マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
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  •   [No.2229] 愛される者 投稿者:紀成   投稿日:2012/01/29(Sun) 17:52:48     79clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    三年前、ポケモンリーグ、決勝戦。スポットライトとフィールドをぐるりと囲む客席に、満タンになった観客の声が大きく響く。どこまでも轟く、雄叫びのように。
    ライトは暗い空を昼間のように明るく照らしている。星は見えない。月が隅っこで遠慮がちにペカリと光っているだけだ。太陽に照らされた月が霞んでしまうくらい、そこは輝きに満ちていた。
    土で覆われたフィールド。
    白い四角いライン。
    ハイドロポンプとオーバーヒートの、メビウスの輪。空を飛ぶ者と地を制する者の、直接対決。
    人々はその光景に我を忘れ、叫び、見入っていた。中心で勝敗を決めるジャッジでさえも、見惚れていた。
    カメラに映されたその光景を、世界中の全ての人間が見守っていた。

    彼らが見つめるフィールドに立っているのは、有名ベテラントレーナーでも、四天王でも、はたまたチャンピオンでもない。
    「カメックス、ハイドロカノン!」
    「リザードン、ブラストバーン!」
    水と炎に包まれながらも決して目を逸らさず、ただ相手と相手のポケモンを見据える少女と少年。
    それがこの大会のメインだった。

    彼らは幼馴染だった。同じ日にポケモンを貰い、同じ日に最初のジムを勝ち抜き、同じ日に最初のポケモンを進化させた。捕まえるポケモンは違ったが、それでも何故だか同じ日にポケモンを捕まえていくのだ。
    同じ日にジムを勝ち抜くのだから、どちらが先にジムに入り、出てくるかが勝負になる。せっかちな少年と、しっかりした少女。何故かいつも、せっかちよりしっかりの方が勝ち抜くのが速かった。それでも必ず同じ日に彼らはバッジを貰っていく。
    その話がジムリーダーからジムリーダー、街から街へと移り、最後の街に来た時はちょっとした話題になっていた。もちろんそこでも、最初に来たのは少女の方だった。勝ったものもちろん、少女だった。
    『一体どうして彼女の方が早くて強いのだろう』
    二人に注目する人間の誰もが、そう思った。遅い彼を『気の毒だ』と思う人も出てきた。
    だが、彼らに対する見方がガラリと変わる事件が起きた。カントー地方を活動の拠点にしていた集団、ロケット団との抗争、そして壊滅。
    二人は力を合わせて壊滅させた。どちらが先にボスの首を取るか、なんて関係ない。ポケモンを攫って改造するなんて、許せない。壊滅させた後のインタビューで、二人は口を揃えてこう語った。
    そこでやっと気付いた。せっかちだろうがしっかりだろうが、遅かろうが早かろうが、最後に大切なのは『正義の心』なのだと。現に一歩遅い少年だったが、自分の手持ちポケモンに当り散らしたりしている姿を見た者は誰もいない。むしろ、一度のバトル毎に頭を撫で、礼を言う。
    自分のために戦ってくれて、ありがとう―― と。
    そしてそれは、少女も同じだった。いつしか二人は、『神に愛されているトレーナー』と呼ばれるようになった。

    試合から二時間近くが経過していた。いつもなら観客が飽きてくる頃だが、今回はわけが違った。たとえ少女の方が早くとも、両者の力は互角。少しの気の緩めが、敗者となる原因を作り出すことになる。
    ビリビリとした空気の中。
    声が出ないほどの重圧。
    スタジアムの観客席は、異様なほどの沈黙で満たされていた。響くのは、フィールドの土を散らす音と彼らの鳴き声、呻き声だけである。既に技のPPは両者とも尽きており、肉弾戦となる長期戦へと突入していた。
    二人とも何も口に出さない。ただ、目の前を見据え、今戦っている自分の相棒を信じることだけに身を捧げている。
    リザードンがカメックスの頭を掴んだ。細いが凄まじい力で相手を地面に叩きつけようとしている。だがカメックスも負けていない。その短いが太い腕で相手の細い首を掴んだ。そのまま力が入る。頭が、首がメキメキと音を立てる。人間ならとっくに死んでいるほどの威力だ。
    リザードンが足を掛けた。と同時にカメックスも相手の腹を蹴り上げた。二匹ともバランスを崩し、仰向けに倒れる。観客席からわずかに声が漏れた。
    だが二匹はまだ起き上がる。額の傷口から赤い血が流れ、殴られ、蹴られて打撲痕と切り傷が痛々しい。それでも彼らは戦うことをやめない。自分を育ててくれたトレーナーのためにも、勝とうと思うからだ。
    リザードンが腕を振り上げた。カメックスも拳を振り上げた。
    そして――


    その目は白く、何も見ていない。ぐらり、と拳が小さく弧を描き、空中で止まった。殴ろうとした体勢のまま、倒れることもせず直立不動で瀕死になっていた。
    リザードンが少し後ろに下がった。カメックスが攻撃してくることは、ない。ひたすら静かなフィールドの周りを見渡し、いつの間にか自分が何も聞くことなく戦っていたことを知った。
    倒れることなく瀕死になったカメックスの後ろに、一人のトレーナーが目を見開いて立っている。その瞳に映るのは、歓喜か、絶望か。
    リザードンは空を見た。やっと星が少しずつ見えてきた気がする。月もライトを押しのけて目立ち始めたようだ。静寂が、彼らの味方をしたようだ。
    グッと顔を上にし、拳を握り締め、

    リザードンは、雄叫びを上げた。空が落ちてくるような声で。

    リザードンの方のトレーナーが口を開けっ放しにしている。信じることができない。これは夢なんじゃないか。そう表情が言っているようだった。カメックスのトレーナーが目元を抑え、審判を見た。ハッとしたように我に返り、審判が赤の旗を揚げた。

