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出張で北海道に行く機会がありまして、小樽でガラスの浮き玉を見ながら妄想した話です。 |
ここに来るまでに糞の跡、尿の跡、そして真新しい踏み跡を探り回っていた二人は、傍目には変人奇人の類に映ることであろう。
「見ろ、オノノクスだ。11時の方向、あの岩場の方だ」
そんな行動の末に、迷彩服に身を包んだ男はお目当てのポケモンを見つけた。彼は、隣の草むらに興奮した様子で話しかける。もちろん隣の草むらにいる者も同じく迷彩服に身を隠し、擬態した人間であり、動かずにじっとしていれば発見するのは難しい。
視覚で彼らを捉えるならば、ハブネークの持つピット器官を使うか、カメラのレンズの反射を視認するしか手は無いだろう。オノノクスの嗅覚は、退化こそしていないがそれほど敏感と言うわけでもないから、まず嗅覚からは見つからないし、聴覚だってここは山。吹き寄せる風に紛れて、足音なんてかき消されてしまう。まず見つかるはずもない。
「おー、本当だ。いるいる」
双眼鏡を覗いて、もう一方は感嘆の声を漏らす。視線の先には、オノノクスが互いの手を掴みながら抱き合っている光景。愛を語らっているわけではない。ましてやオノノクスに社交ダンスの生態は無い。
あれは、メブキジカやオドシシの角と同じ。外敵に対する攻撃手段としても使われるが、メインは相撲を取るためだ。メブキジカならば、角を絡め合わせて押しあいを始める。角の付け根の痛みに負けて押し返される若い雄は、格上の雄に凄まれればすごすごと引き返しては視界から消える。
そうして、ほとぼりが冷めた頃に大きさが同じくらいの雄に挑んでは、勝った負けたを繰り返して、そうして切磋琢磨ともライバル落としとも付かない期間を終えて、繁殖期に至るまでその行為は続けられるのだ。
繁殖期の頃にはもう雌が雄を選んでいる。強い雄は複数の雌を囲み、数日の間はほとんど飲まず食わずで子孫を残す行為に専念するのである。
その斧葉相撲を撮影するには、さすがに最初の位置からでは遠すぎるため、ある程度近づいてから二人は撮影を始める。その際、周囲の景色に紛れる迷彩服は非常に役に立ち、二人とオノノクスの距離は30メートルほどまで縮まった。そのまま追いかけることも考えたのだが、運がいいことに忍び足で近寄って行くうちに、オノノクスはもう一頭の雄と鉢合わせしていた。
「見てください……二頭のオノノクスです」
小さな声だ、ここまで離れていれば、普通に会話をしてもオノノクスの耳に届く前に風にかき消されるであろうが、万が一のことを考えると慎重にならざるを得ない。マイクは顔に固定するイヤホンマイク型。安物ではないが、いかんせん小型であるため機能性は芳しくなく、周囲の雑音も容赦なく拾われていくため、さわさわと木の葉を撫でる程度の優しいそよ風が相手でも、音量を絞った声では太刀打ちできない
「おい、マモル。声小さい……全然聞こえないぞ。大丈夫だって、この時期のオノノクスはまだ温厚だから多少の声なら安全だ」
「あいあい、アマノ。それではー……えー、見てください。アレがオノノクスです」
「……うーん、これはどうなのかなぁ」
言わせておいてなんだが、と言う風にアマノと呼ばれた青年は呟いた。
「やっぱりあれだ、基本的に自然の音だけを録音して、後からナレーションを入れた方がいいかもなぁ……口パクでナレーションを入れる間だけ作って……」
アマノが提案する。
「そうだな……周りの音も邪魔せず入れておきたいし」
そしてその提案にはマモルも納得した。
「じゃ、黙るぞ……」
ポケモン達を刺激しないよう、マモルは黙りこくって撮影を始める。しばらくフィルムをまわしていると、闘争心の強い二頭の雄のオノノクスが雌の争奪戦に向けての斧歯相撲を始めてくれた。
手と手を握り合ったまま、顎の斧歯をガツンガツンと打ち合わせる斧歯相撲。歯の付け根が痛くなるか、ヒビ割れるかでどちらかが降参すれば勝敗のつくこの試合。同族の仲間を殺さないように、かつ必要以上に傷つけないようにどちらが強いかを競い合うにはもってこいである。
