マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
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  •   [No.2322] 春コミ無料配布本でした 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2012/03/26(Mon) 01:05:12     73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    春コミ無料配布本でした (画像サイズ: 600×648 33kB)

    出張で北海道に行く機会がありまして、小樽でガラスの浮き玉を見ながら妄想した話です。
    春コミ無料配布本にしておりました。

    冬コミで出した単行本「携帯獣 九十九草子」
    http://pijyon.schoolbus.jp/off/index.html
    の増補的な位置付けになっております。

    気に入っていただけた方がいたなら幸いです。


      [No.2321] 【ポケライフ】硝子の浮き玉 -携帯獣九十九草子 増補- 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2012/03/26(Mon) 01:00:24     125clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    【ポケライフ】硝子の浮き玉 -携帯獣九十九草子 増補- (画像サイズ: 580×756 75kB)

    ●硝子の浮き玉


     浮き玉はガラスを吹いて作った玉です。
     ガラスを吹いて丸い形を作り、冷めないうちにガラスの封をして工房の印を押します。空気を密封したそのガラスの玉は水に浮きます。だからそれは浮き玉と呼ばれるのです。
     私は小さい頃、浮き玉が大好きでした。祖父の工房にも家にもたくさんの浮き玉がぶら下がっておりました。小さいもの大きいもの。色の変わったものや、模様をつけたもの。様々ありました。
     私はそれを眺めるのが好きでした。編んだ紐で玉を包み、それをいくつもぶら下げた様が好きでした。

     私の育った町はガラスの町でした。いくつも、いくつものガラス工房がありました。
     祖父はガラス工芸の名人でした。形の良いきれいなグラスも作りましたし、透明な器も作りました。熱を帯びた飴のように伸びるガラスを自由自在に引き伸ばして、様々なポケモンを作りました。翼を広げた鳥ポケモン、嘶く火の馬ポケモン、うねる海蛇ポケモン、まるで魔法のように火と風を操って、祖父は様々な形を練り上げるのでした。そんな祖父の隣にはいつも何匹かの炎ポケモン達が寄り添っていました。ひょっとこのような口から火を吹くブーバー、燃え盛る炎の尻尾を持つリザード、木炭を食う茶釜のようなコータス、ふかふかとしたマフラーをしたブースター。それぞれに得意な炎があって作るガラス工芸によってパートナーが違うのだと祖父は語っていました。
     祖父はいろいろな作品を作りましたが、私は浮き玉が好きでした。丸いだけの最もシンプルなガラス工芸ですが、その球体がわずかに閉じ込める空気、空間が好きだったのだと思います。祖父はいくつもガラスを吹いては浮き玉を作って私にくれました。通常は種類ごとに手伝わせるポケモンを変えるのですが、浮き玉だけは別でした。今日はブーバーの炎で、今日はコータスの炎でという具合に順番に手伝わせては作っていました。祖父は浮き玉の蓋にポケモンごとに違う印を押しました。
    「名人がな、硝子の玉を膨らますとその中には硝子の精が宿るんだ」
     祖父はよく、こんな話を致しました。
    「よく命を吹き込むって言うだろう? 職人の息吹、その相棒の炎(いぶき)が交じりあってな、硝子の精になるんだよ。浮き玉が美しいのは中に硝子の精がいるからだ。だからそいつが逃げていかないうちにこうして蓋をするんだよ」
     だから私は浮き玉が好きだったのだと思います。たとえその中に何も見えなくても、ここには何かが居るのだ。何かが宿っているだと考えるだけでワクワクしたのです。
     そんな祖父の話を聞いて育った私は、いつか自分もガラス職人になるのだ。そう思っていました。現に工房の子の多くはガラス職人になっていましたから。
     
     けれども、町はいつまでも同じ姿をとどめませんでした。
     他の地方や外国が安い製品を次々に作り始めて、ガラスの町は次第に傾いていったのです。一つ、また一つ。工房は数を減らしていきました。
     そんな中、私が初めの学校を卒業する頃、祖母が亡くなって、あとを追うように祖父が他界してしまったのです。その頃にはこの町からずいぶんな数が無くなっていたと思います。目の前の工房から人がいなくなり、隣の工房は看板を変えました。そうして祖父がいなくなった時に、後を継ぐ気の無かった父は工房を畳んでしまい、私達家族は他の町に移ったのでした。
     遺っていた祖父の作品は多くが人手に渡って、あるいは処分されました。祖父の仕事を手伝っていたポケモン達もまた、トレーナーや職人に引き取られたりしたのでした。私達家族の下に残ったのはブースターの一匹だけでした。残されたブースターは仕事が無くなってからすっかり老け込んでしまいました。私と散歩に行ったり、ご飯を食べたりする以外はリビングの陽のあたる場所でずっと眠っております。
     そうして他の町に渡り、学生生活を送っているうちに、私は次第にガラスのことなど忘れていったのでした。