    『――カメックス、戦闘不能。リザードンの勝ち。よってこの勝負、赤側が優勝となります!』


    それに続いて、観客席から爆発するような叫び声が聞こえてきた。それは力尽きてもなお倒れることのないカメックスと、それを破ったリザードン、
    彼らを最後まで信じて指示を出した二人のトレーナー達への賞賛の声だった。
    ふと見ると、リザードンの方のトレーナーが口を開けっ放しにしている。信じることができない。これは夢なんじゃないか。そう表情が言っているようだった。カメックスのトレーナーが目元を抑え、カメックスの元へと向かった。彼はまだ立ったままだ。手を甲羅に当ててもビクともしない。
    『……ありがとう。本当にありがとう』
    涙が後から後から溢れて、止められない。最後まで戦ってくれた彼のためにも、泣くまいと思っていたのに。
    それでも、ものすごく悔しい。カメックスをボールに戻し、リザードンの腹に抱きついている相手の元へと歩みを進める。相手がこちらに気付いて、向かってくる。
    そのまま二人は数秒間、見詰め合っていた。不意に少女の方が口を開く。
    『こんな結末になるなんて、誰も考えなかったと思うの』
    『僕も考えていなかった。ただ、目の前の巨大な壁を越えること…… それだけを考えていた』
    『そしてその壁は、お互いだった』
    『うん』
    『うん』


    『……おめでとう』
    二人の頭上で、花火が散った。


    神に愛されているトレーナー。その後も、二人はそう呼ばれた。たとえ勝者と敗者という残酷な位置決定をされても、二人は他のトレーナーを寄せ付けないくらい強かった。
    だが奇妙なことに、二人は二度とお互いとバトルすることはなかった。他地方へ行き、そこのジムに挑戦してもやはり少女の方が早く、少年は後だった。
    思えば、この時期が一番彼らが輝いていた時間だったかもしれない。だが時は流れる。
    残酷なほど、早く。

    黒い服の集団が、丘を上っていく。空は雲ひとつない青空。丘に青々と茂る草と時折散りばめられたような花が、彼らに全く似合っていなかった。
    目立つのは十字架と、女性は顔を隠すレースがついた帽子。先頭の男が持っている書物。
    そして、大きな棺桶。
    『――この眠れる者が迷うことなく、我らが主の下へ行けますように。この者に永遠の安らぎを与えたまえ』
    棺桶が大きな穴に飲み込まれるように入っていく。すすり泣く声と、その間に人間のものではない声が混じる。あのリザードンが、泣き叫びたくなる衝動を必死で堪えるようにして、口をかみ締めていた。カメックスも、ライバルの主人の最期に目を伏せている。
    柔らかい風が、喪服の集団を優しく撫でていく。少女の長い髪が空に仰ぐ。黒いワンピースを着た少女が、ポツリと言った。
    『……向こうはどんな所なんだろうね』
    最期の別れを、と棺桶の蓋が開けられた。花に囲まれた少年は普通に眠っているように見える。
    『元々、君はせっかちだった。考えるより先に体が動いて、それで失敗することがよくあった。でも、その行動の早さに周りが助けられてたりしていたのもまた事実。
    妙な出来事があればすぐに誰かに知らせに行くし、何か綺麗な物や珍しい物を見つけたらそれも独り占めしないで、皆に見せに行く。
    君は優しかった。
    でも、大きくなるにつれてそれは長所だけでなく短所として見られるようになった。後先考えないで行動する。早とちりをする。そしてそれが他人に迷惑をかけることに繋がる。君はいつしか、なるべく周りの後ろを歩いて行動するようになった。視線を気にするようになった。
    君が私よりいつも遅くジムに来ていたのは、私が勝てるかレベルのジムかどうか確かめるためだった。時々バトルしていたし、使用ポケモンのレベルはほぼ同じだったから、私が勝てれば、自分は勝てると考えたんだ……』

    『私は、君の昔の無鉄砲なところも好きだったんだけどね』


    供えられた花が、南風に吹かれて舞う。
    舞う花は、悲しいくらい青い空に吸い込まれていく。
    神に愛されているトレーナーは離れ離れになり、

    『神様が本当に愛したのは、君だったんだね』

    『愛された』トレーナーになった。


      [No.2228] テキトーに選んだらえらいことに 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2012/01/26(Thu) 21:44:46     56clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    ポケモンカードゲームシリーズ/でりでりさん
    http://masapoke.sakura.ne.jp/rensai/wforum.cgi?mode=kmsgview&no=282

    鏡の彼/風間深織さん
    http://masapoke.sakura.ne.jp/pkst/02/011.html

    レックウザのタマゴ/鶏さん
    http://masapoke.sakura.ne.jp/pkst/02/018.html

    No.102/monotaneさん
    http://masapoke.sakura.ne.jp/pkst/02/019.html

    ヨーヨー、顔文字、オムライス/久方小風夜さん
    http://masapoke.sakura.ne.jp/pkst/02/029.html

    流星を追い掛けて/きとらさん
    http://masapoke.sakura.ne.jp/rensai/wforum.cgi?mode=kmsgview&no=463

    スクリーンを飛び出して/そらさん
    http://www.google.co.jp/gwt/x?client=twitter&guid=on&u=ht ..... amp;whp=30

    ポケットモンスターReBURST--ラジオ体操の唄--/久方小風夜さん
    http://masapoke.sakura.ne.jp/lesson2/wforum.cgi?mode=kmsgview&no=1699

    【百字】日記の宿題【小説?】/久方小風夜さん
    http://masapoke.sakura.ne.jp/lesson2/wforum.cgi?mode=kmsgview&no=1400

    大長編ポケットモンスター「逆転編」/あつあつおでん
    http://masapoke.sakura.ne.jp/rensai/wforum.cgi?mode=kmsgview&no=15

