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  •   [No.3993] ゼノム・アステル 投稿者:水雲(もつく)   投稿日:2017/05/05(Fri) 23:53:11     100clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:サンダース】 【ルカリオ】 【ダイケンキ】 【テールナー



      あれから、十年の歳月が流れた。


         XENOM ASTER(ゼノム・アステル)


     水の流れる場所がやがて一連の河川となる。
     呼真(コーマ)が先手を奪うのは、それと同じ当然さだった。
     兵法は様々、規範とする所も地方によりけりで、基本的に腕っ節の善し悪しが是とされる辻比武(つじひぶ)において、虚を突く先制は序盤の主導権とも言える。若輩の頃からサンダースとして処世してきただけに、その優位性はより盤石となった。油で潤した床を滑るように地を駆け、相手との間合いを恐ろしい速さで潰しにかかる。頼みとする流派は定石からしてかなり古く、呼真をしごいた指南番は一世代前の武術をこころ得た兵(つわもの)に違いない。が、それを察せたのは周囲の野次馬の中で一体何名いたことか。
     得物の持ち込みまでいちいち考慮していては見る側も闘る側も興醒めのため、「使いたければ使え」の方針で昔から落ち着いたはずなのだが、あえて呼真は丸腰を選んだ。その身から離すこともしなかった。長くを共にしてきた両刃の剣は呼真にとっては分身とも言い換えられる存在で、それを除けば却って重心が狂うようにまでなってしまったからだ。故に、芥子色にくすんだ大剣は、今も呼真の背中の鞘に納まってある。
     対する連掌(レンパ)は反応に数手遅れ、その差はゴロンダとしての経験で埋め合わせた。後手は悪手、その考えに則る勇み足は重厚も重厚、呼真の動きに合わせて己の兵法を開いた。荒事を稼業として乱暴に生き十数年、歳を重ねるごとに体の傷は増え、気はいよいよ短くなっていく。ここ流有州(ルアス)では悪名高さでまあ知られる札付きのチンピラである。今でこそこんな喧嘩場の大将として胡座をかくのが関の山だが、その腹をうっかり口にしようものなら腕の一本では済まされなくなる程には魁偉(かいい)だ。
     連掌が五歩、呼真がその三倍近くを進撃しあった時点で、間合いは限界まで詰め寄られた。互いの足が絡みあうようにしてうねり、右に跳んだ呼真からやはり先に出る。体毛の隙間からごく自然と生まれる静電気を弾かせ、乾いた破裂音は何を破壊するでもなく、ただ高音を走らせる。そこに虚実のどちらに意念があったかは呼真次第だったが、連掌には効果が薄く、身の丈がある分、踏み込みの歩幅でもそちらが優っていた。両腕を相手に叩き込む武器として扱えるだけに、連掌が不利を被る道理はない。呼真を確かな足取りで追い、あとわずかの時点で背筋をたわめる。体格差と懐の深さに勢いを任せた右の崩拳が低く繰り出され、逃げを許さぬ必殺の速度で呼真の喉笛を正面から定める。
     入った。
     が、地(つち)を噛む大樹か、はたまた海底に沈む錨か。呼真の体は四肢を一つと崩さずにその場で踏みとどまった。連掌の拳に手応えはなく、肝心の衝撃の一切は呼真の喉笛から後ろ足、後ろ足から地表へと無情にも流れていく。代わりとばかりに、そこから真円形の波紋が怒涛となって地表を攫った。爆音装う土煙が立ち込めて積雲となり、土俵を形成していた周囲の見物客は目と口に入った砂を払うのに注意をそらされた。
     その中、腕を組んだままで瞬き一つせず、濛々たる煙の向こうを半目で見つめるルカリオがいる。後ろ足で上体を支える体型が連掌と似ているだけに、その時紅(シング)が呼真の代わりに挑戦者となっても別段問題なかったのだが、何故今回呼真が前へ出たのかと言えば、単に弾いた銅貨が表を示したからだ。
     ――そんだけか?――
     どう捉えても刃物が原因と思われる、呼真の鼻背にある横一文字の古い傷跡。その先の青い両目が、そう告げていた。
     腕を踏み台に頭を直接叩かれるとでも思ったのだろう。連掌は弾かれた独楽のようにすぐさま引き足で間合いを取り直し、力を奪われて緩みきった右拳を構え直す。が、意識の継ぎ目で呼真は既に姿を消し、刹那が過ぎても、連掌の腕にも肩にも現れない。
     足元。
     電撃。
     恐らく連掌には、それがどこから発したか、まだ判断が追いついていないはずだ。その状況が味方である内に、呼真は思うままにやることとした。連掌の影を死角として、白い鬣(たてがみ)を時計回りになびかせ、地を這う姿勢で旋転。電流で脆くなった連掌の右踵に、渾身の回し蹴りを打ち込む。
     三流芝居の役者も顔負けの出鱈目が起きた。蹴り足に誘導された連掌の軸芯が完全に狂い、左の足までもが地を離れて数寸を削った。ゴロンダの巨体がサンダースの足一本で覆り、数尺も宙を舞う様は、傍目でも信じろという方が難しいかもしれない。
     地へ引き戻された連掌が派手な尻餅をついて跳ねる。落下の際に後頭部へ付随したのは、受け身を取れなかったための、致命打に成りかねない一撃。それでも気絶しなかったのは、連掌だったからだ。
     追い打ちは発せず、連掌が仰向けの無様を晒してからしばらくが過ぎた。戦意の残滓を探るための、呼真なりの空白だった。
     降参すんならここで止めにするが――
     そう呼真が言いかけた矢先、連掌が怒りの蛮声に合わせて曲線状の掌底を突き出してきた。手相は斧、狙うは側頭。
     そこから先、呼真の気持ちはかなり適当となってしまった。間合いを計り直すのも面倒になり、引力が横から働いたような動きで呼真は逃げる。先程よりかは幾分か手ごころを加えた電撃を残し、気が逸れた隙に背後へ回る。
     面倒だから抜いてとっととケリをつけてやろうか――と、ひとときだけ思考する。
     鬣の裏に潜む、背中の鞘を留める金具に手をかけた時点で、しかし気分が壊れた。当初丸腰で挑んだことに幾らかの矜持はあったし、結局得物に頼ったことで見物客が文句をつけ、賭け金が水泡に帰しては意味が無い。そして何より、たかがこんなやくざ崩れに抜刀せねばならないことが中々に不愉快だった。
     考えを初心に戻し、右半身を作る。靠(こう)にも似た形となり、連掌の背中へ目掛けて自身を真っ直ぐ放る。速度と体重を合わせた発勁で、背骨に直接響く打撃を与えた。
     縦ではなくむしろ横の螺旋が連掌の全身を襲った。痺れの抜けない右足が崩れ、竜巻に取り憑かれたようにその場で不器用に回る。呼真は親におぶさる子として連掌の背中にしがみつき、縮身を正す。体内にある力の本丸が崩壊する急所を目指して、一歩だけよじ登る。
     呼真の右前足に活力が収束する。繰り出す。手相は棍、狙うは頭蓋。
     命は殺さず、音を殺しておいた。
     呼真が背を蹴って跳躍すると、連掌は夢遊病もかくやの足取りで前進し始めた。肉壁と成していた見物客は恐れ半分で自然と穴を開き、連掌は途中でやがて膝を折る。そのまま土を食らいつくような体勢で昏倒した。連掌が最後に如何な表情をしていたか、呼真には知る由がなかったし、時紅も教えてはくれなかった。
     呼真が空中で軽く身を畳ませて着地したのは、それから五秒後。
     まあこんなもんかな、とも思う。
     まあこんなもんだろ、とも思う。
     連掌に対してではない。とどめの絶技に対してだ。
    「ああそうだ、すっかり忘れてた」
     唾を飲み込む音も聞こえない沈黙の中、呼真はぽつりと呟いた。鉄火場を取り仕切っていた中盆(なかぼん)のヤミラミに、ひどく単純な抑揚で訊ねる。
    「こいつの首、幾らだっけ」
     時紅は組んでいた腕をようやく解き、うつ伏せの連掌を一瞥してため息をつく。
    「いつもより雑だ」

     呼真が辻比武を荒らしてからの数刻。流有州に蔓延する熱気は日没と共にようやく緩み始め、防壁の向こうへと西陽は沈みつつある。見物客として見届け、雑踏に紛れる二匹の背後を付かず離れずの距離から追っていた咲花(サキハ)の読みは的中した。時紅と呼真は、万市(よろずいち)の一角に構える飯屋で卓に着いていた。汗臭い荒くれ共が工廠での日雇いの給金で宵を越そうと騒ぐのにはお誂えの場だった。次はここでおっ始めるつもりかと少しばかりの期待もしたが、どうやら単に腹を膨らませるためだったようだ。それが証拠に、二匹の真ん中にあるのは山盛りの芋饅頭。
    「強いのね、あんたたち」
     実際に闘ったのは呼真だけだったのだが、時紅を含めて「たち」と呼んだのは、相方もきっと拳達なのだろうという生半な目算である。本当に技量を見極める程に肥えた目を咲花が持っているという訳ではまさかない。時紅は椅子に浅く腰を下ろしたまま目前の鈴碗に注がれた白湯(パイタン)を静かに見つめ、呼真も倣って高椅子に狛が如く器用に座っており、卓上の木目を目でまじまじと追っている。
     要するに、時紅も呼真も正対しあったまま、若い雌のテールナーにも一顧だにしない。咲花は気にせず続けて、
    「だけど調子に乗らない方がいいわ。流有州は広い。たかが一区の辻比武で峰になったくらいでは名は馳せない。鼻にかけてたら今夜にでも闇討ちに遭うのがオチでしょうよ」
     能書きは建前で、近づいてみたかったのが本音だ。
     間近で観察すると、改めて気づく点も多い。若者と呼ぶには薹が立ちすぎている。体中を巡る生傷は百戦錬磨の誉れに違いなく、逆に手入れのされていない毛並みは白みを帯び始めてしばらく以上だろう。
     両者とも、ルカリオとサンダースとしてはおよそ似つかわしくない大剣を所持していた。武器を持つこと自体は別段珍しくないのだが、その大振りさと言ったら、包丁と並べて見せ物小屋に置いたらそれだけで金が取れそうなほどの滑稽さまでも匂わせている。結局抜かれることのなかった呼真のそれは今も木製の鞘に納まったまま背負われている。対する時紅は、着座している今でこそ「座り差し」の形で腰の黒帯に絡め、抜き身を麻布で巻いてある。幼少の時分からちゃんばらごっこに夢中になっていたと見える。小僧が年月を重ねると中年になるのと同じで、傍らにあった棒きれもやがては剣となるらしい。
     喧騒をすり抜け、三者の頭上にある提灯がじじりと鳴いた。
     呼真がようやく顔を上げる。器量良しの女に褒められて悪い気はしないようだが、一定の警戒心は解かない。
    「忠告あんがとよ。けどな、別に俺らは名を挙げたいわけじゃねえよ。あんな他流試合のてっぺんに立ったくれえでは本物の比武(ひぶ)に一歩も及ばねえだろうさ。昼から酒を飲むようなろくでなしたちが暇潰しに始めた辻比武ごときでのし上がれたら苦労しねえ。それこそ井の中の世界だろ」
    「路銀を賄うのに利用しただけだ」
     適度に熱気が抜けた頃合いだったのだろう。呼真が姿勢を前へ崩し、卓の端に両足をかけてもたれかかる。それでもまだ湯気が濃く立ちこめる芋饅頭に口だけでかぶりつく。右の頬に大きく詰め、咀嚼の隙間からひり出す愚痴が曰く、
    「しかし参ったよな。どいつもこいつも、寺銭とあのゴロツキにつぎ込む賭け金だけときたもんだ。いざ結果が狂えば血相変えて塩と適当な金目の物を担保代わりに寄越しやがって。換金するのにまた時間食っちまうぜ」
    「あんたたち、ここいらの奴じゃないよね。どこから来たのさ?」
     よもや堅気ではないと見目姿が語っている。流浪の日々を上都(ジョウト)と放縁(ホウエン)で繰り返し、徒に過ごしてきたわけでもなさそうだ。行き先々の仕事よりも私闘で体をいじめ、巻き上げた金を旅費にあててきた口だろう。現にその通りだった時紅と呼真は口を揃えて、
    「南」
     やはり異邦者か。南からだとしたら森を一つと大きな河川を二つを越えてきたことになるから、相当の日数がかかっているはず。ましてや翼屋に頼らず、その足だけで実直に来たというのならば真面目を越えてただの馬鹿である。
    「じゃあ、どこへ行くつもり?」
     今度も同じく、
    「北」
    「あのねえ、」
    「おっと嬢ちゃん、そこまでだ」
     両者とも、剣は抜かなかった。
     二対の擦れた眼差しが、咲花をその場に射止めた。なおも荒くれ共がどんちゃん騒ぎをしている中でも、時紅の低い声はよく聞こえた。
    「老いた流れ者の素性を知って何とする。兄弟への土産話のつもりか。然らばこれ以上の詮索はやめて早々に立ち去れ。私たちは先を急いでいるのでな。先刻君が告げた闇討ちを企む輩にたれ込むという魂胆ならば、私たちは更に貴重な時間を費やし、君を胡同(こどう)の闇まで追いつめねばなるまい。それはお互い本意ではなかろう?」
     ――ぷはっ。
     あれほど卓抜した闘いを見せ、しかし根掘り葉掘りされたくないという物言いが無性におかしくて、咲花は奇麗に整った面立ちで笑った。
    「違うわよ、違うって」
     腹の内が潔白であることを証明するため、軽く肩をすくめる。
    「単なる好奇心よ。あたしさ、辻比武が好きであちこちでよく見物してるの。強い男はもっと好き。益荒男に惹かれるのは手弱女の道理でしょ?」
     咲花は空席に無遠慮に腰を落とす。大胆な挙動だろうと微動だにしない時紅と呼真。水分の飛んだ竹ならばそれだけで火の粉が爆ぜて燃え上がりそうな目線もはばからず、咲花は尻尾にあった枝で芋饅頭を突き刺し、軽業師よろしく着火。焦げ目も甚だしくなったそれに同じく大口でかぶりつく。どちらもがまだ飲んでいなかった濁酒(どぶろく)にすら最初に口をつけた。
     手弱女には到底値しない、場数を踏んできた挙措だった。
     枝を手中で遊ばせ、酒に潤った唇をほころばせる。
    「いい質屋、知ってるわよ」