     それからの話は暫くの月日が経ってからになります。
     進学か就職か、そんなことを考えなくてはいけない時期に差し掛かっていた年の暮れでした。そのような岐路に立たされた逃避の結果だったのでしょうか。今年は徹底的にやろうなどと意気込んだ私の姿は、普段の年の大掃除では手をつけない倉庫にありました。この際、いらないものは徹底的に整理しようと思ったのです。
     埃を被って灰色に汚れたダンボールをいくつもいくつも出しては開きました。昔取った授業のノート、教科書、色の褪せたおもちゃ。思いがけず懐かしいものを発見しては手を止めました。けれど多くは捨てることにいたしました。とてもとても懐かしかったけれど、私にはもう必要の無いものでしたから。住むところも、持ち物もいつまでもそのままではいられないのです。私は書類を縛り、そうでないものは袋に詰めて口を縛ると家の外へと運び出しました。今の時期の日暮れは早いもので、その時には随分と暗くなっていました。
     そうして何往復かを繰り返し、倉庫に戻った時、なにやら倉庫の中で動く影があることに気がつきました。父か母が入ってきたのだろうかと、倉庫の入り口に足をかけた私が見たのはくすんだ赤い毛皮のブースターでした。私は少々驚きました。時が経ち、ますます年老いたほのおポケモンは、最近散歩にも行かず眠ってばかりでしたから。ブースターはかつての鮮やかさと膨らみを失った尻尾を揺らしながら、一つの箱をしきりに引っ掻いています。この年老いたポケモンが惹かれるようなものがこの中にあるのだろうか? 私はテープ止めされたままのその箱にカッターを入れ、扉を開くように開けました。中にはくしゃくしゃに丸めた黄ばんだ紙が何かを守るように詰められております。私は手を突っ込んで中のものを取り出しました。紙に包まれて出てきたそれは、丸い丸い、ガラスの浮き玉でした。大きさはぼんぐりやモンスターボールほどです。にわかにほのおポケモンの瞳が小さな明りを灯したような光を宿しました。
     丁寧に編まれた紐で包まれたそれは持ってぶら下げることが出来ます。見上げるようにして封を確かめると甲羅の紋章が見えました。コータスだ、と私は思いました。まるで、水底に沈んでいたものが浮かんでくるように、祖父がコータスと作った時に使う印であると思い起こされたのです。
    「もしかしたら、お前のも」
     私は箱に詰められた浮き玉をひとつひとつ取り出しては、確かめ、一つ目の玉に掛けていきました。二番目に取り出したのは二つ並んだ火の玉の目立つブーバーの印の玉、次に見つけたのが伸びた尻尾の先に炎が灯ったリザードの印を押した玉でした。そして最後に、ブースターの横顔とえりまきを象った印の玉を取り出したのでした。
    「わうっ」
     私が四つの浮き玉を吊り下げたその時、ブースターが小さく鳴きました。
     透き通る球体にふんふんと鼻を近づけ、また小さく、今度は二、三度鳴きました。その様子はまるで彼が四つの浮き玉に話かけているようにも見えました。
     年老いたブースターは何度も、何度も、ガラスの浮き玉に呼びかけ続けました。
    「そうだよな。久しぶりだもんな……」
     その様子はなんだか私の胸を締め付けました。
     私は今の今までガラスのことなどすっかり忘れていたのに、彼はずっとこの時を待っていたのではないかと、そう思ったのです。それなのに私は、今の今まで開きもしないでずっと暗いところに仕舞いこんでいたのですから。
    「わうっ! うわう!」
     ブースターが一際大きく声を上げました。
     すると、気のせいでしょうか。一瞬、浮き玉の中の一つがまるでランプに火をつけたように炎を宿したように見えて、私は目をぱちぱちとさせました。炎が生まれ、玉の中で宙返りするとフッと消えたように見えたのです。それは私が、最後に取り出した浮き玉でした。
     すると、まるで呼びかけに答えたかのうように残り三つの玉にも炎が宿りました。最後に取り出した最初の一つが再び燃え上がって、残りの三つが応えます。そうして四つの炎は会話をするように玉の中でそれぞれが躍り、揺れました。
     宿った炎はそれぞれがそれぞれに違っていました。ガラスの壁にぶつかっては弾ける、落ち着きの無い炎、ゆっくりとけれどこうこうと燃える炎、まるでグラスの中で揺れる果実酒のように玉の中を滑る炎――今はもういないブーバー、コータス、リザード。その炎の揺らめきはとうの昔に別れてしまった祖父の相棒達を思い起こさせました。

    『名人がな、硝子の玉を膨らますとその中には硝子の精が宿るんだ』

    『命を吹き込むって言うだろう? 職人の息吹、その相棒の炎(いぶき)が交じりあってな、硝子の精になるんだよ』

     躍る炎が私達、一人と一匹の影を伸ばして揺らめかせます。
     陽が落ちて暗くなっていた倉庫はにわかに明るくなりました。暖かな光が作り出す陰影が、音の無い賑わいを生み出しました。
     ああ、名人であったのだ、炎の眩しさに目を細めながら私は思いました。
     祖父は――いや、おじいさんとそのポケモン達は本当に名人であったのだ、と。
     炎が踊って、影が躍り続けています。
     私はその光景に、いつまでもいつまでも見入っておりました。