    これが現在良いと思う作品です。久方さんの作品が多いことに気付いた。

    選んだ基準は、短編では「面白さ」です。あっと言わせる結末、シュールな展開、始めからクライマックス……私はこのような作品を好みます。その結果がこれです。

    連載の方は「長期間、かつ継続的に更新されている。または完結に近い」です。書いてみたらわかると思いますが、連載は恐ろしく完結させにくいものなんですよ。長期間書くうちに内容に自信を持てなくなったり、1度執筆から離れると中々復帰できない。そのような中でクオリティの高い作品を作るのだから、もっと注目されるべき。こういうわけで選びました。もちろん内容はレベルが高いですよ。

    最後に、自作を選んだのは単純に「どうしても10作品目が見つからなかったから」です。愛着があるのは否定しませんが。


      [No.2227] ポケスコ中心ですが選んでみますた 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2012/01/26(Thu) 20:16:18     58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    道(砂糖水さん)
    http://masapoke.sakura.ne.jp/pkst/01/018.html
    人間いろいろなものに縛られてるよね。
    主人公がいい男すぎる。

    美しきもの(てこさん)
    http://masapoke.sakura.ne.jp/pkst/01/009.html
    足跡でこの着眼点は素晴らしいよ。

    こちら側の半生(とさん)
    http://masapoke.sakura.ne.jp/pkst/02/032.html
    説明の必要はなかろう。最強です。

    Ultra Golden Memories (レイニーさん)
    http://masapoke.sakura.ne.jp/pkst/03/009.html
    このおじさんをみんなが待っていた。

    雨河童(586さん)
    単行本収録の為URL無し
    586さん、あなたって本当にひどい人ですね……。

    ホタルノヒカリ(きとかげさん)
    http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18832
    懐かしさと共にトラウマが蘇る。

    洗濯日和(CoCoさん)
    http://masapoke.sakura.ne.jp/pkst/kagebouzu/001.html
    これを外すわけにはいかないのだよ…!

    P(りえさん)
    http://masapoke.sakura.ne.jp/pkst/03/023.html
    こ れ は ひ ど い

    眠りの夜(ひろみさん)
    http://masapoke.sakura.ne.jp/novels/hiromi/nemurinoyoru.txt
    本棚より。カゲボウズものの傑作。
    お前らこれを読まないでカゲボウズを語るんじゃねぇ!

    砂漠の精霊(タカマサさん)
    http://masapoke.sakura.ne.jp/novels/takamasa/seirei.htm
    私に最も影響を与えた小説である。
    ポケモン小説ってこんなことをやってよかったんだ。
    ショール越しのふにゃりとした感触。


      [No.2226] 【突発企画】俺の選ぶポケモン小説十選 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2012/01/26(Thu) 19:55:33     67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    本当は年末かなんかにやればよかったんだろうけど、
    今思いついたので今スレ立てしている。

    とりあえず俺様ルールで選んだポケモン小説十個を上げていこうという感じで。
    短編に絞っても良いし、2011年発表に絞ってもいい
    マサポケのみでも、外部のサイトからでも。
    俺基準は好きに作ってください。(それも書いて貰えると嬉しい)
    読むキッカケが生まれるかもしれないのでURLがはってあるといいです。

    ではスタート。


      [No.2225] >586さん 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2012/01/25(Wed) 19:05:20     69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    プログラム出来る人きたこれ。
    さあ、DLして解析する作業に(ry










    期待してるのがばれてr(ry


      [No.2224] Re: >イサリさん >わたぬけさん 投稿者:   《URL》   投稿日:2012/01/24(Tue) 21:18:25     82clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    >> 1感想を投稿すると管理側から操作しない限り編集・削除ができない。
    >
    > これが一番悩ましいですね。
    > プログラムくわしい人がいじったらなんとかなるものだろうか……

    ライセンスを確認したところ、とりあえずは改変はOKな様子。
    実装できるかどうかは分かりませんが、一度ソースを確認してみたいです。
    少し手を加えれば何とかなるかも?


      [No.2223] 解き方 投稿者:きとら   《URL》   投稿日:2012/01/24(Tue) 12:39:28     77clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ゼロの焦点っぽくスピード感のある解き方ですね。

    >締め切りは守りましょうwww
    あーあー聞こえない


      [No.2222] >イサリさん >わたぬけさん 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2012/01/24(Tue) 03:35:47     78clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    >イサリさん

    ホラーは実はどうしようか迷ったところで
    どうせなら最初からホラーとして読むんじゃなくて地雷踏んだほうがいいかなと思わなく(ry
    まーでも、あったほうがいいかな! 検討します。

    ふと思ったんだけど愛憎劇とかはどうなんでしょうね(
    いやふと思っただけだけど。


    >わたぬけさん

    どうも、なんか勝手に話題に挙げちゃってすみません。
    まろやかの存在自体は実はポケノベさんの導入前から知ってたんですが、
    どうしようかなー と迷いつつコンテストなんぞやってる間に、今に至りました(笑)
    今日、オクレ青年投稿しに行きましたけど機能としてはかなり使いやすいですね。

    問題にあがった3点のうち、
    > 2「小説家になろう」にあるような、話と話の間に一話挟む所謂「割り込み投稿」の機能が無い。

    に関しては、
    今ある投稿分を上書きして別の話に書き換えることで、順序を入れ替えられるので
    これはまぁ回避策があるんですよね。(マサポケの本棚もそうでした)


    > 3投稿形式を「読切小説」にしてしまうと基本流れっぱなし。

    これは短編集にするように勧めるしかなさそうです(笑)


    > 1感想を投稿すると管理側から操作しない限り編集・削除ができない。

    これが一番悩ましいですね。
    プログラムくわしい人がいじったらなんとかなるものだろうか……



    > もちろん猿まねするようなことはするつもりありませんが、ここでの意見を参考にしたタグが増えるかもしれません(笑)

