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一気に目が覚めた。激しい爆発音。震えるガラス。窓の向こうには、ちりちりと燃え始める牧場の草地と、その炎で見えるどでかいクレーター。
「何だ!?」
寝巻のまま階段を駆け下り、エレザードを呼ぶ。短槍を持ち、外に出た。
月明かりだけの夜。町では火が焚かれ始めていた。
何が居る、誰が居る? リザードン? そんな訳ないだろう。あいつが訳も無くこんな事をするとは思えない。
その時、眩い光が新たに視界に入った。
次第に縮んで行くその光は、更に輝きを増していく。その光の正体は、サザンドラだった。
「サザンドラ……?」
出て来た父と祖父も、唖然としていた。
何故? どうしてこんな時間に? 何をしに?
その全てが分からない。光が、飛んで来た。唖然としている俺達家族の、その隣に。
爆発して、耳がイカれそうになる。体が思わず吹き飛びそうだった。着弾した場所は、耳がイカれない、体が吹き飛ばない、けれど、絶妙に恐怖を感じる、そんな場所だった。
「おかしい……」
父が呟いた。俺も、祖父も、そう思った。
サザンドラは、狙ってこの場所に破壊光線を撃った。外した訳じゃない。
その時、空から人がやって来た。ピジョットに乗った鳥獣使いだ。
「リザードンじゃないな?」
「驚いてます……。でも、リザードン同様に、恨みを買わないようにしている節があります。
そうじゃなきゃ、俺達はもう、死んでいる」
隣のクレーターを見て、俺はそう言った。
「何か目的があるな」
「そう思います」
「リザードンもこの近くに来ていると想定して良いだろう」
「……まさか」
小屋、豚舎を狙っている? 頑丈に作ってあるとは言え、獣の強力な技に耐えられるようにまで耐えられるようには出来てない。壊されるとしたら、時間の問題だ。
……いや、だったら。どうして、あのサザンドラが豚舎を破壊しないんだ? あの破壊光線を一発当てれば、豚舎なんて弾け飛ぶ。
くそ、分からない。
鳥獣使いが口を挟んだ。
「問題は、俺は、獣をこいつしか持っていないって事だ。対象は一体、そう聞いていたから、俺が寄越されたし、この状況は俺も想定していない。
どうする? これは俺が決めるより、雇い主であるあんたらが決める事だろう」
父と祖父と、話し合った。父も祖父も、戦える獣を持っていない。祖父はもう、自分の相棒とも死に別れ、新たに組む事をしていない。父の相棒は、死にゆく間際だ。新たな相棒はまだ、作っていない。
そして俺のエレザードは、そう強くない。俺自身も。
それでも、俺達家族は、決めなければいけなかった。
「……サザンドラの対処を、お願いします」
サザンドラのしている事は、陽動、そして、豚舎へ行かせない事だろう。何をするにせよ、サザンドラを抑えなければ、俺は何も出来ない。
「分かった」
そう言って、ピジョットに乗って、鳥獣使いは空へ飛んで行った。宙で光に包まれ、その次の瞬間、ピジョットの姿が変化していた。
「あれがメガシンカ……」
一際大きくなり、体色の変化、トサカが変貌。羽ばたきによる強烈な風が、ここまで届いて来る。
サザンドラが再度、破壊光線を放った。それは、メガピジョットのすぐ脇をすり抜けて行った。脅しは、もう意味を為していなかった。
……驚いている暇はない。
俺も、行かなければ。
リザードンは一体、何をしようとしているんだ?
とにかく、それを知らなければ何も始まらない。
松明も持たずに、ひっそりと豚舎に近付いて行く。リザードンの尻尾の炎は見えない。
ただ、音は聞こえて来た。ドン、ドン、壁を強く叩く音だ。
牛舎狙いである事は間違いない。ただ、どうしてサザンドラの破壊光線で壊そうとしないのか、それが分からない。
……。
サザンドラとピジョットの方を見た。
三つの口から放たれる火炎放射を高速移動で躱し、そしてその翼から象られる暴風が、サザンドラを包み込んだ。
鳥獣使いが言っていた事を思い出す。
「メガシンカするとこいつは、一切の攻撃を躱せなくなり、そしてこちらの攻撃が全て当たるようになる。
とにかく、敵に一直線になっちまう訳だ。
それを、俺がサポートする。上に乗って、俺が敵の動きを読んで、こいつの体に直接指示する。そうすれば、こいつは敵の攻撃を躱し、そしてこちら側からは一方的に攻撃を当てられるようになる」
それが、単純に実行されていた。命懸けでなければ出来ない事を、淡々と。
聞いた時から違う生物だ、と何となく思った。あんな、専門家とは俺は全く違う。
顔を前に戻す。相変わらず、リザードンの尻尾の炎は見えない。そして、叩いている音は相変わらず聞こえる。
かなり強い音だ。中のポカブ達の悲鳴も聞こえる。
サザンドラは、リザードンの仲間だろう。だとしたら、リザードン以外にも仲間が居る? だとしても、おかしい。豚舎を破壊する事そのものは、一番の目的じゃない?
だったら、何だ。
訳が分からない。
豚舎にこっそり、こっそり近付いて行く。月明かりだけの中、段々と叩いている誰かの輪郭が見えて来た。
「……チャオブー?」
何故、ここに。
リザードンが、生かしていた? それ以外に余り考えられない。野生のポカブはここ辺りに居ないし、脱走した形跡も無い。
だとしても、チャオブーに助けさせる事に何の意味があるんだ。何もかも、分からない。
豚舎まで辿り着いた。壁に張り付き、槍を握り直す。ポカブ達の悲鳴が、耳を支配している。角の向こうで、チャオブーが、ポカブ達を助けようと壁を壊そうとしている。
手に、短槍に汗が滲んでいた。狩りをした事は、一応ある。一応だ。この手で、屠殺でなく、単純に獣を殺した事は、一応ある。その程度だ。
面と向かって戦闘なんてほぼした事ない。槍術も、一応身に付けている程度だ。
でも、こっちにはエレザードも居る。電撃が使える。それなら、問題はない。問題はない。
暴れたポカブとそんなに変わらない。四つ足じゃないから、動きも鈍いはずだ。大丈夫、大丈夫だ。チャオブーを止めるのには、何の問題も無い。
ぎゅっ、と短槍を握り直した時、後ろから唐突に押された。
「えっ?」
後ろには、いつの間にかリザードンが居た。片手にエレザードの首を握っていた。エレザードは気を失っていた。
ポカブ達の悲鳴のせいで、全く気付けなかった。
俺は、チャオブーの目の前に出された。
チャオブーは、俺を恨みの籠った目で見て来た。壁を叩く音は、失せた。
俺の腰位までしかないその高さで。格闘の気が入り、筋肉質になったその体で、俺に激しい憎悪を向けて来た。
リザードンの羽ばたきの音が聞こえて、屋根に座ったのが見えた。エレザードも掴んだまま。
チャオブーがリザードンを見る。何かしら会話らしきものをしたらしいが、どうやら、リザードンは手出しはしないようだった。
戦わせる事が目的だった? どうして、何故。
ただ、そんな事を考えている余裕はなかった。心臓が高鳴っている。
虚勢を張るように、俺は言った。
「殺してみろよ。助けたかったらな」
そんな事を言おうとも、緊張は収まらない。心臓は静まらない。でも、腹を括った。殺さなければいけない。俺の為に。俺達家族の為に。
そして俺は、悪役だ。紛れも無く、チャオブーから見たら、悪役だ。
利益の為に相棒にもなれる獣を、育てて殺して食べている。そんな事をしている以上、それで飯を食っている以上、こうなる可能性だってちゃんと分かっていたはずだ。
短槍を一回しし、腰を落として、構えた。
チャオブーが息を吸いこんだ。俺は、走った。
タグ: | 【マッシブーン】 |
むしゃくしゃして書いた。
にっかさんのこれ(http://fesix.sakura.ne.jp/contest/2017/alola/041.html)が好きなんです。
流血表現?があります。
昔々あるところにおじいさんとおばあさんがいました。
ある日おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
おばあさんが洗濯をしていると、川上からどんぶらこどんぶらことそれはそれは大きなモモンの実が流れて来るのが見えました。
それを見たおばあさんは突然ハッスルすると、その大きなモモンを川から拾い上げ、家に持ち帰ってしまいました。
さてその大きなモモンをぱっかーんと割ると中からなんと、
それはそれは立派な筋肉! マッスル!!
そう、マッシブーン(ミニ)が出てきました。
たしかに立派な筋肉! たくましい体! でしたが、いかんせん生まれたばかりですからまだまだ未熟な筋肉です。マッシブーンは、子どものいなかったおじいさんおばあさんに養育されることになりました。
マッシブーンは人間と違って全身が赤かったり(まさに赤子ですね!)、四本足であったり、背中に羽が生えていたり、鳥のようなとがった口を持っていたりしましたが、まあ些事です。立派な筋肉! の前にはすべては些事です。
マッシブーンはモモンから生まれたので、桃=マッシブーン太郎と名付けられました。
ムキッ! お祝いのフロントダブルバイセップス!(腕を肩の上でムキッ! として上腕二頭筋をアピールするポーズ)
桃=マッシブーン太郎はすくすくと成長し、赤光りする筋肉! 素晴らしく鍛え上げられた体!!! となりました。
桃=マッシブーン太郎はひたすら己を鍛え上げ、ムキムキのマッスル!! を手に入れましたが、そうすると今度はこの筋肉! マッスル! そして溢れるパッション!! を誰かにぶつけたいと思うようになりました。己の全力をぶつけそして互いを高め合う相手を見つけたいのですが、生憎桃=マッシブーン太郎の住む場所は山奥でありそんな相手が見つかるはずもありませんでした。
そんなある日、所用でおじいさんと人里に下りた桃=マッシブーン太郎は、あちこちで悪さをする「鬼」の話を耳にしました。
マッスル溢れる桃=マッシブーン太郎には難しいことはわかりませんが、その鬼とやらであればこの筋肉! マッスル! そして溢れるパッション! をぶつけてもいいだろうということは筋肉! マッスル! でわかりました。
ですので桃=マッシブーン太郎は鬼退治に行くことにしました。
おばあさんは桃=マッシブーン太郎のためにおにぎりを握って持たせてくれました。
おじいさんは桃=マッシブーン太郎のために立派な陣羽織や刀を用意してあげようかと思いましたが、赤光りする筋肉! 鍛え上げられた肉体美!! を見て、そのままがいいと思ったのでそれはやめました。
おじいさんとおばあさんに見送られ、意気揚々と桃=マッシブーン太郎は筋肉! マッスル! 出発しました。
信じるは筋肉!! そして鍛え上げたこの筋肉!! 恐れるものは何もありません。
ムキッ! やる気全開のモストマスキュラー!(体をやや前傾にし、下ろした腕をムキッ! とするポーズ)
しばらく歩いていると、向こうからそこそこ大きなもふもふで橙色の犬がやってきました。
桃=マッシブーン太郎はとても大きな筋肉! マッスル! なのでそこそこの大きさに見えましたが、普通の人間からしたらとても大きな犬です。というかぶっちゃけウインディです。
ウインディは突然現れた桃=マッシブーン太郎の異様さに恐怖し、思わず襲いかかってしまいました。
しかし、その瞬間。
筋肉!! 咆哮!! 轟音!!
ウインディのすぐそばの地面が抉れました。ウインディはあまりの恐怖に情けない声を上げ、尻尾を隠してガクガク震えました。
マッスル溢れる体を持つため難しいことはわからない桃=マッシブーン太郎ですが、生き物を粉砕し辺りが血の海になるとおじいさんおばあさんが悲しそうな顔をするので極力しないようにしていたのです。
ですからウインディは命拾いしました。
あまりの出来事にウインディは盛大に下から漏らしていましたが、桃=マッシブーン太郎はそれに構わず先へ進むことにしました。
ムキッ! 口ほどでもない(?)のサイドチェスト!(体をやや斜めから見せるようにし片手でもう片方の手首を軽く握りムキッ! とするポーズ)
さてまたしばらく歩いていると、今度は"よがぱわー"溢れる小さな猿が、桃=マッシブーン太郎の前方にいました。
桃=マッシブーン太郎はとても大きな筋肉! 鍛え上げられたとても大きな筋肉! なので、それと比較すると小さな猿でしたが、実際はやや小柄程度の猿です。というか、ぶっちゃけチャーレムです。
チャーレムは溢れる"よがぱわー"により、どう考えても桃=マッシブーン太郎には敵わないことがわかったので、気配を察知するや否や木の上に逃げ出し、がたがた震えて盛大に失禁していました。
そこにやってきた桃=マッシブーン太郎。
筋肉! マッスル! が何かいると彼に囁いていましたが、同時に些事であることも伝えてきたので、鍛え上げられた肉体美!!! を何かに見せつけるように、ムキッ! と、よくわからんがとりあえずバックダブルバイセップス!(体の後ろの筋肉! を見せるポーズ。腕は肩の上でムキッ!)のポージングだけしておきました。
どうにかチャーレムは命拾いしました。
そのときチャーレムはあまりの出来事に気を失っていましたが、桃=マッシブーン太郎はそれに気づくこともなくそのまま先へ進みました。
さてまたしばらく歩いていると、今度は赤く流れるような冠羽が特徴的ないかにも勇ましい鳥が現れました。ぶっちゃけオスのケンホロウです。
ケンホロウは、桃=マッシブーン太郎のことを遠くから見つけ、タイプ相性よしと見なすや否や、桃=マッシブーン太郎を打ち倒すべく力を溜めて攻撃態勢を取っていました。あんなに恐ろしい存在は生かしておいてはいけないと思ったのです。
そんなケンホロウが待ち受けているところへ桃=マッシブーン太郎はやってきました。
今だ! とばかりにケンホロウは桃=マッシブーン太郎へ突っ込みました。渾身のゴッドバードです。
しかし、その瞬間。
筋肉!! 咆哮!! 轟音!!
哀れケンホロウは木っ端みじんになり、周囲を赤く染め上げました。
たしかに桃=マッシブーン太郎はおじいさんおばあさんが悲しそうな顔をするので、むやみに生き物を粉砕することはほとんどありませんでしたが、これは正当防衛なので何の問題もありません。
真正面から血を浴びたため、血も滴る素晴らしく鍛え上げられた筋肉!!! でしたが、血は乾くとカピカピになるので、桃=マッシブーン太郎は血を洗い流すべく川を探しました。
体を洗った川を赤く染め上げたので、周囲のポケモンたちは桃=マッシブーン太郎の存在に震え上がりましたが、まあ些事です。
ムキッ! 体を洗ってすっきりのアブドミナル・アンド・サイ!(腕を頭の上で組んでムキッ! とするポーズ)
さてまたしばらく歩いていると、海が見えてきました。海を見やると、おぼろげに島が見えました。
そう、鬼が住むという鬼ヶ島です。
ようやく見えた鬼ヶ島に、桃=マッシブーン太郎の溢れるパッション!!! は通常の三倍ほどにもなり、その勢いで桃=マッシブーン太郎は海へと飛び込みました。とうとう好敵手に会えるというものですから、まあ仕方のないことです。
桃=マッシブーン太郎が泳ぐのは初めてでしたが、そこは筋肉! マッスル! が泳ぎ方を囁いてくれるので何の問題もありません。それはもう見事なバタフライ泳法で水をかき分け鬼ヶ島へ突き進んでいきました。
さて鬼ヶ島側から見ると、得体の知れない何かが猛烈な勢いで水しぶきを上げて迫ってくるものですから、鬼たちは大慌てです。
桃=マッシブーン太郎が鬼ヶ島へ上陸すると、わらわらと小さな鬼が桃=マッシブーン太郎を取り囲みました。ちまたでは腕利鬼(わんりき)と呼ばれるその鬼ですが、まあぶっちゃけワンリキーです。
ワンリキーは小さな体ですが、大人の人間を百人投げ飛ばすほどの力を秘めている鬼です。しかしながら、桃=マッシブーン太郎の前では赤子同然です。いくら取り囲もうとも腕の一振りであっという間に追い払われてしまいました。
そうこうしているうちに、今度は剛利鬼(ごうりき)――まあぶっちゃけゴーリキーです――がやってきました。ワンリキーよりも骨はありますが、桃=マッシブーン太郎としてはまったくもってもの足りません。筋肉! マッスル! で、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ、我が筋肉に勝るものなし!! とばかりに桃=マッシブーン太郎は突き進んでいきます。
やがてワンリキーもゴーリキーも現れなくなり、筋肉! マッスル! で難しいことはわからない桃=マッシブーン太郎も、さすがにおや? と思いました。
しかし、桃=マッシブーン太郎の鍛え上げられた筋肉!!! はこの先に強敵がいると囁いています。桃=マッシブーン太郎は臆することなく突き進みました。
そうしてしばらくすると怪利鬼(かいりき)と呼ばれる鬼――まあぶっちゃけカイリキーです――が桃=マッシブーン太郎の前に姿を現しました。しかも、四人もいます。今までの鬼たちよりも強敵の気配がします。
「やい、あやしい赤筋肉達磨め! 我ら鬼ヶ島四天王が成敗してくれる!」
四天王と名乗るからにはきっと強いのでしょう。
四天王たちは各々、フロントダブルバイセップス、サイドチェスト、バックダブルバイセップス、アブドミナル・アンド・サイといったマッスルポーズをとりました。桃=マッシブーン太郎も負けじと、ムキッ! とフロントラットスプレッドのポーズをとりました。(腕を軽く下ろしつつムキッ! とするポーズ)
「まずは東を司る私が相手だ」
一人のカイリキーが前へと出てきました。
桃=マッシブーン太郎はそのカイリキーと組み合うと、筋肉! マッスル! に軽く力を入れ、ぽいっとカイリキーを投げ飛ばしました。
ご大層なことを言う割にたいしたことはありません。これには桃=マッシブーン太郎もがっかりです。
「ひ、東のおおおおおおおお!!!!!!!!」
「ククク……所詮、彼奴は我ら四天王の中でも最弱……」
「お空、きれい」
どうにも言っていることはバラバラですが、まあ構いません。まとめて投げ飛ばせばいいだけですから。筋肉! マッスル! で難しいことはわからない桃=マッシブーン太郎にだって、そのくらいはわかります。
そういうわけで桃=マッシブーン太郎は前へと一歩踏み出しました。
四天王(笑)たちは、ひっ、と小さく悲鳴を上げて後ずさりました。
しかしそのとき、四天王の一人が首をぶんぶんと横に振り叫ぶように言いました。
「ええい、恐れる必要はない! 西の! 北の! 同時にやるぞ! 複数で行けばやつも対処できまい」
複数で襲いかかる時点で怖がっている証のような気もしますが、まとめ役らしい南の四天王が声をかけると、他の二人も我に返り、たちまち桃=マッシブーン太郎へ襲いかかります。
しかし、その瞬間。
筋肉!! 咆哮!! 轟音!!