     年老いたブースターが静かに息を引き取ったのは、それから数週間後のことでした。



     硝子の浮き玉。
     その中に躍る炎を見たのは、今のところその時が最後です。
     四つの浮き玉は未だ私の手元にありますれど、あれから炎は二度と現れませんでした。まだこの中にいるのか、見えていないだけなのか、あるいは、祖父の相棒と共に旅立ってしまったのか、それは私にはわかりません。

     ただひとつはっきりとしているのは、私がその光景を忘れることが出来なかったということです。
     水に浮かんだ硝子の玉は、もう沈むことがありませんでした。


     今、私には相棒がいます。
     まだ小さな炎しか吐けませんけれど、今の私には十分です。
     いつかおじいさんとその相棒達のようになれたら――そう私は思っています。









    2012年3月18日 配布


      [No.2320] 斧歯相撲 投稿者:リング   投稿日:2012/03/26(Mon) 00:45:53     77clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     ここに来るまでに糞の跡、尿の跡、そして真新しい踏み跡を探り回っていた二人は、傍目には変人奇人の類に映ることであろう。
    「見ろ、オノノクスだ。11時の方向、あの岩場の方だ」
     そんな行動の末に、迷彩服に身を包んだ男はお目当てのポケモンを見つけた。彼は、隣の草むらに興奮した様子で話しかける。もちろん隣の草むらにいる者も同じく迷彩服に身を隠し、擬態した人間であり、動かずにじっとしていれば発見するのは難しい。
     視覚で彼らを捉えるならば、ハブネークの持つピット器官を使うか、カメラのレンズの反射を視認するしか手は無いだろう。オノノクスの嗅覚は、退化こそしていないがそれほど敏感と言うわけでもないから、まず嗅覚からは見つからないし、聴覚だってここは山。吹き寄せる風に紛れて、足音なんてかき消されてしまう。まず見つかるはずもない。

    「おー、本当だ。いるいる」
     双眼鏡を覗いて、もう一方は感嘆の声を漏らす。視線の先には、オノノクスが互いの手を掴みながら抱き合っている光景。愛を語らっているわけではない。ましてやオノノクスに社交ダンスの生態は無い。

     あれは、メブキジカやオドシシの角と同じ。外敵に対する攻撃手段としても使われるが、メインは相撲を取るためだ。メブキジカならば、角を絡め合わせて押しあいを始める。角の付け根の痛みに負けて押し返される若い雄は、格上の雄に凄まれればすごすごと引き返しては視界から消える。
     そうして、ほとぼりが冷めた頃に大きさが同じくらいの雄に挑んでは、勝った負けたを繰り返して、そうして切磋琢磨ともライバル落としとも付かない期間を終えて、繁殖期に至るまでその行為は続けられるのだ。
     繁殖期の頃にはもう雌が雄を選んでいる。強い雄は複数の雌を囲み、数日の間はほとんど飲まず食わずで子孫を残す行為に専念するのである。


     その斧葉相撲を撮影するには、さすがに最初の位置からでは遠すぎるため、ある程度近づいてから二人は撮影を始める。その際、周囲の景色に紛れる迷彩服は非常に役に立ち、二人とオノノクスの距離は30メートルほどまで縮まった。そのまま追いかけることも考えたのだが、運がいいことに忍び足で近寄って行くうちに、オノノクスはもう一頭の雄と鉢合わせしていた。
    「見てください……二頭のオノノクスです」
     小さな声だ、ここまで離れていれば、普通に会話をしてもオノノクスの耳に届く前に風にかき消されるであろうが、万が一のことを考えると慎重にならざるを得ない。マイクは顔に固定するイヤホンマイク型。安物ではないが、いかんせん小型であるため機能性は芳しくなく、周囲の雑音も容赦なく拾われていくため、さわさわと木の葉を撫でる程度の優しいそよ風が相手でも、音量を絞った声では太刀打ちできない
    「おい、マモル。声小さい……全然聞こえないぞ。大丈夫だって、この時期のオノノクスはまだ温厚だから多少の声なら安全だ」
    「あいあい、アマノ。それではー……えー、見てください。アレがオノノクスです」
    「……うーん、これはどうなのかなぁ」 
     言わせておいてなんだが、と言う風にアマノと呼ばれた青年は呟いた。
    「やっぱりあれだ、基本的に自然の音だけを録音して、後からナレーションを入れた方がいいかもなぁ……口パクでナレーションを入れる間だけ作って……」
     アマノが提案する。
    「そうだな……周りの音も邪魔せず入れておきたいし」
     そしてその提案にはマモルも納得した。
    「じゃ、黙るぞ……」
     ポケモン達を刺激しないよう、マモルは黙りこくって撮影を始める。しばらくフィルムをまわしていると、闘争心の強い二頭の雄のオノノクスが雌の争奪戦に向けての斧歯相撲を始めてくれた。
     手と手を握り合ったまま、顎の斧歯をガツンガツンと打ち合わせる斧歯相撲。歯の付け根が痛くなるか、ヒビ割れるかでどちらかが降参すれば勝敗のつくこの試合。同族の仲間を殺さないように、かつ必要以上に傷つけないようにどちらが強いかを競い合うにはもってこいである。