繁殖期の前は、斧歯同士を打ち鳴らす音が時折山で響きあうため、オノノクスを恐れるポケモンはその音を聞くとすぐに逃げ出してしまうのだ。
フキヨセの街では、そんなポケモンたちの性質を利用して、オノノクスの斧歯相撲に似た音を出す楽器を打ち鳴らすことで農作物の被害を減らしたという。
そんな、斧歯相撲の力強い音色を間近で聞いていると、その迫力にはナレーションを入れる余裕もないくらいに息をのんでしまう。
双方ともに斧歯の付け根が痛いのか、時折休みを挟みながらもつなぎ合った手は離れない。
痛みで膠着状態に陥っていた時、痺れを切らした僅かに体が大きい方のオノノクスが牙を振り上げる。
待ちの体勢に入っていた小さい方はこれを待っていたのだ。わずかに小さい方は斧歯の中心で、相手の斧歯の中心から外れた部分へ打ち付けた。
斧歯の芯で斧歯の比較的弱い部分を叩いたことで、痺れを切らした大きいオノノクスの斧歯は僅かながらに欠けてしまう。
これには、大きい方も負けを認めざるを得ず、体の大きなオノノクスは自分から手を離して頭を下げた。
鮮やかな勝負の幕引きに思わず撮影者も感嘆の声を上げる一方で、小さなオノノクスの勝利の雄たけびが撮影者の声をかき消す勢いで周囲に響き渡る。
あの雄はいずれ大物になる、そんな気がした。
思ったよりも迫力のある映像を撮れての凱旋帰還の最中の事。
「そういえば、ソウリュウシティのジムリーダーのシャガさん……オノノクスとレスリングをやっているって言うけれど……あの髭の中に金属仕込んで斧歯相撲でもやっているのかなぁ?」
「いやいやいや、アマノ。それはないだろ」
あの圧倒的な力強さの相撲に、人間が太刀打ちできるわけがない。いかにあの逞しいシャガさんでも、それは例外ではないだろう。それでも、ありえそうに思えてしまうあのカリスマが、彼が市長たる所以なのだろうか。
メールでもお知らせしましたが、作者スタッフ分を発送いたしました。
1週間経っても届かない場合はご一報くださいませ。
ドッペルゲンガーという言葉の意味を、ある程度のことは誰もが知っているだろう。
まあしかし、念のために話の流れをスムーズにするためにも、俺が簡単に説明しておくとしよう。ようは自分にそっくりな存在がこの世界のどこかにいて、それを見てしまうと死んでしまうというものだ。
そりゃあ自分にそっくりな奴なんて、この広い世の中だ。どこかに一人くらいはいてもおかしくはないだろう。いや、むしろいない方が変かもしれない。俺と同じイケてる面子を持ってる幸運な輩がいるわけだ。
とはいっても、やはり自分とそっくりな存在がどこかにいるというのは稀なことなのかもしれない。
例えばそこら辺でチョロチョロと駆け回っているコラッタ達だって、僕からすれば全くもってそっくりだ。けれども本人からすれば、どこかしらの違いがあり、やはりそっくりではないのだろう。細かな違いというのは当事者たちにしか分からないものだ。
だから、よくよく探せばどこかしらの違いがあるはずだ。毛並みだとか肌の色だとか、きっとどこかに違いがある。考えてることまで一緒ということはあるまい。双子や三つ子にだって何かしらの違いがあるように。いつかきっとわかるはずだ。おいらたちの違いというものが。ドッペルゲンガーなんてものは存在しないし、それで死ぬなんていうこともない。あるわけがないのだ。
俺は僕はおいらは、隣のドードリオの顔を、じっと見た。
・描いてもいいのよ
・書いてもいいのよ
・批評してもいいのよ
ふぅっと一息ついて、ゾロアークは空を見上げた。
突き抜けるような青い空と、そこだけミルクをこぼしたような雲のコントラストが目に眩しい。
長いこと旅に出ていた。そんなときに浮かぶのは家に残した美しい妻と可愛い子供。そろそろ帰ろう。お土産は何がいいだろう。長いこと開けてしまったから、怒ってるだろうか。子供はどのくらい大きくなったのか楽しみで仕方ない。
