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そこはとある稲荷神社。
周りには一人もいない静かな境内、まるでそこだけ別世界のような不思議な静寂が漂う中、一匹の獣がそこにただずんでいました。
神社の外側はぐるっと木々で覆いつくされており、内側に招き入れたかのように差し込む月光がその狐を照らしています。
白銀に身を包んだ滑らかな肢体。
ふんわりと揺れている九つの尻尾。
そして、その尻尾にはたくさんの短冊が貼られていました。
くわぁああん。
くわぁあああん。
凛と天に向かって鳴く獣の声はまるで鈴の音のように。
そして、笛の音を奏でるように獣の口元から青白い焔が伸びていきます。
くわぁあああん。
くわぁああああああん。
何度も月に木霊していく自分の歌に合わせて、獣は踊り始めます。
青白い焔がその踊りに導かれるように、宵の宙を舞い、いくつかの輪を作っていきます。
月光に照らされた青白い焔はらんらんと妖しく、まるでおいでおいでと誰かを招くかのように揺れています。
くわぁあああん。
くわぁああああああん。
やがて、獣の吐いた青白い焔は尻尾の方にゆらりと向かい、そしてそこに張られている紙に取りつきます。
すると、青白い焔に抱かれた紙は燃えていき、やがて、真白な灰となって、高く高く宵の空に昇っては消えていきます。
また一枚。
もう一枚。
青白い焔で灰となって、宵の空に飛んでいっていきます。
『もっとポケモンバトルが強くなりますように』
『タマムシ大学に受かりますように』
『タマゴから元気なポケモンが生まれますように』
様々な願いが星へと届いていきます。
くわぁあああん。
くわぁああああああん。
短冊に込められた願いを感じながら獣は踊り続けます。
星に人やポケモンの願いを聞かせるように青白い歌を紡ぎながら。
くわぁあああん。
くわぁああああああん。
くわぁあああん。
くわぁああああああああああん。
夜空にきらきらと流れるは天の川。
そこに一匹の黒い翼を持っており、金色の飾りを携えたポケモンが泳いでいました。
ゆっくりゆっくりと泳いでいる、そのポケモンの上には一匹のポケモンと一人の人間が隣同士で座っています。
一匹は白い二本の角の生やし、悪魔のような尻尾を生やしたポケモン――ヘルガーで、その隣にいる人間は白い髪を肩まで垂らした少女でした。
少女は眼前に広がる星々を指で示しながらきゃっきゃっと楽しそうに笑い、ヘルガーはその姿に微笑みながら頷きます。
「ねぇねぇ、ヘルガーいっぱいお星さまがあってきれいだよね! なんか海みたいだなぁ、泳げないのかなぁ」
そんなことを言いながら飛び込もうとする少女の脚に、ヘルガーが前足を置いて一つ鳴きました。その顔は悲しそうなもので、天の川を泳ぐポケモンも少女の方へと顔を向け、その目つきを鋭く当てていました。少女は残念そうに肩を落とし、再びヘルガーの横に座ると、そのまましばらく無言が一人と一匹の間に流れます。先ほどの楽しげな雰囲気はどこへやらで、水を打ったかのように沈黙の時間は流れていきます。
その時間がいくぶん流れた後、少女が口を開きました。
「ねぇ、ヘルガー。わたしね、おねがいしたんだ。ヘルガーとずっといっしょにいられるようにって。もっといっしょにあそべるようにって。ねぇ、ヘルガー。わたしたちずっといっしょなんだよね? そうなんだよね? ねぇ、ねぇってば!!」
気がつけば、少女の喉からはおえつが漏れ出ており、やがて我慢が切れた少女はヘルガーを抱きしめ、わんわんと泣き始めます。少女のほっぺたにつたう感情がヘルガーの首元へと溶けていき、ヘルガーはただ、目をつぶることしかできませんでした。少女の気持ちが痛いほど、ヘルガーの心の中に入り込んできて、その痛みでまぶたが重くなって――。
ぱぁんぱぁん。
何かが弾ける音がしました。
その音に目を覚まされたかのようにヘルガーの瞳がぱっと開きます。続けて、同様にその音に呼ばれたかのように少女もなんだろうと、音がした方に泣きじゃくりながらも向きます。
ぱぁんぱぁん。
天の川を泳ぐポケモンの下で、広がっては消える赤い花、青い花の光、黄色い花。
少女とヘルガーの瞳の中に何度も咲いては散ってを繰り返していきます。
「わぁ……! あれって花火かなっ!?」
そうだと言わんばかりにヘルガーがばうと鳴きます。少女の瞳からはもう涙は止まっており、ヘルガーも楽しそうに尻尾を揺らしており、そのまま、少女とヘルガーはしばらく花火を眺め続けていました。
耳の中を揺らす花が咲く音。
瞳の中に飛び込む花が咲く姿。
少女がゆっくりと口を開きました。
「もう、わたし、ヘルガーとバイバイ、しなきゃ、いけないのかな」
少女の問いかけにヘルガーが静かにうなずきました。
その応えに少女はまた泣きそうにながらも、ヘルガーをぎゅっと抱きしめ、また口を開きます。
「もっと、もっと、いたかったよぉ、もっと、もっと、あそびたかったよぉ」
我慢し切れなかった涙の粒がぽろぽろと少女の瞳からこぼれ落ちていきます。
昼間が暑いから、夜に散歩した夏の日々。
川辺で蛍火を追いかけ回った日々。
その追いかけっこの中で見つけた夜空に咲く綺麗な花。
また一緒に見ようねとあの夏に植えた約束の種。