    ほほうw
    何が増えるか楽しみにしておきます(笑


      [No.2221] Re: 【意見募集】本棚設置に関して 投稿者:わたぬけ   投稿日:2012/01/24(Tue) 01:54:25     69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ひと通り議事録に目を通させて頂きました。
    私どもが使ってるのをご覧になったのがきっかけになったというのなら、それは大変に幸いなことです。
    自分も初めてまろやか投稿小説ぐれーとのことを知ったときはまさしく「これだっ!」と思って導入に至りましたからね。
    ただ、ツイッターのほうでも少しばかりリプライさせて頂きましたが、機能的には大変優れているこのシステムですが、その分細かい所で小回りがきかない点がありますのでそのあたりをどうかお気をつけて。
    特に気になるものを挙げますと以下の三つになります。

    1感想を投稿すると管理側から操作しない限り編集・削除ができない。
    2「小説家になろう」にあるような、話と話の間に一話挟む所謂「割り込み投稿」の機能が無い。
    3投稿形式を「読切小説」にしてしまうと基本流れっぱなし。

    3につきましては議事録にもありましたように、どの作品も最終的には流れてしまうので仕方のない話ではありますが。


    今回の議事録を読ませて頂きまして、現行で使用させていただいている自分にとっても参考になるような意見がたくさんあって今一度考えさせられるきっかけにもなりました。
    特にタグなどももっとバリエーションがあってもいいかもしれませんね。自分はただ事務的に分けるみたいな感覚でしか設置してなかったきらいがありますので。
    もちろん猿まねするようなことはするつもりありませんが、ここでの意見を参考にしたタグが増えるかもしれません(笑)


      [No.2220] 呪い 投稿者:   《URL》   投稿日:2012/01/24(Tue) 00:22:31     97clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    ※欝注意 特に受験前の人にはよろしくない仕様です。





















    「人を呪わば穴ふたつ」と口ずさみながら少女が登校した。古結晶子の携帯電話が鳴ったのは、それから一週間後のことだった。その時晶子はコーヒーを飲んでいた。
     電話の相手は言った。
     今、この町にのろいが蔓延している
     のろいの根源を探し出し、のろいを断ち切ってくれないか
     晶子はこう答えた。
     自分はしがない私立探偵で、のろいもゴーストポケモンも専門ではない
     しかし、行こう
     相手はほっと息をついて電話を切った。晶子はコーヒーを飲み干し、トレンチコートを羽織っると、ボールを三つ取り付けたベルトを持って外に出た。手前からモンスターボール、スーパーボール、ハイパーボールと並んでいる。晶子は目的地の方角を見やった。曇天だった。

     電車でひと駅。地図の上では隣にある町は、晶子には縁遠い、整然とした住宅街だった。ポケモンの姿が見えない、静かな町に晶子は降り立った。
     折り返し電話をかける。後ろで公衆電話が鳴った。携帯電話を切る。同時に公衆電話もピタリと静まった。ノイズから離れた耳に、下校する子どもたちの声が蘇ってきた。
     またらしいよ
     六年一組だって
     のろいなのかな
     こわいなあ
     晶子が振り向いた時には、子どもたちの一団はT字路の向こうへ消えていた。それとも幻だったのか。
    「サン」
     赤と白のボールからエーフィを呼び出す。薄紫の猫又を傍らに従えた晶子は、子どもたちがいた方とは逆向きに歩き出す。同じT字路があった。目まいがした。

     売店で雑誌を買う。バイトだという年若い店員に話をふると、彼は嬉々として話してくれた。
    「小学校って、すぐそこなんですけど、そこで女子生徒が自殺したって。いじめがあったらしくて。でもそれで終わりじゃなくて、その自殺した女の子が、ゴーストポケモンになって、自分をいじめた奴に仕返ししてるっていうんですよ」
    「いじめられっ子がゴーストポケモンになるなんて、都市伝説によくあるけど」
     晶子がそう、気のない風を装うと、若い店員は違うんですよと勢いづいた。
    「その証拠に、のろいのノートが残ってるらしいんですよ」
     だから、のろい。
     のろいの蔓延。のろいの根源。電話の向こうの声がリフレインした。
     のろいのノートについて、あるらしいという噂以上のことは分からなかった。お礼程度にコーヒーを買い求め、その場を去った。

     エーフィのサンが眠たげに尻尾を揺らした。その先に公園があった。申し訳程度の緑で囲われている公園の、青く冷たいベンチでコーヒーのプルタブを起こす。苦い液体は、とうに温くなっていた。青いベンチの上に灰色の雑誌を広げた。エーフィは彼女の足元で欠伸する。
     静かな時間が流れた。細い首のようなポールの上に、丸い時計が乗っかっている。長い針が控えめに動く。雑誌にはのろいに関係ありそうな話は載っていなかった。ただ、この前新聞に載っていた少女の自殺が、この町の小学校で起こったということだけ分かった。
     晶子はその記事を新聞で見たはずだ。新聞で読んだ時、何を思っただろう。おそらく、特に何も思わなかったのだろう。そして、どこで起こったかなど、全く気にかけなかった。
     強いて言えば、またか、と思った。
     また自殺か。またいじめか。
     それで、何かが解決するのか。いじめて、自殺して、何が。
     胸に真っ黒の油みたいなものが溜まっていくのを感じながら、晶子は立ち上がった。目まいがする。緑で縁取られた公園を見回して、何故こんな閉塞感を感じているのだろうと思った。ここには自然があり、遊ぶ場所があるはずなのに。
     晶子の不快感を察したかのように、エーフィが公園の入口に先立っていた。揺れる二又の尻尾を追いながら、晶子は公園の出口で違和感に気付く。
     そうだ、子どもの声がしないんだ。
     昔は、晶子が小さい頃は、学校が終われば適当なポケモンを連れ出して、近所の公園で遊んだものだった。今はポケモンの管理が厳しくなって、子どもらも実習の授業以外ではポケモンバトルをやらないのだ、と何かで読んだことがあった。それにしても静かすぎる、と思った。
     まじないのように腰のハイパーボールに触れた。晶子が来るのをエーフィが待っていた。