桃=マッシブーン太郎は飛びかかってくるカイリキーたちを鍛え上げた素晴らしい筋肉! で投げ飛ばしました。さすが四天王を名乗るだけのことはあり、気絶こそしていましたが、どうやら大きな怪我を負うようなことはありませんでした。
さてそのときです。筋肉! マッスル! たくましい体! が強敵の気配を察知しました。
桃=マッシブーン太郎はそれに歓喜し、見る者もいないのにムキッ! ムキッ! とフロントダブルバイセップスのポーズをとりました。(腕を肩の上でムキッ! として上腕二頭筋をアピールするポーズ)
さあ、いよいよです。胸を高鳴らせ、桃=マッシブーン太郎は進みました。
果たしてそこには、先ほどいた四天王のカイリキーたちよりも一回りも二回りも大きなカイリキーがいました。桃=マッシブーン太郎に負けず劣らずの筋肉! マッスル! 鍛え上げられた筋肉!
もはや言葉などは不要。すべては筋肉! マッスル! で語り合うのみ。
桃=マッシブーン太郎は二本の腕、カイリキーは四本の腕。桃=マッシブーン太郎は不利でしょうか? いいえそんなことはありません。
真正面からがっぷり組み合うと、両者一歩もそこから動きません。
そう、鍛え上げられた筋肉! 上腕二頭筋! 前腕筋! 三角筋! 僧帽筋! 広背筋! 腹筋! 大臀筋! ありとあらゆる筋肉! がうなりを上げます。
彼らに迷いはなく、信じるは筋肉!! そして鍛え上げたこの筋肉!! 筋肉!! 筋肉!! そして筋肉!!
やがて均衡は崩れました。
筋肉!! 咆哮!! 轟音!!
土煙が消えたとき、そこに立っていたのは、桃=マッシブーン太郎でした。
我が筋肉に勝るものなし!! とばかりに桃=マッシブーン太郎は勝鬨(かちどき)を上げます。
フロントダブルバイセップス! サイドチェスト! バックダブルバイセップス! アブドミナル・アンド・サイ! そして渾身のモストマスキュラー!
「さあ、首を持って行け」
鬼たちの頭(かしら)であるカイリキーは地面に倒れ伏しながらそう言いました。しかし。
「何を言っている、我が好敵手(とも)よ!」
キェェェェェアァァァァァァァ!! シャ、シャベッタァァァァァァァァァァ!!!(ry
なんと桃=マッシブーン太郎が口を開きました。
「これから我らはここで筋肉! の楽園を作るのだ。そしてこの筋肉! マッスル! をともに鍛え上げるのだ!」
マッスル! ムキッ! と赤光りする筋肉! をアピールしつつ桃=マッシブーン太郎は言いました。
たしかに頭のカイリキーは桃=マッシブーン太郎に負けましたが、ここまで桃=マッシブーン太郎と渡り合える存在はそうはいません。桃=マッシブーン太郎はとても嬉しかったのです。楽しかったのです。
「好敵手(とも)よ、さあ立て」
桃=マッシブーン太郎は頭のカイリキーに手を差し出しました。頭のカイリキーはしばし見つめると、その手を取りました。
エンダアアアアアアアアアア(※違います
さてその後。桃=マッシブーン太郎は鬼たちがこれまで人々から奪ったものをすべて返却させました。筋肉! を鍛えるのに邪魔になるからです。
足りない分は体で返させました。つまり力仕事で。桃=マッシブーン太郎も素晴らしい筋肉! で手伝いました。
それらの作業がすべて終わると、あとはそう、トレーニングです。筋肉! という筋肉! を鍛えに鍛え上げるのです。
マッスル! ムキッ! マッスル! ムキッ! マッスル! ムキッ!
桃=マッシブーン太郎は鬼たちとともに筋肉! マッスル! を鍛え上げ、さらなるたくましい体! を作り上げ、ときには鬼たちと力比べをし、溢れるパッション! を発散し、幸せに暮らしました。
それはそれとして世界はダムの底に沈みました。
しかしまあ、筋肉ではどうしようもありません。
めでたしめでたし。
――
(たぶん)夏コミ前に途中まで書いて放置していたのを、むしゃくしゃしたので続きを書きました。
もう本当にね、にっかさんのあれが好きで。
三次創作?
でも、あれはやはりあの短さだからこそいいんだなとしみじみ思いました。
あと語彙力のなさがつらい。
正直これを読むと、これ書いたやつは馬鹿なんじゃないか?と思うけど、書いたのはわたしなのでつまり、ええ。
鬼の名称は鳩さんが青の器(http://masapoke.sakura.ne.jp/stocon/novel36.html)で使ってたりするのをお借りしました。
マッスルポーズ?はこちらのサイトを参考にしました。
https://kintorecamp.com/bodybuilding-poses/
これを書いてる間は楽しかったです。
それダムはいいぞ。
遅くなりましたが!!
本当に!!!!
本当に!!!!!!
ありがとうございます!!!!!!!
なんか上手いこと言って気の利いた言葉の一つや二つ721つでもあればいいんですけど出てきません……!
すごい嬉しい!!相当に好きです!!こんなのもらったら恋に落ちる音を半径85センチに渡って響かせるしかないんですよねマジ……
ポケモンのチョイスもなんぞ色々嬉しいですw
いや〜一行書くごとにスクロールして見直してるんですけどその度になんかヌルヌルしますね間違えたドキドキしますね……
もしかして、これが、恋……?(キュン……)
ポスティングいただきましたよこの胸に!!!!
本当嬉しいですありがとうございます!!!!最高です!!
お返事、書かないとですね……!
おいちょっとまて!?
今気づいたぞこれ、力作過ぎるぞ!?
ピジョンもあるぞうおおおおおおお。
(トップソートが機能していなかったのだろうか…みんなが気づいて無い疑惑…というわけで上げ)
タグ: | 【メタモン】 |
好奇心だった。
彼は後悔していなかった。それ程の恍惚感を得ることができたのだから。
青年はどこにでもいる一般的なポケモントレーナーである。
ポケモンマスターを夢見て旅立ち、様々な地方へと赴き、ジムリーダーに勝利して八つのジムバッジをゲットして、堂々とポケモンリーグに挑戦した。結果は満足いくものではなかったが、彼はそれで満足した。自分にはそれ以上の才能がないと自覚してしまったし、もしもリーグで負けてしまったら、夢を潔く諦めて実家に帰ろうと決意していたからだ。彼は旅の途中で、ポケモンマスターになりたいという情熱が冷めてしまっていた。だからこその決断だった。
青年の実家では農業を営んでいる。主にポケモン用の木の実を栽培し出荷する仕事だった。加えて彼は独り息子であり、跡継ぎが戻ってきたと、彼の両親は歓喜した。彼もそんな現実を受け止め、自分の生きる道を固めることにした。
昔から手伝ってきた木の実の栽培。それは彼の体にきちんと染みついていたので、仕事をする分には問題なかった。加えて実家に住むポケモンも仕事を手伝ってくれる。 ポケモンと一緒に種を植え、ポケモンと一緒に木に水をやり、ポケモンと一緒に木の実を収穫する。そんな平凡で、けれどどこか安定している毎日に慣れてしまうことに青年は抵抗しなかった。寧ろ、それがトレーナーとして旅立つ前の、彼の幼少時代の日常であったからだ。
農家には人手は必須である。
だからこそ、人間よりも力のあるポケモンの人手というのは重要である。
力自慢のゴーリキー、荷物を運ぶのが得意な人懐っこいメェークル、そしてここには、へんしんポケモンのメタモンも住んでいる。
メタモンである彼はこの農家では非常に重宝されている。何しろ、何にでも変身できるからだ。鳥ポケモンになって荷物を届けることもできるし、海に住むポケモンになってなみのりをすることもできる。そして、当然人間にも化けることができる。人でしかできない細かい作業もメタモンが変身すれば解決する。加えて青年の家に住むメタモンは寡黙であり、よっぽどのことがない限り我が儘を言うことはない。真面目な働き者だった。加えて他人への気遣いもできる。
そんなメタモンを両親は好いていたし、青年も好印象を抱いていた。実際、青年が梯子から落ちそうになって大怪我をしそうになった時に受け止めてくれたのはメタモンであるし、青年が風邪をひいた時に特に熱心に看病してくれたのもメタモンだった。
彼にとって、メタモンは頼りになる自分の兄のような存在でもあり、または時には母親のような温もりをくれることもある存在でもあった。
少々口煩いが働き者の両親、その両親に似た人の良いポケモン達に囲まれて、青年は違う人生を楽しんでいた。
人里から離れた青年の家の農家は、それはもう莫大な土地を所有している。彼の家の農業は何世代も前から営まれており規模も大きい。しかし、その土地で育った木の実は味が良く買い手からは重宝されている。まさに、その土地の恵みと、青年の家の技術があってこその味を保っている。
故に青年は旅に出ている時よりも裕福な生活を送れている。旅に出ている時は食糧も質素なものになることが多かったし、時には地面で眠り雨風に打たれ体を洗えない日が続くこともあった。しかし今は、栄養価のある食事を食べ、農作業という肉体労働に勤しみ、夜は早く就寝して朝は日が昇る前に起床する。
そんな生活から一変した毎日で、青年は心身共に健康になった。体つきも良くなり目の舌のくまが消え、滅多なことで病気をしなくなった。
しかし、そんな青年にも少々の不満はあった。
五体満足で病気知らずな体を手に入れた彼は、日々性欲に悩まされることになった。
ポケモントレーナーを志していた彼には恋人と呼べるものはおらず、沢山の土地があっても人口の少ない過疎地である。彼に見合う若い女は都心部の刺激を求めて上京したものばかりで、持ち込まれる縁談は青年を満足させるものがない。と言って毎日独りで鎮めてはいるものの、健全な体を手に入れて以前よりも強い性機能を所持している彼がそんなもので満たされることはない。それに、青年は今段々と農家を管理する立場になりつつあり、時間をかけて都心部へと赴き、鎮めることもできないでいた。
若い彼は、それでも自分が本来歩むべきだった人生を謳歌している。
しかし青年は、どこか満たされない感情を抱えたまま月日を重ねている。
思えば、ここまでして肉欲に悩まされたことはこれまでなかったと、青年は自分の人生を振り返る。彼はポケモンマスターという存在に憧れてがむしゃらに走り続けていたから、そもそもそんな暇を持て余すことはなかった。彼にとってポケモンマスターとは、テレビ番組のヒーローそのものだった。あの頃の青年は、それしか見えていなかった。
だからこそ、彼は自らの変化に驚いている。
今ならば、若い女の尻を厭らしい目で追いかける中年男性の気持ちも分からなくはないと彼は思う。
その日も、青年はいつも通りの日課をこなしていた。今日は育ちかけの木の実の中から質の悪いものを選び枝から切り捨てる作業をこなす。そうすることで、残った良質な木の実に栄養が集中して、その木の実独特の味が濃縮されるのである。
前日の晩は蒸し暑い夜だった。風の吹かない部屋で寝た青年の眠りは浅く、肌を焼く、恵みを通り越した敵意ある日差しに充てられて青年の疲労が表に出てきてしまった。
青年の近くでは、メタモンが青年と同じ姿になり、彼と同じ作業を手伝っている。
熱さと水分不足でやられた彼は、ふと気づいた。メタモンは、何にでもなれることを。
思考が鈍った彼は、長年連れ添った家族ならば多少の無茶は聞いてくれるだろうと、変なことを考えた。
「メタモン、お願いがあるんだ」
青年に呼びかけられたメタモンは作業を中断して何かあったのかという顔をする。単純に青年の意図が読めないメタモンは、青年に近くの倉庫に連れ込まれても何も疑問に思わない。
青年は、非常に礼儀正しい礼をする。
「頼むメタモン。僕を慰めてくれないか?」
メタモンは説明を受ける。人間の女性の姿になってくれ、そして発散させてくれと。
青年は恥な行為をすることは分かっていた。しかし、彼の理性は、とっくに抑えつけておける限度をあっさりと超えていた。
彼は何度も謝罪しながら懇願する。君にしか頼めない。一度だけだからと、自分の正当性を主張するように呟き続ける。
古い倉庫だった。家族も用事がなければ入りもしない農具やら雑貨が置かれている狭い倉庫の中で、一人の青年と一匹のポケモンが向かい合っている。
長く沈黙が続いた後、メタモンが青年の肩を叩く。
青年は、目の前に顔立ちの整った美しい女性を見た。それは、最近メディアで露出を繰り返している新人のアイドルの姿であり彼は混乱するが、それが直ぐにメタモンであることに気が付いた。
「ありがとう」
メタモンは、人間の美女の姿で微笑んだ。その表情は青年を肯定している。
青年は、狭く隔離された空間の中で、天にも昇るような優越感と恍惚感を味わった。
その日から青年に活力が戻った。
毎朝日が昇る前に起きるようにもなったし、昼間作業をしている時に呆けることもなくなった。辛い肉体労働を自ら進んでやるようにもなったし、何よりもその表情には常に日の光が差しているように感じられた。誰と会話しても明るく振る舞い、以前よりも周囲の評判が良くなっていった。
彼の両親は何かあったのかと青年に聞いた。しかし、特に何もないよと言うだけだった。
恋人ができたのだろう。
彼の両親はそのように解釈した。その相手はどんな人物なのか、一体どこの娘なのか等詳しい話を問いただしたい気持ちに駆られたが、漸く息子に春が来たのだからと堪えることにした。自分達の行動のせいで息子達の仲に亀裂が入れば、それこそ彼の結婚する時期が遅れてしまうからだ。
青年の生活はいつも通りに過ぎていく。朝から夜まで畑仕事をして、夜は趣味に勤しむ毎日。その日々にほんの少しの、特別な時間が加えられた。
結局、彼とメタモンは毎日営むようになった。
メタモンは、青年の望むままの姿に変化をして青年を最高の状態へと導く。彼は欲望のままにメタモンを様々な姿へと変えた。彼は、長年のファンだったジムリーダー、コンテストのアイドル、道中出会ったおとなのおねえさん、一時的に共に旅をした同じ年のトレーナー等、思いつく限りの相手をメタモンに伝え、写真を見せて変身させた。それは、青年の気持ちを大いに満足させる結果になった。彼の家族であるメタモンは実に上手くそれらの女性に化けた。顔の形、髪の質、肌のきめ細やかさ、体毛、体臭、仕草、人間に必要な特徴をメタモンはほぼ完璧に真似することができた。
青年は、自分の立場をよく理解していた。
だから、メタモンが化けた相手は、彼にとっては本物意外の何物でもなかった。
欲の調整は、青年の生活に花を添える結果になったのだった。
そのうちに、メタモンの方から青年を求めるようになっていった。
彼はそれを喜んだ。今まで一方的だった行為は、互いを充実させる時間になったことは彼らにとっては幸福だった。
秘密の時間は随分と継続された。
ある日、いつもの倉庫へ行くとポケモンのタマゴがあることに気が付いた。
このような事態に慣れていた青年は、またかと思った。
どこからともなく運ばれてくるという、不思議なポケモンのタマゴ。自然豊かな地域でその辺に捨てられるように置かれていることは珍しいことではない。野生のポケモンが放置することもないこともないだろうが、大抵は人間の行いである。特に、ポケモントレーナーにとってはポケモンのタマゴは珍しいものではないので、不必要ならば新しい命を置いてきぼりにする者もいる。
青年は、元トレーナーとしての知識があった故に、過剰に怒れてしまった。
どうせ、手持ちがいっぱいだから要らぬと、旅のトレーナーが置いて行ったのだろう。そうに決まっている。
タマゴの裏から生き物が飛び出してくる。
それは、彼がよく知る家族だった。
「メタモン?」
どうしてそこにいるのだろう。そして、どうしてそんなに大切そうにタマゴに絡みついているのだろう。
青年が近づいてみると、まるで彼の存在を待っていたかのように、タマゴに亀裂が入った。
「お前が拾ってきたのか?」
メタモンは、無表情のまま首を振る。
殻のヒビは広がっていく。
青年は厭な予想を立てたが、直ぐにその妄想を止めることにする。
そんな馬鹿な筈はないと思いながらも、出てくるポケモンを注視してしまう。
一瞬、倉庫の中が眩い光に照らされる。
青年が見たのは、薄紫色の軟体状の生き物。
「メタモンが産まれた?」
青年は驚愕するもの無理はないことだった。メタモンは、どのポケモンともタマゴを設けることができると認知されてはいるが、メタモン自体がタマゴから産まれた前例は報告されていない。
もしかして、自分は今歴史に残る瞬間に立ち会っているのかもしれないと青年は考えた。もし彼が研究者だったならば、迷わず産まれたてのメタモンを研究し、正式な学会へと発表していたかもしれない。
しかし青年はあくまでも元ポケモントレーナーであって、一般的な木の実農業を営む人間だった。だからこそ、彼の頭の中には焦燥感しかなかった。
小さなメタモンを、メタモンが守っている。
まるで、家族のように寄り添っている。
青年の家族であるメタモンは優しいポケモンである。だからこそ、親の知らぬ新しい命をまるで自分の子供のように可愛がるのは至極当然の行動だった。