     繁殖期の前は、斧歯同士を打ち鳴らす音が時折山で響きあうため、オノノクスを恐れるポケモンはその音を聞くとすぐに逃げ出してしまうのだ。
     フキヨセの街では、そんなポケモンたちの性質を利用して、オノノクスの斧歯相撲に似た音を出す楽器を打ち鳴らすことで農作物の被害を減らしたという。
     そんな、斧歯相撲の力強い音色を間近で聞いていると、その迫力にはナレーションを入れる余裕もないくらいに息をのんでしまう。
     双方ともに斧歯の付け根が痛いのか、時折休みを挟みながらもつなぎ合った手は離れない。
     痛みで膠着状態に陥っていた時、痺れを切らした僅かに体が大きい方のオノノクスが牙を振り上げる。
     待ちの体勢に入っていた小さい方はこれを待っていたのだ。わずかに小さい方は斧歯の中心で、相手の斧歯の中心から外れた部分へ打ち付けた。
     斧歯の芯で斧歯の比較的弱い部分を叩いたことで、痺れを切らした大きいオノノクスの斧歯は僅かながらに欠けてしまう。
     これには、大きい方も負けを認めざるを得ず、体の大きなオノノクスは自分から手を離して頭を下げた。
     鮮やかな勝負の幕引きに思わず撮影者も感嘆の声を上げる一方で、小さなオノノクスの勝利の雄たけびが撮影者の声をかき消す勢いで周囲に響き渡る。
     あの雄はいずれ大物になる、そんな気がした。


     思ったよりも迫力のある映像を撮れての凱旋帰還の最中の事。
    「そういえば、ソウリュウシティのジムリーダーのシャガさん……オノノクスとレスリングをやっているって言うけれど……あの髭の中に金属仕込んで斧歯相撲でもやっているのかなぁ?」
    「いやいやいや、アマノ。それはないだろ」
     あの圧倒的な力強さの相撲に、人間が太刀打ちできるわけがない。いかにあの逞しいシャガさんでも、それは例外ではないだろう。それでも、ありえそうに思えてしまうあのカリスマが、彼が市長たる所以なのだろうか。


      [No.2319] 作者・スタッフ分発送しました 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2012/03/26(Mon) 00:18:17     104clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    メールでもお知らせしましたが、作者スタッフ分を発送いたしました。
    1週間経っても届かない場合はご一報くださいませ。


      [No.2318] ドッペルゲンガー 投稿者:くろまめ   投稿日:2012/03/25(Sun) 21:29:56     94clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


     ドッペルゲンガーという言葉の意味を、ある程度のことは誰もが知っているだろう。
     まあしかし、念のために話の流れをスムーズにするためにも、俺が簡単に説明しておくとしよう。ようは自分にそっくりな存在がこの世界のどこかにいて、それを見てしまうと死んでしまうというものだ。
     そりゃあ自分にそっくりな奴なんて、この広い世の中だ。どこかに一人くらいはいてもおかしくはないだろう。いや、むしろいない方が変かもしれない。俺と同じイケてる面子を持ってる幸運な輩がいるわけだ。


     とはいっても、やはり自分とそっくりな存在がどこかにいるというのは稀なことなのかもしれない。
     例えばそこら辺でチョロチョロと駆け回っているコラッタ達だって、僕からすれば全くもってそっくりだ。けれども本人からすれば、どこかしらの違いがあり、やはりそっくりではないのだろう。細かな違いというのは当事者たちにしか分からないものだ。


     だから、よくよく探せばどこかしらの違いがあるはずだ。毛並みだとか肌の色だとか、きっとどこかに違いがある。考えてることまで一緒ということはあるまい。双子や三つ子にだって何かしらの違いがあるように。いつかきっとわかるはずだ。おいらたちの違いというものが。ドッペルゲンガーなんてものは存在しないし、それで死ぬなんていうこともない。あるわけがないのだ。