秋風の中を一緒に通り過ぎ、冬の雪をくぐって、それから春の桜をかぶって――。
やがて、ヘルガーが少女から離れると、天の川を泳ぎ続けるポケモンの背中の端まで歩み寄り、少女の方に向きます。
ばう、と涙をこぼしながらも微笑みながら鳴いて、天の川の中に落ちました。
星の川に落としたその体はやがて光の粒になって消えていってしまいました。
「バイバイ……ヘルガー」
天の川を泳ぐポケモンの背中に涙をこぼしながら、少女はヘルガーが消えていってしまった方をずっと見続けますと、やがて、少女は自分がいつのまにか一個の黒いタマゴらしいものを抱いているのに気がつきました。
もしかしてヘルガーがくれたのかなと思ったのと同時に、急に眠くなってきた少女はやがてばたりと倒れ、そのまま重くなったまぶたを閉じました。
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「白穂(しらほ)、白穂」
「……うーん、お、おかあさん?」
「おはよう、どう? 今日は学校に行けそう? まだ無理だったら休んでもいいのよ?」
「あ、う、うん。ちょっとまって……あれ?」
「あら、そのタマゴどうしたの?」
「…………」
「白穂?」
「……ううん、なんでもない、ねぇ、おかあさん。このタマゴ育ててもいい?」
「ちゃんと、育てるならいいけど……大丈夫なの?」
「うん、大丈夫!」
その少女――白穂はまんべんな笑みを見せて答えました。
「だって、このタマゴにはヘルガーとの思い出がいっぱいつまってるんだもん!」
七夕の夜のこと。
都会を遠く離れた田舎にひとつの神社がある。そこは小高い丘の上にあり、鳥居に続く石段からは町並みを見下ろすことができた。
街灯が点々と夜道を照らす中、しかしその神社では軒下の電灯がひとつ、境内で虫を集めるのみ。管理が行き届いてないのか、主立った明かりは幽霊か狐の作る鬼火だった。
まさに肝試しの場にしかならないような場所だが、そこに人影がふたつ。石段に腰掛けて夜景を眺める男女の姿があった。
「やってるなぁ」
「まぁ、よう燃えとろうなぁ」
毎年の行事を男は微笑ましく思いながら、方や女は片膝に頬杖をついて眠そうに、目を細める。
両名の視線の先には、町の一角を橙に照らす大きな明かりがあった。もうもうと煙を立てるそれは七夕の笹を燃やす火だ。町中の短冊と笹を集め、まとめて火にくべられていた。
短冊にこめられた願い事は煙となって空の神様のもとに届けられ、やがて叶えられるだろう。そんな人々の神頼みを、あざ笑うように女が言う。
「ああも大量に送られては、お空の神様とやらも手一杯であろうに」
煙の中にどれだけの願いが詰まっているのか。無邪気な風習だと呆れつつ、男から手土産にともらったいなり寿司を頬張った。
そうぼやく女に、男が串団子片手に言い返す。
「確かに多いが、急ぎのお願いなんてのは短冊には書かないだろ。神様には、少しずつゆっくり叶えてもらえばいいんだよ」
「あの量を少しずつか。は、ずいぶんと気の長い」
「そういうもんさ。いつか自分の番が来る。そう信じるんだよ、人は。良い話じゃないか、夢があってさ」
「夢のぉ。そんな程度……」
偏見混じりの男の言葉に女は思う。その程度の願いなら、叶う頃には願ったことさえ忘れているんじゃないか。神に頼るほどのこともないのではないか、と。
「ん?」
「いや、そんな程度なら、神様に頼らんでもそのうち叶えられるのではないか、とな」
「あー、その時はその時だろ。神様が、自分で願いを叶えられるように導いてくれた、ってな」
なんとも前向きな思考だ。いよいよ女も呆れ果て、鼻で笑った。
「盲信ここに極まれり、じゃの」
「そう言うなよ。どうせ、将来の目標みたいな感じで短冊に書くんだからさ」
「将来の目標、のぅ」
我が事のように言う男に、女の興味が向いた。男の顔をのぞき込みながら、口の端は上がり、目がいっそう細くなる。
「かく言うお主は、なんと書いたのかや?」
「黙秘します」
いたって自然に断られた。しかしそれではおもしろくないと女は口を尖らせる。
「かーっ、なんじゃい、生意気な口をききおって。
目標と言うからわしが生き証人となってお主の行く末を見届けてやろうとちょいと世話を焼いてみれば、これか。
そんな人に言えんような目標なぞ墓まで持ってくが良い。どうせ達成できたところで自己満足にしかならんからな。
わしは知らんぞ。目標達成の暁には労いの言葉のひとつぐらいくれてやろうかと思うたが、もう知らん。勝手に一喜一憂するが良いわ」
「拗ねるなよ、面倒くせぇな。おまえ、こういう願掛けの類は他人に言ったら効果がなくなるって、よくいうだろう?」
「そんな迷信、気休めにもならんわ。だったら何ゆえ人目に付くような笹の枝に短冊を吊す」
「個人を特定されなきゃ大丈夫だろ」
「大雑把にもほどがあるのぉ〜……」
細かいのかいい加減なのか。苦々しく顔を歪ませる女に、男はため息をついた。
「そうは言うがな。忘れた頃に叶ってラッキー、そんな程度なんだ。ことさら、達成を労ってもらうようなもんじゃない。それに……なぁ」
「それに?」
「失敗したら、おまえ、笑うだろ?」
「…………」
女は目をそらした。
「……そんなわけだ」
「あ……いや、返事に窮したのは、笑うからではないぞ? 目標の種類によると思って、どう返そうか迷っただけじゃ」