ふとゾロアークの鼻に綿雲がはらりと落ちる。払いのけようと鼻先の雲を掴んだ。
「羽?」
誘導されるように空を再び見上げると、青い空に目立つ白い風。数羽の鳥が飛んでる。しかも円を描いたり、宙返りしたり。その都度、羽毛が美しく鳥を飾っていた。
ゾロアークはその鳥を追いかけて走り出していた。もっと見ていたい。その思いだけで走る。鳥たちが着地するあたりに。
「誰!?」
ゾロアークの姿を見つけた鳥たちは一斉に睨んだ。ピジョンが数羽、そしてトゲキッスが一羽。
「えっと、空のダンスを見て、もっと見たいなって思って……」
ピジョンたちは顔を見合わせる。知らないゾロアークがいきなりやってきての申し出に、困惑しないはずがない。けれどトゲキッスがにこりと言った。
「ありがとう、よろこんでくれて」
その言葉はゾロアークに向けられていた。
「ピジョンたちは知り合いの結婚式だと、お祝いに集まってフェザーダンスを踊るんだ」
「つまり、誰かの結婚式……?」
ゾロアークが聞き返すと、トゲキッスが恥ずかしそうに言う。
「ボクたちだよ」
隣にいるのが新婦のピジョンのようだった。
「本当はピジョットになるまで結婚しないつもりなんだけどトゲキッスがいいって言うし」
これにはゾロアークも祝福しなければならない。荷物の中から結婚のお祝いに相応しいものを取り出す。それらを受け取ると、新郎新婦は深く頭を下げた。
「見知らぬゾロアークに祝ってもらえたし、私もちょっくら踊る!」
新婦はその翼を羽ばたかせようとしたが、仲間のピジョンたちに止められる。
「新婦が踊ったら意味ないじゃん!」
「お祝いの踊りじゃないか!」
主役二人に見せる為らしい。しかし新婦のピジョンは止められてつまらなそうだ。よほど好きなのだろう、フェザーダンス。
「一番上手いからってお祝い見せる相手が踊ってたら意味ないから!」
「トゲキッスに見せるからいいのだ!」
それだけ言うと、新婦のピジョンは空へと飛び立つ。仕方ないなという顔をして、ピジョンたちは空を飛んだ。
そして始まる、白い羽と青い空の共演。ふわりふわりと散った羽がゾロアークの頭にそっと乗った。
「ピジョンはね」
空を見上げながらトゲキッスは言った。
「ここに迷い込んだ僕を仲間として扱ってくれてね。何から何まで教えてくれたよ。僕が歌うととても嬉しそうに聞いてくれた」
ぽつりぽつりと昔のことを断片的に思い出すように語る。
「だからね、僕はピジョンがポッポだろうがピジョットだろうが関係ないんだ。型破りのお祝いフェザーダンスだろうが、僕はピジョンが一番だよ」
トゲキッスの言葉に、ゾロアークも妻と出会った頃のことを思い出す。何かが解らないけど、何か特別で一緒にいたいと思った。きっとこのトゲキッスもピジョンに対してそう思うのだろう。
「実は、故郷に妻と子供がいるんだ」
ゾロアークは舞い降りる白い羽を荷物の中に入れた。
「トゲキッスやピジョンを見てると、帰るところっていいなって思う」
年頃の女の子のようにはしゃぎながらフェザーダンスを踊るピジョン。きっと明日からずっとトゲキッスと一緒。ずっとずっと。だから最後にみんなで踊りたいのだ。妻の友達が最後にダンスをやたらと誘って来たように。
「だから、もう帰ろうと思うんだ」
ピジョンのフェザーダンスはまだまだ続く。羽ばたきがリズムを生み、周りのピジョンが風に乗ってさらに高く舞う。白い羽に包まれたピジョンが上昇気流に乗って楽しそうに鳴く。息など切れない。そのまま歌い出しそうな動きで、トゲキッスの目を楽しませる。
「ゾロアークの家はどこなの?」
「んーと、ずっと遠くだよ」
「途中まで送っていくよ。大丈夫、僕はピジョンと違って踊らないから」
「わあ、凄い嬉しい!」
羽音一つさせず、ピジョンがトゲキッスのもとへと戻る。渾身のダンスの後の顔は、とても輝いていた。
「でも、遠慮しておくよ。新妻がいるのに、邪魔するわけにもいかないから」
トゲキッスの羽に黙って嘴をうずめるピジョン。ほめて、と言わんばかりの行為に、トゲキッスはアンコールを送る。
