僕がラスボスになることはありえない。そこまでの器ではないからだ。
ゆえに僕はバトルに負ける。
もちろん最初は奇襲をかけるのだから僕がいったん優勢になるだろう。しかし、残りのメンバーが一致団結して、最終的には僕という存在を倒すのだ。
けれども、旅のメンバーは僕を憎まない。
なぜならば、僕にはポケモンがいないという負い目があるからだ。
ポケモンがいない苦しみが原因だったと納得する。
僕が死んだとしても、僕が悪い人間ではなかったのだといって、ヒロインあたりは涙を流すだろう。
まじめであることが表向きはよいことだと吹き込まれているのもその理由の一つである。
まじめという性格を全否定することは社会通念上許されない。しかし、まじめである人間はいくらひどい目にあったとしても感情移入されにくい存在なので倒すこと自体は正当化される。
結果として、僕以外のメンバーの株は上がり、僕は舞台上から姿を消す。
なぜ僕がそんな戦いを挑まなければならない?
当然僕は城の主の要請にノーを突きつけるべきだ。
しかし、マリオネットであるところの僕はそれが許されない。
葛藤したそぶりをしたのち、美しい女にたぶらかされて、結局は落ちる。そういうシナリオだ。
そして僕は黒い竜の背中に乗り、飛翔する。
◇
「なぜ僕にはポケモンがいないの?」
その答えは今や明白だ。僕が裏切る恰好の口実を与えるためだったのだ。
物語の構成上、無理のないストーリーにするための伏線だったわけだ。
僕にポケモンがいないことのために得られるとても大きな何かがあって、僕があの場所に立っていたすべての意味が今この瞬間にあって、僕がこの物語に登場するすべての意義が黒い竜とともにこの空の中を飛んでいる。
「ぼくらはこれからどこへ行くんだろう」だって?
ぼくが歩むべき道は、ゲームが始まる前から決まり切っていたことだったんだ。
◇
メンバーがいないこの黒の世界の中では、僕は自由だ。
もしかするとほかのメンバーは、僕がいないことに気が付いて、何らかのイベントが発生しているのかもしれない。
だからこそ、今の僕はブラックアウトされていて、今だけは自分の好きなことを話して好きなことをすることができる。
誰にも見られていないこの瞬間だけ。
このサザンドラも不遇だ。
悪ドラゴンというタイプから味方の側が使うことはストーリー構成上考えにくく、ゲーム内でもラスボスのもつ切り札として登場する。
彼が彼としての存在価値を全うするためには、彼は悪役でなくてはならず、そして当然悪役は負けることが運命づけられている。
今回はラスボスの手持ちですらなく、単なる中ボス扱いである。僕は彼に対して申し訳ない気持ちになった。
「ごめんね、サザンドラ」
僕は言う。
風にかき消されそうな小さな声だったけれども、彼はちゃんと答えてくれた。
彼も知っているのだ。自分の運命を、自分の役割を。
すべてを飲み込んでしまいそうな黒い闇の下、僕は、この表現が単なる比喩でなく、本当に僕らを飲み込んでくれたらよいのにな、と思った。
けれども無情にも、もうする夜が明けるだろう。
旅のメンバーにとっての朝と、僕らにとっての朝はきっと意味が異なる。
僕にとっての朝は僕という存在の終わりを意味し、彼らにとっての朝は新しいイベントの始まりを意味する。
彼らはこれからハッピーエンドに向かって邁進していくのだろう。
そう、僕は知っている。
どうぞよい結末を。
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タイトルは星新一先生のパチリですね。ストーリーは全く似ていません。。。
主人公が最初から最後まで無駄に現実的なのが逆に非現実的で好みだったりしています。
【描いてもいいのよ】
【書いてもいいのよ】
【批評してよいのよ】
「トウコやだ。ベルがいい」
チェレンの言葉がまっすぐ突き刺さる。トウコが初めて恋を知った相手の言葉はこうだった。
「トウコ怖いもん。ベルのが優しいから」