     俺は僕はおいらは、隣のドードリオの顔を、じっと見た。




    ・描いてもいいのよ
    ・書いてもいいのよ
    ・批評してもいいのよ


      [No.2317] フェザーダンス 投稿者:きとら   《URL》   投稿日:2012/03/22(Thu) 00:13:57     128clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     ふぅっと一息ついて、ゾロアークは空を見上げた。
     突き抜けるような青い空と、そこだけミルクをこぼしたような雲のコントラストが目に眩しい。
     長いこと旅に出ていた。そんなときに浮かぶのは家に残した美しい妻と可愛い子供。そろそろ帰ろう。お土産は何がいいだろう。長いこと開けてしまったから、怒ってるだろうか。子供はどのくらい大きくなったのか楽しみで仕方ない。
     ふとゾロアークの鼻に綿雲がはらりと落ちる。払いのけようと鼻先の雲を掴んだ。
    「羽?」
     誘導されるように空を再び見上げると、青い空に目立つ白い風。数羽の鳥が飛んでる。しかも円を描いたり、宙返りしたり。その都度、羽毛が美しく鳥を飾っていた。
     ゾロアークはその鳥を追いかけて走り出していた。もっと見ていたい。その思いだけで走る。鳥たちが着地するあたりに。
    「誰!?」
     ゾロアークの姿を見つけた鳥たちは一斉に睨んだ。ピジョンが数羽、そしてトゲキッスが一羽。
    「えっと、空のダンスを見て、もっと見たいなって思って……」
     ピジョンたちは顔を見合わせる。知らないゾロアークがいきなりやってきての申し出に、困惑しないはずがない。けれどトゲキッスがにこりと言った。
    「ありがとう、よろこんでくれて」
     その言葉はゾロアークに向けられていた。
    「ピジョンたちは知り合いの結婚式だと、お祝いに集まってフェザーダンスを踊るんだ」
    「つまり、誰かの結婚式……?」
     ゾロアークが聞き返すと、トゲキッスが恥ずかしそうに言う。
    「ボクたちだよ」
     隣にいるのが新婦のピジョンのようだった。
    「本当はピジョットになるまで結婚しないつもりなんだけどトゲキッスがいいって言うし」
     これにはゾロアークも祝福しなければならない。荷物の中から結婚のお祝いに相応しいものを取り出す。それらを受け取ると、新郎新婦は深く頭を下げた。
    「見知らぬゾロアークに祝ってもらえたし、私もちょっくら踊る!」
     新婦はその翼を羽ばたかせようとしたが、仲間のピジョンたちに止められる。
    「新婦が踊ったら意味ないじゃん!」
    「お祝いの踊りじゃないか!」
     主役二人に見せる為らしい。しかし新婦のピジョンは止められてつまらなそうだ。よほど好きなのだろう、フェザーダンス。
    「一番上手いからってお祝い見せる相手が踊ってたら意味ないから!」
    「トゲキッスに見せるからいいのだ!」
     それだけ言うと、新婦のピジョンは空へと飛び立つ。仕方ないなという顔をして、ピジョンたちは空を飛んだ。
     そして始まる、白い羽と青い空の共演。ふわりふわりと散った羽がゾロアークの頭にそっと乗った。
    「ピジョンはね」
     空を見上げながらトゲキッスは言った。
    「ここに迷い込んだ僕を仲間として扱ってくれてね。何から何まで教えてくれたよ。僕が歌うととても嬉しそうに聞いてくれた」
     ぽつりぽつりと昔のことを断片的に思い出すように語る。
    「だからね、僕はピジョンがポッポだろうがピジョットだろうが関係ないんだ。型破りのお祝いフェザーダンスだろうが、僕はピジョンが一番だよ」
     トゲキッスの言葉に、ゾロアークも妻と出会った頃のことを思い出す。何かが解らないけど、何か特別で一緒にいたいと思った。きっとこのトゲキッスもピジョンに対してそう思うのだろう。
    「実は、故郷に妻と子供がいるんだ」
     ゾロアークは舞い降りる白い羽を荷物の中に入れた。
    「トゲキッスやピジョンを見てると、帰るところっていいなって思う」
     年頃の女の子のようにはしゃぎながらフェザーダンスを踊るピジョン。きっと明日からずっとトゲキッスと一緒。ずっとずっと。だから最後にみんなで踊りたいのだ。妻の友達が最後にダンスをやたらと誘って来たように。
    「だから、もう帰ろうと思うんだ」
     ピジョンのフェザーダンスはまだまだ続く。羽ばたきがリズムを生み、周りのピジョンが風に乗ってさらに高く舞う。白い羽に包まれたピジョンが上昇気流に乗って楽しそうに鳴く。息など切れない。そのまま歌い出しそうな動きで、トゲキッスの目を楽しませる。
    「ゾロアークの家はどこなの?」
    「んーと、ずっと遠くだよ」
    「途中まで送っていくよ。大丈夫、僕はピジョンと違って踊らないから」
    「わあ、凄い嬉しい!」
     羽音一つさせず、ピジョンがトゲキッスのもとへと戻る。渾身のダンスの後の顔は、とても輝いていた。
    「でも、遠慮しておくよ。新妻がいるのに、邪魔するわけにもいかないから」
     トゲキッスの羽に黙って嘴をうずめるピジョン。ほめて、と言わんばかりの行為に、トゲキッスはアンコールを送る。
    「じゃ、元気で、縁があればまたー」
     結婚式の祝福にフェザーダンスを踊るピジョンたち。こんなことも話してやろうと、ゾロアークは家路を急いだ。

    ーーーーーーーーーーーー
    ごめん池月君のつもりで書いたのに池月って名前出すの忘れたごめん
    踊るポケモンたちをテーマに短編かいていきたいなと思って、先発はフェザーダンス。
    どこかで見た設定?いやいや気のせいです旦那。
    【好きにしてください】


      [No.2316] 血を求める少女 投稿者:きとら   《URL》   投稿日:2012/03/21(Wed) 22:31:58     112clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    グロいです。