「じゃ、元気で、縁があればまたー」
結婚式の祝福にフェザーダンスを踊るピジョンたち。こんなことも話してやろうと、ゾロアークは家路を急いだ。
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ごめん池月君のつもりで書いたのに池月って名前出すの忘れたごめん
踊るポケモンたちをテーマに短編かいていきたいなと思って、先発はフェザーダンス。
どこかで見た設定?いやいや気のせいです旦那。
【好きにしてください】
グロいです。
ユウキが久しぶりにホウエンのミシロタウンに帰ったのは、チャンピオンとなり、さまざまなところへと行った後だった。もうすでに年も14となり、成長期を迎えて体格もそれなりに男らしくなってきた。
懐かしさのあまりユウキはミシロタウンの入り口から走って家にたどり着く。久しぶりに見る両親の顔や、自宅に置いて来たポケモンたちと再会する。オーレ地方では危険だからと精鋭しか連れていけなかったし、イッシュ地方では新しいポケモンを捕獲するのが忙しかった。だからこそホウエンでチャンピオンとなった時のメンバーとはだいぶ違ってしまったが、ユウキにとっては大切なポケモンたちだ。
しばらくゆっくりするつもりで帰って来た。そういえば友達たちは元気だろうか。あれから手紙を1年に一回送るか送らないかの仲ではある。新しいポケモンはいるのかな。病気は完全に治ったのかな。
自宅にいるとは限らないけれど、ユウキはまず同じ町内に住むハルカを訪ねる。オダマキ博士への挨拶という名目だったが、やっぱり友達に会いたいというのが強かった。あの時と変わらない。呼び鈴を押す。
「あら、ユウキ君じゃない。ごめんねえ、ハルカいないのよ」
用件を言う前にいきなり追い返される。昔からちょっとつっけんどんなお母さんだなと思っていたけど、こんなに冷たい覚えはなかった。
仕方ない。オダマキ博士への挨拶だけは済まそう。ユウキはオダマキ博士の研究所へと足を運ぶ。
「おやユウキ君。久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
「はい。お久しぶりです。博士にいただいたポケモンもかなり強くなりました」
たわいもない世間話だ。昔話からチャンピオンになった後にどこにいったのか、そしてその間に捕まえたポケモンの話。
さらにユウキは気になったことを聞いた。
「家にいったんですけど、ハルカいなかったんですよね。やっぱりフィールドワークの手伝いを……」
「ああ、ハルカならどこかいるんじゃないか」
ユウキの言葉を遮ってオダマキ博士は答える。その雰囲気に疑問を持っても、もしかしたらいなかった数年に何かあったのかもしれないし、あまり詮索することではない。土産として持って来た向こうの珍しいモンスターボールをオダマキ博士に渡すと、ユウキは研究所を後にした。
やたらと知識だけはあったハルカのことだ。もしかしたらすれ違いで旅に出てしまっているのかもしれない。それで帰りが遅くて心配してるのかもしれないし。
ユウキは部屋でゴロゴロとしていた。オーレで買ったポケモンデジタルアシスタントを見ていると、お腹の上にプクリンが乗ってくる。気持ちよい手触りの毛並み。この毛並みを整えるためにシンオウのデパートではポフィンを探した。そのおかげでコンテストでも勝てた。けれど戦うことに関しては、毛並みが崩れるのを防ぐために自宅へ預けていた。
するとポケナビにメールが入る。久しぶりから始まるメール。ハルカだった。
「おかえり私のいない間に帰ってたんだねユウキ君血がほしいよどうしたらいい私に血がないの」
何のこったい。意味の解らないメールにユウキは返信に手がのびない。こんな気味の悪い文章を送ってくるような子ではなかったと記憶している。ズバットを育ててた時もそんなこと言わずにオレンの実をあげてたのに。
「どうした?クロバットがそんなにたくさんいるの?」