     猫又の行く先に晶子の目的地があった。雑誌の写真をかざし、下げる。
     自殺した女子生徒の家。
     隣の家も、向かいの家も、いや、ここに来るまでに見たどの家も白くて真四角だったのに、この家だけはくすんで歪んでいた。まるで、家という規格からここだけ落伍したかのように。エーフィが目を細めて、その落伍した家を熱心に見ていた。正確には、二階の家の窓辺りを。晶子もその窓を見た。カーテンが引かれて中が見えないガラス窓以外、何も、なかった。
     インターホンに指を近付け、押した。どこかで誰かを呼ぶ電子音がした。
    「はい」
     少しくすんだ扉を開けて、女性が現れた。やつれてはいない、目の下に隈もない、どこにでもいそうな、痩せ型の、肌が疲れた女性。
    「警察の方?」
     私立探偵です、と名乗ろうとした矢先、
    「警察です」
     後ろから声がした。見知った無精髭の刑事がそこにいた。
    「あ、青井さん」
    「なんだ、あんたか。……ちょっと、よろしいですか」
     そのまま、なし崩し的に晶子も家に上がることになった。表札には「守屋」とあった。

     畳の間に通された晶子は、青井刑事の隣に座り、守屋という女性と向かい合った。晶子にとって何とも居心地の悪い数秒間が経過してから、青井が口を開いた。
    「学校の方から連絡があったかもしれませんが、また」
     そこで口を切り、晶子に目配せした。あんたは何用で来た、と問いかけているのか、それとも、あんたはどこまで調べた、と探りたいのか、警察を辞めて長い晶子にはもう判然としなかった。
     エーフィは晶子にぴたりと寄り添い、気配を探るように耳と尾をピンと立てていた。

    「ええ」
     守屋が口を開いた。それは晶子には、唐突に感じられた。
    「のろいだと」
     続けて守屋が言った言葉は、晶子の予想通りで、しかし微妙にワンテンポ遅れて伝えられたように晶子には思われた。
     青井が話し始めた。
    「六年一組の子です」
     そして、今度は守屋の方を探るように見た。しかし、守屋は反応ひとつ見せなかった。何の感情も見せようとせず、というより、見せる感情さえないのだといった様子で、ただ刑事の言葉を待っていた。
     青井は咳払いをした。
    「今度は感電死だそうです。何か、心当たりは」
    「ありません」
     守屋は、今度は素早く言った。
    「そうですか」
     守屋は立ち上がると、部屋を出ていった。軋む音が上っていく。階段を上ったらしい。晶子と青井はその間、畳の間で待ち続けていた。無為な時間。しかしそう思っても、晶子は今この家で口を開く気になれなかった。隣ではエーフィが耳と尾をピクピクと震わせていた。

     階段を下りる音がして間もなく、守屋が姿を現した。
    「これ」
     座るとほぼ同時に、日焼けした畳の上に一冊のノートを乗せた。
    「それから」
     何の変哲もないモンスターボールを一個、ノートの隣に置いた。
     青井がモンスターボールを、晶子がノートを手に取った。
    「お返しした方がいいかと思って」
     守屋が、晶子も、ノートも見ずに言った。彼女はどこを見ているのだろうと晶子は訝った。
    「遺品ですが……こうも事件が続くようなら……返した方が」
     晶子は守屋の訥々とした声を聞きながらノートの表紙を捲った。子どもっぽい、冒険物語の始まりが書いてあった。
    「警察でひと通り調べましたが、もし我々が預かった方が望ましいのであれば」
     はきはきとした青井の返事をいいことに、晶子はノートを一旦閉じると、自分の手元まで引き寄せた。エーフィが刹那顔をしかめて表紙を睨む。
    「ええ……返した方が」
     守屋は変わらず、宙に視線を彷徨わせたままそう言った。そして、風にでもなびいたように急に顔を動かすと、青井の手元を見て、言った。
    「そういえば、いないんです」
    「いない?」
     青井がオウム返しに聞く。守屋は再び視線をどこかへやって、
    「ええ、いなかったんです、スターが……」
     と消されそうな声で呟いた。

     守屋家を辞去して道に出た。途端、恐ろしく寒い外気に包まれて、晶子は身震いした。
     青井は警察に連絡している。彼が電話を切るのを待って、晶子は話しかけた。
    「どうも、お世話かけました」
     要らなかったけどね、と付け足したのは晶子なりの矜持だ。かつての同僚の青井は、そんな晶子の態度には慣れっこで、「なんでいたんだ」と言った。
    「依頼があったのよ」
     そして簡単な説明をした。電話で、名乗りもせずに、何だか怪しかったのよと言うと、青井はいつもそれだと呆れて言った。
    「それで、のろいはあるのかしら?」
    「噂では、あることになってる」
     青井は晶子の手からノートを取り、裏返して見てから、晶子の手に戻した。
    「警察で調べた限りでは、ない。そのノートも、というかどのノートにものろいらしいもんはかかってない」
     それまで大人しくしていたエーフィが急に二本足で立ち上がると、ノートに向かってきゅうとひと声鳴いた。何かある、と言いたげに。
    「サンが調べたら、何か出てくるかもしれんな」
    「警察のエスパーポケモンやゴーストポケモンが調べたんでしょ。なら何も出ないわよ」
     それでも念の為にと、晶子はエーフィの鼻先にノートを近付けた。エーフィはそれでピタリと大人しくなった。
    「そっちの捜査状況も聞いていい? 言える範囲でいいけど」
     青井はやれやれと言って自分の頭を掻き、同じ手で嫌がられながらエーフィを撫で、近くの公園で話そう、と言って歩き出した。

     青井が選んだのは、先程晶子がコーヒーを飲んでいた公園のベンチだった。
     晶子はノートをベンチの上に置くと、青井の話を手帳に書き入れた。
    「お前、まだそれを栞に使ってるのか」と、晶子が手帳に挟んだ物を見て青井が呆れた顔をした。晶子は意に介さず、メモを取った。