「いーんだよ。どうせもう俺の短冊は煙になってる頃だ。神様、織姫様、彦星様、何卒よろしくお願いします、ってな」
言って、男は団子をかじった。
幸いにして今夜は晴天。明かりの少ない土地柄、見上げれば天の川がはっきりと見えた。しかし風に乗って夜の闇に消えていく願い事たちが、はたして空まで届いてくれるのやら。
だが男の投げやりな態度に、女は納得しない。
「これ、弁明も聞かずに不貞腐れるな。わしばっかり悪いようにされて納得できるか」
「あぁ、そりゃこっちも悪かった。いいからこれでも食って少し黙ってな」
「な……んむ」
女の前に串団子が一本、突き出された。それに女はかじりつき、男の手からもぎ取る。
食わせれば黙るという算段か。少々癪に障ったが、団子一本に免じて女は黙ることにした。
「…………」
その団子がなくなるまでの少しの間、男は夜の音に耳を澄ませる。
ひと気のない神社で聞こえるのは、虫の声と幽霊のすすり泣きくらいだ。泣き声は不気味と思うが、その正体が知れていれば怖くもない。複数のムウマによるすすり泣きの練習風景を見てしまって以来、むしろ微笑ましかった。
そんな折に、男の耳に遠くから拍子木の音が届いた。「火の用心」と声が聞こえ、もうそんな時間かと腕時計を眺める。
「……里の夜景は楽しいか?」
「いや、あんまり」
団子を食い終わったか、女が話しかけてきた。しかしその内容には、いささか同意しかねる。
田舎の夜は控えめに言っても退屈だ。黙って見ていると眠くなってくるし、眠れば幽霊からのいたずらが待っているのだから。
「その割には、向こうの明かりをじっと見ておったがなぁ」
「……そうだったか?」
言われて自覚がないことに気づいた。そろそろ眠気がひどいようだ。調子が悪いか、そろそろ帰って寝るか。思いながらまぶたを揉む。
「眠いか」
「それも、ある。ただ向こうの焚き火、雨降らなくて良かったな、って」
言って、男はふと思い出した。
「……そういや、天気予報じゃ雨じゃなかったか? 今日って」
「予報なぞ知らんな。しかし、昼ぐらいまでは確かに曇り空じゃったのう」
両名が見上げる空は、満天の星空。雲はひとつとして見当たらない。
「はてさて、どこぞのキュウコンあたりが“ひでり”で雲を消し飛ばしたのやもな」
「キュウコンなぁ…………おまえ……」
「さーて、わしには心当たりなんぞありゃせんなー」
白々しいというか胡散臭いというか。なんとも人を馬鹿にしたような女の態度だが、しかし女は続ける。
「言っておくが、わしはむしろ七夕は曇り空であるべきと思うとるからの」
「そりゃまた、ずいぶんひねくれたことで」
「ふん。七夕とは、愛し合いながらも離ればなれの男女が、一年の中で唯一会うことが許される日という」
「今更なことを言うなぁ」
「その今更じゃがな? 考えてもみよ。一年もご無沙汰の男女が再会したならば、ナニをするか……」
「……ぁ゛あ゛?」
何かを企むようにニヤニヤと語る女に、なんとなく理解した男は何を言い出すこの女、と信じられないモノを見る目を向けた。
「快晴にして見通しも良く、衆人環視の真っ直中で……というのは恥ずかしかろーなぁー」
「おまえ、それって……ぁあ、下品なっ!!」
「か、か、か! 下品で結構。そういう見方もあって、わしに“ひでり”の心当たりは無い。それさえわかってもらえれば充分じゃ」
それだけ言って、女は満足げに鼻で笑った。そう堂々とされては男は黙るしかない。これ以上口出ししても、自分ばかりが騒いでいるようで馬鹿馬鹿しいではないか、と。
「ったく……」
「何にせよ、今夜は快晴じゃ。こうして天の川を見れた。短冊を燃やすのもできた。それを幸いと思うが良い」
まったくもってそのとおりだが、男はうつむいて唸るばかり。騒ぎの原因にそう言われて素直に従うのは、ただただ癪だった。
しかしそうやって下を向いていたから近づく影が見えず、女に背を叩かれることとなった。
「……んむ、少々声が大きかったか。ほれ、お迎えじゃ」
拍子木の音と「火の用心」という声。顔を上げれば、石段の下で錫杖を持った男性と拍子木を手にしたヨマワルが鬼火に照らされていた。
男性とヨマワルの目がこちらを見上げて、
「ひのよぉーじん」
ヨマワルが拍子木をちょんちょん、と鳴らす。もうそろそろ夜も遅いぞ、と。そういう意味である。
「あー……じゃぁ、今日はこれまでだな。もう帰る、おやすみ!」
「おぉ、気をつけて帰るんじゃな」
「あぁ、またな」
団子の串などのゴミを抱えて男は石段を下りていく。やがて夜回りの男性達と共に夜の町に姿を消した。
そして夜の神社に女だけが残る。
「……どれ、わしもひとつやってみるかの」
つぶやき、女が取り出したのは町で配られていた短冊の一枚。本来ならば町の笹と一緒に燃やすものであったが、女はそれを今の今まで持ち続けていた。
願いを書かずに持っていたのだが、そうこうしているうちに焚き火は終わってしまった。だが女は構わない。
白紙の短冊を左手に持つと、右手の親指に歯で傷をつけ、出た血を人差し指につけて文字を書いてゆく。そうして願い事を書き込み、掲げる。
「この場に笹は無いが、ま、燃えれば同じであろう」
そして「いざ」と息を吹きかければ、短冊はたちまち火に包まれ、細い煙を残して灰となって消えた。