青年は頭を振り、自分の想像をかき消した。
当然、青年はこのことを誰にも伝える気はなかった。彼は上手く説明できる気がしなかったし、下手なことを口走れば大騒ぎになるのは確実だからだ。
「良いかい? このことは、皆には内緒にしておいてくれ」
青年の家族のメタモンは、何事もないように頷いた。同時に、このことをきっかけに、青年とメタモンの営みは自然と終了した。
彼は、この狭い倉庫の中で小さなメタモンを飼うことにした。毎日、仕事の手間が空いた時には必ず倉庫へと足を運ぶ。彼が行くと小さなメタモンはとても喜んだ。小さなメタモンにとって、青年は大切な寄り処だからだ。
「良いかい? この倉庫から出てはいけないよ」
小さなメタモンは、青年のそんな言葉に素直に従った。
小さなメタモンにとって青年の存在が見本であり、生活の全てだった。だからこそ、従わない訳がなかった。
その代わりにと、青年は、小さなメタモンを、まるで自分の子供のように可愛がった。埃の被っていた絵本をひっぱり出してきて読み聞かせたり、携帯式の端末で人間が作り出したテレビ番組を見せたりした。なるべく美味しい食べ物を食べさせたし、時々親の目を盗んで家へ連れ込み、一緒に寝たりもした。
彼は、予期せぬ生まれてきたポケモンの存在を上手く隠し続けた。
ある日から、小さなメタモンは青年の姿に変身するようになった。
「本当にそっくりだな」
青年は、自分と瓜二つの姿のポケモンを褒めると、小さなメタモンは喜んだ。自分自身を愛でるのは何だか奇妙だと感じたが、可愛がっているポケモンがはしゃぐ姿を見てそんな些細なことは気にしないことにした。
一つ不思議なことがあった。小さなメタモンに他のポケモンに変身するように言ってみたが、小さなメタモンは変身をしようとはしなかった。試しに野生のポケモンを捕まえ、実物を小さなメタモンに見せてみたが、小さなメタモンは小さく首を振るばかりだった。しかし、どんな生き物でも、ハンデを負って産まれてくるものはいることを青年は理解していたので、あまり深く気にしないようにした。
傍から見れば奇妙な親子関係は、誰にも公にされることもなく数ヶ月間もの間続いた。
ある日、青年は寝坊をした。
気付いた時には、もう太陽は一番高いところにいた。
彼は驚いて飛び起き、慌てて着替え始める。よりによって今日は木の実を市場へと下ろす日で、沢山の木の実を運ばないといけない日だった。一人でも人手が欲しい日に失態した青年は自分を責めた。年老いた両親とポケモン達に仕事を押し付けてのんきに寝ていたことになる。昨日彼は小さなメタモンを今後どうしていくのかについて随分と悩み、寝るのが遅くなってしまったのだった。
彼が慌ててリビングへ行くと、そこにはくつろぐ両親の姿があった。
「ごめん。今日は市場に行く日なのに寝坊しちゃって」
年齢を重ねた両親は、その言葉に首を傾げる。
「何を言っているの。あなた一番に起きて荷物を車に乗せてくれたじゃないの」
青年は、あまりにも意外な答えに、目を見開くことしかできなかった。しかし、それは青年の両親も同じことだった。
「さっきまでご好意で頂いたお隣の農家で頂いたモモンの木の実を調理して皆で食べたばかりじゃないか。それを食べたらもう少し寝るっていって部屋に戻ったばかりだろう?」
ぽかんと呆ける息子に、両親は疑うことなく笑いかけた。
「全く、寝ぼけているな。後の作業はやっておくからきちんと休みなさい」
「そうよ、無理はしないで。今夜はご馳走を作るから、たまには好きなことでもすると良いわ」
笑いながら息子を見つめる両親は、あくまでも青年の体を労わっている。
青年は混乱しながらも、自分の部屋へと戻る。当然動揺を隠し切れず、部屋の中でむやみに歩いても、自らの頭を叩いても、じっくり考えても、やはり朝日が昇る前に起きて、いつもの市場へと赴いた記憶がない。
もしや、僕は二重人格なのだろうか。
青年は考える。もちろん今までそういうことはなかったが、この歳になって内に眠っているもう一人の自分が目を覚まして体を乗っ取った。
彼は笑う。あり得ない話ではないかもしれないが馬鹿らしいとも思った。
とにかく、今日は言われた通りゆっくりと休もう。青年はそう決意する。いつも畑仕事ばかりしているからか、自由な時間は有難かった。
彼は自室を後にして、いつもの小屋へと向かう。
そこで、青年はそれこそ有り得ない予測をした。
急いで小屋へ赴き、古い建物へと入ると、小さなメタモンが飛びついてくる。まるで、褒めて欲しいと懇願するようにすり寄ってくる。
「今日、どこかへ行かなかった?」
その一言で、青年の腕の中にいるメタモンは硬直し、そして悲しい顔を親代わりの青年へと向けてきた。
彼はまさかと思ったが、これで予想していたことが真実になった。
つまり、この小さなメタモンは小屋を抜け出して、青年の代わりに青年になりきった。青年として市場へと赴き、青年として力仕事をこなしてきた。
青年は無言でメタモンを持ち上げる。メタモンは、親代わりである青年の表情を読み取り、自分がしたことが間違いであり叱られると思い強く目を閉じた。
「ありがとう」
青年は素直にそう答え、胸に抱くポケモンを撫でて愛情を伝える。
「僕の為にしてくれたことだものね。ありがとう」
小さなメタモンは、叱られると構えていたのだが、意外な優しさに驚き、青年にその小さな体を預ける。そして、小さなポケモンはその柔らかい頬を擦り寄せた。今したことは良いことなのだと、私は褒められることをしたのだと。
一方、青年は、目の前の新しい家族を今後どうするのか。それだけを考えていた。
その日から、小さなメタモンは時々青年を演じるようになった。
というのも、その新しい命を狭い倉庫に閉じ込めておくのがそろそろ難しくなってきたからだ。確かに、倉庫にはあまり人気はないが、青年以外の家族が時々出入りすることもある。青年は小さなメタモンに「ここにいる時は僕以外の生き物と会ってはいけない」と言い聞かせていたので家族が小さな生き物の存在に気づくことはないが、ある日、不審がった両親が倉庫に迷いポケモンがいるのではと、小さな建物の中の捜索を始めたことがある。幸いにも小さなメタモンは上手く隠れ、その存在を知られることはなかったが、流石にいよいよ隠し通すのは限界かと考え、青年は時々そのメタモンを外に出すことにした。
青年は、それでも小さなメタモンを家族に紹介することはなかった。彼の中で、自分なりの答えが出ているからだ。
小さなメタモンは、青年を演じることは上手かった。というのも、小さなメタモンにとって青年の存在は全てであり、見本であるからだ。確かに最初は家族に違和感を与えることはあったが、それも月日を追うごとに少なくなっていく。
小さなメタモンは、やはり青年以外の生き物に変身することができなかった。
だからこそ、外に出る時は青年である必要があった。
しかし、この世に青年が二人いる訳にはいかない。
青年は、わざと小さなメタモンに農作業を任せるようになった。日付が経ち、すっかり第二の青年になりきった小さなメタモンは、それらの雑務を難なくこなせるようになっていく。
青年は、時間を持て余すことになる。
そうなると、家にいる訳にはいかない彼は、家族が肩代わりしてくれている時間を利用して街へ出かけるようになった。様々なところを旅して歩いた青年は、人とポケモンが集まる都心部に、今現在の自分求めている物事が集中していることを知っている。様々な娯楽に酔い、性を発散していく。幼いトレーナーだった頃には行けなかった場所から場所へと足を運び、今までため込んできた鬱憤を晴らしていく。もちろん、青年は小さなメタモンへのお土産も忘れなかった。ポケモンの口に合うよう調整された菓子を毎回持参した。青年は夜遅くに自宅へ到着すると倉庫へ直行し、疲れを溜めた小さなメタモンにお礼を言い、その手土産を渡す。小さなメタモンは、これまで味わったことがない味に酔いしれ、青年に更に懐くようになった。
青年は、自分の代わりをしてくれているメタモンを楽しませようと、遊びに向かった場所のことを語るようになる。流石に濁すような内容も混ざってはいたが、あそこにはお洒落な喫茶店もあることや、お金をかけることができるゲームコーナーがあること、また旅をしていた頃に訪れた様々な街のことや、これまで赴いた観光名所のことも話すようになった。
小さなメタモンは、輝かしい表情をする青年を凝視し、自らの親が語る話を聞き続けた。
青年は、外泊することが多くなった。
確かに彼はポケモントレーナーの道を諦めていた。しかし、代わり映えのない毎日にうんざりしていた。何故なら、彼はトレーナーとして様々な場所を巡り、自分の今の生活が全てではないと知ってしまったからだ。木の実を育てる生活は、まだまだ活発な青年には単調で退屈過ぎた。
しかし、逃げることはできないでいた。再びトレーナーとしての道を歩むことも考えたが、両親は歳を重ねているのでいつ倒れるかは分からないし、残された家族であるポケモン達も青年に行かないで欲しいと願っているのはひしひしと伝わってきているからだ。
彼は期待されていた。だからこそ、彼は逃げるつもりはなかった。
だが、青年は一時的にでも逃げられる状況を作り出してしまった。
彼は、これまで使うことのなかった収入を遠慮することなく発散した。高級な料理を沢山堪能し、欲しいと思ったものはその場で全て購入し、生地の良い服に身を包んで様々な店を歩き回り、夜は飲み屋で無駄に女にお酒を振る舞った。少年時代の、貧乏なトレーナーだった頃にはできなかった楽しみを存分に享受し味わった。
そして、そんな生活は予想以上に上手くいった。小さなメタモンは、もう一人の青年としての振る舞いを完全に把握して、あくまでも一人の人間として、青年として人生を送るようになった。そんな間も、青年はこれまでの見えない重圧を忘れ、鬱憤を晴らすことに勤しみ続けた。
そんな生活は随分長く続いた。
何日も家を空けたある日の夜、彼はいつものように真っ先に狭い倉庫へと赴いた。しかし、そこには小さなメタモンはいなかった。
どうしていないのだろうと考えたが、それも当然のことだった。少し長く家を空けることきちんと話していたのだから、青年として振る舞っているのだから自分の部屋で寝ているのだろう。
家の中で青年が二人になってはいけないから、彼はその小さな倉庫の中で彼の帰りを待つことにした。隙間から風が入ってくるし空気が重いし、数日ぶりに来た倉庫は思ったよりも狭く感じて待つのは辛いと感じたが、遊び疲れた青年はそんな環境の中でもあっさりと眠りに落ちることができた。
夜が明けても、小さなメタモンが倉庫に顔を出すことはなかった。
青年は不安になってくる。帰ってくる日付はきちんと伝えていた。だから自分がここにいることは相手が知っている筈だった。それなのに来ないということは、もしかして帰ってくる日を間違えて把握されてしまっているのだろうか。もしそうなると、いつまでもこの居心地の悪い場所にいても時間が勿体ない。家に赴くべきだろうか。しかし、不用意に外に出ると自分が二人いることになってしまう。それは避けなければならない。
青年は悩みながらも、なかなか外に出られないでいた。
やることがない彼は、窮屈な空間で眠りにつき、気が付けば再び夜を迎えていた。
いい加減自分の部屋に帰ろう。青年はそう決意する。もう随分夜も更けているし、こっそりと入れ替われば悟られない筈だ。
倉庫へ出ようとする青年。すると急に、扉が勝手に開いていく。
そこにはメタモンがいた。しかし、それがあのタマゴから生まれた小さなメタモンではなくて、青年の相手を勤めたメタモンだった。
目的のポケモンではなかったが、青年は妙に安心していた。これでやっと家に帰れる。
「丁度良かったよ。メタモン、あの子を呼んできてくれないか?」
青年のメタモンは無表情のまま頷いた。しかし、呼ばれる前に目的の人物は青年のメタモンの後ろに立っていた。
小さなメタモンは変身を解かず、青年の姿のままだった。
「二人ともただいま。今日のお土産だけど、有名なヨウカンなんだ。これはとっても美味しいんだよ。二人の口に合うと良いな」
青年は、小屋の中で寝たことによる疲労の色を浮かべながらポケモン達に笑顔を向ける。
二人のメタモンは、表情を作ることなく青年に視線を当て続ける。
青年は、家族の雰囲気がいつもと違うことを漸く察し、首を傾げる。
「どうかしたのかい? 僕の留守中に何かあったの?」
二匹のメタモンはそれでも答えない。
青年は居心地悪くなってくる。こんな彼らを見るのは始めてのことだったし、何よりも自分と瓜二つの生き物に凝視されている感覚はやはり奇妙でムズムズする。側に仁王立ちする青年の姿のメタモンは、鏡の中の自分のように幻想ではなくて、あくまでも実在する一人の生き物として青年を見下ろしている。
沈黙は破られない。
「一体どうしたんだい? 僕が留守にしている間、家族に何かがあったのかい?」
漸く、小さなメタモンの方が、青年の姿のまま首を振る。
「もしや、君の正体が明らかにされてしまったのかい?」
否定。
「―お土産が、気に入らなかったのかい?」
それでも二匹は黙っている。
全ての予想を出し尽くした青年は、最早彼らの意図を掴めず、ただ訝しげな表情のまま流れに身を任せていることしかできない。彼にとって長い時間が続く。夜という静けさが支配する時間帯が、青年の体感時間をより長いものにする。
この曖昧な状況がいつまで続くのだろう。そんなことを考えているうちに、とうとう沈黙は破られた。
『お帰りなさいお父さん。今日は、お話があって来ました』
それは確かに小さなメタモンが発した言葉だった。
青年は、自分と同じ声に驚愕して、もう一人の自分を凝視する。
「メタモン、君は喋れたのか?」
『随分前からお母さんに教わっていました。でも、人前で必要以上に喋るなとも教わっていました。だから黙っていました』
青年は考える。確かに、万が一このメタモンが人間の言葉を使えることが公になった場合、この小さなメタモンはやはり珍しいポケモンとして知れ渡り、これまで通りの生活を送ることが難しくなるだろう。
しかし、青年はこうも思う。父親である自分がどうしてこの事実を隠されていないといけないのか。
そして、どうして今秘密を守ることを止めたのか。
『こうしてずっとお父さんと話をしてみたかったです。でも残念です。これからお父さんには辛いことをしないといけません』
「辛いこと?」
『はい。僕に、お父さんを譲って下さい』
青年は、自分の息子が言っていることを理解するまでに随分と時間を費やした。そして感じる、背筋がムズムズとする妙な感触と、焦り。
「それは、どういうことだい?」
時間が経過しても、青年は息子の意図を掴めずに、再度確認することにする。
『僕はお父さんのことを尊敬していました。中途半端に生まれた僕をきちんと育ててくれて、父親としての愛情を沢山注いでくれました。だからこそあの日、約束を破って外へ出たあの日に、日頃の疲れでぐっすりと眠っているお父さんを見て、僕が力になれればとお父さんの代わりをすることにしました。人間として振る舞うのは難しかったですが、これまで見たことがない世界を直に見られて本当に嬉しかったです。それからお父さんは、僕をよく外に出してくれるようになりましたが、それにはとっても感謝しています。外の世界がとっても楽しい場所であることを知った僕が、ずっとここにいることはできないからです』
息子が、メタモンと一緒に青年へと近づいてくる。
『お父さんは、僕の為にお父さんの時間を分けてくれていると思っていました。ですが、それは違ったみたいですね。お父さんは、僕に辛いことだけを押し付けて楽しい時間だけを独り占めしていたんですね。だから家に帰ってくることが少なくなった。だから、僕のところへ来る時間が少なくなった』
「それは…」
『それが嘘だとしたら、時々僕が遊びに行っても良かった筈です。お父さんが畑仕事をして、僕が街へ出ても良かった筈です。違いますか?』
青年は押し黙ってしまう。
そのうろたえた様子が、青年の息子の意思を固めてしまった。
気が付けば、地面に腰を下ろす青年の直ぐ側に息子とメタモンがいた。
『大丈夫です。お父さんからは、人間としての振る舞いを色々教わりました。お母さんからも沢山学んでいます。だから、僕はきっときちんとしたお父さんになれますので安心して下さい』
青年は素早く立ち上がり、にじり寄ってきた二人の脇を通り過ぎる。
早く外へ出ないといけない。この狭い倉庫から出て、家族に助けを求めないといけない。取り返しがつかないことになる前に、ここから離れないといけない。
だが、青年は何もないところで躓いた。
彼の足には、彼の家族であるメタモンが、青年を慰め続けたメタモンが絡まっていた。
そんな暇などないというのに、青年は振り返り状況を見定めようとする。
そこには、大きな石を持ったもう一人の自分が笑顔で