小さい時からずっと三人は一緒だった。優しい女の子のベル、リーダー格のチェレン。トウコがずっと一緒にいるチェレンに惹かれるのは当たり前のことだった。なのにチェレンはそれを何を言ってんだというようにあしらった。理由は、トウコの性格。
「なんでだよ!ベルも優しいけど私だって優しいじゃん!」
拒絶され、思わずチェレンを突き飛ばす。尻餅をついたチェレンが、だからだよと小さく言った。
「あー、ベル?うん……そう……よかったな!」
何も知らないベルは、トウコによくライブキャスターで連絡してくる。
ベルはトウコから見ても優しくて気が効く子だ。小さい時からずっと一緒。トウコも女の子というのはこういう子のことを言うと解っている。けれど自分はそんな繊細な性格をしていない。
少し年上の男の子とも喧嘩して勝ってしまうし、野生のポケモンだって下手したら追い返せる。それなのに、ベルはまわりからかわいがられ、守られて優しく接していた。もちろん、トウコにだって優しい。それゆえトウコの気持ちには気付けない。
嫉妬まじりの感情を送ってることなんて。
もし気付いていたなら、連絡して来ない。チェレンと付き合うことにしたとか、チェレンとデートしに行くとか。その話を聞く度にトウコはチェレンに言われた拒絶の言葉が巡った。
「んじゃ。気をつけろよ。プラズマ団とかもどこにいるかわかんねーし。おう、大丈夫だ、こっちは」
ライブキャスターを切る。大丈夫なんかじゃない。心が通じなかった相手を、ベルは軽々と触れ合って楽しそうにしている。それを想像しただけでどれだけ平穏な心が保てなくなるか。いつものトウコでいられなくなるか。チェレンもベルも、そんなこと気付かない。むしろトウコなんていなかったかのように二人は振る舞う。
最悪だ。どうしてこんな嫌われてしまっているのだろう。トウコの心は答えが全く出なかった。
目の前にいるのはNだ。カノコタウンを出てからというもの、何かと会う。ポケモンにしか興味ないことを言っておきながら、トウコの人間関係をずばり言い当てた。
「キミとボクは似ている。トモダチはあの子たちではない」
ポケモンと共に孤高の道を歩むものだと、トウコには聞こえた。Nには絶対に弱いところを見せられないと、威嚇してきたけれど、この時ばかりはNが去ってないというのに泣き崩れてしまった。いきなりの変化にNも驚いてしばらくトウコを見つめていた。
Nの前で泣いたのは一度だけであるが、いけ好かないという点は全く変わらない。けれど、以前とは違う心がトウコにあった。チェレンに感じた以上の親しみ。チェレンと違ってベルよりもじっと見ている。そして優しくしてくれる。こんなトウコでも受け入れてくれる。
いつか、Nにこの気持ちを告げなければならない。受け入れられないことがない。Nはきっと、好きでいてくれる。
ライモンシティで観覧車に誘われ、嬉しい半分、何をしていいか解らない半分。Nと二人きりになった瞬間、トウコはNから視線をそらした。けれどそんなトウコ衝撃を告げて行くのである。Nはまっすぐトウコの目を見て。
「ボクがプラズマ団の王様だ」
まただ。
なぜ受け入れてもらえない。なぜ人を好きになるという気持ちを一切誰も受け入れてくれない。
そんなに優しくて守られる女の子がいいと言うのだろうか。ベルのような子になれば、誰からも好かれてこの気持ちも受け入れてくれる人が現れるのだろうか。
思いきって鏡の前でトウコは話しかけた。鏡の中の自分に、優しくなれ、と。
「おはようベル。今日もいい天気だね。おはようチェレン。今日もきっと……」
自分じゃない。鏡の中の自分は偽物だった。人に好かれるために取り繕った中身のない自分。
今のままでは誰にも好かれなくて、愛されなかったとしても、自分を偽ることの方がよほど辛かった。
休憩の為に地下鉄の駅のベンチで座っていた。何本かのシングルトレインを見送る。次に乗る列車が指定されているからだ。ミックスオレを飲みながら、ひたすらその電車を待った。
「シングルトレイン、ご乗車の方は」
トウコは案内された通りの列車に乗る。