「さて、期待せずに待つとするかの」
その言葉を残して女は夜に溶けるように消え去り、後には、
――――コォーーーーン…………。
狐のような声だけが夜の境内に響きわたった。
* * * * *
まず、あつあつおでん様、ネタ拝借と言う形になりましたが、樹液に集まる虫のようにありがたく思いながら使わせていただきました。。
お付き合いいただきありがとうございました。MAXです。
あつあつおでん様のネタから「夜のひでり状態」を見て、「雲が晴れるだけなんじゃないか」と考えた7日の朝。
キュウコンとおしゃべりをするなら古びた神社でこんな具合でしょう、と地元を想起しながら作り上げたこれ。
ジジイ口調の女性と言うステレオタイプなキャラができましたけども……。
書いてて思いました。久方様のある作品と舞台が似てる、と。
だ、大丈夫でしょうか! ちとツイッタで聞いた限りでは概ね寛容でございましたが、自分の説明を誤解されてしまっていたやも……。
不安の残したまま動いたことを謝ります。難があれば即時退去いたします。と、これ以上はネガティブなんで、以上MAXでした。
【批評していいのよ】【書いてもいいのよ】【描いてもいいのよ】【申し訳ないのよ】
夜が明けるまでは七夕だぜ!
そう言い聞かせながら、短いながらも仕上げてみた二つの作品を上げておきます。
……やっぱり、日付的にはアウトな気がしますが、よろしくお願いします。(苦笑)
『まずは灯夢という狐からの願いでアル! みたらし団子をもっといっぱい食べられるようにでアルぜー!! 腹壊すなよでアルヨー!! 』
コジョンドの波動弾が思いっきり、夜明け前の空に消えていく。
『次は日暮山治斗という奴からの願いでアルぜ! みぞ打ちが週に一度だけに減りますようにでアル! っていうかあきらめんなでアルぜー!!』
コジョンドの気合の入った波動弾がまた夜明け前の空に消えていく。
『今度はわらわっちメタモンからでアル! 商売繁盛アルぜー!! にっくいでアルねー!!』
コジョンドの叫びと共に波動弾が夜明け前の空に消えていく。
『次はミュウツーっていうやつからでアル! 借金返せますようにでアルぜー!! というかさっさと返せでアルぜー!!』
コジョンドのおたけびと共に波動弾が夜明け前の空に消えていく。
『続いて長老っていう狐からの願いでアルぜ! 池月とエリスがいつまでも中むつまじくラブラブでありますようにでアルヨー!! 池月ー! また今度、ワタシの新技を受けてくれでアルぜー!』
コジョンドの力を込めた波動弾が夜明け前の空へと消えていく。
『気合だ! 気合だ! 気合だ! で、アルぜー!!!』
コジョンドの全身から爆発音を立てながら波動が溢れる。
『ワタシからのお願いでアル! ワタシより強いやつに出会えますようにでアルぜぇぇぇえええ!!!!』
コジョンドの――。
「あああああ!! もううるさい! だまれぇぇえ!! ワンパターンすぎなんだよぉ! この野郎がぁああ!!」
『おぉ、なんか夜空から現れたと思ったら。ワタシはあんにんどうふでアルね、よろしくでアル』
「あぁ、それは丁寧にどうも、ボクはジラーチ、よろしくね☆ ……って、アホかっ!! もう朝だ、朝!」
『およ? なんか、おでこにタンコブができているでアルが大丈夫でアルか?』
「てめぇにやられたんだよぉおおおお!!」
『おぉ! さすが、ワタシの波動弾でアルね! まさにビックバンでアル! 照れるでアルぜ、礼ならいらないでアルぜ?』
「あほかぁああああ! もういい! 話が進まん! ちょっと狐好きの蛇野朗こいやぁあああああ!!」
※この後、責任持って、(半黒こげの)巳佑が短冊を笹竹にくくりつけました。
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というわけで、かなり遅刻してしまいましたが、私も短冊をつけさせてもらいました。
『いっぱい絵や物語がかけますように、また出会えますように』
『単位がもらえますように』
『学生の間に一回は水樹奈々さんのライブに行けますように』
よし、後もう一つ。
『某ロコンにみぞおちでやられませんように』
ありがとうございました。
【七夕限定のコアラのマーチもぎゅもぎゅ】
【みんなの願い、星に届けー!】
滑り込みセーフ! ε=\_○ノズザー ……え? アウト? 気のせいじゃないですかね。きっとまだ7月7日です。そうに違いない。
と言う訳で数キャラに短冊書いて貰ったんですけどね、ライチュウの奴の以外名前が無いという事態。ポケモンは種族名で表記出来るから良いもののこういう時に困りますね。
とりあえずれっつらごー。
「ライチュウを使うトレーナーが増えます様に コッペ」
「早く良いイーブイが生まれる様に とあるトレーナー」
「イーブイ飽きた。他のが食べたい カイリュー」
「尻尾を枕にさせてくれるキュウコンが手に入ります様に 回答者5」
「いつかまた虹が見られます様に キュウコン」
「ヤミラミにじゃんけんで勝てます様に エビワラー」
「ルカリオのポケモン図鑑の説明文で波導と書かれます様に 門森 輝」
少し遅刻してしまいましたが願いが叶う事を祈ります。30分位なら許容範囲ですよね! 駄目ですかそうですか。
何はともあれ皆様の願いが叶います様に!