当たり障りない返事を打つ。数分もしないうちに帰ってくる。
「違う血が欲しい血があればよかったのに」
なんだかおかしいと思った。ユウキは上半身だけ起こして急いでメールをうつ。
「今から行く。どこにいる?」
ポケナビを置いた瞬間だった。再び受信のメールが来たのは。
「家」
ユウキは自分のモンスターボールから一つ選ぶ。あのお母さんに会わずにハルカに会える一つの方法はテレポートしかない。スプーンを二つ持ったフーディンがあらわれる。
いきなり部屋にテレポートするにはためらった。せめて部屋の前、二階の廊下にするべきだろう。そこまでフーディンが考えていたのかは知らないが、ユウキがテレポートした先はちょうど部屋の前だった。ノックして、返事のないドアをあける。
「なんだ、ここ」
前はエネコのぬいぐるみが飾ってあったのに、いまは殺伐とした風景だ。旅先で会った同い年くらいの女の子たちだってもっとかわいいものを身につけていた。それなのになんだここは。廃墟のような部屋にユウキは何も言えない。そして人の気配などなかった。
「まったく、あの子はどこいったのかしら。ハルカ!」
ハルカの母親の怒声が聞こえる。ここにいるのがバレたらヤバい。ユウキはクローゼットの中に隠れる。その直後、ドアが勢いよく開いた。
「抜け駆けだけは早いんだから。掃除さぼって何をしてるのかと思えば。全く。今日のご飯は無しね」
ユウキが聞いてるのも知らず、不機嫌な足音をたてて去って行く。遠くなったのを見計らい、ユウキはそっとクローゼットから出る。
「なんだなんだ、何が」
ハルカはいない。そして荒れた部屋。ハルカの母親の態度。そしてオダマキ博士の態度。それらを総合すると、ユウキはとてつもないことに関わってしまったような気がした。帰った方がいい。ユウキがフーディンのボールを出した時に気付く。
机の上にある古い日記。他人のものを見てはいけないと思いつつ、ユウキは手を伸ばした。何か解るかもしれない。
「今日はご飯なかった」「おとうさんになんで帰って来たって言われた。」「鍵をかけられた」
ユウキは読む手を止める。あの温厚そうな博士がそんなことを言うとは思いもよらない。ユウキはページをめくる。
「血が欲しい」
それだけ見開き1ページにでかでかと書かれていた。
「出て行きたい血が欲しい血があればやさしくしてもらえる」
また血だ。ユウキはさらにページをめくる。
「ミツル君は血がないのにどうして優しいの。どうして私にはない。消えてしまいたい血だって消えていくよ」
ミツルにあって、ハルカにない?ユウキはますます混乱する。最後のページを見るまで。それを見てユウキは固まる。そして。
「フーディン行くぞ」
フーディンに命令し、その場から去る。ハルカの行きそうな場所。そこは
「ハルカ」
ユウキは彼女の名前を呼ぶ。同じくらいの高さだったのが、今では頭一個分ユウキの方が高い。
「迎えにきた。帰ろう」
振り向いた彼女の顔は暗く、久しぶりに会うというのに笑顔一つみせない。
「血がないと帰れない」
「だから俺と帰ろう。ハルカの居場所はあそこじゃないよ」
「どこに帰るの」
「ホウエンは広いし、他の地方だってある。俺が行ったところはほとんどみんな優しかったよ。大丈夫、俺も一緒に行く。ハルカが博士の本当の子じゃないなら、ここに居続ける必要だってないだろ?」
血はクロバットの餌のことじゃなかった。血縁関係のことだった。最後のページには戸籍謄本が折り畳まれていた。そこに書いてあった事実はユウキにも衝撃を与える。
友達が困ってる原因がこれだ。これしかない。ならば少しでも助けたい。ユウキはそんな思いで来た。すでに旅立つ準備もして。
「それにハルカだってホウエンを一周したんだから旅慣れてるだろ。行くぞ」
ユウキはハルカの手を引っ張る。帰るところはミシロタウンではない方向に。
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Q何が書きたかったの
A解らん