     文武両道の教えに則らない無法の他流試合が厳しく取り締まられているのは流有州も例外ではなく、事に公僕からの雷は手厳しい。正式な流派にあった道場の門下生とあらば破門はもちろんのこと、閑島(カントー)流しにも等しい面目潰しに遭い、表の通りを歩きにくくなる。端くれながらも稽古に裏打ちされた体力は勤労礼賛の標語に注ぐしか他に方法はなく、余生の盛運はお気の毒としか言いようがない。それでもなお流行病のように毎日ゴタが起きるのは、憂さ晴らしには目の前の奴と拳を交えるのが一番気軽だと皆知ってしまったからだろう――時紅と呼真は、勝手にそう思っている。
     そういった理由もあって、事態のこじれを避けたい時紅と呼真は、必要以上の闘いを控えた。ほとぼりが冷める頃には大きく北へと移っている。当時界隈に流れた噂は陽炎と成り果てるのが常で、枯れすすきを幽霊と見紛うのと同程度の信憑性しか持たない。当事者がいないだけに身も蓋もない風評が蹂躙し、二匹の原型はもはやとどめない。それが寧ろ好都合だった。
     咲花の言葉に嘘はなく、勝手知ったる案内が時紅と呼真を淀みなく導いた。真っ昼間のような明るさと空気の汚れで星空が見えない夜の万市から離れ、今度は露天の並ぶ路地を右へ左へ進む。道は地割れのように入り組んでおり、区画も何もあったものではない。賑わいをかいくぐって見つけ出すは、胡同の隅から生えたようにぽつねんと佇む一軒家。簡素な暖簾と仄かな灯りで客を迎えるその様は、確かに咲花がいなければ絶対に見つけられなかった。
     外見とは裏腹に、店の中は無秩序をそのまま体現したように犇めいていた。雪崩ている骨董品たちに腰を据え、煙管をふかしながら本を嗜んでいた老ドーブルを名は医重(イズー)と言う。時紅と呼真にはてんで使い道のない物品たちを一目見るだけで引き受けた。価値と現金の歩合をかなりの精度で見定め、長い時間をかけて魔窟の奥から銀貨を持ち出し、ゆったりした手つきで袋に詰め、呼真に寄越した。お互い、終始無言を徹した。
     目が高いのではなく、単にボケていたのかもしれない。
     時紅と呼真は失礼ながらもそう思ったが、予想以上の金を得られるに越したことはなかった。
     無意味そうな骨董品で埋め尽くすのは単なる擬態。裏では軍から横流しされている数々の武具を取り扱ったもぐりのハコであることにも、実は気づいていた。もしも口止め料を加算しているというのであれば、この大金にも頷ける。暗黙の了解。
     さておき、かさばる荷物をようやくお払い箱に出来たのが多少利いたらしい。脇腹に下げる銭包の重みに、呼真の機嫌は少しだけ直っていた。
    「こんだけありゃ十二分だ」
    「しばらくは壁と屋根のある宿で休めるな」
     どんな生活してきたのよ、と咲花は思う。
    「どんだけ苦しくても、それらは質に流さないつもり?」
     咲花が枝で指すは、時紅の陽剣と呼真の陰剣。
    「――これは特別さ」
    「師範の忘れ形見だ」
     少しばかりの寂しさを含んでいたように感じる口ぶりだった。
     つまり、この者たちの親分はダイケンキを示すのだろうか。だとすれば合点の行く部分もある。運良く居合わせさえしたら辻比武の見物をしていた咲花の記憶の中にも、一匹のダイケンキがいた。名は名乗らなかった。老若男女問わず口元から長く伸びる美髯(びぜん)。一対の剣を携え、水の加護を以って勇猛に立ち振る舞う様は威風凛々、実に印象的だった。残念ながら、そのダイケンキは剣を持っていたために時紅と呼真の師とは一致しないだろうし、そもそもその後の行方を知らない。
    「ねえ、あんたたち北へ行くのよね。南の森から来たなら余計なお世話だろうけど、ここを放縁して北を目指すのも結構大変よ」
    「それはあの山、故か?」
     時紅が北の防壁を見やり、その向こう側から顔を出す山を言葉で指した。
     天を衝く、という表現では正確さに欠ける。三者が目を向ける北の山は峻険とは言いがたく、どうにも半端ななだらかさが目立つ。坂道と山地の中間みたいな、ただの巨大な土塊のようでもあった。
    「そ。白牙(ハーガ)山は別名『英霊の園』。昔の動乱で没した戦士たちで築かれた山とも言われてる。自慢じゃないけど、流有州の北側が陰都(いんと)として貧困層で構成されているのもそのため」
     時紅と呼真は、同時に何かを閃き、咲花をよそ目に顔を見合わせる。それぞれの顔には、疑念と確信の間を思わせる表情が揺らめいていた。
    「あたしら平民からすればただ邪魔っ気なものよ。北側とは交易もろくに出来やしないし、とっとと拓けばいいのにね」
     他国の情勢まで知らないが、流有州も指折りの底辺だと思っている。貧困層ほどではないにせよ、咲花も相当に苦い肝を舐めてきた身で、文武両道という官衙のお題目を嫌というほど味わってきた。
     あの山がいい例だ。『流有州の過ちは白牙にあり』という戒めを盾に野放しにしているが、貧富の差から目をつむっておきたいという不精さからに決まっていた。あれが無くなれば、貧民街が貧民街である理屈も消えてしまうのだ。もしも本当に過ちがあるのならばそれは今に違いなく、政治屋を金看板に豪奢に暮らしている奴らは一匹残らず斬首されねばならなかった。
    「悪いこと言わないから、あそこを渡るのはやめときなよ。自然遺産、ましてや霊地に足を運ぶのは不興を買うとされてる。あんたたちの強さはよくわかったけど、公僕に見つかったら事よ。道中の貧民街で小銭袋をじゃらじゃらさせようもんなら、背中にいくつ目があっても足りないし。ちょっと時間とお金はかかるけど、あの山を上手く迂回出来る道順を組めるよう、そこいらの車屋かヒョウ師に頼めば」
    「よお、助かったぜ嬢ちゃん」
    「礼を言う」
     は?
    「さて、どうする呼真。書室に篭って歴史の勉強でもするか、今すぐあそこへ向かうか」
    「んなの決まってんだろ。お偉方の偏った手で編纂された歴史書なんざ、よちよち歩きのメェークルにでも食わせとけ」
     時紅と呼真は再び面を上げ、白牙山を遠い眼差しで見据える。夜の空と昼の地、その絶妙な明るさの中でも、薄く透けた鱗雲を冠とする姿はよく見えた。
    「あの日は十年前の、未(ひつじ)の月だったな」
    「ああ、忘れもしねえ。十年と申(さる)と酉(とり)の月をかけて、ついにここまで来たんだ」
     十。
     全く嫌な数字だ、と時紅も呼真も思う。
     これから立ち会わねばならない現実も、それのせいだと思えたらどれだけ良かったことか。
    「やっと追いついたぜ、青風(ソーファン)」


         ‡


     銀貨が十二枚。
     質屋と山の案内だけにしては不適切すぎるくらいの駄賃だった。色を付けるにしても多すぎる。日常を銅貨で過ごしてきた咲花には持て余す貨幣だ。下手に使えば疑いをかけられて縄を打たれるとまで思う。
     金以上の価値となりそうな類の話は終始聞けず終いだった。それ以降の随伴は断固として受け入れられず、咲花は一足先に追い払われてしまった。河岸を変えて飲み直して適当な男捕まえて朝まで仲良く寝てろとまで言われた。そこに時紅と呼真の気遣いがどれだけ含まれていたかは計り知れないが、生憎咲花には全く伝わらなかった。あんまりと言えばあんまりである。
     不服を胸に募らせたまま、咲花は再び同じ酒家に戻り、酒を女給に無心した。天井近くの壁に打ち付けられた古ぼけの採譜に目を通し、字面からしてもう既に辛そうな料理を注文する。
     あんな山に行って何するんだろ。
     あの二匹の「これまで」には興味をそそられるのに、「これから」には何故か不思議と気乗りしない。
     真上から覗くだけで鼻と眼(まなこ)を潰しそうな、辛さと熱さで湯気立った赤黒い煮物が咲花の卓上に置かれる。枝先でいじくり回し、欠片にしてからちびちびと口に運ぶ。
     ――こんだけありゃ十二分だ。
     呼真の言葉と、十二枚の銀貨。
     遙か南の国では、十を凶数、十二を吉数とする慣わしがあるという話を、行きつけの飯場のお婆から聞いたことがある。理由も聞いたはずなのだが、詳しくは憶えていなかった。
     ま、いっか。
     煮物を口にした途端に舌に炸裂する辛味を誤魔化そうと、酒を一気に呷る。


         ‡


     国に入ること上都と言うならば、離れて野生に戻ることを放縁と言う。市井(しせい)で職に就くか奔放に生きるか。いずれにせよ自己責任だ。
     時紅と呼真は、いわゆる放縁の孤児(みなしご)である。まさか木の股から生まれたわけではないだろうが、生みの親も育ての親も記憶が定かではない。朧気ながらも思い出の一番底にこびり付いているのは、お互いの幼き姿と渺々たる空腹感、そして仄蒼い森の寂しさだった。そこから先は、全て青風が埋めてくれた。
     青風は雄のダイケンキで、蓬(よもぎ)のように伸びた髭のだらしなさと鼾の五月蝿さといったらなかった。言葉は荒く、目つきは悪く、おまけに食い意地も汚く、夜中に三度も用を足しに起きるくらいに歳をくっていた。
     しかしいくら年寄りだろうが、青風は貫禄ポケモンのダイケンキである以上、剣術を始めとする武術の腕前は素人目にも本物だった。剣の手入れは一日たりとも欠かさなかったし、ただの一振りで星を割り月を砕きかねない威圧感が伴っていた。そして何より――それらしいことは何一つとされなかったが――時紅と呼真が唯一「親」や「師」と呼べる存在だったことも間違いない。
     北を目指す。
     怒涛のスピアーたちから助けてもらった、初対面のあの日、青風はそう口にしていた。
     激情にも近い、突き動かされるような強い意志を以って剣を躍らせる様は、時紅と呼真のこころにしかと焼き付いた。それまで生きる目的すら明確に見いだせなかった両者の本能に、初めて血が通った瞬間でもあった。
     生きる意志を持ったから強くなれるのか。
     強くなれたから生きる意志が持てるのか。
     幼気ながらも自問し、堂々巡りの末に得た一つの解は、精神面と肉体面の強さは等号されるということだった。
     弱肉強食が鉄則の放縁の世界。鬼一口からその身を助けた以上、二匹の命をどう扱うかの権利が青風にはあった。そして、「ついてこい」とも「ついてくるな」ともはっきり言わなかった。青風の剣に一目惚れし、すっかり息巻いた時紅と呼真は、弟子になることを瞬間的に決意した。
     朝から晩までをかけて野を渡り川を越え、国を跨いだ。晩になると腰がうずいてまともに歩けなくなる青風は野宿の支度をし、傍らで時紅と呼真は通し稽古に勤しんだ。リオルとイーブイが型を仕込もうと掛け合う様は、遠目にはじゃれあっているようにしか見えなかったことだろう。行き詰まるたびに惰眠を妨害し、武の教えをせびり、煩わしげながらも少しずつ語られる助言のお陰でやっと形を成してきたのは三年目からだ。四年目からは波導と電撃をも交え始めた。
     何千回と套路を踏み、体に通してきたそのおよそ五年間で、青風が剣を持たせてくれることは、ついぞなかった。
     仮にも年老いるまで生き延びた剣豪である。二匹の小童なぞ、その気であればあの日のうちに置いてけぼりに出来たはずなのだ。だのにそうしなかったのは、子宝に恵まれなかった青風なりの自身への慰めだったのかもしれないし、深く落とし込まれた武術を死して土に還すのが惜しいという意地の現れだったのかもしれない。付き添いの了を気まぐれだけで済ませていたとは思えない。そういう心境を時紅と呼真は何度も何度も考えた。決意と移り気の隙間に潜む奥深い部分に、青風なりの愛情があったのかもしれないと捉えていた。
     だから、五年目の春が過ぎた六年目の夏。未の月。つい昨夜まで野原のそこで寝そべっていたはずの青風が忽然と姿を消したことに対しては、深い失望よりもある種の納得のほうが強かった。置き土産とばかりに、まるで天から落ちてきたように地面に突き立つは、これまで何度せがんでも渡してくれることのなかった芥子色の双剣。
     これ以上はついてくるな。
     青風の最後の言葉だった。
     青風が永年自身の中に蓄え、培ってきたものの「片鱗」に、自分たちはついに足を踏み入れたのだと、前向きな部分では思っていた。
     喧嘩になった。
     生まれて初めての、本気の殺し合いだった。
     昔みたいに、仲良く半分こ――
     それが、どうしても出来なかった。
     双剣が揃って初めて教えの極北に到達すると、無意識にせよ錯覚した。青風の世界を生きるためには、青風の扱う武術の絶招を閃くためには、番(つが)いでなければならないと固く信じた。
     時紅は陽剣、呼真は陰剣。それぞれの手と口に託される。お互いが、相手の剣を求めて全く同じ兵法を開く。
     得物の重さが不慣れなのは、当然と言えば当然だった。それでも剣で決着をつけたかった。同じ時を過ごし、同じ飯を食い、同じ師から同じ武を貪ってきた二匹である。相手がどう仕掛けるかなど、自分の方が余程理解している。それ故の判断でもあった。初めて手にする剣の「流れ」のみが、勝敗を明快に分かつ要因だったのだ。