――――――――――――――――――
怒られたら消します
お世話になります。
了解いたしました。
19日22:30〜
20日22:30〜
にチャット室で待機しております。
タグ: | 【鳥居の向こう】 |
業務連絡。
あきはばら博士さんへ。
「なかまづくり」の修正依頼点がまとまりました。
チャットできそうな日をお知らせください。
0 ペイズリ―柄について一言
どうもあの、ペイズリ―柄が苦手だ。生物の教科書に載っていた何かの微生物がちりばめられた模様が嫌い。
1 試験勉強
ごろごろとベッドの上でペイズリ―柄のタオルケットが転がっていく。
人が勉強しているというのに、まったく羨ましい御身分だことで。
そんなこと思いながら、その様子を見ている時点で勉強してないんだけどねー、と自分に自分で突っ込んで、ぐるりと椅子をまわして机の前に向かいなおってみた。
ノートは白い。
一問だって解いてない化学のセミナー。
カガク、じゃなく、バケガクと読む。
だってその方が分かりやすいだろ、と誰かが行っていたのを聞いて以来、化学はバケガクだ。
明日は本番のテスト。テスト週間ラストの教科の一つ。
もうひとつ、お供に地理がくっついてくるが、そんなモノは知らない。全力投球だ。諦める方に。
笑えないが正直地理よりも化学のほうが配点及び成績がでかいのだからしょうがない。
だからヤル気を化学に向けよう、とさっきからずっと努力しているが、机の上に置きっぱなしのシャーペンが早速その飽きっぽさを象徴している。
だって、なぁ。ヤル気を向けた一問目からまず解けない。チャレンジしたその瞬間から分からないなんて結構ダメージ大きいんだよ?答え丸写しはさすがにプライドは許さない。
ていうか、答えを写して理解できるわけがない。
という信条。なので自力でやる。時間は過ぎる。手は動かない。遂にシャーペンを置き、考え込む。ふと視線をやる。ベットの上でペイズリ―柄の・・とここまで来たらもう十分だ。
セミナーが一つだって進まないのを理由に、布団の上で飽きもせず転がるペイズリ―を眺めるのは飽きないなんて、どれだけ矛盾していることやら。
「ペイズリ―」呼んでみた。転がり運動がピタッと止まる。
「ペイズリ―」もう一度。もぞもぞ、円柱のタオルケットが立ち上がる。
「ペイズリ―」呼んでいる柄のタオルケットを振りほどこうと一生懸命。
「ペイズリ―」思わず笑みが漏れる。くすりという声が聞こえたのか、焦ってさらにほどけなくなっている。
「ほら、ペイズリ―」椅子から立ち上がり、手伝ってやってしまう。化学とけないし、気分転換だよ、と言い訳。
「やぁぷ」小さな声。
ほどけたタオルケットの中身は、転がりまくって目でも回ったのか、くるりくる、反動で2回ほど回って、こてんと後ろに倒れ込むように座った。
しかしパッチールみたいな目ではなく、変わらない笑顔。
そう、いつだってペイズリ―は笑っている。
ただそれは、それしか表情を知らないんじゃないかと時々不安になる。
種族上、ただそうなんだと知ってはいるけれど、それでも、笑っているペイズリ―を見て素直に笑えない自分が憎い。
大体、この子にペイズリ―なんて名前をつけちまったことが、いけないんだろうけど。
つけた理由を思い出しかけて、やめた。
2 散歩
「ペイズリ―」呼ぶと、ぱっとこっちの顔を見上げる。
「散歩行く?」気分転換に。本日二度目の言い訳。テスト、化学の全力投球決定。悪い方に。知ったことじゃない。気分が乗らない、何より解けない。ならば仕方がない。気分転換だ、とにかく今は。自分を説得。
ペイズリ―はただ水色クロ―バーの尻尾を振っている。
とんとん、階段を下りる足音がついてくる。
とんとん、安アパートのコンクリートはよく響く。
「やぷ」追いついた、とばかりに足元に小さな手。ぎゅっと握りしめるズボンのすそ。そんなに離れたくないのか、と言いたいが、迷子にならないようにとこの癖をつけさせたのは他ならない自分だと一人苦笑する。
街から遠くない住宅街住まい。ぶらぶら歩く。歩くたびにペイズリ―の歩幅が崩れていく。
ゆっくり歩けばいいんだろうけど、つい、小さな手の存在を忘れていつもの調子で歩けば、こてんと転げる。
それでも、変わらない笑顔で立ちあがってすぐにズボンを掴もうとする。
ごめんよ、「ペイズリ―」手を握ってあげたい。ただ、この身長差はちょっと。それも言い訳。
結局、ペイズリ―を拾っておきながら何もしない馬鹿は自分だ。
拾う、という言い方の時点で善人面。あぁ、また自分が嫌いになった。
抱っこしてやればいい。おんぶでもいい。肩車なんかしたらきっとはしゃいで喜ぶだろう。お互いに触れていられて、安心できる。
でも、それをしない。だって、10kgちょっともあるんだ。ずっとおんぶにだっこ、まして肩車なんて疲れるにきまっている。
そう、これも言い訳。自分の十八番。一つも自慢にならない。
それでも、ペイズリ―は何も言わず、ただ笑ってズボンを掴む。
電気屋の前で、でっかいテレビの隣で黄色いシキジカのきぐるみは『アナログからデジタルへ!』のノボリを持って立っている。
テレビのない(買う金がない)我が家には関係がないが、ペイズリ―はきぐるみに興味があるらしい。二足歩行のシキジカ。そりゃまぁ、変だよな。
テレビにはもうすぐ七夕という事でカントーだかジョウトだかで、でっかいマダツボミに七夕飾りを付けている女の子のニュースをやっていた。30m、のテロップに感心する。
ペイズリ―はしきりにきぐるみに挨拶をしている。きぐるみはちいさなペイズリ― に気がついて、手を振り返す。
行こうか、と声をかけて、その場を去る。
「バケガクのテスト、どうしようかなぁ」何気なくつぶやく。バケガク呼んで化学と書く。間違ってはいない。
何のことだろう、とペイズリ―がこちらを見上げる。
笑い顔、というより、少し眉をひそめたような、困った顔。口は笑っていないし、こんな表情もするんだ、と今更ながら再認識する。
それでも目はいつも笑っている。馬鹿にするような感じとかじゃない。そんな目しかできないんだ。いつもぐるぐるのパッチールみたいに、ヒヤップはいつも笑顔。もちろん、表情はちゃんとある。
そんなの分かってるけど。
こてん、またこけた。
「ペイズリ―」ごめん。の言葉が後に続く前に、立ち上がり、ポンポンとひざをはらい、そしてズボンのすそを掴む。
もちろん、笑顔で。
でも、その笑顔は本当に笑顔なんだろうか。分からない、と言い訳。
疑う前に、ペイズリ―のことを分かろうともすらしていないな。最低な自分。
溜息。
若干消えてしまいたい、この世から。が、ペイズリ―を残してそんなことはできない。いっそ無理心中。どこの小説だ。馬鹿な事を考えて、ペイズリ―のことを考えない。
そういえばペイズリ―の故郷を知らないなぁ、ふと思う。帰ったら、地理をしようか、とも考える。テスト範囲は、シンオウ地方だけど。
これも言い訳。何に対しての言い訳だかも、もう分からない。
何でもかんでも、とにかく理由を付けて逃げて、やめて、何がしたいんだ、自分。足は自然と、森に向かう。いや違う、足を引っ張る小さな手。
「ペイズリ―」どうした、と疑問符をつけようとして、やめた。
ほんの小さな力でも、考え事をしながら当てもなく歩く自分をこっちだと引っ張ってくれるのだから、抗うのは得策じゃない。
もちろん、これも言い訳。行く当てがないから、ペイズリ―任せ。森に行くのも、良いんじゃないかな。これすらも言い訳。
3 狐
舗装された道から、獣道へ。雑草を踏みしめながら、楽しそうに歩く水色の小猿。
それに引っ張られながら、課題、いつ帰れば間に合うかなぁ、あれほど集中できなくて逃げたはずの化学を考えることで今起こっている現実から逃げる。
まったく、身勝手な自分だ。バケガク、バケガク。声に出すと、書くのとイメージが違いすぎて、なんか何の勉強だか分かんなくなるよなぁ、と言い訳。もう、何から逃げているのやら。
「ペイズリ―」意味もなく呼ぶ。ぴたりと、小猿の動きが止まった。
「ペイズリ―」?、疑問符、を付けかけて、変に後半は上がってしまった。止まった小猿は、笑顔のまま、こちらを見上げる。
「ペイズリ―」普通に名前を呼ぶだけ。何から逃げてるんだ自分は。呼ばれたペイズリ―は返事もせず、ただ尻尾を振ってくれるだけ。その視線を向けられるのがつらくて思わず天を仰ぐ。
ぎゅ、と。ズボンのすそを掴む小さな手に、力がこもった。
「ペイズリ―」視線を落とす、何かあったのかな、と思ったから。そうしたら。
「ぺ、ペイズリ―」が増えた。いつの間にか、ペイズリ―が二匹になっている。
「ペイズリ―」やぁぷ。片方は返事をした、片方は何も言わない。どうしよう、どっちの反応もペイズリ―らしい。
あ、と声が漏れた。
片方のペイズリ―の尻尾が、おかしい。
漏れた言葉はもう元には戻らない。眉をひそめる二匹のペイズリ―。
「ペイズリ―」呼んでやる。片方は、元気よく手を挙げた。その時、もう片方のペイズリ―が気がついて、黒い尻尾を、ズボンのすそを掴むようにギュッとする。
ぽむ、と音がして、手を挙げていたペイズリ―があっという間に尻尾を掴まれた黒い狐に変化した。
赤いきつねはCMでもみるが、黒いきつねは初めて見た。まぁ、うどんにないしね、黒とか。論点のずれた言い訳、ていうか言い訳ですらない、ただのボケ。
ロコンも色違い、なわけではなさそうだ。尻尾一個だし。ペイズリ―(本物)は片方をズボン、片方を黒狐(偽ペイズリ―)の尻尾を掴んでちょっとおろおろしていた。
もっとおろおろしたのは狐。凝視されている理由に気がついて、自分の尻尾を掴む小猿に手を離せとばかりに威嚇交じりに一回吠えた。
仰天したペイズリ―、慌てて離した手をそのままズボンにやる。両手ですそを掴んで、それでも興味があるのか狐を見る。
尻尾から手を離してもらった狐の行動は早かった。くるるん、一回宙返りすると、今度はペイズリ―が混乱するものに化けた。私だ。
「ペイズリ―」呼んでみる。こっちを見上げ、化けたあっちを見つめ、困っている。こらこら、君は今までしっかりと本物のズボンを握ってるくせに。
あっかんべーをして狐が化けたままが駆けだした。尻尾丸見えなのに。
「やっぷ!」
え。
ペイズリ―がズボンから手を離して、明らかな偽物を追いかけ始めた。
4 老婆
偽物を追っかけてかけ出す小猿。速い速い、あっという間に見失いそうになる。
これ完全に明日の化学のテスト死亡フラグだなー。この現状さえも利用する言い訳。常日頃運動していない自分を責める。だから追い付けない。これも言い訳。
考える暇があれば足を動かせよ自分。いわゆるランナーズハイとかいう状態に陥ったことがないんだから多分無理。水色は速度を緩めない。
黒い尻尾を振りながら逃げてく偽物はどんどん小さくなっていく。明らかにあっちの方が運動神経いいじゃないか。化けるのなら徹底的に化けろよ。運動音痴なところとか。無茶苦茶な言い訳、いや言いがかり。
偽物(黒狐)、水色小猿、そして自分。距離はどんどん広がっていく。
ダメだ、息が切れてきた。乏しい体力が恨めしい。
ぽつんと頭に何かが降った。空は明るい。
「雨?」
全くこんな時に限って、天気雨ときた。やはり日ごろの行いが悪いからなのか。言い訳、なのかそうでないのか。
狐は見失い、小猿だけを追いかける。雨の中を跳ねながら水色は偽物を跡を追う。
不意に視界に小屋が現れた。妙に古臭く、でも見ようによればただの掘立小屋か。そこにペイズリ―は飛び込んだ。
この雨だ、
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
此処でメモ帳は途切れていた
さーて、これ何時書いてたのか中の人も覚えてないぞ!!(爆
投げるだけならタダ、便乗便乗
その男が部屋に戻った時、既に部屋の中は冷え切っていた。
暖房は切られており、白熱灯も部屋を明るくしてくれてはいなかった。
ベッドの上のシーツは皺だらけだったが、その皺を付けた張本人はどこにもいなかった。
男は焦って、バスルームとクローゼットのドアを全部開けて隅々まで探した。しかし、彼女はいなかった。
落ち着け、と男は自分に言い聞かせた。彼女は自由に動ける体じゃない。そう遠くへは行っていないはずだ。
だが、机の上に置かれたパソコン――電源が付きっぱなしだった――を見た途端、男は思わずディスプレイを引っ掴んで大きく揺らした。
パソコンは物言わぬ機械である。しかし、何物かが残したメッセージを男に読ませる程度の心遣いはすることができた。
ワードで表示されたそれは、原稿用紙三枚分ほどの短いメッセージだった。しかしそれを読んで理解し、行動に移すには実に二時間の時間を要したのである。
お世辞にも上手い文章とは言い難い物だったが、男を驚愕させるには十分だった。
あなたがこれをよんで、どう考えてどうするかは、ぼくにとってはどうでもいいことなのです。
まずはじめに、キーボードをきずつけてしまうことをあやまっておかなくてはなりません。
ご存じの通り、ぼくのては何かをたたいたり、なにかを持ったりすることがむずかしいです。あなたのようなせいかくな文は書けないでしょう。
しかし、今からいうことは本当のことなのです。
誰かがあなたをだますために書いたものではありません。まぎれもない、ぼくからのメッセージです。
あなたがこの人とけっこんすると知ったとき、ぼくはいやでした。
あなたがこの人を愛していると思えなかったからです。ごぞんじの通り、ぼくはずっとこの人といっしょにいましたから、よく相談あいてになっていました。
かのじょにとっては、人のことばを話せないぼくだけがあんしんして話せるあいてだったのです。
あなたからけっこんを申しこまれたと聞いたとき、かのじょはとてもうれしそうでした。あなたも彼のことを好きになってくれるはずだ、そう言いました。
でも、ぼくはあなたのことをよく知っていました。とても、かのじょを愛しているとは思えませんでした。
ずっと昔、ぼくはあなたに会ったことがあります。とてもきれいなばしょでした。ぼくたちはしあわせにくらしていました。
森とみずと大地がひろがる、美しいばしょでした。
それが、とつぜんあなたが大きなきかいとともにやってきて、つぶしてしまったのです。
みんな、ばらばらになりました。ぼくは逃げて、ここまでやってきました。
そして、かのじょの友達になったのです。
あのとき、ためらいなくぼくらの住みかを壊したあなたの顔を、ぼくは一生わすれないでしょう。
かのじょが体がよわくて、でもお金持ちの人ということを考えれば、あなたがけっこんを申しこんだ理由なんて、すぐにわかりました。
でも、ぼくは人のことばをはなせません。そしてかのじょは、文字を見ることができません。
だからこうして、あなたにはメッセージをのこそうと思ったのです。
かのじょはぼくに、たくさんの本を読んでくれました。てんじとよばれる文字を使って。
ローマじや、ひらがなカタカナもぜんぶ読めるようになりました。
ぼくはかのじょをつれていきます。
どこか遠いばしょで、あなたが壊したぼくのすみかと同じくらい、きれいなばしょで、いっしょにくらすつもりです。
さようなら。
男の額から、一滴の汗が流れた。
コメントありがとうございます!
> まず誤字報告から。
> > 状態異常になると捕まえ安くなるのは
> > 一番捕まえ安いのもね
> →捕まえやすい
> 漢字にするなら「易い」ですけど、表記を揃えるならひらがなですかね。
あ、やらかした……。
あれですよ、学校のパソコンから投稿したから変換機能が自宅とは少し違ってたんですよ(言い訳)
何でこのネタ思いついたかは忘れちゃったんですけど、とにかく閃いた瞬間、『書かねば』と思いました。
どういうシチュエーションにするかは悩んだんですが、まあこれくらいで良かったのかな、と思います。
……そう考えると、ボールができる前にボングリで捕まえてた、という話があったかと思いますが、それってどういう技術だったんでしょうか。
謎は深まるばかりです。
それでは。
まず誤字報告から。
> 状態異常になると捕まえ安くなるのは
> 一番捕まえ安いのもね
→捕まえやすい
漢字にするなら「易い」ですけど、表記を揃えるならひらがなですかね。
ポケモン洗脳説…かなり根強く?ありますよね…。
まあ普通に考えるとおかしいですもんねー。
> だって、昔は捕まえるなんておこがましいと言われていた伝説のポケモンが、今ではボールさえあれば捕まえられるんだもの。
ほんとその通りです…。捕まえたらこっちの言うことに従ってくれますものね。
淡々と語られるだけにじわじわと怖さが滲み出てきてぞわぞわしちゃいます。
> 「何もしないわ。だって意味がないもの」
彼女の出した答えもよく考えたら恐ろしい…。
ここまで浸透してしまって変えようがないという状態って本当は恐ろしいのに、大概の人はなんとも思ってないだなんて。
怖や怖や…。
殺伐としてないけどマサポケにほのぼのとした話が!