     ユウキが久しぶりにホウエンのミシロタウンに帰ったのは、チャンピオンとなり、さまざまなところへと行った後だった。もうすでに年も14となり、成長期を迎えて体格もそれなりに男らしくなってきた。
     懐かしさのあまりユウキはミシロタウンの入り口から走って家にたどり着く。久しぶりに見る両親の顔や、自宅に置いて来たポケモンたちと再会する。オーレ地方では危険だからと精鋭しか連れていけなかったし、イッシュ地方では新しいポケモンを捕獲するのが忙しかった。だからこそホウエンでチャンピオンとなった時のメンバーとはだいぶ違ってしまったが、ユウキにとっては大切なポケモンたちだ。
     しばらくゆっくりするつもりで帰って来た。そういえば友達たちは元気だろうか。あれから手紙を1年に一回送るか送らないかの仲ではある。新しいポケモンはいるのかな。病気は完全に治ったのかな。
     自宅にいるとは限らないけれど、ユウキはまず同じ町内に住むハルカを訪ねる。オダマキ博士への挨拶という名目だったが、やっぱり友達に会いたいというのが強かった。あの時と変わらない。呼び鈴を押す。
    「あら、ユウキ君じゃない。ごめんねえ、ハルカいないのよ」
     用件を言う前にいきなり追い返される。昔からちょっとつっけんどんなお母さんだなと思っていたけど、こんなに冷たい覚えはなかった。
     仕方ない。オダマキ博士への挨拶だけは済まそう。ユウキはオダマキ博士の研究所へと足を運ぶ。
    「おやユウキ君。久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
    「はい。お久しぶりです。博士にいただいたポケモンもかなり強くなりました」
     たわいもない世間話だ。昔話からチャンピオンになった後にどこにいったのか、そしてその間に捕まえたポケモンの話。
     さらにユウキは気になったことを聞いた。
    「家にいったんですけど、ハルカいなかったんですよね。やっぱりフィールドワークの手伝いを……」
    「ああ、ハルカならどこかいるんじゃないか」
     ユウキの言葉を遮ってオダマキ博士は答える。その雰囲気に疑問を持っても、もしかしたらいなかった数年に何かあったのかもしれないし、あまり詮索することではない。土産として持って来た向こうの珍しいモンスターボールをオダマキ博士に渡すと、ユウキは研究所を後にした。
     やたらと知識だけはあったハルカのことだ。もしかしたらすれ違いで旅に出てしまっているのかもしれない。それで帰りが遅くて心配してるのかもしれないし。
     ユウキは部屋でゴロゴロとしていた。オーレで買ったポケモンデジタルアシスタントを見ていると、お腹の上にプクリンが乗ってくる。気持ちよい手触りの毛並み。この毛並みを整えるためにシンオウのデパートではポフィンを探した。そのおかげでコンテストでも勝てた。けれど戦うことに関しては、毛並みが崩れるのを防ぐために自宅へ預けていた。
     するとポケナビにメールが入る。久しぶりから始まるメール。ハルカだった。
    「おかえり私のいない間に帰ってたんだねユウキ君血がほしいよどうしたらいい私に血がないの」
     何のこったい。意味の解らないメールにユウキは返信に手がのびない。こんな気味の悪い文章を送ってくるような子ではなかったと記憶している。ズバットを育ててた時もそんなこと言わずにオレンの実をあげてたのに。
    「どうした?クロバットがそんなにたくさんいるの?」
     当たり障りない返事を打つ。数分もしないうちに帰ってくる。
    「違う血が欲しい血があればよかったのに」
     なんだかおかしいと思った。ユウキは上半身だけ起こして急いでメールをうつ。
    「今から行く。どこにいる?」
     ポケナビを置いた瞬間だった。再び受信のメールが来たのは。
    「家」
     ユウキは自分のモンスターボールから一つ選ぶ。あのお母さんに会わずにハルカに会える一つの方法はテレポートしかない。スプーンを二つ持ったフーディンがあらわれる。
     いきなり部屋にテレポートするにはためらった。せめて部屋の前、二階の廊下にするべきだろう。そこまでフーディンが考えていたのかは知らないが、ユウキがテレポートした先はちょうど部屋の前だった。ノックして、返事のないドアをあける。
    「なんだ、ここ」
     前はエネコのぬいぐるみが飾ってあったのに、いまは殺伐とした風景だ。旅先で会った同い年くらいの女の子たちだってもっとかわいいものを身につけていた。それなのになんだここは。廃墟のような部屋にユウキは何も言えない。そして人の気配などなかった。
    「まったく、あの子はどこいったのかしら。ハルカ!」
     ハルカの母親の怒声が聞こえる。ここにいるのがバレたらヤバい。ユウキはクローゼットの中に隠れる。その直後、ドアが勢いよく開いた。
    「抜け駆けだけは早いんだから。掃除さぼって何をしてるのかと思えば。全く。今日のご飯は無しね」
     ユウキが聞いてるのも知らず、不機嫌な足音をたてて去って行く。遠くなったのを見計らい、ユウキはそっとクローゼットから出る。
    「なんだなんだ、何が」
     ハルカはいない。そして荒れた部屋。ハルカの母親の態度。そしてオダマキ博士の態度。それらを総合すると、ユウキはとてつもないことに関わってしまったような気がした。帰った方がいい。ユウキがフーディンのボールを出した時に気付く。
     机の上にある古い日記。他人のものを見てはいけないと思いつつ、ユウキは手を伸ばした。何か解るかもしれない。
    「今日はご飯なかった」「おとうさんになんで帰って来たって言われた。」「鍵をかけられた」
     ユウキは読む手を止める。あの温厚そうな博士がそんなことを言うとは思いもよらない。ユウキはページをめくる。
    「血が欲しい」
     それだけ見開き1ページにでかでかと書かれていた。
    「出て行きたい血が欲しい血があればやさしくしてもらえる」
     また血だ。ユウキはさらにページをめくる。
    「ミツル君は血がないのにどうして優しいの。どうして私にはない。消えてしまいたい血だって消えていくよ」
     ミツルにあって、ハルカにない?ユウキはますます混乱する。最後のページを見るまで。それを見てユウキは固まる。そして。
    「フーディン行くぞ」
     フーディンに命令し、その場から去る。ハルカの行きそうな場所。そこは