     時紅の先攻。右払いの初動に隠すは左の発勁。手相は槌、狙うは左前足。獲物を逃したとしても、手から発する波導が目に見えぬ激流となって追撃を見舞う。普段なら最初からこんな騙し打ちに任せる時紅ではなかったが、事ここに至っては四の五の言っていられない。あらゆる手段を使わなければ負ける。
     ところが、横殴りの波導を呼真に利用された。体内電流で害意を相殺、運動量に変換して離れていく。速さの違いを歩幅で補い、時紅は踏み込んで呼真の背中へ迫る。振り向きざまの回し蹴りは囮、見切って上体を粘らせてかわす、呼真の体から発せられる無数の針も囮、受け太刀で凌ぐ。呼真の本命は恐らく次。横顔の向こうから閃くのは、振り向きの勢い全てを戦意に注いだ一筋の斬撃。肘打ちでの対抗は無謀と判断。右肩を深く入れる。左腰に溜めた陽剣が鋭い逆袈裟を描き、呼真の退歩を刃が追って懐を潰す。電撃の予備動作も許さない。剣一本での太刀打ちに持ち込んだ呼真としてもここで勝負をかけたかったはずで、陽剣に通していた波導までは即座に化かせないだろう。一合の鍔迫りに勝算を見立てる。
     罠だった。

     逃げ足からの回し蹴りは囮、針も囮。時紅は呼真の仕掛けに乗ってきた。陰剣の威嚇で肘打ちを諦めさせ、誘導した末に時紅が繰り出してきたのは逆袈裟だった。鍔迫りを引き出させ、あわよくば波導を流し込むつもりらしい。退歩でのそれでは旗色が悪く、いずれ勢いで押される。向こうが本命と思っているに違いない、こっちの左払いの横一文字も陽動とする算段を続行。
     柄の食いしばりを解き、いっそのこと陰剣を陽剣の軌道に呑ませてやった。剣を放すのだとしても、上下の歯が砕けるような強打が起きても、これからの反撃を加算し、戦況を負から正に戻せるのであれば悪くない取引だ。
     衝撃。時紅の波導を一手に受けた陰剣は天高くへ弾き飛ばされ、呼真を波導から引き離す。この一連の動作にて、太刀筋を完全に呼真の剣へぶち当てたという見解では時紅の一撃は曲がりなりにも成功と評せたし、意地悪く見ればどこも負傷させていない失策に潰えていた。
     その隙間、残心を取るべきかそうでないかの虚を貰った。
     顎を下から打ち抜かれたように後方へ跳び、鼻先を天に向ける呼真は、またも時紅の勢いを利用。両の後脚を振り上げて天地を一回転。踏ん張りが活かせない分、底力で電撃を飛ばし、格好のついている時紅の姿勢を破壊した。正対して着地するが早いか、逃げから一転して踏み込み、何が何でも一手先んじる。この闘いで呼真が一番恐れているのは、時紅が青風の武術を剣術へ適応させる手立てを見つけてしまうことだ。剣に操られている内に鎧袖一触の一手を手繰り寄せねば、勝機は永遠にやってこない。
     行く。

     剣に固執していたのはお互い様だったが、それでも呼真が自ら陰剣を手放すのは予想外だった。右腕を開いた隙だらけの格好へ電撃が蝕み、時紅はあっけなく姿勢を崩した。陽剣を支えとし、次に目を向けた時には既に呼真が接近し、逃げが間に合わない。
     応じる他はないが、やむを得ないという気持ちもない。
     初めから命のやり取りだった闘いに、今更躊躇する必要はない。
     緩んでいた柄を本気で握り直す。左の肩口に剣を預ける。生きるも死ぬも八卦の担ぎ技。
     それ以上は進ませない。むしろこっちから行く。呼真の出足に自分の前進をかち合せる。呼真の侵攻速度に頼って迎え撃つよりも、自分の足一つで入ったほうがずっと意念に沿った斬撃となるはずと信じた。呼真の五歩より、自分の一歩が要る。行く、行け、
     届け、
     道半ばの見習いである。
     青風が語ってきた兵法を、公には駆月(くげつ)流と称する。神髄は、「敵へ力を打つ」ことではなく「敵の力を抜く」ことにある。
     しかし、その真意を明確な言葉で説かれることはとうとうなかった。ただ相手を打ち負かせればいいと思い、我武者羅に型を通していた時紅と呼真は案の定本質に気付かず、また辿り着けていなかったりする。つまり、拳と脚と剣、それらを操る力の巡りのどこかに未だ嘘が眠っている。「ここをこう叩けば相手はなし崩しとなる」と、なんとなしに感じているだけにとどまっていた。
     拳と剣の食い違い。抜くべき本質と打ち込む意念の食い違い。内三合と外三合の食い違い。生きたいと欲しいの食い違い。あらゆる背反が波濤となって一挙に押し寄せ、内に宿る力が暴発した。時紅は突如として己が信ずる武の「道筋」を立てられなくなり、足の軸芯が折れる。転倒にも近い、深すぎる踏み込みと斬り下ろし。手元が発狂し、ただでさえ不明瞭だった太刀筋の「色」が完全に失われる。時紅の癖を材料としていた呼真も思い掛けず、戦意を感じさせない刃の軌道に一瞬の戸惑いを見せる。回避の判断が追いついていない。

     斬り下ろしてくることは百も承知だったが、その一合の合間にて、突如として時紅の太刀筋が狂ったのを見た。頭をかち割られる前に何としてでも腹へ飛び込み、自分の脳天を回してダ法を仕掛けてやろうと思ったのに、不意に駆け足が緩んでしまった。放った時紅すら予期せぬ刃の変化を、呼真がどう応じるも出来るはずがなかった。原始的な恐怖が、とにかく避けろと言っていた。
     命には届かなかった。
     呼真の鼻背に、事故とも偶然ともまた違う横一文字が斬り込まれた。おびただしい鮮血が扇面のように迸り、己の赤に興奮した呼真の口先から咆哮が溢れ出た。自身を鼓舞した呼真は迅雷に溶けて姿を消し、天地がまたしても逆転。地から空へ落ちる稲妻へ化け、なおも宙を舞っていた自分の剣を追った。剣が持ち主と再び一体となった瞬間から万斛(ばんこく)の雷電が拡散され、それぞれが術者の意思を持ってうねる龍となる。雨が降るにも等しい無尽さで時紅の四方八方へ穿たれ、そこから一歩も動くことを許さない。

     呼真の陰剣は、空中から時紅を狙った。
     時紅の陽剣は、地上から呼真を定めた。
     星を割る下りの一閃と、月を砕く上りの一閃。
     横と縦が交わり、もはや何が起きてもおかしくない不吉の十文字。
     そして、


         ‡


    「おいどうした、時紅」
    「いや――」
     こころの古傷が痛む。青風が消えたあの日、己が刻みつけた呼真の鼻背の傷を、何故か今は正視出来ない。
     呼真とはまた違った意味で物怖じしない時紅が、この時ばかりは曖昧に言葉を濁した。目を逸らして隠す表情を察したのか、呼真は正面を向き直す。
    「思い出に耽んのは後にしろ。下ばっか見てるとその赤い目を落としちまうぞ」
     流有州の熱気はとうに下界。何万回と踏まれて均されていた地面も放縁するとやがては泥田のように柔らかい黒土なり、そこに傾斜が加わるとなると二匹でも重い道のりだ。低く疎らな下生えを足でかき分け、一応奉っているつもりの祠を横切り、獣道を進む。
     次の言葉でも探しているのか、先を歩いていた呼真は一度立ち止まる。結局やめたようで、泥で汚れていない足の部分で鼻をこすり、おがあと伸びを一つ。
     家鳴りと同じくらいの派手さで背骨が鳴り、ついでに腰ががくんと痙攣した。ルカリオである自分にはわからないが、どうやらまずい部分を痛めたらしい。鞘がかすかに震え、呼真が低く唸っている。
     時紅の一笑、
    「老いたな、呼真」
     呼真の舌打ち、
    「お前と同い年だよ」
     どうだろう。己の正確な齢すらも知らないくせに、青風と出会ってからどれほど経ったのかははっきりと憶えている。茫漠と過ごしてきた幼少の頃などは死も同然。青風と出会ってからが二匹のまことの生誕とも言えた。十年前、両者を立ち止まらせていた武術の決定的な矛盾も、日を重ねることで解消され始めた。手探りながらも本質を悟った今現在では、意念との同時性をかなり保っている。
     整備の行き届いていない――してもしなくても一緒なのかもしれない――道中では、藪を囲いとする霊園が時々左へ右へ切り開かれており、大小様々な墓石が不均衡に並べられてあった。どれもが雨風を受けて風化し、彫られた名も怪しげな段階にまで入っている。何故そこまでわかるのかと言うと、次の霊園へ行く着くたびに一つ一つを観察しているからだ。山頂が目的地だと、明確な意思を抱いていたわけではない。早く見つけたいが、見つけたくない。相反するもどかしい気持ちで成り立つ内心は次第に動悸を高鳴りさせ、二匹を苛立たせていた。
     が、先程までの余勢もどこへやら、体は正直なもので、呼真は四つ目の霊園にて砂利にどっかりと尻を落とし、天を仰いでため息。
    「畜生、いい加減疲れた。ちょっと休もうぜ」
     否定するつもりではないが、賛同の材料もまた不十分だった。時紅は無言で剣を整え、深緑の岩苔にゆっくりと腰を下ろし、同じく天を仰ごうとして両手を後ろへ
     つっ。
     白い痛みと赤い滴りが右手の先にあった。
     起き上がり小法師の挙動で時紅が突として立ち上がる。今しがた尻を預けていた岩苔を睨み、苔はともかく、岩ではないと直感が大声で叫んだ。岩にしてはやけに歪だと、後付けながらも思った。
     血相を変え、手の血を撥ね散らして苔と闘う時紅の異常さから、呼真も瞬時に勘付いた。
     手相は鏃(やじり)、狙うは目前。二匹は揃って緑色の埃を発散し、瞬きすらも惜しみ、一途に苔を払う。
     その向こうから、陶器のような芥子色の曲面と、円錐状の角が現れた。
     もう見間違えようがなかった。
     まともな鏡は愚か、顔が映るほどの水も硝子も数えるほどしか見たことのない半生を過ごしてきた。だからこそか、青風が兜としていた貝の色合いを、角の微妙な曲がり具合を、時紅と呼真は自分の顔よりも知っていた。自分たちが旅を始めるずっと昔から、そこで朽ち果てているようだった。辺りに散らばる白くて小汚い欠片は、まさか白骨のつもりか。
     誰が葬ってくれたのかという、墓を探す上でのささやかな疑問。それが一瞬で解決された。
     引き攣れたような獰猛な笑い声が、呼真の喉から漏れた。前足で小突く。
    「おーおー、やっぱここでおっ死んじまったのかこんくそじじいめ。おら、あの世から見てんだろ。俺ぁとうとうてめえに追いついたんだ。剣もこの通り、ちゃあんと持ち歩いてんだぜ? 使いこなしてんだぜ? どうだ悔しいだろ? あ?」
    「師範は――」
     苔の少し残った兜を視線でとらえたまま、時紅は片膝をつく。
    「あの娘が言っていた動乱の生き残り、だったのであろうか」
    「知るか。知ったところで時紅、お前はどうすんだよ?」
     時紅は黙して話さない。
    「戦友たちに先に死なれて、自分はおめおめ生き残ってしまった。けど、老い先短いからやっぱり世を儚んで自分から死にに逝きますってか?」
     どんな動乱があったか、孤児で流れ者である二匹には知る術がない。戦に蹂躙され、肉を斬り、骨を断ち、血を浴び、身を焦がした碌でもない光景というものを、青風はかつて味わってきたというのか。数日に一度、闇夜に紛れて暗い表情を落としていたのは、こころの影の現れだったというのか。
    「だとしたらなおのこと許さねえぞ。俺たちはあんたに命を救われたんだ。あんたが俺たちの全てなんだ。あんたの進む道が、俺たちの進む道だったんだ」
     二度目の小突き。
    「なあくそじじいよお。死ぬなら適当な所で勝手に死んでりゃいいだろうが。妙な部分で見栄張ってんじゃねえよ。どこでくたばろうが、あの世で戦友に会えるって保証はねえだろ。何かっこつけて、死に場所を目指す旅なんか始めちまったんだよ。なんで、なんであのとき、俺たちを助けてくれたんだよ。置いてけぼりにされた苦しみを、俺たちにも同じように与えんじゃねえよ。誰かの命を救った奴が、てめえの命を粗末にしてんじゃねえよ」
     呼真の口から、堰を切ったように罵詈雑言がこぼれてくる。自分で自分の言葉に興奮していく様を窘める権利は、時紅には無かった。
    「呼真」
    「んだよ」
     舌と感情を繋げられる呼真が、死ぬほど羨ましかった。これ以上一緒にいると自分も気持ちを抑えきれず、体がばらばらになりそうだった。時紅は腰を落とし、砂利を擦って胡座をかく。呼真を見つめ、お互いの矜持を同時に守れる言葉を探す。
    「私はここで夜を明かす。お前は離れろ。私に泣き顔を見られるのは癪だろう」
     ちっ、
    「お前にじゃねえ。そこのくそじじいに見られたかねえんだよ」
    「――そうか」
    「特別にだ、その場は譲ってやるよ」
     呼真は踵を返し、木霊に誘われるような足取りで藪の向こうへと進む。
     立ち止まる。嘘のように大きな月を仰ぎ、薄い暗雲を見つめて呟く。
    「お前はそこで泣いてろ」
    「そうさせてもらう」
     次の言葉でも探しているのか、呼真は苔で汚れていない足の部分で鼻をこすり、
    「時紅」
    「なんだ」
     最後にもう一言。
    「――あんがとよ」
    「――どういたしまして」