ふわわわめっちゃ好きです。イラストもお話の雰囲気に合って素敵!
たしかに石進化の子って、進化させると大概技の覚え悪くなりますよね…。
それで二の足を踏むことも多いです。
かいけつルカリオってもしやゾロリ…?懐かしや…。
一晩で大きくなったならゲームの木の実かなと一瞬思ったらすぐにキマワリって出てきて、思わずつっこみたくなりました…先生がつっこみましたがw
> だめだなあここの木になっていたモモンのみを食い散らかしたやつは。てんで食い方がなっちゃいない。
この文がぐっときました。食いしん坊かつ食べることにこだわりがありそうw
素敵なお話ありがとうございました。
はわわわ…遅くなりました、すみません。
9月17日分の感想になります。
たくさんのご参加ありがとうございました!
『鋼氷の王』 きとらさん
ふおおおおお…!なんだかすごくわくわくする書き出し…。
こ、これしかないだなんて…!
きとらさんのいけずー。
モンハンは姉がやってるのを見るだけでよく知らないのが非常に残念ではあるんですが、続きが気になります。
アイルー!お供アイルー!
『蜘蛛の糸(仮タイトル)』 きとらさん
はわわわ…二作もありがとうございます!
なんかもうこれはこれで完成品です、って言われてもおかしくないですね…。
続きはご想像にお任せします的な。
ホムラが優しくてなんだか不意打ち。
こ、こんなに魅力あるキャラでしたっけ…?
ハルカちゃん無防備すぎます!
いけません…いけません!
『タイトル未定(長編予定)』 久方小風夜さん
ふあああああああガチ系きたー!(゜д゜lll)
う、うますぎて逆に書くことが思いつかな
((結構な文字数あるのに読んでる間は全くそんな感じしなくて、読み終えてから、あ、これ結構文字数あった…!となりました。
萬屋ってティンカーっていうんですね、勉強になりました。
窮地に陥ったからと言って、いくらでも払う、は危険ですね…。
説明はちゃんと聞かないと…知らなかったでは済まされないですよね。
金額聞くとぼったくりに思えるけど、内訳読むとそうでもない感じするんですよねー…いやまあいきなり五十万払うのはきついですけど。
ぶ、分割でお願いします
((さてはて、彼らは一体何者なのか(萬屋、ティンカーって言ってるけど、それだけだとわからない)、なぜ免許を取得していないのか…なぜ法外と言われるのにその金額をいつも請求するのか、あとお金払う目処が立ってないのに割と簡単に引き下がったのは一体…?
長編の書き出しだけあって謎が…謎がいっぱい!
続きは、続きはいつですか!?(机バンバン
『さる獣医のミミロップ』 MAXさん
ミミロップ…(つД`)
連載モノに書き足すということは…もしや趣味についてシリーズのウサミさんですか?
あのウサミさんですか!?あの正座してたハシバさんとウサミさんのあの?!
わくわくわくわくわくわく!
仄めかされていたウサミさんの過去はこんな…うう…。
爆発するバシャーモさんはハシバさんなのでしょうか…うう気になる。
『フカフカフワフワワンワンディ』 焼き肉さん
おお、早速のご活用?ありがとうございます!
感想はあちらにまとめて書きますね!
『プラズマ団のアンケート』 門森 ぬるさん
もーりー!君って人は!
相変わらず人とは違う方向のものを書いててとても素晴らしいと思います。
小説じゃなくてもいいのよ、ここのルールに反してなければ大丈夫だと思います。
しかしアンケートとはまた…。
とりあえず自分が今まで書いたキャラクターならどう答えるかなって考えながら読みました。
普段使う表現とかふさわしくない表現とか、読んでて色々考えちゃいました。
そういえば書くとき色々考えて書いてよなー、と。
最近はあんまりその辺気を遣わなくなったやも…。
昔はかなりこだわって書いてんだけどねえ…。
> キャリーオーバー効果
あれですね、
Q 大**法がブッダの生まれ変わりだということを知っていますか?
・知っていた ・今知った
という(いいえ
プラーズマー!
甘いピンクのフワフワドレスは、お供のバニプッチと相まって、ストロベリーアイスのようだと思う。ドレス
は置いといても、このバニプッチは舐めたい。ポケモンをいじめちゃいけないとかそういう理性の外で、ヒモが
天井からぶら下がってたら引っ張りたいという本能にも似た衝動の勢いで舐めたい。
どうみてもコイツは、ヒウンアイスの幽霊だ。
『お姫様は今日もおおいそがし。何故なら姫は、優しいから。民のため国のため、今日も今日とて世のため明日
のため、お供のポケモンと一緒に、走り回るのです』
手書きの台本を読みあげながら、ヒュウはなんだか胸の奥が、むずっかゆくくすぐったくなったような気がし
た。
トレーナーズスクールの民話の授業で、『ケロマツの王子様』とか『七匹の子メークル』を情感たっぷりに読
ませられた時のような気分。
それでも幼なじみのため、興が冷めないよう感情を込めて読んでいる自分は、お姫様とやらより健気のような
気がする。
ことの起こりは、ポケウッドでの撮影がうまくいかないことに対する、メイの焦りだった。わざわざ衣装と、
撮影用のポケモンまで借りて、ついでにナレーション・他の役柄のセリフ要員として近所のお兄さんまで借りて
、こうして森の中、練習をしているのである。
何故わざわざ森の中にしたのかは、誰も来ない人の目を気にしないでいられる場所だからだろうが、森の中に
ドレス姿でいるメイは、七匹の小パチュルに護られる白雪姫のようだ。
ドロとか土で衣装汚さなきゃいいけどなッ! と内心思いつつ、台本を読み進める。
『あらあらあんなところでご婦人が困っております。いったいどうしたことでしょう』
ワガママ姫が奮闘する映画の撮影が上手くいかない、とヒュウの家に押しかけてきた時、メイは自分で書いた
らしい台本を手に持っていた。ワガママ姫がワガママだから上手くいかない! と血迷った結果の執筆らしい。
ヒュウはそんなところで撮影をしたことがないからよく知らないのだが、なんでもそこでの撮影での役者のセ
リフは、ある程度役者本人に任されるらしい。
そうしたほうが面白いものが作れるから、という監督の方針なのだそうだが、いくらなんでもこんなに作り変
えてしまっては、怒られるか一蹴されるかのどちらかなのではないのだろうか。
と思うのだが、何しろヒュウには借りがある。妹のチョロネコを取り返すのに協力してもらったという、大き
な借りが。
お人好しのメイ本人が、それを盾に脅してくるわけではないのだが。ヒュウもヒュウでこっ恥ずかしいものの
、旅も一段落したし、こいつの楽しみに付き合ってやってもいいだろうとは思っている。
「あらご婦人、どうかして?」
『いつも優しくしてくれるあの人に、感謝とこの想いを伝えたいの。だけどあの人を目の前にすると、何も言葉
が出てこなくなるの』
「それならば問題ありません。語らずとも想いを伝える手段はあります」
婦人に、実際には何もない空間に向かって、優しい姫君になっているメイは優しく語りかける。ポケモンに声
をかける時と一緒の顔をしている。
あまりドラマや映画を熱心に見る方ではないが、少なくともメイの演技は、上手いかは置いておいて、おふざ
けでやっているわけではないというのはわかる。
撮影がうまくいかない、というのは演技力そのものの問題ではないのかもしれない。特性がたんじゅん、性格
はうっかりやのメイと、ワガママ姫の役柄のギャップがうまく噛み合わず、その噛み合わせの悪さが不協和音を
奏でて失敗しまくっているのではないだろうか。
遠くのカロス地方では、どんな役柄でも素晴らしい演技を見せてくれる大女優がいるそうだが、流石に役者と
しては駆け出しのメイにそこまで求めるのは酷というものだろう。
ワガママ姫よりは噛み合いそうな、お人好しのお姫様なら、ワガママ姫よりは噛みあうし、現場で一蹴されて
も、役に自分を溶けこませる練習にはなるだろう。結論づけると、さっきよりは台本を読みあげることに照れが
なくなってきた。
「この時期に迷いの森の奥の奥で咲くグラシデアの花には、感謝の心を伝える力があるのです。わたしと一緒に
取りに行きましょう」
『わたくしにそんな勇気はありません。姫様のような、勇気は』
「いいえ、だいじょうぶ。男の人だけでない、女の人にでも、いいえ、人にもポケモンにも、生き物全てに勇気
というものは存在するのです」
そうして姫は、女の人の手を取る。なんだか姫というよりは勇敢な騎士のようだ。その姫で騎士の女の子によ
って、女性はほんの少しの勇気を持つ。
怪物渦巻く森の中へ、姫と一緒に歩いて行く。
『ゆく道中には、人の勇気を試す怪物たちたちがウジャウジャ湧いて、姫と女の人の勇気をへし折らんと襲いか
かってきます』
「そうは行かないわ。勇気を持って前を見て進む限り、勇気は決して折れはしない」
メイの言葉どおり、姫と女の人は、それぞれのお供のポケモンに助けられながら、どんどん森の奥へと進んで
いく。彼女たちの勇気に、森の怪物たちはずこずこ引き下がって行ったが、あと少しで花畑のある場所へ着くと
いうところで、通常では考えられないくらい大きなゴーストが、二人の前に立ちふさがる。
「出たわね!! 森のボス……ブラックフォッグ!!」
メイの指さした先には何もないけれど、実際に立っている場所も森の中であるせいか、でっかいゴーストが見
えたような気がした。
自分も少し物語の中に入りきっているのかもしれない。
「人の夢を食おうとしたって、そうはいかないわ!! 勇気はいつでも、無限大に湧いてくるものなのだから!
」
慣れてきたと思っていたのに、オレは今から恥ずかしがるぜ!! と宣言したくなるくらい恥ずかしいセリフ
が飛んできた。笑いはしないものの、内心で自分が読むパートじゃなくてよかったと安堵する。
「夢を食わせはしない! バニプッチ、こごえるかぜ!」
律儀にバニプッチが、何もない空間に向かって冷たい冷気を放つ。しかしブラックフォッグは、冷気にびくと
もせず、どこ吹く風のまま。
『冷気が跳ね返され、女の人に襲いかかります。危ない! しかし、姫の助けは間に合いませんッ!!』
急展開だった。事前に台本に目を通していなかったから、普通に続きが気になって、今さっき恥ずかしがった
のも忘れて熱く読みあげてしまう。
「ご婦人!!」
『冷気が女の人の肌を刺します。女の人はグラシデアの花を前に氷漬け──』
いったいどうなる。ページをめくり、続きを読み上げた。
『となるかと思われたその時、彼女の相棒のケーシィが割って入り、テレポートッ!! 危機一髪のところで、
女の人はブラックフォッグの魔の手から逃れられたのです!』
読みながら、思わずホッとしてしまった。何読みふけってんだ。そう頭の中でツッコミを入れるのだが、一度
熱くなると止まらない、自分の性格が良くも悪くもブーストをかけて止まってくれない。
「ご無事でなによりですご婦人」
『「ええ、ありがとう、ケーシィ」……お礼を言った女の人の前で、ケーシィの体がまばゆい光に包まれます。
進化が始まったのです』
後の展開は、悪く言ってしまえば予定調和。ユンゲラーに進化したケーシィが、ねんりきをつかってブラック
フォッグをぶっ飛ばし、見事女の人は、グラシデアの花を手に入れることが出来たのだった。
「さあご婦人、あの人に想いを伝えに行く時間ですよ」
『だめです、勇気が出ないのです』
「言ったでしょう、勇気は人にもポケモンにも、いいえ、生き物全てにあるのです。それはご婦人、あなたもで
す」
尚も勇気の出ない女の人に、姫はバニプッチにおどろかすを使わせて、女の人を無理やり押し出す。
よたよた、っと、出て行った女の人の先には、想い人の男の人がいて──。
『「やあご婦人、どうしたのですか」「あの、これを、あなたに──この花は、人への感謝を伝えるのに贈る花
だと聞いたので、摘んできたのです」』
いつも優しいあなたに、わたしは心より感謝しています──。
グラシデアの花を贈りながらも、女の人は自分の言葉で、男の人に感謝の気持ちを伝え、物語は幕を閉じる。
顔を上げた。大したラブロマンスだ。こっ恥ずかしいほどに。だけど嫌いか好きかで言えば、ヒュウはこの話
を嫌いとは思わなかった。
幼なじみが書いたから、という身内贔屓抜きでも、めでたしめでたしで終わるこの話は、悪くないと思ったの
である。さすがに自分の妹と一緒に「ウソハチキングとマネネクイーン」などの恋愛劇をテレビにかじりついて
見ていただけはある。
「恥ずかしいし、これが通るかどうかはしらないけどッ! 結構面白かったぜ!」
「えっへへー、そうかなあ」
「でもさ」
このお姫様は、この後どうなるんだろうな。
思ったことをなんとなく口に出しただけなのだが、メイは顔を真っ赤にして俯いてしまった。さっきまで死ぬ
ほど恥ずかしいセリフを虚空に向かって投げかけていたというのに、これ以上何を恥ずかしがることがあるのだ
ろうか──。
「実はね、続きはもう考えてあるの」
「へー、どんなだよ?」
「お姫様を幸せにしてくれる王子様が出てくるの。髪がトゲトゲしてて、赤と白の上着を着てて、青いズボン履
いた、王子様」
「それって……」
──これは恥ずかしい。さっきまでのどんなセリフよりもだ。
王子様(ヒュウ)とお姫様(メイ)の間に漂っているバニプッチは、練習が終わってしまって退屈しているの
か、持っていた毛糸玉を短い手に持って遊んでいる。
それは恋した相手も引きずり込んで、メロメロ状態にしてしまう──あかいいとだった。
小ネタ入れるの好きなので調子乗って小ネタだらけ。ブラックフォッグは電撃ピカチュウから。元ネタはもっ
とケタ違いに強くてたち悪いやつだけどね。単純に好きなのはこの漫画の後に出たセレビィ映画の核心的ネタバ
レを、数年も前に食らう原因になった(笑)おつきみやまのピッピ回だったりします。「だが彼らは旅立ってい
く。なぜだと思う、サトシくん?(ちょいうろ覚え)」
グラシデアの花きれいで好きなんですけど、何か元ネタあるんでしょうか。
このお話は殻さんの「386のさよなら異文、調教譚」がとんでもなく鮮烈&衝撃的で、586さんなりに近づきたくて書きましたなんて口が裂けても言えない……(言ってる
> 「歪んだ世界」収録の「はがねのつばさ」が自然と連想されました
お読み頂きありがとうございます!(´ω`)
確かにやってることがそっくりというか、似た設定を使って違う構造のお話を書いたんだなー、と今更ながら客観的に分析してみます。
> 上書きされる健康な体というのは誰のものなのか……、ポケモンの器官にとりかえてもどこまで人間と呼べるのか……
> そういう身体性と自己同一性の問題みたいなのにも考えさせられました
「上書き」という言葉から連想したテーマが、まさにここで挙げて頂いた点でした。
ゲームだと数秒でどんな怪我からでも全快してしまうわけですが、それを人間に適用したらどんなことになるだろう? と話を練りながらずっと考えてました。
> 吸血ってなんかえっちですね
|ω`)←狙いどおり と言いたげな顔(YAMENAYO
お読み頂きありがとうございました! まさか殻さんから感想を頂けるとは……!
これからもいろいろな作風にチャレンジしていきたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします!
(この小説には残念なキャラ表現が含まれます) |
「歪んだ世界」収録の「はがねのつばさ」が自然と連想されました |
タグ: | 【ポケモン】 |
学生になって何が大変って、プリントの整理だ。いや、他にも大変なことは山ほどあるんだけど、課題やら年間予定やらを失くすと、後々とんでもない災難に見舞われる。
ファイルに入れても、多いものだからいざという時に、必要なプリントがすぐに出てこない。かといって科目毎に分けようとすれば、ファイルだけで凄まじい量になる。
ただでさえ重い鞄が、また重くなる。ファイル一枚は軽くても、塵も積もれば山となる。
仕方ないので、年度が替わる度に整理するのだが、これがまた多い。雑紙の日まで、狭い部屋の中を陣取られて迷惑この上ない。
個人情報はとりあえず取って置くことにして、昔の課題のプリントはとっとと捨てる。
ある時、下手くそな字で書かれたレポートが出て来た。今の私の字ではない。第一、ここ最近こんなレポートを書いた記憶はない。
嵩張るのを防いで、ファイルに入れたらしい。
「読めないな……」
置き場所が悪かったらしい。大分日に焼けていて、鉛筆書きだった文字が見えにくくなっている。漢字とカタカナと、これは……。
時間?