    「ハルカ」
     ユウキは彼女の名前を呼ぶ。同じくらいの高さだったのが、今では頭一個分ユウキの方が高い。
    「迎えにきた。帰ろう」
     振り向いた彼女の顔は暗く、久しぶりに会うというのに笑顔一つみせない。
    「血がないと帰れない」
    「だから俺と帰ろう。ハルカの居場所はあそこじゃないよ」
    「どこに帰るの」
    「ホウエンは広いし、他の地方だってある。俺が行ったところはほとんどみんな優しかったよ。大丈夫、俺も一緒に行く。ハルカが博士の本当の子じゃないなら、ここに居続ける必要だってないだろ?」
     血はクロバットの餌のことじゃなかった。血縁関係のことだった。最後のページには戸籍謄本が折り畳まれていた。そこに書いてあった事実はユウキにも衝撃を与える。
     友達が困ってる原因がこれだ。これしかない。ならば少しでも助けたい。ユウキはそんな思いで来た。すでに旅立つ準備もして。
    「それにハルカだってホウエンを一周したんだから旅慣れてるだろ。行くぞ」
     ユウキはハルカの手を引っ張る。帰るところはミシロタウンではない方向に。

    ーーーーーーーーーー
    Q何が書きたかったの
    A解らん

    オダマキ博士って主人公には色々してるけど、実子の方には多少つめたいのを大きくしてみた。
    【お好きにどうぞ】


      [No.2315] たぶんね、 投稿者:小春   投稿日:2012/03/21(Wed) 00:36:39     111clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     ある日、二匹のしあわせが出会いました。

     僕はしあわせって言われてます。あなたはしあわせを知っていますか。
     
     もちろん知っているわ。
     しあわせはね、わたしのタマゴにつまっているのものよ。

     私はしあわせって言われているの。あなたはしあわせって知っているかしら。

     もちろん知っています。
     しあわせは、ぼくの翼にこもっているのものですよ。

     いいえ、いいえ。
     僕の、私の、タマゴにこそ、翼にこそ、しあわせがあるのです。
     二匹のしあわせは、言い合いをはじめてしまいました。タマゴにこそ、翼にこそしあわせがあるのだと言い張りました。
     翼のしあわせは、タマゴなんて狭くて苦しいものにしあわせがあるはずがないと言いました。
     タマゴのしあわせは、翼なんて軽くてふわふわしたものにしあわせがあるはずがないと言いました。
     言い合いははげしくなるばかりでした。お互いにしあわせはそこにないと言い張りました。だんだん、二匹のしあわせはしあわせがなんなのかわからなくなってきました。
     しあわせが分からなくなってきた頃、くさむらからこんな声が聞こえてきました。

     しあわせなんてね、どこにだってあるものなのよ。たぶんね。
     しあわせにね、形なんてないのよ。たぶんね。
     そうやって探してるとしあわせを見失うと思うの。たぶんね。
     出会えたことがしあわせなのよ。たぶんね。
     出会ったばかりでいきなり殴られたって、わたしはしあわせよ。たぶんね。

     二匹のしあわせは、お互いに顔を見合わせました。タマゴをみました。翼をみました。
     たぶんね、しあわせはどこにだってあるんだなと笑いました。くさむらからも、そうかもね、ですよね、ほらね、やっぱりね、だろうね、たぶんねと笑い声がきこえました。


    ☆★☆★☆★

    おかしいな、もそっとちゃんとするつもりだったんです。
    タブンネさんがすべてを颯爽とかっ攫っていった気がするんです。一番最後はタブンネ隊から。


      [No.2314] 初版、完売。 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2012/03/20(Tue) 23:29:26     125clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    No.017です。
    本日のふぁーすと3で作者・スタッフ配布分を除きまして、
    「ポケモンストーリーコンテスト・ベスト」完売致しました。
    ありがとうございました。

    即売会中、再版問い合わせや通販問い合わせが10件くらい入ってます。
    冊数は印刷代と相談ですが、サンクリ55(4月15日)再版の方向で動きます。


      [No.2313] 嘘吐きウソッキー 投稿者:音色   投稿日:2012/03/20(Tue) 17:54:12     120clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    あるところにウソをつくのが好きなウソッキーがいました。
    ウソッキーは誰もが笑顔になるウソが好きでした。
    ウソッキーは小さなポケモン達も好きでした。
    子供たちはウソッキーのウソが大好きだったからです。
    ウソッキーは色々なところを旅することも好きでした。
    あちらこちらの風景に溶け込むことが好きだったからです。
    ウソッキーは他のポケモンを驚かすことも好きでした。
    みんなのびっくりした顔が好きだったからです。
    怒りだすポケモンもいました。泣きだすポケモンもいました。
    ウソッキーはその時、お詫び代わりにウソをつきます。
    それは聞いていてとても楽しいウソです。
    怒りだしたポケモンも、泣きだしたポケモンも、みんな笑いだしてしまいます。
    ウソッキーはそんな笑顔が好きでした。