そこから先はいつもと変わらない光景。ワルビアルがなぎ倒し、残った敵をメブキジカが倒して行く。それでも倒せない時はダイケンキの出番。頼りになる相棒とひたすら前へ前へ進むトウコ。
ポケモントレーナーなんてみんなこんなもの。ジムリーダーも、四天王も、Nもこんなもの。誰もトウコを止められない。トウコを受け入れない。
「貴方の実力を讃えて、サブウェイマスターがお待ちです」
何のことか解らなかった。考え事をしていて、その言葉の意味が解らなかった。どうやら次がシングルトレインの先頭車両のようだ。その先にいるのは、バトルサブウェイを取り仕切るもの。
けれどそんなのどうせ同じだ。皆変わらない光景しかない。トレーナーなんて皆同じ。ポケモンからの信頼は自信がある。それに勝てる人なんていない。
「ようこそ、バトルサブウェイへ」
黒いコートを来た車掌。これが噂のサブウェイマスターなのか。確かにオーラはそこらのトレーナーと違うようではあるが。トウコは何も言わずにモンスターボールを差し出した。
「つべこべ言わずにやろうぜ。どうせお前もその辺のトレーナーなんだろ?」
「その辺の、とは随分おおざっぱに分類いたしますね。ではその考えが間違いであることを、証明いたしましょうか。貴方の進路がどちらに進むのか、いざ!」
ノボリの放ったボールからダストダスが現れる。いつもの調子でワルビアルに地震を命令する。あんなポケモン一発で落ちる。そしたら次は……。
「ダストダス、ダストシュートです!」
ダストダスの鎧が砕けた。それからの大量の毒がワルビアルに降り掛かる。相性の問題で、そんなダメージはなかったが、トウコは言葉を失った。ダストダスごときが、ワルビアルの攻撃を耐えられるなど思ってもみなかった。
「あ、ワ、ル、ビアル、じしん!」
疲れて動けないダストダスは、あっけなくワルビアルの攻撃で倒れる。次は何が来るのか。トウコは知らず知らずのうちに手を握りしめる。
「おや、あれだけ挑発しておいて、ようやく実力を理解していただけましたか」
ノボリは涼しい顔をして次のギギギアルを出して来る。しかも早い。ギギギアルはワルビアルにラスターカノンを、しかも最も柔らかい腹の付近を狙ってやって来た。ぐう、とワルビアルは倒れてしまう。
強い。ノボリはとても強い。サブウェイマスターと名乗るだけあって強い。このままでは負ける。ポケモンが強いことだけが取り柄なのに、負けたら何も残らなくなってしまう。ただの性格の悪い人間になってしまう。
負けたくない。まだメブキジカもダイケンキも戦える。元気だ。
「行けっ、メブキジカ!」
メブキジカがボールから出るのと同時に、トレイン全体が大きく揺れた。カーブだ。技を命令しなければギギギアルは特殊攻撃でメブキジカを攻撃する。けれどこのカーブで飛び蹴りを命令するのは賭けにも等しい。他に何か手はないか。
メブキジカが角を振る。春風を受けて桜のいい香りが咲いた角。その匂いがトウコに届く。落ち着け、と言われているようだった。
トウコは決めた。
「宿り木のタネ」
メブキジカの方が速かった。宿り木のタネがギギギアルの歯車の隙間に入り込む。体力を少しずつ奪う。ギギギアル自体は、メブキジカに効果は抜群である技を持っていないはずだ。一撃で倒されることだけは防げる。
ラスターカノンがメブキジカの胴体を狙う。トウコの命令が一瞬遅く、食らってしまう。勢いに飛ばされ、メブキジカは四本の足で倒れまいと踏ん張った。つるつるのサブウェイの床では止まりにくい。けれどなんとかぶつかる前に止まる。そしてそこから強力な四本の足で跳ねる。
「飛び蹴り!」
ギギギアルの接続部を狙う。何度か戦って来た相手だ。メブキジカも要領を心得ている。固い蹄が、ギギギアルを強く蹴り飛ばした。大きな金属が、サブウェイの床にがしゃんと落ちる。ノボリがボールに戻した。
「急所狙い、ですか。運がよろしいですね」
「最後の一匹で余裕じゃん?どーすんだよ」