よく見れば、それは結構良い紙だった。何故こんな紙が私の記憶もなく、部屋にあるのかは分からない。が、必要ないなら他の執筆に使わせてもらおう。
私は消しゴムを取り出すと、申し訳程度に残っていた文字を全部消した。
おふれのせきしつ
しゅじんこう ナミ
もってるバッジ 8こ
プレイじかん 74:10
べつの ぼうけんの レポートが かかれています!
うえから かいても いいですか?
はい ▼
いいえ
レポートを かきこんでいます
でんげんを きらないで ください
キナリは
レポートに しっかり かきのこした!
ヤドンの尻尾は生ですよ。ダントツで生です。生がいいです。
素揚げにしたり、ステーキにしたり、蒸したり、輪切りにしてポン酢を付けたり、短冊に切ってサラダに入れてドレッシングを掛けたり、そんなのは私に言わせれば邪道です。ぜひ生を丸かじりすべきです。鮮度が落ちない内に、ぜひ。
タグ: | 【公式だから問題ないよ!】 【すばやいヤドンの後始末】 |
隣近所の家に住むヤドンの尻尾がちぎれました。
あれは、物凄く引っ張ると、とれるらしい。
そして、痛くないらしい………。
いや、それは、いいんだ。
問題はその尻尾が家の冷蔵庫に入っている点である
珍味だからと、どたばたのお礼にもらったのだけれども。
母親にどうにかしろと言われてしまった。
誰か、食べ方or利用方法、知っていませんか?
キーンコーンカーンコーン。
大学の個性を表す象徴の一つである、チャイム音。
そのチャイムが鳴り始めるとともに教室に続々と学生が集まってきた。
高校生らしさが抜けていない女の子や、スキンヘッドの男性、明らかに中年のおじさんと様々だ。
チャイムが鳴り終わってから数分後、教授のオクツ先生と彼のパートナーのエーフィが入ってきた。
白髪の頭に黒縁の四角いフレームのメガネ、しわだらけの顔や手。
スーツは有名ブランドのしゃれたデザインのものらしいのだが着方が着方だからなのか堅苦しい雰囲気だ。
「クイズの時間だ」
は?えっ……えっ?
何を言ってるんですかオクツさん?
あ、みんなも同じ反応。
その僕たちの反応に特に気にする様子もなくオクツは大きい壺を出して教壇においた。
縦一メートルはゆうに超す、装飾が豪華で高そうだ。授業なんかで使っていいのかな。
あ、オクツが持ってくるわけではないのね。エーフィのサイコキネシス使うのね。
オクツはその壺に一つ一つ岩を詰め始めた。穴は大きめに作られているようでいびつな形ばかりの岩がそこに投げ込まれてゆく。
壺がいっぱいになるまで岩を詰めてオクツは僕たちにこう聞いた。
「この壺は満杯か?」
は?
本日二回目の疑問符。
誰かが「はい」と答えた。
「本当に?」そう言いながら先生は教壇の下からバケツいっぱいの砂利を取り出す。
おいおいまさかまさか……。
そして砂利を壺の中に流し込み、エーフィの力でツボを振りながら、岩と岩の間を砂利で埋めていく。そしてもう一度聞いた。
「この壺は満杯か?」
学生は答えられない。僕の前に座っている生徒が「多分違うだろう」と答えた。
オクツは「そうだ」と笑らった。
今度は教壇の陰から砂の入ったバケツを取り出した。
それを岩と砂利の隙間に流し込んだ後、三度目の質問を投げかけた。
「この壺はこれでいっぱいになったか?」
やっぱりキター!!
ほらキタよ。やっぱりキタよ。
学生は声をそろえて、「いや」と答えた。オクツは今度は水差しを取り出し、壺の縁までなみなみと注いでいく。そして学生に最後の質問を投げかける。
「僕が何を言いたいか分かるだろうか」
何を言いたいか言いたいか……。
前の方に座る一人の学生が手を挙げた。「どんなにスケジュールが厳しい時でも、最大限の努力をすれば、いつでも予定を詰め込むことは可能だということです」
「それは違う」オクツは言った。
「重要なポイントはそこにはないんだよ。この例が私たちに示してくれる真実は、大きな岩を先に入れないかぎり、それが入る余地は、その後二度とないということなんだ。
君たちの人生にとって”大きな岩”とはなんだろう。それは、仕事であったり、志であったり、愛する人であったり、ポケモンであったり家庭であったり、自分の夢であったり……。
ここでいう“大きな岩”とは、君たちにとって一番大事なものだ。
それを最初に壺の中に入れなさい。さもないと、君たちは永遠に失うことになる。
もし君たちが小さい砂利や砂や、つまり自分にとって重要度の低いものから自分の壺を満たしていけば、君たちの人生は重要ではない「何か」に満たされたものになるだろう。そして大きな岩、つまり自分にとって一番大事なものに割く時間を失い……
その結果、それ自体失うだろう。
さてと。
君たちが
これまで大事にしてきたものは何かね?
これからも大事にしてきたいものは何かね?」
オクツの目がなんだか悲しそうに見えた。
―――――――
初めまして。シオンと申します。
【どうにでもなってしまえなのよ】
「それ」は、ずいぶん久方ぶりに起き出しました。つぶらな瞳をぱっちりと開けると、夕間暮れの紫がかった空が見えました。
「それ」に、朝や夕方といった、そんな起きる時間帯のことは関係ありませんでした。「それ」は千年の間眠り続け、それが終わった後の七日間だけ目を覚ます、そういう生き物でした。
だから「それ」は、今の時間のことも考えやしませんでした。「それ」にとっては、朝起きれば七日後の朝に眠るし、今のように夕暮れに起きれば七日後の夕暮れに眠る。それくらいの違いしかないのですから。
「それ」は黄色い小さな小さな羽を広げると、ばっと一目散に夕闇の中に飛び立ちました。
ずっとずっと、人々の気配のする方へ。
「それ」は千年間の眠りと七日間の目覚めを繰り返す生き物であり、同時に人々の願いを叶える不思議な力を持った生き物でもありました。そして、人々の願いを叶えたいと心から思う生き物でもありました。
それが何故なのかは、「それ」自身にも分かりませんでした。もし理由がつけられるのだとしたら、そういう風にできている生き物だからとしか、言いようがありませんでした。
けれど、今目覚めた場所には、人間はひとりもいませんでした。ただ、四角く切り出したたくさんの石でできた、大きな大きな建物が残っているだけです。
「それ」はその建物に見覚えはありましたが、建物はどれもこれも見るも無残に叩き壊されていて、表面を彩っていたたくさんの模様や浮き彫りも、崩れて、あるいは年月に削られて、ほとんど見えなくなってしまっていました。
「それ」の知る限り、そこにはたくさんの人間たちがいたはずでした。「それ」が以前目覚めたとき、彼らはたいそう驚き、そして「それ」の目覚めを歓迎しました。
「それ」は大いに歓迎され、そして彼らの願いをたくさんたくさん叶えました。人間たちは「それ」へと感謝を捧げ、そして、「それ」が眠る間この場所をずっと守っていくと、千年の後にまた「それ」を歓迎すると約束してくれたはずでした。
しかし彼らは、もう影も形もありません。「それ」が分かる限り、そこには人々の気配は何も感じられませんでした。ただ暑く湿った空気だけが、ここが眠りにつく前の場所と同じであることを示していました。
だから、「それ」は飛びました。自分に願ってくれる人間を探すために。
どんどん小さくなっていく石の建物たちと一緒に、そこで得た思い出までも失われてしまう気がして、「それ」は少しだけ迷ったけれど。
一度振り返り、その光景を目に焼き付けるようにしてから、前を向いた「それ」は、ぐうんと速度を上げました。
千年ぶりに見た人間の街は、「それ」が知るものとはすっかりかけ離れてしまっていました。
何しろ、街に着く前からそれがどこにあるか分かるほどのけばげばしい明かりが街中をくまなく照らし出しているのです。その中にいれば、星など少しも見えません。
居並ぶ建物も「それ」の知るものとはまったく違っていて、眠りにつく前に見た石の建物など比べものにならないほど高い、天をつくような細長い建物がずらずらと建ち並び、その壁にはさまざまな色使いの文字や絵が躍っています。
人々は密で色とりどりの布でできた、見たことのない形の服を着ていて、皆その腰に赤色と白に塗り分けられた玉をつけています。
獣たちとの関係のあり方も随分変わってしまったようで、町中で堂々と人が獣を使役し、獣同士を戦わせていました。戦わせはせずとも獣を着飾り、およそその本来の動作ができるとは思えないほどにしてしまっている人間もいます。
「それ」は、とても困惑していました。千年の眠りの間に人間たちの様子が変わってしまっているのはいつものことなのですが、こんなに大きな変化を見たのは今が初めてです。
「それ」の知る明かりは炎のものでしたし、知る服は草の葉や皮から取った繊維で作ったもので、それも人間だけが着るものでした。獣は大切にされ敬われていて、中には人間に協力し、ともに生きるものもいましたが、それは獣の中ではずいぶんな変わり者でした。
今までなら、目覚めたときでも昔の面影が少しくらいは残っていたのです。明かりや料理のための火を得る方法が雷から獣による恵みに変わっても、火を使うこと自体には変化がなかったように。
けれども、今はそれすらも残っていないのです。「それ」の知る頃の面影など、少しもありません。
「それ」はとても不安になりました。自分は眠り続ける間に、どこかおかしなところに運ばれてしまったんじゃないだろうか。それとも、起きる時を間違えて、一万年ほども眠ってしまったんだろうか。
「それ」は、帰りたいと強く願いました。自分の知っている頃に、眠りにつく前の、自分の知るものに溢れている頃に戻りたいと、涙を流すほど強く思いました。
でも、「それ」には他人の願いを叶える力はあっても、「それ」自身の願いを叶える力はないのでした。
「それ」は涙を拭いて、もはやどこかも分からない街の中を行き交う人々の姿を眺める他ありませんでした。
けれども、「それ」はやはり、人々の願いを叶えなければと強く思いました。どこかも分からない中でも、やはり「それ」ができるのは、そのことしかありませんでした。
どんなに様変わりしてしまっていても、人々が願いを持たないはずはありません。そしてどんな願いだって、「それ」は叶えることができるのです。
とはいえ、こんなに変わってしまった世界で、人々が何を願うのかは「それ」には見当がつきませんでした。
以前は畑に作物がたくさん実ることなど、食べ物がたくさん取れるようにしてほしいという願いが一番に多かったのですが、この街は行っても行っても一枚の石がずっと敷いてあるような平らな地面ばかりで、畑はどこにもありませんでした。
それに、人々はもう食べ物になど困っていないように見えました。見る人見る人、「それ」の知るよりもずっと太っていたり、顔色がよかったりするのです。
道を行く人々は箱から、これまた見たことのない食べ物らしいものを取り出して食べていたり、片手で食べ物を持って建物から出てきています。
きっとこの人々は食べ物のことなど願わないだろうと、「それ」は考えました。
ならばと「それ」は記憶を掘り起こします。病気になった家族を抱える人々に、病気を治して欲しいと言われたことも、かつては多かったのでした。
しかし家々を覗いてみても、病気の人などほとんどいません。少なくとも、「それ」の知るのよりはずっと、伏せっている人は少なかったのです。
食べ物に困らなくなったから、病気にならなくなったのだろうと「それ」は考えました。
ずっと晴れているから雨を降らせてほしいとか、ずっと雨だから太陽が見たいとか、昔はそう願われたこともありました。でもこの街は夜でも昼間のように明るいし、雨漏りなど万一にも考えられないような頑丈な屋根がついた建物だらけです。
それに、天気を操ってほしい一番の理由である畑は、この街にはないようです。だから「それ」は、そんな願いもされることはないだろうと思いました。
そうしたら、何を叶えればいいのでしょう。
いよいよ分からなくなった「それ」は、人々の話に耳を傾けてみることにしました。
人々はお互いに歩きながら話す者もいれば、何やら四角い、手のひらに収まるくらいの大きさのものを耳に当てて、誰もいないところに喋っている者もいました。
建物の中で次々いろいろなものが映る箱を見ながら何かをぼやいている人も、その箱に似たものに平たい板のようなものを線でつなげ、かたかたとひっきりなしに音を立てている人もいました。
そうしてこっそりと話を聞いていくうち、「それ」は、人々があることについて、ずっと話していることに気がつきました。
「……結局世界滅亡しなかったねえ」
「滅んじゃう、キャーッ! て思ってたのに」
「世界滅びないじゃねえか! お陰で明日も仕事だよ、こん畜生!」
「うん、この通り滅びてないし、僕もちゃんと生きてるから。じゃあ、夕飯の準備よろしくね」
みんなみんな、世界が滅ぶ「はずだった」と、ずっと言っているのです。
安堵するような口振りで言う人など、ほとんどいません。みんな、悔しがったり、面白がったり、残念がったりしているのです。
まるで、世界が滅んでほしかったかのように。
「それ」は、何が起きているのかわかりませんでした。人々がこんなことを願ったことは、これまでは一度たりともありませんでした。
当然です。だから、今までこうして人々はずっと生活しているのですから。
でも、今や「それ」には、人々が世界を滅ぼしてほしがっているとしか思えませんでした。それくらい、人々の話題はその一色で染まっているのです。
それに、それ以外に何を人々が望むのか、「それ」には分かりませんでした。自分の知るものとこんなにも違う世界に生きる人々は、きっと今まで受けてきたどんな願いとも違う願いをするだろうと、「それ」はどこかで思っていました。
だから、「それ」は、その願いを叶えることにしました。
「それ」の腹にあるまぶたが、ゆっくりと開いていきました。
その始まりに見えたのは、きらりと小さく夜空に光る星でした。
といっても人々は空などてんで気にしていませんでしたから、それに気付いた人など誰もいませんでした。
人々が騒ぎ出したのは、その星がもっともっと近づき大きくなって、太陽のように辺りを照らし始めた時でした。道端で輝いていた街灯も、空にある大きな光に比べればずっと小さなものでした。
夜にも関わらず明るくなっていく空を指して、人々は不思議そうに、あるいは呑気に声を交わし合いました。
「日食みたいに昼間に暗くなるなら分かるけど、こんな夜中に明るくなるってどういうことだ」
「何、いよいよ世界が滅ぶのか。こんな真夜中まで引っ張って」
「こういうのって周期が予測できるんじゃなかったっけ?」
「でも、そんな発表聞いたことないよ。それこそ、世界が滅ぶってのなら今日ずっと言ってるけど」
珍しがって写真を撮る者も、ビデオカメラを回し始める者もいました。
けれども少し経てば、たちまちそんなものは忘れ去られ、通りは半狂乱になった人々で溢れかえりました。
光の中心に、星が見えたからです。
時間が経てば経つほどに大きくなる、明らかにこちらに近づきつつある星が。
「それ」はすべての力を、その星を引き寄せることに注ぎ込んでいました。
「それ」の力は、言ってしまえば超能力です。未来を見てそこに手を加えることもできますし、ものを一瞬で別の場所に動かすこともできます。
その力自体は、そういう種別の獣ならば持っているものと何ら変わりありません。ただ、その力が途方もなく強いだけなのです。
それをもってしても、巨大な星は一瞬で動かしてくるには大きすぎました。じりじりと、じりじりと、こちら側に引き寄せることしかできませんでした。
視線を下に向ければ、街の中を逃げ惑う人々が見えました。火の馬に乗り建物の上を飛び移る者も、鳥の翼を頼って空へと逃れて行く者も見えました。
しかし、「それ」は知っていました。今自身が引き寄せている星が、どこにも逃げようがないほどの被害を地上にもたらすことを。
だから、「それ」は泣いていました。
自分に願ってくれる人々がいなくなることを悲しんで、ぼろぼろと涙をこぼしていました。
願ってくれる人がいなければ、「それ」は願いを叶えたいという、唯一自分に叶えられる自分の願いを叶えることはできないのです。
だからこれが、「それ」の叶える最後の願いでした。
そのために、「それ」はありったけの力を、引き寄せるべき星へと使っていました。
星が近づくにつれ、「それ」の身体がぐらりと傾きます。もう自分を浮かせるだけの力も、保つことができないのです。
しかし「それ」は、例え自分が死んでしまったとしても、なんとしてでもこの最後の願いを叶えるつもりでした。
願う人々がいなくなれば、もう自分は何もすることなどないのです。もう、この力を使う必要もないのです。
近づく星の放つ熱が、「それ」の身体を焼いていきます。「それ」はあまり、熱に強い身体ではありませんでした。
やがてふっと、その身体から力が抜けました。
十分に引き寄せられ、後は引力でぶつかっていくのみとなった星と、地上との衝突点めがけて、「それ」の小さな身体は吸い込まれていきました。
――――
なんだかどうも滅んで欲しそうに見えたので考えてみました。
大丈夫ですって、マヤ歴時代から眠ってたジラーチがいれば世界滅びますって。
【好きにして下さい】【お粗末な時事ネタ】
タグ: | 【冬コミ】 |
No.017でございます。
いつも皆様マサポケに遊びにきていただいてありがとうございます。
2010年8月に管理人を引き継いで、たくさんの方に遊びにきていただき、
コンテスト開催、ベスト発行までにこぎ着けました事、大変ありがたく思っています。
その節は本当にありがとうございました。
さて、ここへ来てみなさんに相談したい事が出てきました。
ぜひお知恵や意見をいただきたく思います。
就任当初からいる方はお気づきの事と思いますが、最近、当初に比べるとマサポケに時間を割けなくなっております。
主だった要因は「自分の創作」にほとんどの努力値を振っている為です。
その成果に関しましては、ポケスト板でも宣伝をさせていただきましたが、
自身の小説同人誌を作るためにほとんどの時間を持っていかれている状態です。
私自身、今後とも発行を続けていきたいとの希望を持っております。
ちゃんと完結させようと思ったらたぶん10年以上かかるのではないかと思っています。
(テンションがもつかは置いておいて)
結論を言いますと
「もはやNo.017がマサポケの全権を握っている限りにおいて、拡大路線は有り得ません。」
お隣のポケノベさんのような本棚システムが構築される事もありませんし、コンテストを開くこともないと思います。
(気まぐれにやっても年1回とか、2年に1回とかがせいぜいでしょう)
すでに感想もあまりつけられていない状態です。
(これに関しては義務ではないですが…)
私がもう一人いれば、もう一人にこれをやらせたのですが、
残念ながらNo.017は一人しかおりません。
実際にやってみてやはり、
一人のNo.017さんでは自身の創作の面倒をみるのがやっとでした。
さて、
これに対する対処方法としては何通りかのパターンがありまして
【No.017続投パターン】
・ポケストルールを改定し、掲示板投稿機能のみ維持、
本棚設置は無し、コンテスト開催も(基本的には)無し
ロンストに関しては検討
↑今のところこれが有力
【管理人交代パターン】
・マサポケの運営をやりたいという方に全権を委任、以降その方の方針に従う。
(過去にマサポケでは何度もあったことです)
【運営委員会設置 or 一部権限委譲パターン】
たとえばコンテスト担当、トラブル処理、スパム削除人、感想普及委員等、イベント係を任命、
私はサイトデザインだけやるとか、よにかくそんな感じで何人かで分担するパターンです。
(実は一世代前のタカマサさん時代がこれで、私はHPデザイン担当で、本棚の管理保守に別の方がいらっしゃいました)
などが考えられます。
これに対し、本日のチャット会で皆様の意見をお聞かせ願えればと思います。
できるできないはあるかと思いますが、今後のマサポケに何を求めるか聞かせてください。
・管理人をやりたい
・○○なら出来る
・本棚システムが欲しい
・コンテストをやって欲しい
・もっと感想が欲しい
・掲示板さえ維持されてればおk
等、なんでも結構です。
ぜひよろしくお願い致します。
チャット会は20:00予定です。フライング可。
フミんさん、どうも。
実はまさにそのあたりなんですよ。相談したいのは。
詳しくは後述しますね
フミんです。お世話になっております。
まだこちらに通い始めて日が浅いですが、私個人が思うことは、また文章のコンテストをしてくれると皆のやる気が出てくるのではないかと感じました。
短いですが失礼します。
感想コメントありがとうっす!