オダマキ博士って主人公には色々してるけど、実子の方には多少つめたいのを大きくしてみた。
【お好きにどうぞ】
ある日、二匹のしあわせが出会いました。
僕はしあわせって言われてます。あなたはしあわせを知っていますか。
もちろん知っているわ。
しあわせはね、わたしのタマゴにつまっているのものよ。
私はしあわせって言われているの。あなたはしあわせって知っているかしら。
もちろん知っています。
しあわせは、ぼくの翼にこもっているのものですよ。
いいえ、いいえ。
僕の、私の、タマゴにこそ、翼にこそ、しあわせがあるのです。
二匹のしあわせは、言い合いをはじめてしまいました。タマゴにこそ、翼にこそしあわせがあるのだと言い張りました。
翼のしあわせは、タマゴなんて狭くて苦しいものにしあわせがあるはずがないと言いました。
タマゴのしあわせは、翼なんて軽くてふわふわしたものにしあわせがあるはずがないと言いました。
言い合いははげしくなるばかりでした。お互いにしあわせはそこにないと言い張りました。だんだん、二匹のしあわせはしあわせがなんなのかわからなくなってきました。
しあわせが分からなくなってきた頃、くさむらからこんな声が聞こえてきました。
しあわせなんてね、どこにだってあるものなのよ。たぶんね。
しあわせにね、形なんてないのよ。たぶんね。
そうやって探してるとしあわせを見失うと思うの。たぶんね。
出会えたことがしあわせなのよ。たぶんね。
出会ったばかりでいきなり殴られたって、わたしはしあわせよ。たぶんね。
二匹のしあわせは、お互いに顔を見合わせました。タマゴをみました。翼をみました。
たぶんね、しあわせはどこにだってあるんだなと笑いました。くさむらからも、そうかもね、ですよね、ほらね、やっぱりね、だろうね、たぶんねと笑い声がきこえました。
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おかしいな、もそっとちゃんとするつもりだったんです。
タブンネさんがすべてを颯爽とかっ攫っていった気がするんです。一番最後はタブンネ隊から。
No.017です。
本日のふぁーすと3で作者・スタッフ配布分を除きまして、
「ポケモンストーリーコンテスト・ベスト」完売致しました。
ありがとうございました。
即売会中、再版問い合わせや通販問い合わせが10件くらい入ってます。
冊数は印刷代と相談ですが、サンクリ55(4月15日)再版の方向で動きます。
あるところにウソをつくのが好きなウソッキーがいました。
ウソッキーは誰もが笑顔になるウソが好きでした。
ウソッキーは小さなポケモン達も好きでした。
子供たちはウソッキーのウソが大好きだったからです。
ウソッキーは色々なところを旅することも好きでした。
あちらこちらの風景に溶け込むことが好きだったからです。
ウソッキーは他のポケモンを驚かすことも好きでした。
みんなのびっくりした顔が好きだったからです。
怒りだすポケモンもいました。泣きだすポケモンもいました。
ウソッキーはその時、お詫び代わりにウソをつきます。
それは聞いていてとても楽しいウソです。
怒りだしたポケモンも、泣きだしたポケモンも、みんな笑いだしてしまいます。
ウソッキーはそんな笑顔が好きでした。
ウソッキーは気に入った場所にしばらくとどまります。
すると子供達はいつもウソッキーと遊びたがります。
みんなウソッキーのウソを聞きたくて仕方がないのです。
ウソッキーはねだられるままにウソをつきます。
小さなポケモン達は一つのウソが終ると、次のウソを、次のウソをとねだります。
笑顔が見たくて、ウソッキーも丁寧に一つ一つウソをついていきます。
あっというまにウソッキーはみんなの人気者になりました。
ある朝、ウソッキーは自分が空っぽになっているような気がしました。
どうも気持ちが良くありません。
いつものように小さなポケモン達がウソをねだりにやってきました。
ウソッキーは何かウソをつこうとするのですが、開いた口からは何にも出てきません。