         ‡


     水の流れる場所がやがて一連の河川となる。

     声を押し殺すのに必死だった。慟哭を、呼真に聞かれたくなかった。
     時紅は胡座を崩さないまま、腰に差していた師範の陽剣を抜く。麻布を解き、両逆手に持ち替え、地に突き刺す。それを上体の支えとし、両腕の間で顔を伏せた。小刻みの揺れを抑えようと、力を込めれば込めるほど体の震えはいや増し、赤い双眸から滴る生温い雫が視界を曖昧に滲ませる。垂泣の間に吐かれる息は白く漂い、風に吹かれて夜空に舞い上がり、霧散していく。

     声を押し殺すのに必死だった。慟哭を、時紅に聞かれたくなかった。
     呼真は金具を外して鞘を落とし、師匠の陰剣を抜く。後ろ足を伸ばして地に伏せ、もたれかかる形で抱きしめる。あまりの鋭さにそれだけで肉に刃が埋まり、生血が溢れてきたが関係無かった。この剣に関わる思い出の全てが愛おしかった。青い双眸から込み上げる生温い露が視界の色素を溶かし、綯い交ぜにする。歪んだ口角から剥かれる牙は、月光で白く照らされている。


         ‡


     ――呼真、まずいよ。スピアーたちが近くにいるよ。
     ――大丈夫だって。さっと行って、さっと取ってくるだけだよ。僕、足には少し自信あるから。時紅もあれが食べたいんだろ?
     ――う、うん。
     ――じゃあ決まり。ちょっと待ってて。
     ――あ、い、いや、僕も行くよっ。ねえ呼真っ。
     ――わ、ばか! 大きい音出すなよ! あっ、


         ‡


    「時紅、起きてるか」
    「ああ」
     呼真は藪から無遠慮に体を突き出す。時紅の腰にあったはずの陽剣が、兜の前に刺さっていた。時紅なりの弔いのつもりらしい。ガラでもねえことを、と呼真の胸の裏側が少しだけくすぐったくなり、同時に嫉妬した。
    「その様子じゃあ、俺と同じで泣き明かしか」
     間合いを必要以上に保ったままだった。それより歩み寄ることを、呼真はしない。
    「俺、一晩かけて考えたよ。いや、師匠の行方を追うと決めた時からの十年間、ずっと考え続けてた。いつか必ず訪れる瞬間だとは覚悟してたんだがよ、更に先を想像出来なくてな。今日まで先延ばしにしちまった。だけど、お前と旅をし続けて出した結論は、これ以外にありえねえんだわ」
     呼真が鬣の裏へ手を探らせ、金具に添える。
     薄々気付き始めただろうと呼真は時紅に対して思ったし、自分が気付き始めたことに気付きつつあるなと時紅も呼真に対して思った。
    「なあ、時紅」
    「なんだ」
     かちり、と小さな金属音が、両者の間で鳴った。
     通常ならば、呼真の鞘は重に従って滑り落ちるはずだった。
     しかし雷声。解かれたと同時に鞘は電の力で質量を翻され、空中へ弾け飛んだ。電流の残る木製のそれが内側から破裂し、それでも無傷の陰剣がその身を現す。宙を縦に舞い、致命の勢いで呼真の額へ落下する。
     呼真は一歩として動かず、軽く頭を振るう。陰剣の柄が顎で横ざまに受け止められた。片刃は昨夜誰かが流した血で黒く染まっていた。
     水平に構え、歯の隙間から言う。

    「やっぱそっちの剣も俺に寄越せ」
     呼真は本気だった。

     時紅は、視界の外で何が起きていようとも大山の如く動じず、青風の兜を見つめていた。なおもそこから視線を一寸と動かさず、目前の陽剣を順手で握る。月日が巡るような弧を上空に描き、右に開く。切っ先の延長は、確かに呼真の眉間を狙い定めていた。

    「断る。『これ』は私のであり、『それ』も今から頂く」
     時紅は本気だった。

     その返答をどこかで期待していたらしい。得たりと呼真は一度だけ笑ってみせた。
    「決まりだな。師匠が消えたあの日の決闘、ここでケリをつけようじゃねえか」
    「上等よ」
     行きたい所は全て行った。
     見たいものも全て見た。
     聞きたい話は全て聞いた。
     認めたくない事も全て認めた。
    「俺たちの道は、どこまで行っても一本しかなかったんだな」
    「左様。手を取り合って進むには、いささか狭すぎたようだ」
     残るは、なりたい姿になるだけだった。
     青風が昔語るに、南の国には十を凶数とする慣わしがあるらしい。
     道を違えた者同士がいずれ衝突し、その後も和解することなくそれぞれの方へ進んでしまうこの数字を忌まわしきものとしていた。十一でも足りず、それでは「干」と「土」、すなわち「干からびる」か「土を這う」かにとどまってしまう。どう直しても「正しく」はなれない。今でこそ当たり前の月と時を十二で区分し、「王」の根底としたのも、そこからの名残なのだ、と。
     お互いに過ごした十年という数字の、厄を祓いたい。
     あの日、お互いで象った十文字に、二画を加えたい。
     一つでは足りない。
     二つの剣が必要だ。
     相手の剣が必要だ。
     戦意と殺意が風に絡め取られる。両者の間を中心として大きな渦となる。時紅は波導を、呼真は電圧を剣に注ぐ。陽剣は波導を取り込んで超振動し、周囲の空気が次第に高熱を帯びる。陰剣は電圧を取り込んで白刃となり、そばを過ぎった木の葉が一瞬で砕け散る。
     性格同様に不器用な口使いで、呼真が先に告げる。
    「大好きだぜ、兄弟」
     ああ、と時紅も少年のように笑う。
    「私もだよ」
     顔こそ老けているものの、その仕草にはかつての面影と幼さが確かに残っていた。
     記憶が飛躍し、あの日が蘇る。
     異なるのは、そばで師が見守ってくれているという点だった。
     生きても死んでもよかった。
     死して相手に己が形見を奪われるのだとしても、全幅の信頼を置いているそいつに後を託せるのであれば本望だった。骸と成り果てても、そばに青風がいてくれるのならば何も恥じることはない。霊園が戦場になるなど、何の後ろめたさにもならない。
     否応なく軍場(いくさば)に駆られ、自分に嘘を語らず全力を尽くし、それでも負けたのだから死ぬしかない。そういう覚悟を持たざるをえない世の中が、昔には確かにあったのだろう。死期迫る最期の最期で、青風が自分の命を軽々しく扱えたのも、そういう理由だったのかもしれない。
     駆月流、第二路。未完成ながらも独自に昇華されあった兵法が静かに展開される。それぞれ足の裏を平らげ、右へ動く。螺旋をゆっくり形成しあいながら、音を殺して擦り寄る。一足一刀の間合いに詰め寄った瞬間から、お互いの体がその場から消え去る。
     千に変わり万と化す一合に、今度も己の全存在を注ぎ込む。


         ‡


     ええい、猪口才な。
     もうよさんか。
     そんなにわしの剣と髭が珍しいか。これ、無闇に触るでない。しまいには望み通り、剣で斬り捌いて腸(わた)まで食っちまうぞこの餓鬼どもが。
     ぬしら、見たところ孤児のようだが、助けたのは単なる気まぐれに過ぎんわ。わしは北を目指して歩いていただけだ。ついてこようが、何の得もありゃあせんぞ。命からがら手に入れたその木の実で、今日の餓えと渇きをせいぜい凌いどくのだな。明日がどうなってもわしは金輪際知らん。
     はっ、馬鹿をぬかすな。
     わしのやっとうを間近で見たのであろう? それで骨身に染みたはずだ。わしが本気を出せば、この肌に触れてきたその細い腕の重を、そのまま倍以上にして叩き返すことも容易いのだ。もしもわしの不意を突いてこの剣を奪おうとしてみろ。わしの体から漲る張力が剣を伝い、その手足の肉を無残に弾き飛ばすぞ。
     ぬう。
     弱ったな、このわしもとうとう焼きが回ったか。
     昔は威圧しただけでその辺の雑魚を一蹴したものだがな。今ではぬしらのような幼子も追い返せんとはのう。
     わかったわかった。もう一度見せてやる。今から抜いてここに突き刺す。しかしだ、それを見るだけにとどめよ。努々(ゆめゆめ)触るでないぞ。そこに映る自分の顔を見て満足したら、とっとと自分のねぐらへ戻れ。良いな?
     ああ、これ。
     ほれ見い、言わんことではないか。
     やれやれ、話の聞かぬやつらだ。そんなに派手にすっ転べて満足したか? 柄を持つわしの力が、剣を通じてぬしらに流れたのだ。はよう起き上がれ。ああ、血だ? 生きてるだけでも感謝せんか。わしは確かに歳をくった老いぼれだが、気はまだ確かだし、嘘を言った憶えはないぞ。触るなと再三告げたはずよ。
     くどいぞ。わしは北へ行くのだ。そこにな、かつてを共にした戦友たちがわしを待っておる。久々に顔を合わせ、昔話と洒落込もうかと思うているのだ。郷土の飯のこと、練兵に明け暮れた日々のこと、初めて契った女のこと。陽を三巡させても話題に尽きんこと請け合いよ。だからわしは急いでいるのだ。ぬしらにくれてやる時間なぞ一刻もありゃせんわ。
     何だと?
     ふん、痴れ者め。
     いくら生きる目的もないその日暮らしだからと言うてもな、老骨の長旅に付きおうたところで、碌な目に遭いはせんぞ。わしは道半ばでくたばる気はないし、ぬしらにこの双剣をくれてやる道理もない。
     ああ、勝手にせい。せいぜい足掻いて、わしの道を遮ってみろ。柄を握らせてみよ。間もない命を短いままで終わらせたくば、そうするが良い。ぬしらが力尽きても、わしは決して振り返らんからな。
     己の身は、己で守れ。
     強くなりたくば、死に物狂いで精進しろ。
     欲しいものは、自力で手に入れろ。
     それでも、来るというのか。
     ――そうか。
     つくづくかける言葉もないわい。
     ん、
     ああ、わしか。
     先祖より授かった本名はとっくの昔、ここより南西の国の山で坊主に葬ってもろうた。名もない放縁の集落に生まれてからの半生、方々の国をいくつも流れ、様々な字名をまじなってもらって生きてきたよ。ここ数年では、青風と名乗っている。
     どれ、ぬしらは見たところ、幼名を受けたまま今日日生きてきた口であろう。
     いい加減、ぬしらでは不都合だろう。名乗るが良い。
     時紅。
     呼真。
     そうか。わしと同じ、頭と尻尾を「天」と「地」でくくっただけの旧式の算命術じゃな。ならば話は早い。略式だがまじなってやろう。戦に明け暮れた恥多き生涯、多くの生と死に立ち会ってものだが、誰かの幼名に咒文を唱え、天地を祓ったのは久しい。
     ああ、しかし参った。
     あいにく墨が無い。
     止むを得ん、わしの血で代用する。手首のでいいだろう。剣を抜く。
     ――。
     ほれ、そわそわするでない。乾かぬうちに塗ってやるから、おとなしく額を寄越せ。
     よし、これでどうだ。
     何じゃ。
     わしのまじないがそんなに嬉しいのか。
     あ? 抜刀の方だと?
     まったく――
     妙な奴らに好かれてしもうたのう。
     こんな所をあやつらに見られたら、あの世でどう弁明すればいいものか。
     ぬ。
     何でもないわ。

     さて、思わぬ道草を食うてしもうた。
     ゆくぞ。

    ゼノム・アステル (画像サイズ: 750×750 362kB)

      [No.3801] カイリューが釣れました 7 投稿者:マームル   投稿日:2015/08/20(Thu) 02:18:52     106clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:カイリュー】 【ウインディ

     帰っても、カイリューにはリュウセンランの塔に行った事はばれなかったみたいだった。
     内心ほっとしながら、夜飯を食う。
     テレビでは伝説のポケモンについての特集をしていた。伝説のポケモン達は、数が一体とかしか居ない代わりに、死ぬと転生するという説について話し合っていた。
     ぺき、と変な音がして、その方を見る。特に何も変わりは無かった。カイリューもウインディもココドラも、特に何事も無く飯を食っている。
     何の音だったのだろう。
    「伝説のポケモンだって寿命はあるでしょうし、死に至る事もあるでしょう。なのに、太古からずっと姿が記録されているポケモンだって居るのですよ?
     寿命が無かったとしても、これまで全ての伝説のポケモンが死に至る事無く今まで生き続けている何てあり得ますか?」
     ディスカッションの場には、伝説のポケモンの写真や絵が詰まっていた。今まで俺が見た事の無いポケモンも結構な数が居た。
     姿形が似た奴も結構いるんだな。本当に余り違いが無い位に似てる奴等も居る。
    「有り得るでしょう。
     例えば、うずまき島を住処にするルギアは、豪華客船をも念動力で浮かせたと言いますし、グラードンやカイオーガは地形を大きく変えられるだけの力を持っています」
    「では、スイクンやエンテイ等に関しては? レジロック、レジアイス、レジスチル等に対してもそれは言えますか?
     そこ辺りのポケモンは、腕の本当に立つトレーナーに従う事もあります。一対一で普通のポケモンが勝つ事もありますよ。
     言っちゃ悪いだろうけど、その程度なのに、有史以来その姿が長い間確認されなかった時が無い」
    「う、ん……」
     ぺき、とまた音が聞こえた。けれど、振り向いても音の原因は分からなかった。