高いところから落ちるアトラクションが嫌いで嫌いで嫌いなので、怖い人から見た落下の仕方というのが伝われば幸いです!
好きな男より自分の夢優先はどうなんだってげしげしされると思ってたけどそんなことなくてよかったです!
ダイゴさんはイケメンです。
ダイゴさんください
ダイゴさんください!
ダイゴさんください!!
私はダイゴさんをずっとかいていきますし相手はもう誰でもいいです
男でも女でもポケモンでもいいからダイゴさんが欲しくてたまりません
では
【ダイゴさんください】
なるほど、黒歴史暴露じゃねーの……
・時の探検隊
一回目
主人公:ヒコザル(♀) パートナー:ピカチュウ(♂) チーム名:クリスタル
二回目
主人公:ヒコザル(♀) パートナー:ミズゴロウ(♂) チーム名:バレーノ
三回目
主人公:ワニノコ(♀) パートナー:アチャモ(♀) チーム名:notte
備考。
・何と言う主人公の♀率
・未だに何故三回目の主人公、パートナー共に♀だったのか分からない
・ピカチュウのほうでんに何度助けられたことか
・最終的に一回目はラスボス戦をレベル46にするまで勝てなかった 理由はふっかつのタネが無かったから
・ついでに友人にアドバイスを求めた 眠らせてじゃあくなタネを使うことで何とか勝てた
・北の砂漠はトラウマ すなあらしとかマジ滅びろ
・ジュプトルマジイケメン
・ジュプトルマジイケメン
・ジュプトルマジ(ry
空の探検隊
一回目
主人公:コリンク(♂) パートナー:イーブイ(♀) チーム名:トゥオーノ
二回目
主人公:コリンク(♂) パートナー:ミズゴロウ(♂) チーム名:ヨシツネ
備考。
・やっとコリンクが使えるようになって泣いた
・しかしイーブイの使えなささに一番泣いた
・ラスボス戦はほとんど一匹だけで戦った
・滅びよ……(とくせい的な意味で)
・主人公コリンクに♀要素が欲しかったがそれはありえなかった
・進化したらめっちゃ使いやすくなった スイクンをほうでん一発で倒したのはいい思い出
・スケスケだぜ(透視眼的な意味で)
・スペシャルエピソードで一番泣いたのは実は『てんさいププリン』だったりする
二次創作的要素。
ラスク(ピカチュウ♂)
ざんねんな イケメン。 つねに アコギを もっている。 えんそうは うまいが うたは ドへた。
まさに ほろびのうた。
しゅみは モンハウを あらすこと。 べつめい きいろいあくま。
マーレ(ヒコザル♀)
はくのは ほのおより ばりぞうごんが おおいという とんでもない ヒコザル。
パートナーが ヘタレすぎて なげいている。
パートナーを いせいと おもっていない。 むしろ どうぞくと おもっていない。 ただの ムシケラ。
ピオッジャ(ミズゴロウ♂)
おとこと いうより おとこのこ。 『こ』のじは むすめとかく。
くちを ひらけば あいかたの なまえが でる。 ヘタレの なかの ヘタレ。
ほんきを だせば つよいが ほんきを だす きかいが めぐってこない。
フォーテ(ワニノコ♀)
『ねえ おばあちゃん おばあちゃんのくち ずいぶん おおきいのね どうして?』
『そりゃあ おまえを たべるためさ !』
という かいわが ピッタリな おおぐらい。 つうしょう あくじき。
ミスミ(アチャモ♀)
かわいくない ヒヨコ。 あいかたの あくじきに てをやく。
いちど ねこみを おそわれた ことがある。 きづけば どなべのなかに いれられていた。
しゃもなべに するつもり だったらしい。
ナミ(コリンク♂)
いちばん おもいいれが ふかい キャラ。 そのため よく ひどいめに あわされる。
しんかしてから なぜか どうせいに モテるように なった。
ちなみに データをけした りゆうは おとうとが かってに もっていって やりなおしを したため。
リモーネ(イーブイ♀)
もふもふは せいぎと ごうごする もふもふ。
だが そうとわかっても ゆるせないくらい よわい。
けっきょく いちども しんかすることなく おとうとに データを けされた。
ミツキ(コリンク♂)
かんさいべんで はなす ようきな コリンク。
べつに ゴンタクレでは ない。
いやに ながいなまえの わざも もっていない。
シグレ(ミズゴロウ♂)
かわいい。 とにかく かわいい。 パッとみると こちらが おんなに みえてしまう。
いつも ミツキの うしろに かくれている。
とくぎは おねだりと スリと ひろいぐい。
――――――
長いな!
ちなみに未来組も名前だけ。
ジュプトル:ヴェトリ ヨノワール:モルテ セレビィ:ランポーネ
中二の時に考えたので中二病臭が凄まじい
【よろしければ皆様も】
あなたがいたから 僕は外の世界を知ることができた
あなたがいたから 毎日がとても楽しかった
あなたがいたから 辛いことでも乗り越えていけた
あなたがいたから あなたのために頑張ろうと思った
あなたがいるなら どこへでも行ける気がした
あなたといるなら なんだってできる気がした
あなたといること それが僕の当たり前だった
あなたといたから 時間はあっという間に過ぎて行った
あなたといられて とても幸せだった
あなたといたこと 一番大好きだったあなたへ
――ありがとう
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
大好きな人との時間は永遠に続いてほしいけど、なぜかすぐに時が過ぎてしまう
こちらの第9回のバクフーンのイラストを見ながら書きました
http://7iro.raindrop.jp/
今でも時々夢に見る、あの光景。あれから一度も行ったことはないけど、それでもハッキリ覚えている。
随分と引っ込み思案だった私を。他人に合わせることしか出来なかった私を。
ガラリと変えたのは、紛れもない、あの出来事なのだ。
――――――――――――――――――
生まれてから幾度目かの夏が巡って来て、そして終わった。まだ少し蒸し暑い日もあるけど、朝方と夜の冷え込みは秋が少しずつ夏との椅子取りゲームに勝って来ていることを教えてくれる。
空は高い。雲は時々入道雲、鰯雲。雨は降る時にはしつこく、止むとまた少し涼しさを持ってくる。そんな昼夜の気温が安定しない日々で、私が考えていたことといえば、一匹のツタージャのことだった。
ツンとした態度と、時折見せる寂しげな表情。ロンリーボーイ……ガールではないと思う。会って少し経ったが、その子の性別は未だはっきりしない。そもそも自分のポケモンとしてポケモンセンターや育て屋に連れて行っていいのか、それが分からなかった。
生まれて十四年が経過したが、ポケモンを持たせてもらったことは一度もない。両親が海外へ行く前に免許は取ったが、どうしても持つ気になれなかった。持っていた方が何かと便利であることも、市民権をより強く得ることができるのも分かっている。
だけど……。
ピンポーン、という音で我に返った。慌ててパスを反対にして翳す。幸いにも後ろに待っている人はいなかった。
最寄り駅であるライモンシティから少し離れた場所。住宅街に面した、どちらかといえば田舎寄りの土地。同じような家が並び、何処が誰の家なのか見分けがつかない。
だが、迷うことは無い。何故なら、今から自分が行こうとしている家はそれらからかなり浮いているからだ。
「趣味が伺えるなあ……」
アースカラーが似合う家。壁にはめられたステンドグラス。今日はよく晴れていて、青い空がグラスに映っている。光を浴びている彫られたポケモンも、活き活きとしているように見える。
家と家の間に申し訳無さそうに建っている。写真を撮ろうにも全て同じアングルからしか撮れないだろう、というくらい小さい。まるでシンオウ地方にあるという白い時計台のようだ。ビルとビルの間にあり、たとえタウンマップの表紙を飾っても現地に行けば驚かれてしまうような……
いつも通りにノックして、ドアを開ける。そして――
ひっくり返る。頭を打った場所が芝生の上だったことが不幸中の幸いで、ゴチン!という目を覆いたくなるような惨事にはならなかった。
一応後頭部を撫でる。鈍い痛みはあるが、たんこぶになるような気配はない。一体全体どうしたもんだ、と前に視線をやった私が見た物は……。
「あ」
『キュウウ』
お馴染みの目と目が合う。大きな瞳に、私の間抜けな顔が映りこんでいる。眼鏡がズレているのを直すと、私は立ち上がった。ついでにパンツの埃を払う。
ツタージャは焦っているようだった。妙にわたわたしていて、いつもの冷静沈着な面は見えない。思わずクスリと笑うと、怒ったらしくつるのムチで頬をペシペシと叩いてきた。
ごめん、ごめんと謝ると腰に手を当てたままムスッとしている。
「珍しいね。自ら出てくるなんて」
『……』
「どういう風の吹き回し?」
私のからかいを無視して、そのままてってっと道路の方へ走っていく。予想外の行動に暫し呆然としていたが、慌てて開けっ放しになっていたドアを閉めて、ツタージャの後を追う。
相手の足の長さが幸いして、私は迷路のような住宅街でもその子を見失わずにすぐに追いつくことができた。
鉄の焦げる匂いがする。聞きなれた、ノイズ混じりの男性の声。スピーカーから流れる、割れたチャイム。小型ポケモンは料金は無料だということを思い出し、私は再びパスを通して改札口を通った。
「駅……」
ついさっき私が通ってきた駅。可愛らしいカフェは付いていないが、海と山、両方に囲まれた土地にあるため比較的通っている路線の数は多い。四番線まである。
その中の一つ―― 三番線ホームへの入り口である階段前に、ツタージャは立っていた。しきりに上の方を見つめている。見慣れた屋根の裏側。蛍光グリーンの文字盤が、時間を示す。電光掲示板はここからでは見えない。
そっと足を動かしては、引っ込めるという動作を繰り返すその子に、私はもしや、と思い訪ねた。
「……足、上がらない?」
『……』
「上に行きたいんだね?」
頷いたのを確認してから、私はそっと彼の腕の下に手を滑らせた。そのまま胸元まで抱き上げ、階段を上がっていく。多少プライドを傷つけられたのか、しばらくそっぽを向いていた。
変化があったのは五十段目を昇り終えた時。私が油断していたせいもあるけど、昇り終えて気が抜けていた私の手をひょいっと抜け出した。
「こら!」
そのままてててと停まっている電車に滑り込んでいく。右側に線路にドンと居座る、シルバーに緑色のラインが入った車体。ちなみに反対側はブルー。
息を切らして乗り込むと、ツタージャは一番前の座席の端っこにちょこんと座っていた。周りにポケモンを連れた乗客は数人。一人はヨーテリー、一人はドレディア(しかも恋人繋ぎ)、そして最後はツタージャの進化系であるジャローダ。
彼らの間で見えない火花が散った気がした。厄介ごとになる前に、相手のトレーナーがペシンと頭を叩いたから、大丈夫だったけど。
いつの間にかアナウンスが流れ、ドアが閉まっていた。ガタン、ゴトンと列車が動き出す。このまま立っているのも危ないので、ミドリはツタージャの隣に腰を下ろした。
上を見ると、広告と一緒に路線案内図が貼られている。何か書いてあるのは分かるが、両目とも視力0、1のミドリには読めない。
たとえ、眼鏡をかけていても今は。
(見えない物、か)
以前読んだ本に書いてあったフレーズが、ふと頭を過った。
『大切なものは、目に見えない――』
周りに付き合うことに疲れていたミドリの心に、それは深く響いた。
友達は、大切。その関係という物は目には見えない。だけど、人間は目には見える。目に見える物と見えない物が合わさり、この世界は成り立っている。
それに気付けるかどうかは、彼ら次第なのだと…… 他人に教えてもらうより、自分で気付けるかどうかが大切なのだということに気付いた。
窓ガラスが黒い画用紙を貼ったように黒くなっていた。そこに自分とツタージャの姿が映る。鏡のようだ。
その中に映る自分はどんな顔をしているのか。ぼやけてよく見えない。
いつの間にか周りに立つ人間が増えていた。その中の人集団に目を留める。彼らの格好はほぼ同じ。髪を短く切り、ピアスをしている。この季節には似合わない、よく焼けた肌の色。大荷物。左手首に不思議な形の日焼けの跡。
それに当てはまる物を考えた瞬間、一気に車内が明るくなった。ツタージャが眩しそうに目を覆う。ミドリも振り返って窓の外を見て―― 答えが出た。
キラキラ光る線。太陽が丁度世界の中心に上っている。青い波が押し寄せては崩れ、白波へと変わる。
小さな人影。皆が皆、彼らと同じような格好をしている。波に乗り、風を掴み、どれだけ転んでも立ち上がる。
周りに迷惑をかけることのないこの時期を選んだのだろう。
海だ。
山と崖に囲まれた場所に、海が広がっていた。
降り立った駅はかなり寂れていた。そもそもこんな駅でもきちんと成立しているのか、と考えてしまうくらいボロボロの建物である。屋根のペンキは剥がれ落ち、かつては赤だったと思わせる色。今では色あせ、その赤色の面影もない。どちらかといえば限りなく白に近いピンクに見える。
自動販売機があったが、ラベルが色あせていたためしばらく取り替えられていないことが分かる。つまりはドが付くほどの田舎だということだ。
「ライモンシティとは大違い……」
流石に呆然としたミドリの耳に、ツタージャの声が届いた。振り向くと改札口を通り過ぎ、そのまま道へ走って行こうとしている。
またこのパターンか、と思いながらもミドリは好奇心が湧き出てくるのを感じていた。ツタージャが知っている世界を、自分も見てみたい。
そんな思いを胸に足を動かす。
車通りは少なく、ツタージャはその短い足を器用に動かして先導していく。途中で寂れた飲食店、未だ現役なコンビニ(駐車場付き)を幾つか通り過ぎた。いかにも、な看板が目に入り、ふと懐かしさを覚える。
やがて、私の足は海の側にある小さな裏道の入り口で止まった。
まだ青い木々が行く手を阻む、坂道。『止まれ』の白い文字はハゲかけている。
「ここを登るの?」
『キュウ!』
それだけ言って上っていく。だがなかなか進まない。それでも確実に上がっていく。迷いは無い。
……慣れている。
汗一つかいていないツタージャと反対に、登り始めてたったの五分で息が上がり始めたミドリ。帰ったら運動しよう、と決心する。
それにしても、かなり長い坂だ。途中で右に曲がり、その後は一方通行。視界に『野生ポケモン出没注意』と書かれた看板があった気がしたが、気のせいだと思いたい。
携帯電話は圏外だった。
「あー……」
登り始めておよそ二十四分と五十三秒。ようやく視界が開けた。緑一色だったのが、青と土色が混ざる。
柔らかい風が髪を撫でていく。
まず最初に目に映ったのは、木で作られた家。昔読んだ某医療漫画の主人公の家によく似ている。だがそのシチュレーションがぴったり合って、ミドリはほう……とため息をついた。
ツタージャがつるのムチでドアノブを回そうとする。だが鍵がかかっているようで開かない。
「鍵無いの?」
頷いたのを見て、ミドリは少し下がった。そして――
「はっ!」
思いっきり体当たりした。錆び付いていたのだろう。バキッという音がしてドアが倒れる。はずみで地面に転がった。
舞う埃に咳き込みながら辺りを見回す。内装、家具共にカントリー調だった。しばらく使われていないのだろう、埃が積もりに積もっている。
ツタージャが遅れて入ってくる。小さな足跡が、床に付く。見れば自分が穿いているスニーカーの跡もくっきり付いていた。
……ついでに、転んだ跡も。
「ここは……」
『キュウウ!』
再びつるのムチ。目の前のテーブル横にある引き出しの一つを、必死で開けようとしている。長いこと開けられてなかったせいだろうか。その天然の木で作られた引き出しは染み出る樹液で固まっており、ビクともしない。
だがツタージャは気付かない。しまいにはタンス本体がガタガタと音を立て始めた。
「ストップ!」
不満げな顔をするツタージャを抱き上げ、テーブルの上に乗せる。自分で引っ張ってみたが、やはり動かない。