    ウソッキーは気に入った場所にしばらくとどまります。
    すると子供達はいつもウソッキーと遊びたがります。
    みんなウソッキーのウソを聞きたくて仕方がないのです。
    ウソッキーはねだられるままにウソをつきます。
    小さなポケモン達は一つのウソが終ると、次のウソを、次のウソをとねだります。
    笑顔が見たくて、ウソッキーも丁寧に一つ一つウソをついていきます。
    あっというまにウソッキーはみんなの人気者になりました。

    ある朝、ウソッキーは自分が空っぽになっているような気がしました。
    どうも気持ちが良くありません。
    いつものように小さなポケモン達がウソをねだりにやってきました。
    ウソッキーは何かウソをつこうとするのですが、開いた口からは何にも出てきません。
    まだかまだかとポケモン達は急かします。
    ウソッキーは正直に、何も出て来ないと言おうとしましたが、その言葉すらも上手く出てきません。
    みんなはだんだん機嫌が悪くなってきました。期待の眼差しが途端に鋭いものに変わります。
    ごめんね、今日はウソはないんだよ。どうにか絞り出した言葉を聞いて、小さなポケモン達は文句をいっぱいぶつけました。
    ひとつひとつがウソッキーの空っぽの心に刺さります。
    お話のできないウソッキーなんていらない。ウソの付けないウソッキーはいらない。そういって小さなポケモン達は飽きたおもちゃを捨てて、ばらばらに帰って行きました。
    ウソッキーはしょんぼりしながらその場所から去りました。
    確かに小さなポケモン達の言う通りなのです。ウソッキーのウソを聞きたいから集まってくるのだから、ウソが付けなくなればウソッキーはただのウソッキーなのです。
    ウソッキーはまた小さなポケモン達の笑顔が見たいなあと思いました。

    ウソッキーは砂漠にやってきました。ここはいつも砂嵐が吹き荒れています。
    普通のポケモンならとても居心地は悪い場所ですが、ウソッキーにとっては何ともありません。
    しばらくここにいようかな、と空っぽのままウソッキーは思いました。
    ところが、一つ問題がありました。
    砂漠は何にもありません。これではウソッキーは風景に溶け込むことができません。
    これは困ったなぁ、と思いながら、ウソッキーはとぼとぼ歩いていました。
    ぽつんと砂漠のまんなかに何かが立っていました。
    ウソッキーが近づいていくと、それが何か分かりました。砂嵐のなかで背の高いサボテンが立っているのです。
    ノクタスがぼんやりとしていました。
    砂漠にサボテンがいることは何にも不思議ではありません。
    しかし、そのノクタスは好んで風景に溶け込もうとはしていないようでした。
    ウソッキーがそばにやってきても、ノクタスは特に反応しません。
    ずっと黙っています。
    砂嵐の音だけが響きます。
    何時しかウソッキーも隣に立ってずっと黙っていました。

    夜になると砂嵐が止みました。
    あたりがぐっと寒くなりました。
    ふとノクタスが上を見上げました。
    つられてウソッキーも空を見上げます。
    そこには満天の星空がありました。
    ウソッキーはその光景にただただ息をのみました。自分の持っている言葉をすべて使っても表せないであろうそれに、どうすればいいのか分かりませんでした。
    ノクタスは黙っていました。
    何も言いませんでした。
    その沈黙に全てが表されているように思えて、ウソッキーもずっと黙っていました。

    次の日、ウソッキーは自分が空っぽではないことに気がつきました。
    とても清々しい気持ちです。
    ノクタスを見ると昨日と同じ様にぼんやりとしていました。
    ウソッキーはノクタスにお礼を言いたくてはじめて声をかけてみましたが、こちらを向くだけで特に何も言いません。
    元来無口なのかもしれません。
    お礼を言われる理由が分からないかもしれません。
    それでも、よかったのです。
    言葉を紡がない時間をくれたことにお礼が言いたかったのです。
    心が満たされたウソッキーは、砂漠を後にしました。

    ウソをつくのが好きなウソッキーがいました。
    あちらこちらをまわるのが好きなウソッキーがいました。
    景色に溶け込むのが好きなウソッキーがいました。
    自分のウソでみんなの笑顔を見るのが好きなウソッキーがいました。
    そして自分が空っぽになった時、砂漠で何も言わないノクタスと一緒に空を見上げるウソッキーがいました。


    ――――――――――――――――――――――――――――――
    余談 ドーブルが絵描きならウソッキーは語り部だと思う
    あらゆるものを吐き出しつくして空になったなら、言葉を紡ぐのをやめてしまえば良い。
    疲れたら休みましょう。

    ・・・的な何か。
    【好きにしてもいいのよ】


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