まだかまだかとポケモン達は急かします。
ウソッキーは正直に、何も出て来ないと言おうとしましたが、その言葉すらも上手く出てきません。
みんなはだんだん機嫌が悪くなってきました。期待の眼差しが途端に鋭いものに変わります。
ごめんね、今日はウソはないんだよ。どうにか絞り出した言葉を聞いて、小さなポケモン達は文句をいっぱいぶつけました。
ひとつひとつがウソッキーの空っぽの心に刺さります。
お話のできないウソッキーなんていらない。ウソの付けないウソッキーはいらない。そういって小さなポケモン達は飽きたおもちゃを捨てて、ばらばらに帰って行きました。
ウソッキーはしょんぼりしながらその場所から去りました。
確かに小さなポケモン達の言う通りなのです。ウソッキーのウソを聞きたいから集まってくるのだから、ウソが付けなくなればウソッキーはただのウソッキーなのです。
ウソッキーはまた小さなポケモン達の笑顔が見たいなあと思いました。
ウソッキーは砂漠にやってきました。ここはいつも砂嵐が吹き荒れています。
普通のポケモンならとても居心地は悪い場所ですが、ウソッキーにとっては何ともありません。
しばらくここにいようかな、と空っぽのままウソッキーは思いました。
ところが、一つ問題がありました。
砂漠は何にもありません。これではウソッキーは風景に溶け込むことができません。
これは困ったなぁ、と思いながら、ウソッキーはとぼとぼ歩いていました。
ぽつんと砂漠のまんなかに何かが立っていました。
ウソッキーが近づいていくと、それが何か分かりました。砂嵐のなかで背の高いサボテンが立っているのです。
ノクタスがぼんやりとしていました。
砂漠にサボテンがいることは何にも不思議ではありません。
しかし、そのノクタスは好んで風景に溶け込もうとはしていないようでした。
ウソッキーがそばにやってきても、ノクタスは特に反応しません。
ずっと黙っています。
砂嵐の音だけが響きます。
何時しかウソッキーも隣に立ってずっと黙っていました。
夜になると砂嵐が止みました。
あたりがぐっと寒くなりました。
ふとノクタスが上を見上げました。
つられてウソッキーも空を見上げます。
そこには満天の星空がありました。
ウソッキーはその光景にただただ息をのみました。自分の持っている言葉をすべて使っても表せないであろうそれに、どうすればいいのか分かりませんでした。
ノクタスは黙っていました。
何も言いませんでした。
その沈黙に全てが表されているように思えて、ウソッキーもずっと黙っていました。
次の日、ウソッキーは自分が空っぽではないことに気がつきました。
とても清々しい気持ちです。
ノクタスを見ると昨日と同じ様にぼんやりとしていました。
ウソッキーはノクタスにお礼を言いたくてはじめて声をかけてみましたが、こちらを向くだけで特に何も言いません。
元来無口なのかもしれません。
お礼を言われる理由が分からないかもしれません。
それでも、よかったのです。
言葉を紡がない時間をくれたことにお礼が言いたかったのです。
心が満たされたウソッキーは、砂漠を後にしました。
ウソをつくのが好きなウソッキーがいました。
あちらこちらをまわるのが好きなウソッキーがいました。
景色に溶け込むのが好きなウソッキーがいました。
自分のウソでみんなの笑顔を見るのが好きなウソッキーがいました。
そして自分が空っぽになった時、砂漠で何も言わないノクタスと一緒に空を見上げるウソッキーがいました。
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余談 ドーブルが絵描きならウソッキーは語り部だと思う
あらゆるものを吐き出しつくして空になったなら、言葉を紡ぐのをやめてしまえば良い。
疲れたら休みましょう。
・・・的な何か。
【好きにしてもいいのよ】
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