     守屋めぐみ、という女児が自殺した。
     いじめがあったらしいということで、痛ましいが、しかしありふれたこととして、警察にも処理されたらしい。
    「その次の日だ。同じクラスの奴が死んだ」
     殺されたんだ、と青井は痛ましそうに顔を歪めた。
     それから、のろいのノートの噂がまことしやかに囁かれるようになった。
     殺害現場を目撃したと思しきフーディンの様子が、異様だった所為もあるという。
    「で、今日二件目だ」
     やりきれない、と青井がこぼした。それに、スターがいないんなら大事になるぞ、とこれは苦々しげに付け足した。
    「一件目は、叩きつけたか、アイアンテールあたりが使われたらしいからな」
    「あの、聞きたかったんだけどスターって?」
    「それは」
     そのノート見た方が早い、と青井は晶子の隣にあるノートを指差した。
    「のろいのノートって言われてるけど、のろいはなかったのよね?」
    「だろうな」と青井は曖昧な返事をした。
    「ポケモンが使うような、そういうのろいじゃない」とも言った。

     一旦戻るよ、と告げた青井の背中に「待って」と呼びかけた。今、確かめたいことができたのだ。
    「青井さん、ここ、静かすぎると思わない?」
     言い終わって、晶子はほっと息をついた。淀んでいた空気が、少し軽くなった気がした。
    「ああ、思う」
     青井の返事に、晶子の気分はますます軽くなった。そう感じていたのは自分だけではないのだと知ると、ほっとした。
    「最近はガキ相手でもポケモンの管理にうるさいし」
     にも関わらずスターはいなくなっていたが。
    「それに、あれだ、受験じゃないか?」
    「受験?」
     中学受験だよ、と青井が言った。高校にも行っていない晶子には、隔世の感がした。
    「今頃は、みんな受験で忙しいんだろう」
     小学校一年生まで受験しないだろうから、みんなってことはないと思うけど、という晶子の言葉は流して、今度こそ青井は去って行った。晶子は栞がわりの虹色の鳥の羽を、手帳に押し込んだ。パン、と音を立てて手帳を閉じると、エーフィを呼んで公園を出た。

     相変わらず、町にポケモンの影はない。人は時折すれ違うが、それでもたくさんいるという印象はない。
     みんな、あの箱の中にいるのだろうか。
     白い住宅の列から目を離して、晶子はエーフィの後を追った。エーフィは青井が去ってから、気忙しげにノートを鼻先でつついては、あっちへ行きこっちへ行き、そしてまた晶子の所へ戻り、を繰り返していた。
     もしかして、気になる匂いがあったのだろうか。晶子は腰のスーパーボールを外すと、中にいるポケモンに呼びかけて、誰もいない道の真ん中に開け放った。
    「ヘル、このノートの匂いを追ってくれない?」
     地獄の番犬とも称される細身の黒犬は、ノートに鼻を近付け、エーフィと何か言葉を交わすと、自信ありげな様子で晶子たちの先導にかかった。エーフィの方は荷を下ろしたように表情を緩ませていた。
     エーフィにボールに戻るか、と尋ね、断られた晶子はそのままヘルガーの先導に従った。時折、小脇に挟んだノートを気にしながら。のろいのノートと呼ばれたこれには、何が書かれているのだろう。

     ヘルガーが低い声で鳴いた。
     小学校。
     背の低い校門はピタリと閉じられていた。緑色の鉄格子のような校門の向こうには、広く寒そうなグラウンドがあった。誰もいない。事件があったから生徒を帰してしまったのだろう。晶子が校門の番をしている警備員に話しかけ、その警備員が晶子を入れる許可を取りにどこかへ行ってしまっている間、晶子はノートを読んでいた。
     のろいのノート。
     しかし、表紙にはのろいとは書かれていない。そこいらで売っている大学ノートの表紙には、名前が書いてあるだけだ。
     守屋愛。
     マジックで書かれた名前に黙祷を捧げ、晶子はノートを開く。晶子が昔考えたような、拙い夢物語がそこにあった。

     ポケモンだけしかいない大陸
     そこに、スターというピカチュウがいました
    「やあ、スター」
     今日は友達のルリリとウパーと、待ち合わせをしていました
    「あずるとサラマン! 遅いよ!」
     スターは二人に怒りました
     ルリリはあずる、ウパーはサラマンといいます
    「ごめんごめん、さあ行こうよ」
     二人が謝ったので、スターは許しました
     三人で、今日は森に行く予定です
     不思議の森で、大人には行くのを禁止されていました
     ……

    「入っていいですよ」
     警備員の声で、現実に引き戻された。いつの間にか、校門が開いていた。
     ありがとうございます、と礼を述べて小学校の中に踏み入った。ヘルガーは障害が無くなって清々した、と言わんばかりの様子で先先進み、エーフィはエーフィで、自分の仕事は終わったとでも言いたげに晶子の後ろからノロノロ付いて来ていた。

     小学校の入り口は開いていた。校門は閉まっていたが、校舎は開いているものらしい。しかし、ヘルガーはその入り口には見向きもせず、校舎の裏手に回った。
     開けたグラウンドとは反対に、校舎の裏側は雑木林になっていた。緑がこんな形で残っているのに驚きながら、晶子はヘルガーの後を追う。晶子には木々の名前は分からないが、ここで子どもたちが遊んだりするのだろうか、と思いながら。
     ヘルガーがある木の根元に鼻先を付けると、そこにお座りをした。右前足をひょい、と上げ、何かを促すように晶子を見る。
    「自分で掘って」
     晶子がそう言うと、ヘルガーは渋々、木の周囲の土を掘り返し始めた。エーフィも晶子たちに追い付いたが、ヘルガーを手伝う気はさらさらないらしく、晶子の横に伏せた。当て付けのように鈍い動作を見て見ぬふりして、晶子は手元のノートに目を通した。