     飯を食い終える。ぺき、という音は、どうやらカイリューがポケモンフーズを折っている音のようだった。いつもはそんな事してないのに。
     俺もカイリューも、立ち止っているのだろうと、俺は思った。
     昔ながら屠殺されたものを食うべきと曲がらなかった俺に対し、ポケモンを殺す必要なく肉が食べられるならそれが良いと曲がらなかった妻。
     子供の教育に深く関わるだろうそれに、妥協点を見つけられないまま、妻は別居した。
     たったそれだけの事で、数年間、妻と会っていない。電話もしていない。
     携帯からその番号は来ていない。俺も掛けていない。
     あるのは、妻が残していったムシャーナだけ。
     ただ、そんな俺の立ち止っている原因何て、カイリューに比べれば、本当に些細な事だろう。子供を喪ってしまったその悲しみは、俺は理解出来ない。
     強過ぎる、絶対に味わいたくないものだから。
     はぁ、と俺はソファに凭れて天井を眺める。カイリューは、俺が似ていると気付いて、俺に付いて来たのだろうか。それとも単に、カイリュー自身にとって都合の良い人間だったからと気付いただろうか。
     そりゃ、子を喪う何て事があった後に、トレーナーに捕まって戦わされる何て嫌だろうし。
     理由を聞けはしないけれど。特に、知ってしまった今となっては。
     そして、カイリューはまた、ぺき、と音を立てていた。この番組の何かに反応している気がした。
     顔には出してないから、それ以上の事は分からなかった。

     次の日の朝。
     雪が降り積もる中も、カイリューは寒そうにしながら俺の居ない間は外をふらつくようだった。
     知ってしまった今となっては、どこかへ飛んで行くカイリューの姿は、何か物寂しかった。
     頭の中でもやもやとした、立ち止まらせている何かを捨てられずにただ、俺も職場へ歩いていく。
     カイリューの中にあるそのもやもやは、俺よりもどす黒く、鉛のように重いものだ。それを思うと、背筋が震える感覚がした。
     それが失せるきっかけを、カイリューは待っているのだろうか。それとも、引き摺ってずっと生きるつもりなのだろうか。
     一つ、言える事があるとすれば、俺にはどうする事も出来ないのは事実だった。
     何となく、隣を歩くウインディに聞いてみる。
    「お前、子供欲しいか?」
     ウインディは少し考えるように時間を使ってから、頷いた。
    「その子供が死んじまったら、お前はどうする?」
     ウインディは変な質問をするなぁと、俺を見た。
    「きっと、カイリューはそうだ」
     ウインディは驚いてから、また前を向いて歩き続けた。
     まあ、分からねぇよな。俺にも分からねぇし。
    「あーくそ」
     何を罵倒するでもなく、俺は空に向って言った。
     やっかいなものを背負い込んだとは、不思議と思っていなかった。ウインディは思っているかもしれないが。


     そんな、結局知っても日常は何も変わらなかった、冬が過ぎて行くある日、来客があった。
     帰って来ると、玄関の前で、ゴウカザルを出して暖を取りながら、一人が座っていた。
    「こんばんは」
    「……こんばんは。誰ですか?」
    「リュウセンランの塔に居たカイリューが、今ここに居ると聞いたもので」
     厄介なのが来たと、俺は心底思った。そして、哀れにも思った。
     カイリューも丁度帰って来て、俺の後ろに着地して、すぐさまウインディを抱き締めた。
     ウインディは暴れるが、カイリューはやはり寒いのを無理して外をふらついているようで、体を震わせながらもウインディを放そうとはしない。
     もう、いつもの事だった。神速で逃げようが、カイリューも覚えていた神速で追いかけて捕まえられるのを知ってからは、ウインディももう、諦めを感じているようだった。
     多分、ベテランであろうトレーナーが雪を叩いて立ち上がって、俺に聞く。
    「一応、お伺いしますが」
     その言葉だけで、あのトレーナーが喋ったのだろうと思った。別れる時も、不満そうだったから、十分にあり得る事だとは思っていた。
     こうなる可能性も一応は分かっていつつも、現実になって欲しくないとしか思っていなかったが。
     ゴウカザルも一回転して起き上がった。
    「貴方とカイリューの関係についてお聞きしたいのですが」
    「……家主と、居候」
     思った通り、勿体ないと言ったような、軽蔑も混じった目をされた。
    「貴方のポケモンでは無いのですよね?」
    「まあ」
     どさり、と音がして、後ろでカイリューがウインディを解放したのが分かった。
    「なのに、ここでその強さを生かさずにただただ暮らしてると」
    「そうだな」
     そっけなく答える。後ろで怒りが溜まっているのが分かる。
    「では、その強さを生かせる私がゲットしても?」
     その言葉が、皮切りだった。
     俺が答える間もなくカイリューは神速でゴウカザルに近付き、反応させないまま首を掴んで地面に叩きつけた。
    「……え?」
     ゴウカザルは暴れるが、完全に封じたまま、今度はトレーナーの方を睨み付けた。
    「嘘、だろ」
     起こっている事を信じられない、トレーナーの声が虚しく響く。
     ゴウカザルは気絶し、カイリューはゴウカザルを片手で投げてトレーナーに渡した。
     このカイリューの強さは、そこ辺りのポケモンとは段違いな事を、もう俺もウインディも知っていた。
     仕事でドラゴンタイプのポケモンを間近に見る事が最近あったのだが、ボーマンダも、ガブリアスも、サザンドラも、ヌメルゴンも、そして同じカイリューでさえ、このカイリュー程の生命力を感じなかったのだ。
     その時は俺もウインディも、あんな生命力の塊の沢山と付き合わなきゃいけないのかと思っていたのが、拍子抜けした。
     そして今、怒っているカイリューから感じ取れる生命力は、いつもの強い生命力よりも一段と強くなっている。
     俺は、言った。
    「俺自身も良く分かっていないんですけど、カイリューも何の理由も無く俺の傍に居る訳じゃないんですわ。
     それでも無理矢理捕まえようとするならば、本当に、死を覚悟して挑んだ方が良いと思いますよ」
     脅しでも何でもない。
     俺もウインディも、こうなる事を予想していた。
     ウインディも大して驚いていない。それどころか、ウインディはトレーナーと倒れているゴウカザルを露骨に憐れんでいた。
    「くそっ」
     プライドのせいなのか、それとも俺の言葉を単なる脅しと受け取ったのか、それでもトレーナーは脇に付けたボールに手を伸ばした。
     ただ、ボールに手が届く前にカイリューはそのトレーナーの頭を掴み、目に指を突きつけた。
    「ひ」
     ゴウカザルは気を失ったまま動かない。
     トレーナーはそれでもボールに手を伸ばした。
    「流石に、殺すなよ」
     俺はそう言った。カイリューは頷いて、出て来たポケモンの一匹を殴り飛ばした。

     六匹全て、何も出来ない内にカイリューによって叩きのめされた。氷タイプのユキノオーでさえ、尻尾の一撃で吹っ飛んで動かなくなった。
     トレーナーは、正に目の前が真っ暗と言ったように茫然としていた。漏らしてもいた。
     カイリューは、白い息を吐いて、座り込んだ。
     …………。
    「入ろうか」
     玄関の鍵を開け、少しだけ血の付いたでかい手を取って俺はカイリューを引っ張った。
     カイリューが驚くように俺を見た。これだけ暴れたのに、それでも良いの? と言ったように。
    「…………お前が、子供を喪った事、俺は知ってる」
     カイリューは驚いた。俺は、ばらしても良い気がした。ばらしても、大丈夫な気がした。
    「リュウセンランの塔の最上階に、亡骸を埋めたんだろ?」
     ウインディが器用に扉を開けて先に入り、俺が入り、カイリューが潜って扉を閉めて、鍵を閉めた。
    「まあ、良いよ。気が済むまでここに居ても」
     カイリューがここに居る限り、俺も妻を呼び戻して子を為す何て出来ないだろうし、同じくウインディの番を見つけて、子供を育てる何て事も出来ないだろう。
     でも、それでも良かった。ただここに居させるだけで、こいつの途轍もなく重い枷を軽くする事が出来るならば、それでも良い気がした。
     そして、カイリューに抱きしめられた。
     ああ、こりゃきついわ。カイリューにとっちゃ軽く抱きしめているつもりなんだろうけど、俺の体がちょっと悲鳴を上げた。


      [No.3606] Re: 甘い感じがします 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2015/02/19(Thu) 01:09:43     54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    twitterにうpしたところ、当のシビルドンよりマメパトに関する感想が多かった件


      [No.3605] Re: わっふるわっふる 投稿者:マームル   投稿日:2015/02/19(Thu) 00:24:56     59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    拍手ありがとうございます。
    続きは某イラスト投稿サイトで。
    まだ、投稿してないけど。


      [No.3604] わっふるわっふる 投稿者:焼き肉   《URL》   投稿日:2015/02/18(Wed) 22:30:00     58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    って言いながら拍手ボタン連打してしまいました。ポケモナーでもないというシーンで何故かフフッてなったり。
    なついてるガブちゃんかわいい。


      [No.3603] 開店休業状態だけど投稿は受け付けてるのですよ 投稿者:ななし   投稿日:2015/02/18(Wed) 21:23:14     96clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:一粒万倍日

    タイトル通りです。
    まあでも感想書くのは遅いですが…。
    投稿してもいいのよ…?


    今年これからの一粒万倍日

    2月
    18(水) 23(月)

    3月
    2(月)10(火) 15(日)※ 22(日) 27(金)※

    4月
    3(金)6(月)9(木) 18(土) 21(火)※ 30(木)

    5月
    3(日)※ 15(金)※ 16(土) 27(水) 28(木)

    6月
    10(水) 11(木) 22(月)※ 23(火)

    7月
    4(土)※ 5(日) 8(水) 17(金)※ 20(月) 29(水)

    8月
    1(土) 11(火) 16(日)23(日)28(金)

    9月
    4(金) 12(土) 17(木) 24(木) 29(火)※

    10月
    6(火)9(金)12(月) 21(水)※24(土)

    11月
    2(月)※ 5(木) 17(火) 18(水) 29(日) 30(月)

    12月
    13(日) 14(月)※ 25(金) 26(土)


    (※)一粒万倍日 + その他の吉日

    引用元
    http://www.xn--4gqo86mdy5bh3z.net/


      [No.3397] タイトル未定(長編予定) 投稿者:久方小風夜   《URL》   投稿日:2014/09/17(Wed) 21:16:52     92clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:長編(予定)

     どうしてこうなったんだ。
     カヅキは周囲から聞こえる低いうなり声に身体を震わせ、額から脂汗を滴らせた。手に持った紅白のボールが足元にぽとりと落ちる。しかしそれを屈んで拾う余裕はカヅキにはなかった。



     そもそもカヅキがここに来たきっかけは、幼馴染であり先輩トレーナーにあたるユウトに、マンネリ化してきた手持ちに対しての愚痴をつぶやいたからだ。
     カヅキは言ってしまえば中堅どころのトレーナーである。ずぶの初心者ほどポケモンの扱いに慣れていないわけでもなく、かといって大きな大会で常勝出来るほどでもない。そこそこの規模の大会でぎりぎり入賞できるくらいで、ピンからキリまでいるトレーナー界全体では真ん中より上であろうが、名が知れたいわゆるエリート達とは実力は比べるべくもない。
     トレーナーとしての力は育成方法や戦術も当然関わってくるが、何よりポケモンの種類そのものによるところが大きい。中にはとんでもなく意外なポケモンで勝ち進む者もいるが、ほんのひと握りだ。特に中堅どころから頭ひとつ抜け出るには、より強力なポケモンを捕獲し育てることが必要になる。
     最近大きな変化もなかったパーティーに新しい風を入れるという意味も込めて、カヅキは新しい手持ちを増やそうかと考えていた。

     そんな事を先輩のユウトに言うと、ユウトは思い出したようにつぶやいた。

    「そう言えば、『ランテンの森』だっけ……あそこにはかなり強いポケモンがいるんだってな」

     カヅキもその地名には聞き覚えがあった。同時に、そこは公には何も言われていないが、トレーナーの間では「入ってはいけない」と囁かれている場所であることも知っていた。
     昔は力のあるトレーナーが集まる場所であったとか、強いポケモンが生息しているとか、噂は様々であったが、少なくとも今現在、近寄ろうとする人はほとんどいない場所である。

     しかし、ユウトの言葉は、カヅキの興味を強く惹いた。
     かつてどうであろうと、今現在はトレーナーのいない場所である。人の立ち入らない場所には、普段見ないポケモンが生息していてもおかしくない。カヅキはエリートではないが、それなりに強く、トレーナーとなってそれなりに長く、ある程度の危険には対処できる。よっぽどのことがない限り、何とかなるだろう――。
     そんな楽天的な気持ちで、カヅキは「禁足地」である『ランテンの森』へ向かった。


     己の実力を過信し、軽い気持ちで過去のトレーナーたちの忠告を破った過去の自分を、カヅキは絶望の中で深く呪った。

     ランテンの森は予想通り、数多くのポケモンで溢れていた。長く人の手が入らず細いけもの道ばかりの薄暗い森では、普段森では見ない種類のポケモンもちらほら見られた。
     予想通り、珍しいポケモンがたくさんいる。カヅキはほくそ笑んだ。
     周囲をうろつくポケモンたちを見回し、自分のパーティーを埋めるポケモンは何がいいかと逡巡していた。

     しかし、思った通りに事が進んだのはそこまでだった。
     カヅキが森の中を歩いていると突然、ぞわりと全身が総毛だった。
     まずい、と思った時にはすでに遅く、カヅキの周囲からは低い獣のうなり声と突き刺すような殺気があふれ出していた。藪の中から数え切れないほどの目がぎらぎらと光って見えた。