【滑り込みアウト】
【皆様の願いが叶います様に】
毎年こうだが、目の前は人、人、人。浴衣を着た少女が数人のグループで歩いていたり、家族らしき数人が固まって歩いていたり。年齢層は若い顔が多い。そりゃあ、老人がこんなところに来れば人混みで大層疲れるのは目に見えているけれど。
両脇に並ぶ屋台も、たこ焼きや綿飴、かき氷といった定番のものから、ハクリューポテトなる謎の食べ物まで多種多様だ。そしてその店の脇には、必ず一本の笹が立ててある。
今日はタマムシシティ大七夕祭り。老若男女ポケモンを問わず、誰彼もが星に願いをかける日だ。
『ただいま会場が大変混み合っております。モンスターボールの誤開や盗難を防ぐため、ポケモントレーナーの皆様はボールの管理に十分お気をつけください……』
そうアナウンスが聞こえる合間にも、きゃ、と短い女の叫び声がして、モンスターボールの開閉光が夜店の明かりに負けじとばかりに輝く。そちらの方を見れば、出てきたヒメグマが他の客に体当たりしそうになっている。
これが進化後でなくてよかったな、と心中で独りごちる。流石にこの混雑の中に大型ポケモンを持ち込むような非常識なトレーナーがいるのは困る。
隣を行くルージュラくらいが、常識的に受け入れられる最大サイズだろう。これでも道行く人の中には、たまに怪訝そうな視線を投げてくる人もいるけれど。
「とりあえず、一通り店回ってみようか。どっかの店でペン貸して貰って、それも書こう」
そう問いかけると、僕のシャツの裾を掴んでいるルージュラはこくこくと嬉しそうに頷いた。その手には、スターミーとピィの形をした紙が一枚ずつ。
入り口で配っていたもので、もう形からして短冊と言えるのかはよくわからない。配っていたのを見た限りでは、ヒトデマンやスターミーにピィとピッピ、それに三つの願い事を書けるジラーチのものなんかもあった。
三つも願うと欲張りすぎて逆に叶えてもらえないような気がする、と思って、僕らは一枚ずつ、一つの願いを書く短冊をもらった。
出店横に笹がありますので、と言われたが、もうどの笹も短冊でいっぱいだ。今まさに短冊を笹にかけていく人の姿も見える。
それを見ながら人波に流されるように歩いて行って、まずは気になった「ハクリューポテト」と大書された屋台の前で立ち止まる。ご丁寧に直筆らしいハクリューの絵もセットだ。
「いらっしゃい! どうだいお兄さん、そっちのルージュラと一緒に食べてかないかい? うちはポケモン向けの味付けもやってるよ!」
言いながら店主が示したのは、ジャガイモを厚くスライスして、原型を残したまま串に刺して揚げたような食べ物だった。フライドポテトの一種だろうか。
しかし何故これがハクリューなのか、僕にはちょっとよくわからなかった。ジャガイモがそれらしいというわけでもないし、フレーバーにそんなイメージのものがあるわけでもない。
「これ、なんでハクリューって言うんです?」
「ああ、これな。ちょっと切り方に工夫がしてあって……」
店主は刺してあった一本を手に取ると、僕とルージュラの前でくるくると回して見せた。輪切りだと思っていたそれはよく見れば螺旋状で、相当心を広く持って見ればなるほど、長いハクリューの体に見えなくもない、気がする。
「こうやって全部一繋がりにしてあってな、ほら、ハクリューが使うだろ?『たつまき』。形が似てると思ってな!」
「……そっちなんですか? てっきり、ハクリューの体が長いのに似てるからかと」
「いやー、最初はそのまま『たつまき揚げ』とかにしようと思ったんだが恰好がつかなくて」
がはは、と豪快に口を開けて笑う店主に、僕もつられて笑いを返す。ルージュラはじっと興味深そうにポテトを見ている。
「おじさーん、ケチャップ味とポケモン用の苦いのに渋いの、一本ずつちょうだい!」
「人間用一本とポケモン用二本で千円だよ!」
Tシャツ姿の少年が、隣から千円札を突き出している。僕はスペースを作るために、少し脇へ寄った。少年はお金と引き替えにポテトを三本受け取ると、手に持ったジラーチ型の短冊を店横の笹にかけて、後ろの人混みの中に消えていく。
少し内容が気になって、その中身をこっそり横目で覗いてみた。
『チャンピオンになる! トモキ』
真ん中の短冊に力強く大きな、でもお世辞にも読みやすいとは言えなさそうな字が書いてある。両脇の短冊には、「ガウ」「ポポー」の名前と一緒に、ポケモンの足跡。前者の方は短冊からはみ出して、ジラーチの顔に被っている。
なるほどこういう使い方もあったか、と感心した。一人が三つ願い事を書くのは欲張りかもしれないが、三人で一つの大きな願い事を書くなら、叶う確率はもしかしたら上がるかもしれない。
そう思っていたら、シャツの裾がぐいぐい引っ張られた。そちらを見れば、種族に特有の不思議な言葉を発しながら、ルージュラがポテトを指差し何事か訴えている。見ているうちに食べたくなってきたのだろう。
「わかったわかった。……おじさん、ガーリック味とポケモン用の辛いの一本ずつ下さい」