     ノートの続きには、ピカチュウのスターと他二匹の冒険物が書いてあった。スター、というのは守屋愛の手持ちだったのだろう。そのピカチュウが活躍する物語を、彼女は書いていたのだ。晶子の予想通り、強そうな敵が出てきて、あっという間に倒し、宝物を手に入れる。同じような展開が続いていた。
     これのどこがのろいのノートなのだろうか。のろい以前に、まず日本語をどうにかした方がいいレベルだ、と晶子は思った。青井が受験と言っていたのをふと思い出した。守屋愛の学力はどうだったのだろう。ノートを捲っていく。おや、と思った。
     字が綺麗になっている。

     ……
     帰ってくると、スターの部屋が荒らされていました
     今までに手に入れた宝物がありません
     スターは二匹の所へ行きました
     広場に着きました
     二匹はスターを見ると、クスクス笑いました
    「今まで宝物を手に入れるために騙してたんだよ。スターのばーか」
     二匹の後ろに宝物がありました
     スターは十万ボルトであずるを倒し、アイアンテールでサラマンを倒しました
     スターは裏切り者を倒しました

     何これ、と晶子の口から声が漏れた。晶子が頁を捲ろうとする、それを止めるようにヘルガーが鳴いた。そして、ヘルガーの制止よりも大きく、
    「何ですか、あなたは」
     女性の叫び声が雑木林に響き渡った。
     晶子は反射的に立ち上がった。
     サンドパンを傍らに控えさせた若い女性が、恐怖と怒りに満ちた眼差しで晶子のノートを見、ヘルガーが掘り返していた足元を見た。ヘルガーがビクリと身を引いた。
    「それは」
     女性の口から三音が漏れ、凍りついたように閉ざされる。
     晶子は黙って携帯電話を取り出し、青井の番号にかけた。ひと言「小学校の裏」とだけ告げて、電話を切る。同時に、体を支える腱も切れたかのように、女性がくずおれた。
    「違うんです、襲われると思って。あっちが、あっちが先に襲ってきたんです」
     晶子は土に抱かれて眠る、黄色い電気鼠を見て、すぐ目を離した。心の中で祈る。サンドパンを連れた女性は、まだ喚いていた。
    「私が悪いんじゃない、正当防衛だもの。私は悪くない、私は悪くない」
     サンドパンは自分のトレーナーの様子に慄いたのか、それとも別のものに怯えたのか、背中の棘を剥き出して丸くなって、ぎゃんぎゃんと鳴き始めた。ヘルガーが怒ったように吠え始めた。
     その光景を、エーフィだけははじめから知っていたように、静かに眺めていた。

     警察が到着しても、女性はまだ自分は悪くないと呟いていた。
    「あれこそ、のろいじゃないか」
     彼女を乗せて出発した警察車両の背を見送って、青井がぼやいた。彼女は守屋愛のクラスの担任だったらしい。いじめがあったとしたら、教師も後が大変だっただろうと青井はついでのように呟いた。
     晶子はというと、のろいのノートを胸にしっかりと抱き締めて、彼女が言ったことを頭の中で反芻していた。

     私は悪くない
     あの日、私は花瓶を置こうとして
     あの子の机に
     そしたら、あのピカチュウと
     ノートが
     のろいのノートが

    「調べてもらわなきゃ分からないが、十中八九スターだよなあ」
     捜査のやり直しだ、と言ったが、青井はさして残念そうではなかった。
    「他に目星があるの」
    「それは言えない」
     それより、と青井は言った。
    「あんたはのろいを調べなきゃならないんだろう」
    「それなんだけど」
     ちょっと情報都合してよ、と晶子は言った。

     守屋愛は中学受験に落ちていた。
     その場合は、必然的に学区内の中学校に通うことになる。小学校の全員が受験するわけではないから、いじめっ子たちもほぼ繰り上がりで同じ中学にやって来る。
     嫌、だったのだろうか。
     気持ちいいはずは、ない。学区から遠く離れた中学校で、心機一転、互いが初対面のメンツで始めるのと、小学校の続きのような場所で、いじめっ子たちと再び一緒にいるというのと、どちらが良いか。でも、それでも、死ななければならないなんて。
     そこまで思い詰める児童の気持ちを推し量るには、晶子は歳を取りすぎている気がした。中学受験も、実習でしかやらないポケモンバトルも、綺麗すぎるほど整えられた町並みも、晶子には既に別世界のことのように感じられるのに。

     晶子は三度公園に戻っていた。緑の箱庭で、守屋愛のノートを広げる。晶子を気遣うように、公園に明かりが灯り始めた。空を見上げて、雲が夕焼けに染まっていることに、晶子は気付く。
     ヘルガーは疲れたらしい、地べたに転がっていた。エーフィは薄紫の瞳で、黙って晶子とノートを見ている。
     晶子はエーフィにも見えるようにノートを傾け、続きを読み始めた。
     ノートは真っ黒になっていた。

     なんで私がキモいとか死ねとか影口ばっかり
     あいつらが死ねばいい死ねって言ってるあいつらが死ねばいい
     佐野優子と松下陽菜と太田恵梨香と橋本直美と八木満 全員死ね
     私が死んだら全員

     晶子はいたたまれなくなってノートから目を離した。エーフィはまだ、ノートを見つめていた。
     箱庭の空気を吸い、再びノートに目をやる。読もう、としても全ては読めなかった。ただ、どこを読んでも「死」というワードが視界に入り込んできた。それは、いじめっ子が死ぬことであったり、守屋愛が死ぬことであったり、途中からは、いじめを訴えても助けてくれない担任の教師が死ぬことであったり、した。死は、こんなに軽かったか。
     ただ、と晶子は思う。このノートに名指しで書かれた誰も、死んでいない。殺された子どもたちの名前とは、どれも一致していなかった。
     スターだけが死んだ。
     晶子は頁を捲っていく。子どもががなり立てるような死の文字の羅列は身を潜めて、日記のような文章が現れた。比較的、落ち着いた文体で、遅いけれど中学受験をすることに決めたこと、受かるか分からないけれどやるだけやってみよう、と前向きな文章が綴られていた。
     実習であずると当たるのが苦痛。前は仲良かったのに。
     頑張ろう、と前向きな文章の中に、それだけ浮いて見えた。晶子はさらに先に進む。