     森の中から大きなモルフォンが飛びだしてきた。カヅキは腰のボールに手をかけ、応戦した。しかし長くは持たなかった。1匹倒し、2匹倒し、しかし周囲の気配は減るどころか大きくなる一方だった。
     間もなく最初に出したライチュウが倒れた。カヅキはライチュウをボールに戻し、一目散に駆けだした。全速力で逃げるカヅキをポケモンたちが追いかけてきた。
     カヅキは走りながらも手持ちを出して応戦した。しかし長くは持たない。ランテンの森のポケモンは噂通り、いや噂以上に強く、そして圧倒的な数の前にカヅキは尽くす手立てを失っていた。

     走って走って、カヅキは森の中の少しだけ開けた場所に追い込まれた。
     手持ちはみな力尽き、走る体力も既にない。それなのに、周囲の殺気はますます強くなっている。じりじりと後ずさりしていたカヅキは、とうとう大木の幹に退路を塞がれた。

     どうしてこうなったんだ。
     カヅキは周囲から聞こえる低いうなり声に身体を震わせ、額から脂汗を滴らせた。手に持った紅白のボールが足元にぽとりと落ちる。しかしそれを屈んで拾う余裕はカヅキにはなかった。

     辺りを取り囲み、じわじわと迫る大型のポケモンたち。カヅキは涙と鼻水を滴らせながら、最後の気力を振り絞って叫んだ。


    「だ、誰か……誰でもいいから、助けてくれぇーっ!」






    「――その言葉、『依頼』と受け取ってもいい?」






     突然、カヅキの頭の上から、鈴を転がすような声が響いてきた。カヅキははっと目を見開いた。

     空気を包んだスカートをふわりと膨らませ、ひとりの少女が地面に降り立った。
     揺れる長い黒髪が、まるで羽のようにカヅキには見えた。

     モノクロの世界から抜け出したような少女だった。
     ふくらはぎまである真っ直ぐな髪も、ジャケットの上着も、プリーツスカートも、膝より長いブーツも、革の手袋も、全て真っ黒。上着下の丸襟ブラウスと、顔と首元からわずかに覗く素肌は、色白を通り越した白。大きな深緑色の瞳だけが、唯一彼女に色彩を与えていた。
     突如上空から舞い降りた黒衣の天使は、カヅキににっこりと笑顔を向け、言った。


    「ご依頼ありがとうございます! 『携帯獣萬屋(ポケモンティンカー)』です!」



    「ポケモン……ティンカー……?」

     聞き慣れない単語を耳にし、カヅキは呆然と単語を繰り返した。
     そんなカヅキの前で、少女は左手首につけられた腕時計型のデバイスを操作し、空中に画面を浮かび上がらせた。

    「それじゃまずは、システム……というか、依頼料についての説明だけど……」
    「ちょ、ちょっと待って」

     呑気に解説を始めた少女をカヅキは慌てて止めた。
     黒い少女が空から降りてこようが、現在カヅキが置かれている状況は変わらず絶体絶命のまま。辺りの殺気は全く消えていないし、むしろ少女の出現によって強くなった気配さえある。

    「金なら払う! いくらでも払うから、そんなことより早く助けてくれ!!」
    「……あ、そ。わかった」

     少女はきょとんとした表情をカヅキに向けると、デバイスを操作し画面を消した。

     カヅキは何を馬鹿なことをやっているんだ、と頭を抱えた。目の前の能天気な少女だけでなく、己に対してもである。
     溺れる者は藁をも掴むというが、まさにそれである。目の前にいるのはどう見ても自分より年下――おそらく15歳かそこら――の、押したらぽっきり折れてしまいそうなか弱い少女である。そんな少女にこの瀕死の状況で助けを求めるとは、どうにかしている。
     大会上位に食い込んでくるような実力のある有名トレーナーは大体知っているが、見たことのない顔である。仮に見たことがあったならば忘れるわけがない自信がカヅキにはあった。
     なかなか、いやかなり、いやものすごく、かわいい。絶世の美少女だ。完全にストライクど真ん中である。空から舞い降りた救いの天使に、カヅキは完全に一目惚れだった。
     しかし今はそれどころではない。いくら外見がよかろうとも、今この状況でポケモン相手に色仕掛けは効くまい。
     少女はカヅキの方を向いたまま、ポケモンの群れに背を向けたまま、上着の下に両手をつっこんだ。

    「……草タイプが28、地面が17、虫が22、飛行が20、格闘と鋼がそれぞれ8……全部で103。結構いるなあ。なるほど、おっけー」

     少女はそう言うと不敵に微笑み、殺気のする方向へ振り向きながら、腰から白と黒の小さな球が並んだ平紐を取り出し、宙に放った。
     それが赤い部分に塗装が施されたモンスターボールと、それが大量に取り付けられたベルトだと、カヅキが気付くのには少し時間がかかった。

     周囲に無数の赤い閃光が走り、カヅキと少女を何重にも取り囲むように、様々な種類のポケモンが姿を現した。しかもその全てが、バンギラス、カイリュー、メタグロスといった、大型で威圧感のあるポケモンだった。
     カヅキは口をポカンと開けて、周囲を見回した。少女が繰り出したポケモンは、見える範囲だけでも20匹以上はいるだろうか。
     少女はぱん、と手袋をした手を打ち鳴らした。辺りを覆っていた殺気が、戸惑いと恐怖に変わっていくのがカヅキにもはっきりわかった。

    「さあ、かかってくる子はいる?」

     凛とした少女の声を合図に、2人を囲むポケモンたちが、一斉に咆哮を上げた。周囲から慌て怯える声が聞こえ、生き物の気配が消えていった。あっという間に辺りは静まり返り、そこにはカヅキと少女と少女のポケモンたちだけが残された。
     少女は納得したようにうなずくと、ベルトを拾い、ぱんぱんと2回手を叩いた。再び辺りに無数の赤い閃光が走り、2人を囲んでいたポケモンたちが全てボールに収まった。

     ずるずる、と音を立て、カヅキは背中を樹の幹に預けたまま放心状態で地面にへたりこんだ。
     少女はベルトを腰に巻きなおし、カヅキに笑顔を向けた。

    「依頼完了! で、いいかな?」
    「あ、う、うん……」

     カヅキは混乱した頭で少女の笑顔を確認し、ほんのり頬を染めた。
     少女は首をかしげ、大丈夫? とカヅキに手を差し出した。カヅキは顔を真っ赤にし、大丈夫大丈夫、と言って慌てて起き上がった。

     左手首の腕時計型デバイスをいじる少女の姿を見ながら、カヅキは先程の嵐のような展開を思い出していた。
     カヅキの混乱のもととなっていたのは、野生のポケモンに傷ひとつつけず事態を収集した手際でも、彼女の使うポケモンの種類でもない。一番の原因は、彼女の厚かったポケモンの数だ。
     確認できただけでも20数匹。見えない場所や上空に飛んだものも合わせれば30は超えるだろう。それだけのポケモンを連れ歩き、育て、指示を出せることが不思議でしょうがなかった。
     それはトレーナーとしての実力云々の世界ではない。そもそも、カヅキ達トレーナーにとって、ポケモンを同時に7匹以上連れ歩くことは、事実上「不可能」だからだ。

     トレーナーの「手持ち」は最大6匹。それはこの世界どこに行っても共通のルールだ。
     免許取り立ての初心者も、この道何10年のベテランも、どんなにあくどい人間だって、手持ちが6匹を超えることは絶対に「あり得ない」。
     トレーナーの持っているポケモンは全てボックス管理システムによって管理されており、最大数を超えたら自動的に転送されるようになっている。たとえ電子端末の使えないところでも、数を超えたらその分のボールは開かなくなる。詳しいシステムなどカヅキは知りもしないが、「そういうこと」になっているのはわかっている。トレーナーとしての常識だ。
     しかし目の前の美少女は、いとも容易くその常識を打ち壊して見せた。
     一体どうやって、とカヅキが尋ねようとするより先に、少女が口を開いた。

    「じゃあえっと、野生ポケモンの追い払い5万、数が103で1匹当たり3千だから30万9千、人命救助10万、プランB4万、手数料含めて……占めて50万円、お願いね」
    「はぇっ!?」

     カヅキは素っ頓狂な声を上げた。少女は笑顔で首を捻った。

    「ん? どうしたの?」
    「ご、ごじゅうまんて……いくらなんでもそれは……」
    「え? でも、お金なら払うって言ったよね?」
    「いやいや、言ったけど、言ったけどさ、でも……」

     嫌な汗がカヅキの全身から噴き出した。多少のお礼は考えていたが、桁が予想より遥かに多い。カヅキは決して金がないわけではないが、楽な暮らしかと言われれば全くそんなことはない。元よりトレーナー1本で食って行くのはかなり厳しい道だ。大会上位者でさえ、兼業トレーナーが少なくない。
     それにしても、50万とはいくらなんでも吹っかけすぎである。足元を見られているとしか思えない。見目麗しい少女が上目遣いで小首を傾げてこようとも、こればかりははっきりしなければ。
     カヅキが異を唱えようとした、その時だった。

    「シュリ」

     どこからか突然声がした。よく通るバリトンの声だ。
     少女の後ろから、少女とほとんど同じ大きさの影が気配もなく現れた。
     現れたのは少年だった。その姿を見て、カヅキは目を見開いた。
     くせの強い髪の毛、袖なしのスーツ上下、ネクタイ、革靴、革の手袋は真っ黒。シャツと素肌は白。大きな瞳は深い蒼色。
     瞳を除く全身の色合い、体格、そして何よりその顔は、目の前の美少女と瓜ふたつだった。

    「シュン」

     『シュリ』と呼ばれた美少女は、『シュン』と呼んだ自分によく似た少年に顔を向けた。2つの顔が並んだ様子はまるで鏡写しのようで、双子か何かかな、とカヅキは思った。

    「お前、悪徳業者か何かみたいだぜ」
    「えぇー、そうかなあ?」

     シュリは唇を尖らせて首をひねった。
     どうやら窘めてくれるようだ、とカヅキは内心ほっと息をついた。

    「依頼料のことちゃんと事前に話したのか?」
    「話そうとはしたけど、『いいから早く助けろ、金は払う』って言うものだから」
    「そっか。それじゃしょうがねぇな」

     シュンは頷くと、カヅキに向き直った。

    「じゃ、きっちり払ってもらおうか」
    「ええぇぇー!?」

     業者が増えただけじゃないか……とカヅキは頭を抱えた。
     シュリは屈託のない笑顔で、シュンはどことなく不機嫌そうな顔でカヅキをじっと見つめてくる。表情は違えど、緑と青の2組の瞳が放つプレッシャーは底知れない。
     どうしよう……とカヅキは情けなくも泣きそうになった。

    「シュリちゃん。シュン君。その辺にしてあげなよ」

     カヅキを見つめるふたりの背後から、また別の声が聞こえてきた。シュリとシュンが全く同じタイミングと動作で後ろを振り返った。
     シュリとシュンよりほんの少し背の高い、年齢も同じか少し上くらいに見える人影が歩いてきていた。ぼさぼさの黒髪を右手で掻き、左手をだぼだぼのフリースのポケットに突っ込んでいる。左目の目尻に小さなシールを貼っている他は、飾り気も何もないだるそうな見た目だ。

    「ユズキ」
    「何でてめーまでここに来てんだよ」

     やっほー、とユズキは笑顔で右手を上げた。シュンの顔がより一層不機嫌になったように見えた。
     カヅキは次々増える登場人物に小さなため息を着いた。それを聞き付けたのか、ユズキは笑顔でカヅキに近寄ってきた。

    「やー、どーもどーも。ボクはニノマエ・ユズキっていいます。この子たちの、えーっと何だろ、上司? 代表? 保護者? みたいなのやってます」

     誰が保護者だ、とシュンが不機嫌そうにつぶやいたのがカヅキには聞こえた。
     そのつぶやきが聞こえているのかいないのか、ユズキはポケットから棒付きキャンディを4つ取り出すと、1つを口に含み、残りをシュリとシュンに差し出した。

    「はい、どーぞ」
    「わーい」
    「いらねぇよ阿呆か」
    「ほら君も」
    「あ、どうも……」

     薦められるまま、カヅキは赤いビニルに包まれたキャンディーを受け取った。「辛くて渋いズリ味!」とパッケージに書いてある。一体どこに需要があるのだろうか、とカヅキはひっそり眉をしかめ、そっと上着のポケットにしまい込んだ。
     ユズキは余った1本を再びフリースのポケットに戻し、さて、と口を開いた。

    「料金のことだけどさ、シュリちゃん、いかなる理由があろうとも事前説明が無かったのは事実なんだし、事態が事態なんだから割引つけてあげよう」
    「はーい」
    「あ、ありがとうございます……」
    「というわけで、合計50万円に緊急割引つけて、49万円ってことで」
    「1万しか変わってないじゃないか!」

     1万は決して小さくないが、現状では大して変わりがない。助かった、と少し期待したカヅキはがっくり心を折られた。
     ユズキは笑顔のまま、少し困ったように眉をしかめた。

    「うーん、君の気持もわからないことはないんだけど、こっちも仕事だからなあ」
    「そ、そもそも、君たちはどういう? 『ティンカー』って……」
    「カヅキ!!」

     突然、怒鳴るような声が聞こえてきた。カヅキにとっては聞き覚えのある声だ。
     カヅキにとって先輩トレーナーにあたるユウトが、ピジョットの脚につかまって上空から降りてきた。

    「先輩!?」

     ユウトはカヅキに対して一瞬驚いたような表情を見せた後、そばに立っている3人に視線を向けた。

    「あんたらは?」
    「初めまして、『ポケモンティンカー』のシュリです」
    「ティンカーだと?」

     シュリの言葉を聞いたユウトは、あからさまに不機嫌そうな顔をしてシュリをにらみつけた。

    「おいカヅキ、こんな奴らに関わんな! 帰っぞ!」
    「あ、え、あの」

     戸惑うカヅキの腕を引っ張り、ユウトは再びピジョットの脚につかまった。
     カヅキ君、とユズキが笑顔で声をかけ、ポケットから小さな手帳を取り出してさらさらと何かを書きつけてページを1枚破り、カヅキの上着のポケットに入れた。