「はいよ! ……ん? 辛いのでいいのかい? ルージュラっちゃあ氷ポケモンだろ? 苦手なんじゃないのかい?」
「あ、いいんです。こいつ、氷ポケモンなのに辛い味が大好きで」
「ほー、見かけによらないモンだねぇ……人間用とポケモン用一本ずつで六五〇円だよ!」
小銭入れから七〇〇円出して、釣りの五〇円とポテトを受け取る。一本はすぐルージュラに渡しておいた。代わりに手の空いた僕が、ルージュラの持つ短冊を受け取った。
トゲトゲしたスターミーと、それよりは丸みを帯びて文字を書くスペースの取り易そうなピィの形をした短冊には、まだ何も書かれていない。
どこか空いたところを探さないとな、と思った。列を作っていた人が後ろから来ているのでは、願い事を書くために店の前を占領してはいられない。
『迷子ポケモンのお呼び出しをいたします。トレーナーID61963、タカノコウキ様。運営本部にてルリリをお預かりしております、至急運営本部までお越し下さい……』
そんなアナウンスが聞こえた頃に、僕らは通りの交差点へと差し掛かった。角に、ひときわ大きな人だかりができている。子どもたちとその手持ちの小さなポケモンが多い。
店の垂れ幕に大書されているのは、「あめ」の二文字のみ。店の隣に座って悠々としているのは、一匹のポニータだ。店主の男は棒の先につけた飴の塊をその体の炎で熱し、へらで細工してひとつの形に仕上げていく。
飴の塊は、既に頭の部分が大きく、尾にかけて細くなる流線型を描いていた。別の、本体に比べれば小さな塊をつけたへらによって、その尾に尾びれがつけられる。男が、集まった子どもたちに向かって問いかけた。
「おじさんは今、何のポケモンを作ってるかなー?」
子どもたちはまだ答えが出せないようで、隣の子どもと相談し合ったり、首を傾げている。その間に飴細工には胸びれがつけられ、頭に小さなツノがついていく。
その様子を見ながら、ピンときたらしい一人の子どもが叫んだ。
「ジュゴンだ!」
「正解! それじゃあここから顔を描くところを見せてあげよう」
外形の完成し終わったジュゴンは、食紅のついた筆で顔を書き加えられてますます本物に近づいていく。目と鼻、それに口を書き加えた飴細工は、最後に袋に収められて他の飴細工と一緒に並んだ。
子どもたちがわあわあと歓声を上げ、そこを見計らって店主が声をかける。
「すごーい!」
「そっくりー!」
「本物みたい!」
「飴ってメタモンみたいだな!」
「この飴細工一個九〇〇円! だ・け・ど、飴風船チャレンジに成功したら、この飴細工をタダであげちゃうぞー!」
目を輝かせて、やるやる、と殺到する子どもたちが受け取っているのは、何の細工もされていないただの飴の塊だ。子どもたちはまるで風船を膨らませるように、ぷうぷうと懸命にその塊を吹いている。
なるほど、これを大きく膨らませることができればOKというしくみらしい。しかし大半の飴は吹いている途中で薄くなって固まり、破れてしまう。
そうした子どもたちが悔しがって再挑戦をし出す間に、男は加工用の飴をまた熱し始めた。
「今度は何のポケモンを作ってみようかなー?」
「ヒトカゲ!」
「バタフリーがいい!」
「カイリュー作ってー!」
そのうちの一つを聞き届けたのか、それともそのどれでもないポケモンを題材としているのか。ひのうまポケモンの熱で暖められた飴は、ただの丸い塊から一つの目的へ向けて姿を変えていく。さながら、ポケモンが進化するように。
それを熱っぽく眺める子どもたちの、その大半の手にはもう短冊はない。もうどこかの笹にかけてきてしまったのだろう。
まだ願うべき夢を持っている年代だからだろうか、などと言うと、まだ若いのにと言われるのだろうか。見飽きてきたらしいルージュラが急かすのに合わせて、僕はその人だかりの前から歩き出した。
「現在、タマムシシティ大七夕祭り会場から生中継しております! 見て下さいこの人出、今年の夏も大賑わいです!」
浴衣姿のレポーターがカメラへ向けてそんな台詞を言っているのを後目に、その人だかりのそばを通り過ぎる。ピチューを頭に載せたあのレポーターは、名前は覚えていないがお天気コーナーか何かの顔だったはずだ。
そんなことを考えていると、不意に前に進もうとしていた体がぐっと後ろへ引っ張られる。裾を引きながら後ろを歩いていたルージュラが、急に立ち止まったのだ。
何だよ、とぼやきながら振り返ると、ルージュラの視線はこちらを見ていなかった。
その視線の先にあったのは、「氷」の垂れ幕と、店のテントの内側に貼られた「罰ゲーム用!? 激辛マトマシロップ」の張り紙。僕はそれへ向けて指を指して、ルージュラに聞いてみた。出てきた声は、自然と、なんとなく諦めたような声だった。
「……欲しいんだな?」
ルージュラはこの日一番じゃないかと思うくらいの笑顔で、大きく頷いた。
人混みをかき分けて屋台へ向かうと、丁度それらしき真っ赤なかき氷が、一人の青年の手に渡されていくところだった。連れらしいもう一人の青年にそれを突き出して、何やら揉めている。