仕方ないので持っていたペンケースからカッターナイフを出し、境目に刃を擦り付ける。ガキン、という嫌な音がした。何とか引っかからずに刃が通るようになってから取り出す。
銀色に輝く刃は、見事にジグザグ状の割れ跡が入っていた。もう使えないだろう。
幾許かの虚しさを感じ、ミドリは使い物にならなくなったカッターナイフを机の上に置いた。続いて引き出しの取っ手を引っ張る。
刃を犠牲にしたおかげか、それは先ほどとは比べ物にならないくらいスムーズに開いた。
「……何だこれ」
古い、古いノートとスケッチブック。最近雑貨屋に増えてきたアンティーク風にデザインされたノートよりも、よっぽど年季が入っているように見える。色あせ、開いて見た中の文字はかなり薄くなっていた。
スケッチブックを傍らに寄せ、ノートの文字を見る。ツタージャにも見せようかと思ったが、しきりにスケッチブックを漁っているので放っておく。
「えー、なになに……って、英語!?」
日本語ではなかった。授業で習っていない単語のオンパレード。それでも今までの経験値とこの家の雰囲気からヒントをもらい、頑張って分かる単語を組み合わせていく。
一ページ読むのに五分。その日記は約二十ページあった。×五で百分。一時間と四十分。そういうわけで、ようやく納得できる翻訳を終えた時には既に西日が窓から差し込んでいた。
立ちっぱなしで棒のようになった足を擦る。埃だらけの椅子を持っていたティッシュで拭い、座る。机に突っ伏して、内容を反芻する。
「ツタージャのご主人様の、家なんだね」
『キュウ』
「ん?」
ツタージャがスケッチブックから一枚の紙を取り出し、私に見せた。良く見ればそれは紙ではない。いや一応紙の分類に入るのかもしれないけど、色あせた画像のオプション付き。
今とあまり変わらない服装の男女が立っている。撮影場所は多分この家の前。その真ん中にツタージャ。写真の状態から見て、二十年くらい前のようだ。
日記の内容と照らし合わせて再び考える。
その日記は、このツタージャのご主人が、自分が死ぬ前に書き記した物だった。
時は三十年ほど前。その男は、デザイナーとして世界中を回っていた。カントー、ジョウト、ホウエン、シンオウ。同じ場所に一年留まることなく、まるで風のように居場所を変え続ける。――いや、居場所なんて求めていなかったのかもしれない。新しいデザインのネタとなりそうな噂を嗅ぎ付ければ、たとえどんなに遠い場所でもすぐに向かう。そんな生活をしていた。
そしてそんな生活の中で、彼はふとしたことから伝説のポケモンに魅入られてしまった。神話や昔話だけに登場し、気まぐれに人間の前に姿を現す、希少な存在。それは何処の地方へ行っても伝わっており、その話をする人間の瞳は輝いていた。どんなに歳を取った者でも、それを口にする時その瞳は子供のように輝く。
そして、その男もそうだった。
彼は旅の途中で出会った女性と結婚し、彼女と共に各地の伝承や昔話が書いてある本を求めて回った。理由は一つ。想像図で描かれた伝説のポケモンを、何らかの形で残したいと思ったから。
その形は、彼の職業によってすぐに成すこととなる。
それが、ステンドグラスだった。
想像だけで描かれた物も多く、細部などはなかなか納得のいく物ができず、作っては壊しの繰り返し。それでもやっと、ほとんどのポケモンをモチーフにしたそれを作り上げた。
さて、少し落ち着いたかと思った彼の耳に飛び込んで来た、新しい情報。それは、イッシュ地方の英雄伝説だった。
理想と現実。対立した二人。それぞれについた、黒と白のドラゴンポケモン。
男はすぐさまイッシュに飛んだ。愛する妻と共に。ツタージャとはそこで出会ったようだ。育て屋の主人と知り合い、タマゴを分けてもらったのだという。
特に戦わせることなく、だが一緒に本を読んだりしたおかげで思考回路だけは発達したようだ。その気になれば仕事を手伝ってくれたりもしたらしい。
だが、イッシュに来てから三年目の冬に妻が倒れた。長い間連れまわしていたせいで彼女の体には病魔が巣食っていた。
我慢強い性格ということに気付けなかった男は、仕事を放り出して妻の看病をした。だが妻はステンドグラスの完成を望むと言い残して息を引き取った。
悲しみに暮れていた男だったが、妻の最期の言葉を思い出して再び英雄伝説を調べ始める。気付けばイッシュに来てから五年が経過していた。
そして、やっと完成したというところで男は倒れる。彼の体にもまた、病魔が巣食っていた。
死を予感した男は、一匹で残されてしまうツタージャを思い、死の床で手紙を書いた。それは遺言状だった。
内容は――
「『このツタージャが認めた者は、自分の今まで造り上げたステンドグラスの所有権を持つ。その人間が現れるまで、作品は全て何処かの場所に保存しておくこと』」
昔からの知り合いに頼み、全ての遺産を使って保存しておく場所である小さな家を建てた。
ツタージャを任せ、彼が素晴らしいパートナーにめぐり合えることを祈った。
そして、息を引き取った。
日記に書かれていた文は最後の方が震えていた。おそらく最後までペンを握っていたのだろう。
「……」
ツタージャの瞳は綺麗だ。だが、その目が主人の最期を見ていたのかと思うと、何とも言えない気持ちになる。
明日が分からない世界に、自分は生きている。たとえば家に帰ったら両親の訃報がメールで来ていたり、今こうしている瞬間に巨大な地震が起きて死ぬ―― なんてことも考えられないことではないのだ。
『ありえない』と言い切れない。
それが、怖い。
――だけど。
「『ありえない』そんな言葉通りの世界なら、きっと君は私をここに連れて来る事はなかったんだよね」
『……』
「ううん。きっと、会うこともなかった。私を垣根の上から見つけて、私が貴方を見つけて、目が合うことも―― そしてここまで発展することも」
何が起きるか分からない。未来は、何が起きるか予測できない。
――だから、面白い。そう思いながら生きれば、きっとアクシデントも乗り越えられる。
そう、信じたい。
「……ご主人のこと、好きだった?」
『キュウ』
「私は、ご主人にはなれない?」
『……キュウ』
予想していた言葉。私だって、この子の『ご主人』になる気はない。だから。
「じゃあ、私と『友達』になってくれる?」
そっと右手を差し出す。『友達になってください』なんて言うことはないと思ってた。だって友達は自然に作るものだと思ってたから。
でも今なら分かる。
この仕草って、恥ずかしいけど……。
『キュウウ!』
なんだか、嬉しい。
ツタージャの小さな手と、私の人差し指が繋がった。
ガタガタという音と共に、窓が全開になった。
驚く私達をよそに、カーテンが海風に煽られて広がる。
一人と一匹の影が、夕方近くの太陽に照らされていた。
「――浜辺を散歩してから、帰ろうか」
私の言葉に、ツタージャは目を閉じて頷いた。
――――――――――――――――――――
『ソラミネ ミドリ』
誕生日:12月4日 射手座
身長:154センチ(中二) 156センチ(高三)
体重:51キロ 53キロ
在住:イッシュ地方 ライモンシティ
主な使用ポケモン:ツタージャ(中二) ジャローダ、フリージオ、あと何か水タイプ(高三)
性格:れいせい
特記事項:両目とも近視。祖父は官房長官。叔父は監査官。父は世界的に有名な科学者。母はフラワーアレンジメント。
きなりの キャラで かなり しょきから いる。
めがねをしたり はずしていたり デザインが おちつかない。
あいぼうは ねいろさんの もちキャラである コクトウさん。
まさに あいぼう。
はくしきだが だんじょかんけいには うとい。
レディ・ファントムが からむと あつくなる。
めさきのじけんに とらわれて たいせつなものを みおとす タイプ。
あるいみ しあわせなこである。
――――――――――――――――――――
『紀成』から『神風紀成』になったのと、高校入学の年から卒業の年まで来たので、リメイクしてみた。
ついでに途中から来た人は知らないであろううちのキャラのプロフィールを載せてみた。
もう少し続ける予定。
うおおぉぉはじめまして!!紀成さんからコメントいただいちまったぜひゃっほう!
> ふっかつのタネ売ってたとかバカだよね!そして空探イーブイはパートナーにしてはいけなかったよ!
> HP少なすぎ+特性発動で全く使えやしねえ!
にげあしがこんなにもイライラ特性とは思わなんだ……
「わたし主人公を信じるよ!」とか言っておきながら逃げるとかどういうキャラを目指しているんだろうか。
> > ゲンガー「ケケッ、とうとうオレたちイジワルズの活躍をドラマチックに描いた待望の新作が発売するってのか」
> >
> > ハスブレロ「んなわけねーだろ」
>
> 辛辣なコメントありがとう
> あの時はまだゲンガーの可愛さに気付いていなかったのだよ 今更やる気起きないけど
ならゲンガーさんは私がもらっていきますねww
ゲンガー派とヨノワール派に分かれたのはポケダンが原因だと思うんだ……
次回作はシャンデラあたりが参戦するのかな。
> > ジュプトル「ヨノワール、やはりキサマが黒幕か」
>
> ちょっと違うぞジュプトル!空のスペシャルエピソードはガチ泣きした
あの朝焼けのシーンでおいセレビィそこかわれとか思ってたアホな人間は私だけでいい。
ぽけだんわよいこのためのげーむです
> > モルフォン「新技ちょうのまいからのぎんいろのかぜで今まで以上に暴れてやんぜ」
> >
> > デンチュラ「ふっかつのたねなんぞ食わせるか」
> >
> > ゴローニャ「がんじょうで堪えてじしんで全体攻撃します」
> >
> > チラチーノ「夢特性次第で無双します」
> >
> > エルフーン「いたずらごころでおいかぜします」
>
> ごめんなさいお願いだからそれだけはやめて子供が泣いちゃう
> どうせならエンディング後に出てくるチートダンジョンに出てきてくれ……
意外なポケモンが意外な強さを発揮する、それがポケダンの醍醐味です。
さあ…きゅうじょいらいを消化する日々が始まるぜ。
コメントありがとうございました!
【みんなもポケダンの思い出語るといいのよ】
ある日のこと。
黄緑色の小さな妖精が円状に十二個の種を地面へと埋めました。
毎日、水をいっぱい与え、育ちますようにと願いました。
すると、最初の萌芽がやってきました。
地面の中から、一葉をつけた芽が現れて、黄緑色の妖精が群青色の神様を呼びます。
双葉の姿を見て、群青色の神様が黄緑色の妖精の小さな頭をなでます。
それから群青色の神様が力を込めますと、辺りに結晶が現れてその一葉の芽を抱きしめたかと思うと、その双葉は結晶の中に取り込まれていきます。
かちんと何かがはまったかのような音とともに、透き通った結晶の中には一葉がありました。
その後、二個目の種も地面から芽を伸ばし、一本の木になったところで、黄緑色の妖精がまた群青色の神様を呼びました。
すると、双葉のときと同様、群青色の神様はその木も結晶に抱かせました。
またその後、三個目の種も地面から芽を生やし、それはたちまち大きくなって、それはそれはその身に淡い桃色の花をたくさんつけた大樹となりました。
その桃色の花びらが宙に舞う姿に心を躍らせながら、黄緑色の妖精は群青色の神様を呼びました。
綺麗だ綺麗だと目を輝かせながら語る黄緑色の妖精に、群青色の神様は微笑みながら一つ頷くと、その大樹を結晶の中に入れました。
美しい桃色の大樹が生まれた後、四個目の種から芽が息を上げました。
一個目のときとは違い、双葉になったときに群青色の神様によって、結晶の中に入りました。
四個目に続いて五個目は緑色の太い茎が伸びたところで、結晶の中に入ります。
それから六個目の種からは大きな黄色の花が咲きました。黄緑色の妖精は自分の顔と、たくましい茎の上で揺れているその花の大きさを見比べて、大きい大きいと楽しそうに騒ぎます。
その様子を見ながら、群青色の神様はその大きな黄色の花を結晶の中へと取り込ませました。
大きな黄色の花に驚いた後に、七個目の種から芽が生まれます。
今度は三葉の状態で、群青色の神様は結晶の中に入れます。
そして八個目は二個目のときと同様に、一本の木のところで結晶の中に入りました。
その後、九個目の種からは真っ赤な葉っぱを衣にした一本の大樹が生まれました。その真っ赤な色に黄緑色の妖精は心を奪われたかのように呆然としています。
それから、群青色の神様はその大樹を結晶の中へと取り込ませました。
真っ赤な大樹が生まれた後、十個目の種から目が生まれます。
今度は四葉の状態で、群青色の神様は結晶の中に入れます。
それから十一個目は緑色の茎が伸びてきたところで、結晶の中に入りました。
ようやく最後の十二個目の種から出てきたのは、中央に小さな黄色の花を咲かせた白い花でした。高さは黄緑色の妖精より少し低く、右手を使って背丈を比べていた黄緑色の妖精は自分の方がお姉さんだねと笑いかけていました。
それから、群青色の神様はその花を結晶の中へと取り込ませました。
こうしてできあがった十二個、円状に並ぶ結晶の中にあるのは芽や木や花たち。
それらを眺め、準備はできたとでもいうように群青色の神様は一つ鳴きますと、その円の内側を沿うように歩き始めます。
どしんどしんとゆっくり、歩を刻んでいき、黄緑色の妖精はその姿を眺めながら歌い始めます。一つ一つの種からどんなものが生まれるのだろうか、それを楽しみにしていた心。また、種から生まれた奇跡に喜んだ心を音色に変えながら、歌いました。
するとどうでしょう、一個、一個の結晶が淡い光を放ち始めるではないですか。
最初はちかちかと小さな光でしたが、やがて、辺りをも染めるかの大きな光へとなっていきます。
その色は緑だったり、黄色だったり、桃色だったり、真っ赤だったり、白だったりと様々で、その光と光が合わさるとまた別の色になって辺りに漂います。その光の動きはなんだか楽しそうなものでした。
群青色の神様がゆっくりと一周すると、黄緑色の妖精が隣の結晶に移動し、また群青色の神様がゆっくりと一周歩き出します。
やがて暖かい風が流れ。
続いて暑い風が流れて。
それから涼しい風が流れて。
その後に冷たい風が流れて。
ぐるぐると十二個の結晶の内側で刻まれていく軌跡が羽ばたいていって――。
世界に時間が満ち、季節が巡り回り始めました。
今も――。
群青色の神様が大きな針のように。
黄緑色の妖精が小さい針のように。
この世界の時を刻み、季節を彩っています。
【書いてみました】
お久しぶりの投稿となります、どうもです、巳佑です。
今回は時と関係深そうな二匹を書いてみました。
ある意味、この話の中では、お互い時間を司るパートナーみたいなものかなと思ってみたり。
まぁ、群青色の神様のパートナー的存在は某ぱるぱるぅさんだと思われますが(苦笑)
楽しんでいただけたら幸いです(ドキドキ)
ありがとうございました。
【気がつけば、理シリーズも4つ目と相成りました】
【なにをしてもいいですよ♪】
夜遅くにこんばんは! イサリです。
先日は過剰に反応してしまい申し訳ありませんでした。
無礼をどうかお許しください。
『空を飛んで』を読ませて頂きました。描写が自然と頭に浮かんできて、とても読みやすいです。タイトルの通り、吹き抜けるような爽やかな読了感のあるお話でした。
愛する人のために共に苦難を乗り越える話は、やはり良いものだなあと思いました。
ダイゴさんはイケメンでした!
昔ルビーをプレイした時の彼の印象は「信念はあるのにつかみどころのない人」でしたが、こういう、いざというとき頼りになる姿はいいですよね。
『星空を見上げる海の上』で危うい印象を持っていただけに、最後はハルカちゃんが強かで安心しました。
お前が言うなの嵐でしょうが、やっぱりハッピーエンドが一番ですね!(
それでは、失礼いたしました。
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