     前向きな日記が突如として途絶えた。一頁丸々空きがあって、次の見開きに、整然と文字が並べてある。
     遺書、と題されていた。

     私、守屋愛は今日死にます
     私をいじめた人を絶対に許しません
     私をいじめた人は、幸せにならないでください
     充実した学校生活なんか送らないで、いい就職なんかしないで、幸せな結婚なんかしないで暮らしてください
     私がなんで死んだか、永遠に考え続けて生きてください

     これがのろいか、と晶子は思った。
     小学生にしては恐ろしく整然と、遺書は綴られていた。口座に預金してある分はお母さんにあげます。それから、学習机の三段目のピンクの箱に、今まで貰ったお年玉が入ってます。そんなことも書かれていた。
     晶子は次の頁に目をやる。
     エーフィがひと声鳴いた。

    「あ……」
     いつの間にか晶子の目の前に立っていた女性が、一礼した。晶子も慌てて座ったまま礼をする。
    「犯人、捕まったみたいですよ」
     その女性は――守屋の母は、疲れた肌に似合うくたびれた笑みを浮かべた。
    「夕方のニュースでやってました。めぐみのクラスの子、どちらも親が犯人だったと」
     間に合ったのか、と思った。青井の顔を思い浮かべた。多分、最初からスターは犯人だとは思われていなかったのだろう。ちゃんと確かな線を追っていたのだ。
    「最初の……めぐみの次に死んだ子なんか、親のポケモンに殺されたんですって。酷い話ね」
     殺害現場を目撃したらしい、フーディンの様子がおかしかった。そう青井は言っていた。そして、フーディンはアイアンテールを使える。分かれば容易いことだ。
     どうしてそんなことができるのかしら、自分の子どもに。
     そう言う守屋の母は、けれど答えを知っているように、晶子には思われた。
     どれも同じに造られた家の群れの中で、唯一はみ出した家に住む人。
    「その次は保険金目当てで。のろいの噂に乗じてやればばれないと思った、って」
     守屋は話しながら、しっかりと息を吐き出した。そして、晶子が持つノートに目を落とした。
    「それ……」
    「お返しします」
     晶子は立ち上がって、守屋の手にノートを渡そうとした。皺が深く刻まれた母親の手だと感じた。
    「あなたの、娘さんの物ですし」
    「いえ」
     守屋の母は、強い力でノートを晶子の手に戻した。その目には、はっきりと人間らしい意志が感じられた。
    「燃やしてください。あなたが連れているヘルガーさんに、燃やすよう頼んでくれませんか。きっとこれは、燃やした方がいいと思うんです。このノートは」
     急に名指しされたヘルガーが、驚いて体を起こした。晶子はヘルガーをボールに戻すと、守屋に言った。
    「いえ、もっといいポケモンがいます」

     守屋はスターのボールも持って来た。
     少し歪んだ家の小さな庭に、晶子と守屋はいた。
    「燃やして、いいんですね?」
     晶子の問いに、守屋はしっかりと頷いた。晶子はそれを確認して、ベルトにセットされたハイパーボールを開く。
    「燃やして」
     僅かな言葉で意志は通じた。

     ボールから夜の世界に舞い上がった虹色の鳥は、小さな家には大きすぎる翼を広げた。それだけで、ノート自体が意志を持つかのように、火を放ち始めた。金色の炎。
     紙がその形を無くしていく。ノートに染み込んだ黒鉛が、束の間の安寧に身を委ねるように、炎の中に消えていく。
    「スターは、何故死んだんでしょう」
     ポツリと呟くように守屋は言った。炎に照らされた顔に、晶子は疲れきった母の顔を見た。
     あの日、守屋愛がいなくなった日。
     スターはノートを取りに学校に行ったのではないだろうか。
     あのノートは、最初はスターの為に書かれたものだったから。スターのノートだったから。
     多分、守屋愛はいつもノートを学校に持って行っていた。そして、持って帰っていた。けれど、あの日は守屋愛は帰って来なかった。当然、ノートも帰って来ない。
     スターは自分のノートを取りに行こうと学校を訪れた。そして、花を供えようとした教師と行きあった。教師が見たのは、真っ黒なのろいの言葉で埋め尽くされたノートと、それを持つピカチュウ。

     晶子は自分の考えを払うように頭を振った。
     守屋は、虹色の鳥を振り仰いだ。そして「綺麗ね」と呟いた。
     ノートが燃えていく。

     お母さんとスターへ
     先に死ぬけど、ごめんなさい
     お母さんとスターは、幸せに生きてください

     遺書の最後の文字列も、金色の炎の中に消えていった。スターのボールが、パチリと爆ぜて割れた。
    「教えてもらえませんか」
     守屋が、炎の向こう、夜闇と光の境界から晶子を見据えて言った。
    「あなたは、“誰に”頼まれて調べごとをしていたんですか?」
     晶子は、電話の声を思い出した。のろいの蔓延。のろいの根源。
     のろいに蝕まれたこの町を厭い、悲しみ、自分ものろいの餌食になった人物。

     晶子は空を見上げた。のろいの根源は、どこにあるのだろう。
     答えのない空から、雨が落ちてきた。








    ###
    ポケノベさんの文合わせのテーマB「門・結晶・教えて」に間に合わそうとして間に合わなかったもの。
    締め切りは守りましょうwww
    あと、めっちゃ焦って書いてます。むべなるかな。


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