「バトルで負けたら食うって言っただろーが! 俺覚えてんぞ!」
「やっぱ食えねえよこんなモン! どう見ても辛いの好きなポケモン用じゃねえか!」
本来の罰ゲーム用途に使うとああなるらしい、という図から目を背け、改めてかき氷を注文し直す。人間の食べられそうな味も売っているから、そのメニューにも一通り目を通して。
「あの激辛を一つと、メロン味一つ」
「はいよ。七〇〇円ね」
ルージュラが隣ですぐにでも小躍りを始めそうな様子で、氷が削られていくのを見ている。こいつにしてみれば好きな温度である冷たいものと、好きな味である辛いものが合わさった食べ物が食える機会なんてそうそうないから、楽しみにするのも分からない話ではない。
紙コップに山盛りの氷が盛りつけられ、その上に見るからに辛そうな真っ赤なシロップがかけられていく。この赤さはイチゴ味と間違わないためなのか、いや違うな。
最後にストローで作ったスプーンが刺さって、差し出された紙コップをルージュラが受け取る。続いて削られ始めた氷は僕の分だ。
その音を聞きながら、僕は店先のペンを取る。書くことがはっきり決まったというわけではないけれど、なんとなく、今のルージュラの様子を見ていたら書きたくなったのだ。他よりも少しだけ、待ち時間が長いというのもある。
スターミー型の短冊の上を、ペンの頭がこつこつと叩く。もやもやとした願い事は、うまく固まってくれない。
「はいよお兄さん、メロン味置いとくよ」
「ああ、ありがとうございます」
ことんと音がして、側に出来上がったかき氷が置かれる。短冊は真っ白なままだ。んー、と唸りながら悩んでいたら、ルージュラが置いてあった短冊のもう片方、ピィ型のものを取っていった。スプーンに頼らず飲んだんじゃないかと思うくらいの速さだ。氷ポケモンだしできてしまうのかも知れない。
何を書くのだろう、とその様子をしばらく見ていたら、ルージュラがペンで書き始めたのは、その口から出るのと同じ、人間にはよくわからない言葉だった。テレビの字幕で見たアラビア語を見ているような感じがする。
ルージュラはそのまま迷いなくさらさらと謎の文字を書き終えて、ペンを元あった場所に戻すと、満足そうに短冊を顔の前に掲げてみせた。何を書いたのかは分からないが、おそらくは心からの願いなんだろう。
そんな表情を見ていると、自然にこちらの筆も動いた。スターミー型の中心、本物ならコアのある部分に、小さな文字で詰め込むように。
『ルージュラの嬉しそうな顔が、もっと見られますように』
書き上げて隣を見てみると、頬を抱えたルージュラが真っ赤になっていた。そりゃあ、僕がルージュラのを見たんだから見られるだろうとは思っていたんだけど。
その様子を見咎めた屋台のおばちゃんが、にんまりとした顔でこちらを見ている。
「あらお兄さん、こんなに女の子真っ赤にしちゃって。まったく色男なんだから」
「は、はあ……えっと、ちょっと失礼します」
周囲からの注目もなんとなく集まっている。僕はかき氷の入った紙コップを取ると、さっと店の脇にある笹に、二人分の短冊をかけた。
トゲのある形の真ん中だけが黒いスターミーと、落書きされたみたいにぐちゃぐちゃの文字が並ぶピィが、他の短冊に混じって揺れる。
それを見届けると、視線から逃れるように、そそくさと僕らはかき氷屋台の前を後にした。
「……にしてもお前、何書いたんだ? まさか、あのかき氷がもっといっぱい食べられますように、とかじゃないよなあ」
道すがら聞いてみると、ルージュラは相当に驚いた顔でこちらを見返してきた。どうして分かった、とでも言いたげに。
図星か、と問えば、黙って頷いていた。
「わかったわかった、今度作るよ。タバスコとかだから、ああいう店で見たのみたいじゃないかもしれないけどさ」
言うが早いか、僕の頬を強烈な吸い付き攻撃……いや、ルージュラのキスが襲った。愛情表現は嬉しいけれど、正直毎回痛いと思っている。
ついでに今日は祭り会場の人の視線もプラスだ。ルージュラを引き剥がして、ふう、と少し溜息をついてみせる。
「そーいうのは家でやって、家で!」
……ただ正直、ここまで愛されるの、まんざらでもない。
――――
七夕と(私の)ノスタルジアとバカップル。
飴細工の屋台を全く見ないんですよ。地元限定だったのだろうか。
他にも屋台にしたら面白そうなのあったんですが、時間と息切れの関係上書けませんでした。
【お題:ポケモンのいる生活(ポケライフ)】
【スペシャルサンクス:#ポケライフ(Twitter)】
【描いてもいいのよ】
【書いてもいいのよ】
【10分弱オーバー】
先客がいたようだ。ついでだからみんなが何を願っているか見ていくか。
「ジムリーダーになりたい ガーネット」
トレーナーなのか。それにしてもハンドルネームではないのだから、本名かいていけばいいのに。織り姫と彦星だって本当の名前が解らなければ叶えようもないだろう。