    「いつでもいいから、気が向いたらそこに連絡してね」

     笑顔で右手を上げるユズキと、不機嫌そうなシュンと、何やら神妙な顔をしているシュリの姿は、あっという間に森の木々に隠れて見えなくなった。



    +++



     瀕死の手持ちをポケモンセンターに預け、近くのコンビニでいつもの黒地に紫色のドガースのシルエットが印刷されている煙草を1箱買い、カヅキはユウトと行きつけの居酒屋に来ていた。
     ビールを1杯とお通しのマカロニサラダに少々箸をつけたところで、ユウトが口を開いた。

    「ま、ケガもなくてよかったな」
    「はい、ご心配おかけしました、先輩」
    「にしても、ティンカーの奴ら、こういうところすぐつけこんできやがるな」
    「先輩、その『ティンカー』って何なんです? 俺、初めて聞いたんですけど……」
    「詐欺師だよ。高額の依頼料せびってくるモグリのトレーナーさ」

     ユウトはポケットから青いパッケージの煙草を取り出し、火を点けた。

    「モグリ?」
    「あいつら、トレーナーカード持ってねぇんだ。無免許だよ」
    「確か、ポケモン扱うだけだったらトレーナーカードなくってもいいんですよね? ポケセンとか大会とかでは必要ですけど」
    「まあそうだが、普通取るだろ。常識的に」

     灰皿に灰を落とし、ユウトは不機嫌そうな態度を崩さず続けた。

    「何か困ってることがあると、すぐやってきては馬鹿高い金を要求するんだ。まじトレーナーの風上にも置けねえよ」
    「でも、おかげで俺こうやって生きてるんですけど……」
    「あ? 困った奴がいたら手助けするのが当然だろうが」
    「……そう、っすよね」

     何となくもやもやとする気持ちを抱きながら、カヅキは上着のポケットに手を突っ込んだ。
     がさり、と音がした。机の下でこっそりと取り出してみると、手帳の切れはしと赤いパッケージに包まれたキャンディーが現れた。切れはしには住所と電話番号が書いてあった。
     紙を4つ折りにしてポケットに戻し、カヅキはふう、とため息をついてユウトに言った。

    「先輩、ズリ味のキャンディーっていりますか?」
    「あ? んなゲテモノいらねぇよ」

     どうしようかなこれ、とカヅキは辛渋い物体を手の中でくるくると弄んだ。





    ++++++++++


    いずれ書きたい長編の1話目の書きだし(の試し書き)
    昔から自分の小説を知っている人なら見覚えある奴が出てくる。かも。
    使わなくなったキャラはリサイクルするもの。


      [No.3203] ミアレシティの怖い話:採用作品について 投稿者:No.017   投稿日:2014/01/04(Sat) 21:58:16     71clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:フォルクローレ

    たくさんの応募をいただき、ありがとうございました。

    GPSさんのやつを採用したく思います!

    他のやつは未定ですが、本当に余裕があれば…という感じなので、可能性は低めです。
    今後は掲示板企画としてご投稿いただけますと幸いです。
    ご投稿、ありがとうございました!


      [No.3000] サポートガン 投稿者:NOAH   投稿日:2013/08/01(Thu) 20:39:44     163clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:ポケモン世界の福祉道具】 【ヤミカラス】 【捕獲補助銃(サポートガン)


    ※参加型のポケモン知恵袋に回答して思い立った小説


    とってもカラフルで、片手で収まるほどのハンドガンを、1人の少女が持つ。

    その銃口の先にいるのは、捕まえるために軽く体力を弱らせ、痺れ粉で麻痺状態にさせた、一匹のヤミカラス。

    ヤミカラスに慎重に狙いを定めて、女の子は右手人差し指に掛けていた引き金を引くと、紅白のモンスターボールが飛び出し、 それはまっすぐとヤミカラスへと飛んで行く。そして、発射されたボールが命中すると、ヤミカラスは赤い光に包まれてその中に収まり、ゆらゆらと三回ほど揺れたのち、カチリ、と音がして、無事に捕まえられたことを示してくれた。


    「やったぁ!ポケモンだぁ!!

    すごいね!この銃!!モンスターボールが飛んで行ったよ!!
    ママ見てー!!私、ポケモン捕まえられたよー!!!」

    「うん。よかった………よかったねぇ。ほら、ヤミカラスをこれで治療して来なさい。」

    「うん!お兄ちゃんありがとう!!」


    女の子は持っていたハンドガンを僕に渡すと、一気に捕まえたばかりのヤミカラスが入っているモンスターボールへと、飛ぶように走って行く。母親らしき女性は、とっても元気な女の子のその姿に、瞳いっぱいに涙を浮かべる。


    「よかった………本当によかった…………!!ミヤニシさん、本当にありがとうございます!!!」

    「いえ。………その人にあったサポートガンを作るのが、僕の仕事なので。」


    サポートガン。正式名称、携帯獣捕獲補助銃。

    空のモンスターボールを装填して、対象である野生のポケモンに向けて撃ち、捕獲するための道具だ。
    最初、ケガや病気でボールを投げられない人のために作り始めた福祉道具の1つだが、最近はボールを投げるのが苦手な人や、プロの捕獲屋さん。それからポケモンレンジャーの方からの注文が相次いでいる。

    サポートガン専門店を立ち上げてからは、直接来て頂いた方限定で、サポートガンのレンタルや、その人にあった物をハンドメイドで作るサービスも行っていて、今目の前にいる母娘も、そのサービスで来たお客様だ。

    この女の子は、利き腕である右腕を不慮の事故で失い、それからはずっと、義手での生活だったらしい。そのため腕に力がなかなか入らず、重いものを持つこともそうだが、ポケモンを捕まえる上で絶対に欠かせない動作である、投げることもできないほどだったらしい。

    それでも、自分でポケモンを捕まえたい。自分で捕まえたポケモンで旅をしたい、と、遠いのにわざわざ、シンオウ地方のコトブキシティから、このジョウト地方はアサギシティにまで来てくれたらしい。

    「よかったね。……ヤミカラス、大切にね。」

    「うん!お兄ちゃんありがとう!!」

    「どういたしまして。………じゃあこの銃は、君にあげる。」

    「!いいの!?」

    「うん。そのために作ったんだから。………ヤミカラスもこの銃も、大切にね?」

    「うん!!」


    捕まえたばかりのヤミカラスが入ったボールとサポートガンを持って、近くにあったベンチに座りながら、それを嬉しそうに見つめる様子を見ていると、つくづく作ってよかった、と思えてくる。この笑顔のために作ってきたのだ。この笑顔のために、5年の歳月を掛けて、自分でポケモンを捕まえたい人たちのために、頑張ってきたのだ。


    「ミヤニシさん。………娘の夢に協力してくださり、本当にありがとうございました。」

    「いえ。これしか取り柄のない人間なので。……銃の手入れはそちらでやっていただくことになりますが、もし不安があったらお電話ののち、こちらに郵送していただければ、時間は掛かってしまいますが、丁寧に手入れさせていただきます。」

    「そう、なんですか………それじゃあ、これからもよろしくお願いします。」

    「はい。……今後とも、携帯獣捕獲補助銃専門販売店『プリエール』をよろしくお願いします。」


    今日もまた、たくさんの人の笑顔のために、丹精を込めて、作らせていただきます。


    【書いてもいいのよ】
    【ポケモン世界の福祉道具みんなで考案してみよう。】


      [No.2807] それは 投稿者:西条流月   投稿日:2012/12/25(Tue) 00:20:34     102clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:クリスマス】 【2369


     うちのご主人はクリスマスが嫌いらしい。
     なんでだろうか。
     主人が買ってきてくれたポケモン用のケーキを食べ終えるとおれはご主人の足の間に座りながら、ちゃぶ台に頭を乗せていた。こうすることでテレビを楽に見ることができるのである。顎が疲れることだけを除けば、いいものである。
     ケーキをつまみにワイルドターキーを煽りながら、ご主人はテレビの内容にあーでもないこーでもないと言っていた。基本的に全否定である。まぁ、つけるチャンネルが示し合わせたかのように今からでも間にあう恋人が喜ぶ○○みたいな特集ばかりなのでしょうがないとは思うけれど。
     しかし、何が楽しくて、こんな寒い日にでかけるのだろうか。よくわからない。くっつく理由が欲しいのか。それでも、家で好きなようにくっつけばいいではないか。あと、ご主人。なにかをプレゼントしてくれる彼が欲しいってそれは完全にサンタさんだと思う。
     流石に太ったおっさんと付き合うのは見境がないと思うのでやめたほうがいいと思う。


    ―――――――
    久しぶりに百文字クリスマス書こうと思ったら長くなったなんて、ことはないんだからね。ぜったいにないんだからね


      [No.2613] 唯一王は正義! 投稿者:門森 輝   投稿日:2012/09/10(Mon) 22:15:23     59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     やっふぅ! コメントありがとうございます! 
     ブースt……唯一王かわいいよ唯一王。もふもふもふもふ。
     可愛いは正義。もふもふは正義。ブースターは正義。異論は認めません。
     あーんしてる唯一王可愛いですよねうへへへへ。と言うか何をしても可愛いですよね。何もしてなくても可愛いですよね。ブーs……唯一王かわいいよ唯一王。
     多分炎はトレーナーに向かって吐くんじゃないですかね。唯一王に燃やされるなら本望でしょう。でもあの世界だとそれ位なら数分で全快しそうですけども。とりあえず唯一王の歯形が付いた歯ブラシはどこで買えますかね。
     何かb唯一王可愛いとしか言ってなくて返信になっているか怪しいですが唯一王が可愛いから仕方ないですよね。
     という訳でコメントありがとうございました! でも唯一王は行かせません。

    【唯一王かわいいよ唯一王】


      [No.2612] 9/17 ポケモンオンリー参加します。 投稿者:No.017   投稿日:2012/09/09(Sun) 23:14:15     114clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    9/17 ポケモンオンリー参加します。 (画像サイズ: 600×858 248kB)

    9/17 浅草で開催されるオンリーイベント「チャレンジャー!」に参加します。
    カゲボウズシリーズ新刊持っていきますのでよろしくお願い致します。

    URL(h抜き)
    tp://challenger.2-d.jp/

    ・サークル名「ピジョンエクスプレス」
    ・スペース O14


    【頒布内容】

    カゲボウズシリーズ
    ●赤い花と黒い影 500円
    ●霊鳥の左目、霊鳥の右目 700円 ←今回の新刊

    その他個人誌
    ●携帯獣九十九草子 700円
    ●クジラ博士のフィールドノート 500円

    アンソロジー
    ●A LOT OF ピジョン 〜ぴじょんがいっぱい〜500円
    ●マサラのポケモン図書館 ポケモンストーリーコンテスト・ベスト 500円

    委託
    ●灰色十物語(風見鶏)300円


    隣のスペースでゴーヤロックこと586さんが、個人初出展となります!
    「プレゼント」「歪んだ世界」の頒布がされると思いますのでこちらもぜひご覧下さい。


    以下レスにて作品の一部紹介させていただきます。


      [No.2611] もふもふは正義! 投稿者:砂糖水   投稿日:2012/09/08(Sat) 23:32:47     68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ブースターたんかわいいよブースターたん。
    初代緑版で迷わずイーブイをブースターたんに進化させたくらい好きだよブースターたん。
    唯一王とか、ブイズ統一パにウインディ入れた方が勝率上がるとか言われても可愛いからいいんだ。
    お口あーんしてるブースターたんとかまじカワユス。
    嫌がって炎吐いて歯ブラシとか溶かしたりしてしまうんだろうか。
    それとも口閉じてしまうから歯ブラシに歯形がつきまくりなのか。
    どっちも可愛いから無問題。
    涼しくなったし、ブースターたんうちにおいで。





    私信
    もーりーすまぬ、すまぬ…。感想遅れて本当にごめんなさい。
    ちょっと修羅場ってた。


      [No.2610] うふふふふ 投稿者:moss   投稿日:2012/09/07(Fri) 21:51:15     64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    > 怖い!怖すぎる!下手なホラーよりずっと怖いぞ!
    > でも多分この怖さが分かるのはポケモン好きだけなんだろうな……

    ありがとうございます。怖いの不気味なの書こうと思ってたんですよw
    ポケモン好きのみわかる恐怖……なんかいい響きですよね

    > そうだよね。よくよく考えたらタウリンとかブロムへキシンとか薬なんだよね。
    > 使いすぎたらヤバイよね。ジャンキーだよね。
    > 当たり前なんだけどゲームの中にサラリと出てくるものだから気付かない。変な盲点。

    さらっと出てくるからこそわからない。ましてやゲームの中ですからね、薬なんて意識ないですもんねw
    みなさんも使いすぎには注意しましょう。


    感想ありがとうございました!