再びサブウェイ全体が揺れる。カーブに差し掛かっているのだ。それに加え、少し減速している。だとすれば次に来るのは加速。それを計算して命令しないとならない。飛び蹴りは強力だが、外すと自分にダメージが来る。ならばこんな揺れる車内で何度も出すのは危険だ。
「そうですね、最後でございます。では、行きなさいイワパレス!」
メブキジカの目の前に現れるイワパレス。助かった。これならメブキジカの方が早く動ける。
「ウッドホーン!」
「シザークロスです!」
桜の香りがする角を振りかざし、メブキジカはイワパレスに一直線。強い角の一撃を、自慢のハサミで受け止めた。そしてそのままノボリの命令通りにメブキジカの角は切り裂かれる。
「そちらも残りは一匹でございますね」
この車掌、ただ者ではない。改めてトウコは思った。全てを知り尽くしているような、そんな印象を受ける。もしかしたら手のうちですら知られているのではないだろうか。だとしたら勝てるわけがない。
けれど解らない。解っていたって、力が強ければ勝てるかもしれない。祈るようにトウコはダイケンキのボールを投げた。
「ウッドホーンくらって、それなりのダメージは入ってるはずだ。ダイケンキ、確実に仕留めろよ。ハイドロポンプ!」
トウコは命令してから思い出した。ここは平地ではないこと。急な減速に、ダイケンキはハイドロポンプを打ち損ねる。イワパレスがそこを鋭いハサミで切り裂く。ダイケンキのヒゲが切れそうだった。
「飛ぶ系の技はやめた方が……でもあの防御からして物理よりも特殊の水が絶対いい。ダイケンキ、ハイドロポンプだ!」
痛がるダイケンキはもう一度、大量の水流を作り出した。今度こそイワパレスに向けて、イワパレスを撃ち落とせるように。絶対に勝つ為に。大好きなトウコに喜んでもらうために。イワパレスの体が全てダイケンキの水流に飲み込まれる。激しい流れに、ノボリですら近づけない。やっと弱まって来た時、イワパレスはノボリの指示を聞ける状態ではなかった。
「ブラボー!」
戦いは終わりを告げた。ノボリがその証にイワパレスをボールに戻していた。
「見事わたくしに勝利なさいました。これより、あなた様をスーパーシングルトレインに挑戦する権利を差し上げましょう!」
ギアステーションに戻って来た。ノボリから貰ったスーパーシングルトレインへの許可証を見る。なんだか実感が湧かない。あんな強いノボリに勝てたということが。実はこれは幻とかなのでは、と何度もこすったり匂いを嗅いだりしているが、まぎれも無い許可証だ。
「おや、先ほどの方ですね」
ノボリに話しかけられる。その声は大人のゆったりとした声で、凄く優しそうだ。
「いや、その、さっきは悪かった。その辺のトレーナーとかいって」
「いえ、あなた様ほどの実力者ならばわたくしなどその辺のトレーナーと一緒でしょう。スーパーシングルトレインでもご活躍できるかと思いますよ」
トウコは不思議だった。負けた相手の実力を素直に認めることが出来るなんて。普通のトレーナーはそんなことせず、負けたら暴言を吐いたり、途中で逃げるようにしてどこかへ行く人をたくさん見て来た。
「ノボリだっけ。ちょっと聞いていいか?」
「はい、なんでございましょう」
「どうしてそんなに強いんだ?」
「わたくしが、サブウェイマスターであるからですよ。あなた様は十分お強いのに、わたくしを強いと思うのでしょうか?」
「強いじゃねえか。なんであんなに……」
「……よければお名前お聞かせ願いますか?」
「トウコ。カノコタウンから来た」
「トウコ様、ですね。それでは、スーパーシングルトレインでお待ちしております。わたくしとしては、絶対に来ていただきたいところでございます」
ノボリは右を差し出して来た。トウコはその手を取る。固くかわされた握手は、ポケモントレーナーとして認めていると言われたようだった。
「すぐ行ってやるよ!じゃあなノボリ!」
トウコは走り去る。何を期待していたんだ。チェレンもNも、受け入れなかったじゃないか。なのにまた人を好きになるのか。相手はポケモントレーナーとして受け入れているんだ。そうに違いない。期待なんかするな!