「微生物研究にいきたい ザフィール」
理系の人間のようだ。字からして男子……だろうか。それにしても最近は短冊にすらハンドルネームを書くのが流行っているのだろうか。私が本名ばりばりで短冊かいてあるのがなんだか怖いではないか。
「商売繁盛。ついでに黒蜜がうるさいので早く諦めさせてください 金柑」
綺麗な字で書いてある。印刷物かこれ。こんな綺麗な字を書く人間がいるとは思わなかった。商人のようだが、きっと学校の成績もよかったのではないか。うーん、なんだか負けた気分だ。
「早くあの子が振り向いてくれますように☆ 黒蜜」
その札の隣にあったのがこれなので、おそらく友達なのだろう。面白いハンドルネームを考えるものだ。
「ゾロアークにお嫁さんが来ますように ツグミ」
ポケモン想いのトレーナーだな。けどゾロアークのお嫁さんなら、トレーナーが探すのがいいのではないだろうか。結構ポケモンセンターでもお見合い希望の紙はってあるし。
「ツグミに彼氏ができますように ネラ」
そこから離れたところに釣り下げられてるのがこれ。ツグミという子は友達に恵まれたのだな。友達に彼氏ができて欲しいというところをみると、ネラという子はもう彼氏持っているのだろう。
あ、この辺なら空いてるな。さて、吊るしてかえろう。
「人間の青いイケメンください。石マニアでもいいです くろみ」
今年こそ、かなうといいなー!
しゃらしゃらと涼しげな音を立てながら、大きな笹が夜風に揺れています。
その枝葉には、色とりどりの短冊がいくつも結び付けられていました。柔らかな風に踊るそれらには、人とポケモンの祈りや願いが書き込まれています。
道の向こうからくたびれた様子の駱駝が一頭、とぼとぼと歩いて来ました。
足を引きながら笹竹の前にやってきた駱駝は、大きな溜息を吐いて背中の荷を下ろしました。小さな袋に詰め込まれた短冊の束です。
あれからもう一年が経ったんだなあ、と呟きつつ、さらさらと手元の用紙に何かを書き付けています。
肉厚の蹄で器用に――どうやってという疑問は胸にしまっておきましょう――結び付けられたそれには、『藁一本で背骨が折れそうなこの現状を、なんとか打破できますように』とありました。なんとまあ、辛気臭いことです。
……それはさておき、自分の分を書き終えた駱駝は、預かってきたらしい短冊たちを次々と結び付け始めました。
『ブラック3・ホワイト3で主役級に抜擢されますように 風神・雷神』
『またポケンテンの新作料理を食べられますように 学生A・B』
『監督の尻をひっぱたいてとっととロケを終わらせて、年内には上映できますように 飛雲組』
『世界中での百鬼夜行を望む 闇の女王』
『第三部及び完結編まで続きますように! 甲斐メンバーの一人』
『今年の夏休みも、あいぼうといっぱい遊べますように 夏休み少年』
『いつまでも“彼”と一緒にいられますように 名も無き村娘』
『もう大爆発を命じられませんように ドガース』
『今年も美味しい食事にありつけますように。 桜乙女』
『僕たちが無事に「割れ」られますように タマタマ』
『彼らの旅立ちを祝福できますように…… マサラの研究員』
『この世界に生まれ出ることができますように 未完の物語一同』
さらさら、しゃらしゃらと笹が揺れています。
一年分の願いを括り終えて、駱駝はふうと息をつきました。
しばらくぼんやりと色紙の踊るさまを眺めていましたが、やがて意を決したように首を振ると、元来た道をのろのろと引き返して行きました。
おや? 駱駝の立っていた場所に、二枚の短冊が落ちています。どうやら、付け忘れてしまったようです。
仕方がないので、私が結んで締めくくりましょう。
『受験・就職・体調・原稿その他もろもろの、皆様の願いが良い方向へ向かいますように』
『自分の思い描くものを、思い描いた形に出来ますように。今後も地道に書き続けられますように』
七夕の夜に、願いを込めて。
ご無沙汰しています。
しとしと雨の降る七夕を迎えました。
それでも街中では浴衣を着た人たちに出会ったりちいさな七夕飾りを見つけたりと、すっかり七夕ムードですね。
「黄金色を追い求める最高のトーストマイスターになる ちるり」
「リーフィアといっぱいあそべますように ミノリ」
「今年もご主人さまのいちばんでありたい チリーン」
「さらに出番をよこせ ムウマ丼推進委員会」
「めざせコンスタントに短編投下 小樽ミオ
「池月くんがエリス嬢のもとに帰れる日が早く来ますように」
今年は夏コミにスペースを出される方もいらっしゃるので、素晴らしい祭典になるようにお祈りします。
個人的には、有明夏の陣2012で私自身が討ち死にしないようにと願うばかりです(笑)
短冊の願いごと、届くといいな!
※追記:読み返したら語弊ありげな箇所があったので直しておきました、すみませんm(_ _)m
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