    テンションがすごく上がりました。最近リアルが忙しくてなかなか長時間ネットできる日がないのですが、
    一応小説のところだけは毎日チェックしてるというね。

    本当に読んでくださってありがとうございます。


      [No.2609] うわあああああ 投稿者:神風紀成   投稿日:2012/09/07(Fri) 17:31:05     76clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    怖い!怖すぎる!下手なホラーよりずっと怖いぞ!
    でも多分この怖さが分かるのはポケモン好きだけなんだろうな……

    そうだよね。よくよく考えたらタウリンとかブロムへキシンとか薬なんだよね。
    使いすぎたらヤバイよね。ジャンキーだよね。
    当たり前なんだけどゲームの中にサラリと出てくるものだから気付かない。変な盲点。


    >  ごめんね私の手持ち達。お願いだから死なないで。

    しぼうフラグが たった! ▽


      [No.2608] 【ポケライフ】鳴神様へ 投稿者:NOAH   《URL》   投稿日:2012/09/07(Fri) 17:00:00     96clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    その昔、おばあちゃんに聞いたことがある。
    木の実や野菜、お米等を収穫している途中で
    遠くで雷が落ちたところを見たあとに、お酒や花と一緒に
    収穫したものを鳴神様にお供えすると
    そのものの願いを叶えてくれるのだと言う。



    「おばあちゃん。」
    「びぃ!」
    「いらっしゃい、チナツ。可愛いあなたもね。」

    大きな昔ながらの家。その裏に、小さなビニールハウスがある
    そのハウスの中から、おばあちゃんは収穫したたくさんの野菜を持って
    私とエレキッドを出迎えてくれた。

    「可愛いでしょ!エレキッドって言うんだ!
    この前お父さんがくれた卵が孵ったの!!」
    「そう、良かったわね。大事に育てなさい。」
    「うん!!」

    おばあちゃんはニコニコ笑いながらエレキッドの頭を撫でた。
    私も!と、おねだりして撫でてもらったとき、遠くで雷が鳴った。

    「……あら?鳴神様かしら?」
    「なるかみさま?」
    「ちょっと呼んでみましょうか。」
    「!あの歌だね!!」
    「びぃ?」
    「エレキッドにも聞かせてあげる!」



    空に黒雲渦巻いて

    雨降り風吹き雷(かんだち) 落ちる

    嵐の過ぎた焼け野原

    鍬立て種撒き命成る

    鳴神様に捧げよう

    黄金に染まった我が宝




    目の前に、小さな祠が現れた。
    そこには、古びた和紙に、『鳴神様ノ祠』と書かれていた
    おばあちゃんの手には、なんだか高そうなお酒が握られている

    「さあ、チナツ。野菜をお供えして上げて?」
    「うん。」

    私は、色とりどりの木の実や夏野菜が入った籠を、小さな祠の前に置いた。
    その横では、おばあちゃんがお酒をお猪口に注いでいるのが見えた
    アルコールの匂いが鼻につくが、神様の前なので我慢した。

    エレキッドは、花瓶に花と水を入れて、そっと野菜達の横にそれを置いた。
    おばあちゃんも、注いだお酒を供えると、蝋燭に火をつけて、手を合わせた。

    「チナツとエレキッドが、何時までも仲良しでいられますように。」
    「……!!」
    「ふふ。チナツとエレキッドも、お願い事をしてみなさいな。」
    「じゃあ……おばあちゃんが元気でいられますように!!」
    「ありがとう、チナツ。さあ、帰ってお昼にしましょうか。」
    「うん!!行こう、エレキッド!!」

    おばあちゃんは蝋燭の火を仰いで消すとお酒を持ち、私の手を取った。
    私もおばあちゃんの手を取ると、反対側の手で、エレキッドの小さな手を握った。
    そのエレキッドの反対側の手には、いつの間にか拾ってきたであろう木の枝が握られていた

    「チナツ。何がいい?おばあちゃん。今日は何でも作るわよ。」
    「カレー!カレーがいい!!」
    「じゃあ、決まりね。」

    家路をのんびり歩きながら、色んな話をした。
    鳴神様が、私達を優しく見守っている気がした。


    *あとがき*
    雷を題材に、ほのぼのしたのを1つ。
    この小説における鳴神様はなんなのか
    皆様のご想像にお任せします。

    【好きにしていいのよ】


      [No.2607] Re: 【ポケライフ】捕獲屋Jack Pot の日常 *夕立* 投稿者:NOAH   《URL》   投稿日:2012/09/07(Fri) 00:23:21     94clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ※暴力表現注意。苦手な方は閲覧を控えて下さい

    スリムストリート。
    ヒウンのセントラルエリアへと続く狭く暗い道

    その道の一角に、うずくまるたくさんの人影。
    その中心には、男の胸ぐらを掴んで威圧する紫の少年がいて
    近くに、オレンジの髪に赤渕メガネだった物を持っている青年がいた

    「あーあ、どうしてくれちゃったのよ。……弁償してくれる?ねえ。」
    「あ、あく、ま、が……!」
    「はあ?そっちから喧嘩吹っかけといてそりゃないでしょう……弁償しろよッ!!」
    「ぐっ……ぅ、……。」
    「……ウィル。」
    「チッ……。」

    オレンジの髪の青年は、そのままタバコを取り出した。
    あとは少年に任せるらしい。

    「……おい、てめえがリーダーか?あ゛ぁ?」
    「っ、ちげーよ……俺ァ、あんたを潰せって頼まれただけだ……。」
    「そうかよ……なら、そいつにこう言っとけ。
    『いつかぶった切ってやる』ってよお!!」
    「ぐぅっ!?」

    鳩尾に思いっきり拳を叩き込むと、相手はそのまま気絶した
    それからまるでタイミングを計らったかのように、雨が降り出して来た。

    「……あ、結構ひどくね?そういや、さっき雷が鳴ったような……。」
    「……どうだっていいさ。戻るぞ、ウィル。」
    「はいはい……結局、尻尾は掴めずか……いい加減ムカついてきた……。」
    「それは俺もだが、まあなんとかなる。」
    「そのうち痺れ切らしてヤバイ連中けしかけてきたりして。」

    冗談にしては、かなり怖い事をさらりといいのけたウィルだが
    ヴィンデは寧ろ、笑って賛同していた。

    捕獲屋Jack Pot。たった6人の最強の捕獲屋。
    だからこそ、裏の人間に恐れられると同時に
    今回みたいに因縁吹っかけられて狙われる。

    「夕立。ひどくなったね。」
    「ああ……メガネ。どうすんの。」
    「同じタイプのを買うよ……金掛かるけど。」

    本格的に強くなった雨に打たれ、鳴り響く轟音にぜめぎられながら
    2人は帰るべき自分たちの居場所へと、ゆっくりと戻って行った。

    *あとがき*
    誰も書いてくれないって正直寂しいですね……。

    今回は喧嘩組の話し。案外短く終わった……。
    ヤバいよ。ネタが尽きそう……!!

    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【批評してもいいのよ】


      [No.2606] ドーピング 投稿者:moss   投稿日:2012/09/06(Thu) 23:27:20     116clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


     学校が怖い。最後に彼から連絡があったのは一ヶ月前のことだった。


     彼は頭がよかった。小学校を卒業して私はすぐに旅に出たのだが、彼は中高一貫の名門校へと入学した。なんでもバトルなどの実技、学力がほぼトップクラスでないと入れないところらしい。彼は合格したときすごく喜んでいて、二人で祝ったりもした。
     彼の学校が始まると同時に私は旅に出た。暫くの間は手持ちのポケモン達をゆるゆると育てつつ、時にはトレーナーにバトルを挑まれつつ金欠と戦う日々であった。そんなある日の夜に、珍しく彼からメールが届いた。あの学校は携帯の使用が禁止らしく、特に中等部では入学と一緒に回収されるらしい。これは彼が入学前に言っていたことだがあいつ回収をばっくれたのか。半ば呆れつつ中身を開く。
    【この学校はおかしい。】
     ほんの一行。これだけで鳥肌がたったのは初めてかもしれない。それに頭のいい彼の言うことだ。あの学校は全面的に、そしていろんな意味で閉鎖されている。情報も月に一度あるかないかの行事を知らせるものだけらしい。彼の母親が少し心配そうにそう言っていた気がする。
     でも、と思った。いくら彼の言うことでもすぐには信用できない。あの学校からは色々なジムリーダーなどが出ているのだ。学歴重視のその手の職業は変な学校出身の奴にはやらせてはもらえないだろう。信じるべきか否か。複雑になった頭でとりあえず彼に何を見たのかと返信をする。どうせすぐに返信はこない。くるとしても一週間は後になるだろう。隙を見てメールを打つ彼の姿が想像できなくて笑ってしまう。
     そのまま疲れきった体でベッドに倒れこみ携帯を無造作にバッグの中へ投げ入れる。今朝拾ったタウリンを片手に眺めながら、明日はどこへ行こうかと思考を馳せた。


     またしばらくして私も順調に旅を続け、以前よりも特に金欠に困ることもなく、手持ちも強くなってきた。ジムバッヂも頑張った甲斐ありようやく三つになった。
     あの日から返事はまだこないが、あの学校は相も変わらず外から見る分にはいろんな意味で閉鎖されたまま何も変わりはしなかった。そう、外からは何も。
     一体内側では何が起こっているのか。もしかしたら彼は携帯を所持しているのがバレて取り上げられてしまったかもしれない。まぁそれでも元気にやっていればいいのだが。
     ジムバッヂ八このエリートトレーナーに勝負を挑まれすっかり撃沈していたとき、不意に携帯が振動した。こんなときに、と不満ながらも発信源を見て首を捻る。非通知だ。
    「……どなたですか?」
    『○○か!?』
     懐かしい声で名前を呼ばれ驚いた。裏返って相当パニクっているようだったが紛れもなく彼の声だった。一体どうしたのか?
    「どうしたの?」
    『見ちまったんだ!!』
     間髪入れずにまるで長距離走でもやった後のような荒々しい声色。声自体の音量はさほど大きくないのが逆に緊迫感を煽らせ手が震えた。
    「……何を?」
     恐る恐る尋ねると、彼は一層声を小さくして、幼い頃した内緒話のように
    『今日こっそり学校の、立ち入り禁止になってる地下室に友達と行ったんだそしたらっ』
     彼は長く息を吐いた。
    『ポケモンが……数えきれないほどのポケモンが薬付けにされて檻の中に入ってた』
     ……。
    『目があり得ないほどぎらっぎらしてて、暗くてよくわかんなかったけどらりってたと思う。しきりに檻を壊そうと攻撃してた。その音が上の教室越しに授業の時聞こえてて気になって降りたんだ……』
     ……。
    『もう駄目だっ。ここの奴等のポケモンが馬鹿見てぇに強いのはこういうことだったんだよ! 嫌だ俺はこうはなりたくないこんなことを平気でするような奴にはなりたくない自分のポケモンをあんな風にさせたくないっ』
     電話越しに嗚咽が聞こえた。
    『……でももうオワリだ。おしまいだ。俺も平気でポケモン薬付けにしてひたすらに勝利ばかりもとめる腐った男になっていくしかないんだっ……ないんだよっ』
     泣き叫ぶように訴える彼を数年ぶりに聞いた気がした。
    『……学校が恐い。学校の人間が恐ろしい。あそこにある全てがもう怖くて怖くて仕方がない』
     彼はそれ以上はもう何も言わずにただ小さく泣いていた。私は慰めることもできずに、呆然と電話越しの彼の嗚咽が止むのをただ待った。


     あれ以来彼からの連絡は途絶えてしまった。私は後味の悪さと、どうして何も言ってあげられなかったのかと若干の後悔を噛み締め頭の外へ追い出すようにひたすらポケモンを鍛え、ジムへ行き、バッヂを手にして時には負けて、そしたらもう一度その日のうちにリベンジして……目まぐるしい一日一日を送った。
     私のジムバッヂがとうとう八こになったのは私が旅に出て六周年を迎えたときであった。六年もかけてようやくかと父には笑われ母には調子に乗るなと小突かれた。もっと誉めてくれてもいいんじゃないかと思ったが口には出さなかった。二人ともジムバッヂ八こよりもその先に期待してるのが丸分かりだったからだ。
     両親には全力を尽くせと背中を叩かれ、小学校からの幼馴染みには優勝したら奢れと頭をはたかれ、旅先で知り合った友人トレーナーには先越されたぜ畜生っと背中をどつかれた。何てバイオレンスな優しさをもつ人達だろうと苦笑した。


    「……やあ、奇遇だね」
     私が参加しているポケモンリーグ第二ブロック。ついに三回戦までのぼりつめ、ここで勝てば各ブロックごとの代表者と戦い最後には決勝が待ってる。これまでの対戦は心底ヒヤッとするものもなく、運がよかったのかもしれなかった。
    でもそれもここまでのようだった。
    「……久しぶり。無事に卒業出来たんだね、おめでとう」
     前に見たときより遥かに身長が伸びて体つきも男らしくなって。それでも面影は残っていた。
    「無事?」
     彼は笑う。
    「ははっ。そんなわけないだろ! ここまでくるのに俺がどれだけのものを犠牲にして捨ててきたか知らないだけだろっ」
     その通りだった。私はあの電話以降の彼の状況を全くもって知らない。だから彼の苦労も知らないし、彼の今の状態も知らないのだ。
    「そうだね」
     話さなかった期間が長すぎて、最早他人同然の繋がりにまで成り果てた今、特に彼と話すこともないので私は最初に繰り出す予定のボールを握った。

     勝敗など見えている。それでも彼と戦うことによってあのときから消えない後味の悪さと後悔を消そうとしていると同時に彼のことをもっと知りたいと望んでいる。
    「ここで会えて光栄だよ○○。悪いけど俺にはもうバトルしかないから」
     彼が傷ついたボールを放る。
     スタジアムを震わせる化け物の雄叫びと砂嵐。その中心に威圧するぎらついた目のバンギラスがこちらを睨む。
     彼は口元を歪ませ目線は早くポケモンを出せと訴えていた。
     ごめんね私の手持ち達。お願いだから死なないで。
     私は祈るようにボールを投げた。


      [No.2605] Re: Calvados 投稿者:きとら   投稿日:2012/09/06(Thu) 18:23:41     94clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    > 「男性同士の性行為を暗示する表現があります。
    >  15歳未満の方の閲覧はご遠慮ください」


    そう言われればそうですね!修正します!
    指摘ありがとうございました


      [No.2604] Re: Calvados 投稿者:イサリ   投稿日:2012/09/06(Thu) 13:06:01     98clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     こんにちは。イサリです。

     冒頭の注意書きが曖昧でわかりにくいです。
     マサポケは中高生も見ているサイトなので、

    「男性同士の性行為を暗示する表現があります。
     15歳未満の方の閲覧はご遠慮ください」

     くらいは書いた方が良いと思います。恥ずかしいのかもしれませんが。


     BL小説の評価についてはよくわからないため、感想は割愛させていただきます。
     失礼いたしました。


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