スーパーシングルトレインに通うため、ギアステーションに来る。前はいなかったものに会う。
サブウェイマスターノボリだ。トウコが来るのを待っているようで、スーパーシングルトレイン乗り場で待っている。もっと話したいが、目を合わせることも出来ない。
「お待ちください。顔色が悪く見えますよ」
ノボリがトウコの手を掴む。その時に目があった。
「だいじょーぶだよ!それよりそんな敵に探りばかりいれて余裕こいてんと知らねーぞ!」
「トウコ様の強さは存じております。それより次のトレインをクリアすれば、ですね」
トウコは無言で乗って行った。これ以上期待させるようなことはして欲しく無かった。受け入れない人間が、優しくするなんて、残酷なことだ。ノボリと交した一言一言が、トウコの心を熱くさせる。
ノボリが欲しい。背の高い、黒いコートの中に抱かれたい。受け止めて欲しい。今のありのままの自分を。ポケモントレーナーとしての価値しかないなんて言わないで欲しい。女の子として、人間としての価値を認めて欲しい。
そんなの無理なこと解ってる。そんな魅力がないことなんて解ってる。
ベルのように優しくもない。大人しくもない。突き進むことでしか生きることが出来なかった。可愛くもない自分をノボリのような大人が受け止めてくれるわけがない。
ノボリと向かい合えば心が折れてしまいそうになる。急激な変化。止まることを知らない恋心が、トウコを苦しめる。
ノボリとスーパーシングルトレインの中で会った時、それははっきりと現れた。あの時のように行かない。同じ空間にいるというだけでこんなに苦しいものなのか。
「トウコ様、この電車を降りたらお話があります」
「な、なんだよ」
「まあ、いずれにしてもトウコ様が目的地を決めることでございます」
もう「トウコ様」と呼んでくれることはないということか。それならば最も強いトレーナーとして記憶させてやる。トウコはポケモンを出した。対するノボリも、モンスターボールを投げた。
頭の中がスパークしたようだった。ギアステーションのベンチにつくと、倒れ込むようにトウコは座る。
「勝った。けれど」
好きな男に勝つなんてどうかしてる。負けず嫌いな性格が、こんなところに災いするなんて。
勝たなければまた会えたかもしれないのに。何をしているのだろう。ノボリに会えないのは嫌だ。
「トウコ様、先ほどは素晴らしい戦いでしたね」
顔をあげた。ノボリが涼しい顔をして立っている。また会えた。思わずトウコの顔が明るくなる。
「トウコ様、健闘をたたえて、もしこれから予定がなければ付き合っていただきたいところがあるのですが」
「え、ああ、いいぜ。どこに付き合えばいいんだ?」
「わたくしが休憩によくいくレストランですよ。安さの割にボリュームがあって、人気の店でございます」
ノボリについていく。こんなに期待させるなんて酷いやつだ。でも、今はノボリとこうして過ごしていたい。
「わたくしが出しますので、お好きなものをご注文ください」
駅員に人気の店だというから、小汚い麺屋を想像していた。けれどここはライモンシティだ。まわりはカップルばかりで、これではデートみたいではないか。ノボリは一体なにを企んでいるのか。こんな魅力のない人間を連れてきて、見せ物にしたいのだろうか。
「ノボリ」
「なんでございましょう」
「何を企んでるんだ。期待させるだけさせといて、何してんだよ」
トウコはイスから立ち上がる。その音に、まわりの視線が一気に集まった。
「わたくしは何も企んでおりませんよ。ただトウコ様と」
「してるだろ!人の心弄んで、さらし者にしてーのかよ!てめえはいいよな、そうやって何人も笑い飛ばしてきたんだろ!?」
「トウコ様?どうしたのですか?」
「うるせーよ!男なんてどうせベルみてーなか弱いのがいいんだろ!」
どうせノボリにも受け入れてもらえない。このままじゃいけないのは解ってるけど、自分を偽って生きるほどトウコは器用ではない。まわりの空気に耐えられず、トウコはノボリに背を向けて出て行った。
「トウコ様!」
全力でノボリは追いかける。店から出て数歩のところで、トウコを捕まえることが出来た。
「何があったのでしょう?あの店の選択がよくなかったのでしょうか?」
「うるせえんだよ!ノボリなんか、ノボリなんか!」
「わたくしの何がいけなかったのでしょうか?教えてくださいまし。トウコ様に喜んでもらおうとしているのに、泣かせてはわたくしのプライドに関わります」
ノボリの胸に抱かれて、トウコは一層声を上げて泣いた。止まらなかった。ノボリがこんなに優しいから。
「トウコ様、おねがいでございます。わたくしの何が気に入らなかったのでしょう?」
トウコは答えない。代わりに悲鳴にも聞こえる声で泣き続けるだけだった。
「チェレンも、Nも、私を受け入れなかったのに、ノボリもそうなんだろ」
少し落ち着いたところで、トウコは話す。チェレンのこと、Nのこと。夕方のライモンシティは夜へ向けて街灯がちらほらついていた。ゆったりとしたベンチに座って、トウコは絶対にノボリと目を合わせない。
「それで、トウコ様は受け入れないと思ったのですか?わたくしが?」
「うるせーよ。どうせ身の程を知れって思ってんだろ。もうギアステーションなんかこねえよ」
ノボリはトウコの頬に触れた。そして自分の方へと向ける。
「トウコ様、それは遠回しにわたくしへの告白と受け取っていいのですね」
顔を背けようとしてもノボリが離さない。だから目をそらして絶対にノボリを見なかった。泣いた後の酷い顔なんて見られたい人間がいるとは思えない。
「いいのですね。ではわたくしから口説く手間が省けたというものでございます」
「はぁ!?人の話きいてたのかよ」
「聞いてましたよ。その人たちがトウコ様に思うのと、わたくしがトウコ様に対する思いは別でございます。一体、その二人がトウコ様を受け入れなかったからなんだというのです?それがわたくしに何の影響があるというのです?わたくしはトウコ様のことを魅力的なトレーナー、そして女性だと思っています。それだけでは、わたくしと付き合っていただけませんか?」
「バカ、じゃねえの」
おさまってきた涙が再びあふれる。
「こんなひでー言葉使いで、守られるほど弱くもねーし、優しくもねーのに、付き合おうとかバカじゃねえの」
「そうですね。バカかもしれません。恋は盲目と言うでしょう」
「ノボリは最上級のバカだ。こんな汚いの口説いて、何になるんだよ」
「今まで耐えて来た思いがあふれてるだけでございましょう。それに今までの男がトウコ様の魅力に気付かなかっただけでしょう。わたくしと付き合っていただけますね」
トウコの答えを聞くまでもない。トウコの頬を優しくなでて、唇を重ねる。初めてのキスは、涙でよくわからなくて、それでも心はとびきり嬉しくて、夢じゃなかったら何の奇跡が起きたのか。もっと欲しいとねだっても怒られないだろうか。ノボリの袖を強く掴んだ。
「トウコ様、朝でございます。起きてくださいまし」
ノボリの家に泊まった朝は、いつもこうだ。夢と現実の境にいたトウコは、ようやく朝の日差しを迎える。
「んー、ノボリおはよう」
「おはようございます。もう朝食できていますよ。今日はトーストと目玉焼きでございます」
シーツに包まりながら、裸のトウコがベッドから起きて来る。
「トウコ様、あまりに裸でいるともう一回して欲しいと取りますよ」
「なっ、ノボリの変態!昨日だって2回もしやがって聞いてないぞ!」
「なぜ事前に何度するかと申告しなければならないのでしょうか。わたくしは、トウコ様を心のままに愛しているだけでございます」
トウコの額に軽いキスをする。言葉とは裏腹にもっと欲しいと、表情でねだってる。
「せめて軽いものに着替えてからですよ。シャワー使ってもいいですから」
「はいはい。じゃあシャワー借りる」
トウコをバスルームに見送る。
別人のようだな、とノボリはいつも思う。今みたいに乱暴な言葉で話すくせに、ベッドの中では今までの経験した女性の誰よりも女の子だ。けれどそれがきっとトウコの本当の顔。それを知っているのはノボリだけで、他の誰にも知られたくない。トウコですら気付いていない色気を見せつけられたら、そう思わない男はいない。
「早く上がってこないと、冷めてしまいますね」
コーヒーをいれて、テーブルにつく。朝食の前に、もう一度やってしまえばよかったと思うばかりだった。
ーーーーーーーーーーー
ノボリ×主人公♀(トウコ)っていうカップリングがあることに私は非常に驚いています。
共通点ないじゃん
本編で接点ないじゃん
それであんなに人気大爆発なのがタブンネには解らないよ。
書け書けと言われて書いたもの
人間の魅力は一面から見ただけでは解らないし、素敵だと思う人間は必ずいるんです。
ちなみにこのトウコのキャラはみーさんの「掴みにいく者」の主人公が公式絵とぴったりだったので 好きにしていいですよっていうから その、あの、モデルにしました。
【好きにしていいですよ】
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